第51話 クロエの気持ち
「早く入りなよ」
第二王子アベル様は少し冷ややかな声だった。
きっと、私とフレデリク様の会話を聞いてあきれているのだろう。
それと第一王子ルーカス様は少し機嫌が悪そうに見える。
今日はお二人とも変装していない。
という事は王子様としてお話しをしなければならない。
「第一王子様、第二王子様、ご無沙汰しております」
お二人に向かって丁寧なお辞儀をした。
「あぁ・・・・・」
ルーカス様は何か言いたげで、でもそれ以上は言葉にしなかった。
「レオは一緒じゃないのかよ」
アベル様はレオがいない事を知らなかったのかな?お城の中で会わないのかしら。私は少し不思議に思ったが
「レオは私の仕事を手伝ってもらっているんだ。当分は来れないと思う」
ルーカス様は少し申し訳なさそうに答えた。
「そうか。なら仕方ないな」
意外とあっさりアベル様はその言葉を受け入れた。
友人に当分会えないとわかっても、王家の方は元々は城から出る事はめったにないのだから、友人に会えなくても仕方がないのだけれど。だから王宮学園は友人、人脈を作るのにとっても素晴らしい場所ではある。見分を広げるのに最適なのだから。しかし、この二人はそんなところに行かなくてもこうして自由に城から出れるのだから、不思議。きっと外には護衛隊がたくさんいるのかもしれない。
今まで、あまり深く考えて来なかったけど、王子様方に会えるなんて伯爵令嬢ごときの私が恐れ多い事なんだけど。
「クロエ様お久しぶりですわ。どうぞおかけになって」
イザベラ様の優しいお声に私は少し居場所を見つけた気がした。
慌ててイザベラ様のところに行き
「イザベラ様、本日はお招きいただき誠にありがとうございます」
私は優しく微笑んだ。
その顔を見てイザベラ様が
「クロエ様はますますお美しくなっていきますわ」
頬に手を当て、私をうっとりとした瞳で見つめていた
「そうかな?イザベラの方が数百倍かわいいけど」
少し棘のある言い方で第二王子様はイザベラ様の方を向かずに窓の方を見て答えた。
私の方から見ると耳がとても赤く見える。
え?
もしかして・・・・
でもアベル様はミア様と・・・・
でも王子様二人ともまだ、婚約者候補はいない。私が知らないだけで、王家では話しは出ているかもしれないけど、
もしアベル様の思い人がイザベラ様なら・・・・それはとても複雑な状況だわ。
私が少し考えこんでいると、
「クロエ大丈夫?クロエはかわいいよ」
落ち込んでいると思われてたのかフレデリク様が声をかけてくれた。
「いえ、落ち込んでいるわけでは・・・」
ふとルーカス様を見ると、何も言わずにただ無表情で私を見ている。
・・・・・・・・・・怖い
あれ?私なにかしたかな?
私はイザベラ様の横に腰かけ、お茶会が始まった。
お茶会の間ルーカス様もお話しはしていたのだけれど、少し距離を感じた。
もうルーカス様と視線も合わなくなった、私を見ようとしない。
怖い
怖い
怖い・・・・そして私は贅沢だ。
こんなにも近くに王子様のお側にいて
ほとんどのご令嬢方が味わえない状況・・・・
でも怖いだなんて贅沢だ。
怖い・・・・?嫌われたくないから?
この気持ちに気付いたらダメだと思っていたけれど
胸の奥がより一層
ツキン
と痛んだ。
それからずっと
胸の奥がずっと痛い。
ルーカス様が私を見て微笑んでほしい・・・・
その願いは届かなかった。
一度も私を見て微笑んではくれない。
私が婚約者候補になったのは前回の事。
今の私ではないのだから。
婚約者候補になったら、戦争が起きるかもしれない。またあの牢屋に入るかもしれない。
私はルーカス様を好きになってはいけない。
私は笑顔で話しているのにルーカス様が気になってしまい。
会話の内容がほとんど入って来なかった。




