第54話 訪問者
その日はなぜか、モーリス様が休暇を取っていた。
僕は1日の業務を終え、セドリック様のお部屋に内密で呼ばれていた。
「レオよ。アルホンス国を知っているな?」
僕はその外国の名前を聞いて体が氷ついたかのように固まってしまった。
「はい。もちろんです隣国であり、我が国とは友好関係にありますが現国王はまだ1度もこの国に訪問をされず、誰もアルホンス国の国王の顔を知りません」
「そうなのだ。だから何度かこちらから訪問の意志を見せたのだが、国王の時間が取れないとか体調を崩されているとかいろいろ断る理由を作っては訪問を断られている」
「昔からそういう国だったのですか?」
「いや・・・昔は外交関係は良好で人の往来も頻繁にあったんだが。もちろん貿易等は昔と変わってはいないんだが、どうも気になって仕方がない。ルーカス第一王子様からアルホンス国を内密に調べるようにと今日勅命があった」
ルーカス様もとうとうアルホンス国に手を付ける事にしたのか。夢の中のルーカス様は母である王妃様亡くし、後ろ盾のベルジック公爵家の力も弱くなり、身動きが取れなくなっていた。だから父上があのような決断をしたんだと・・・・
僕は夢を思い出すと心の底から怒りがこみあげてしまう。両手のこぶしに力が入りぎゅうっと握ってしまっていた。
「レオ?大丈夫か?」
セドリック様の声でふっと我に返った。
「あ、はい」
「そこでこの調査を誰に任せたらいいのか・・・私は公務の為にこの国を出られないし、レオを行かせるわけには・・・マクシムが一番適任だと思うが」
セドリック様の言葉に迷いが出ている理由はわかっている。
まだベルジック公爵家の問題が何一つ解決していないからだ。
「セドリック様、マクシムに行かせましょう。ルディス様の消息ももしかしたら何か関係しているかもしれません」
セドリック様は目を大きく開き驚いた顔をした
「ルディスの?」
「はい、これだけ探して、消息がつかめません。もし亡くなっていたとしても、遺体がこんなに見つからないのであれば、探す範囲を広げるのがいいのかもしれません。」
セドリック様は少し考えて
「モーリスに頼むか?」
「いえ、それはなりません。僕の中でモーリス様は白でも黒でもありません。今は絶対的に信頼できるマクシムが適任かと・・・・」
っ・・・・・!!!!!
そんな話しをしている最中に閉まっているはずの扉の方から冷ややかな空気が入ってきた。
僕は慌ててセドリック様のそばまで行き
小声で
「誰か扉の向こうにいます」
僕はセドリック様が声を出さないように
自分の口元に人差し指を立て
しーっと静かにしていただくようにジェスチャーをした。
コンコンコン
扉を叩く音がした
しかし今の時間にセドリック様にお会いになる時間ではない
急ぎの場合はとびらの外から声がかかる
扉を叩いた者は何も要件を言わない
僕は慌てて部屋の明かりを消した。
セドリック様にはソファの陰に隠れてもらい、僕はベッドルームに急いで駆け込んだ。
ベッドでセドリック様が寝ていると見せかける状況を毛布を丸めベッドの掛ふとんの中に入れ込んだ
そして僕はベッドからは死角になる場所に身を潜めた。
セドリック様と離れてしまったが、セドリック様が物音を立てなければ、ソファは扉とは逆を向いているために気付かれないはず。
書斎に用事があったとしてもソファとは離れているために気付かれる事はまずない。
可能性として、こんな夜更けに扉だけをノックする失礼な者はうちの使用人たちにはいない。
だったら、刺客の可能性が高くなる。一番にその者はベッドルームにくるであろう。
僕は、武器になる物を持ってはいなかったが、幸いセドリック様の部屋には壁に剣が何本も飾ってある。
趣味も兼ねているようだが・・・
多分それぞれがすごく高い値段だと思われる。
少し手を伸ばすのにきが引けたが、背に腹は代えられない。僕は一番近くにあった剣にてを伸ばした。
カチャ
ギィィィィィイ-----
何も言わずにその者はセドリック様の部屋に入ってきた。
僕の心臓は今までにないほど鼓動が早くなっていた。




