第37話 マクシムと王子
コンコンコン
「レオポルド様がお越しです」
「通せ」
私は書類に目を通していたが、その書類を伏せてソファへと向かった。
同時にレオと赤髪の男性が部屋に入って来た。
「ルーカス様、長く時間がかかり申し訳ございません」
2人は揃って片膝をつき頭を下げた。
「2人ともご苦労だった、頭を上げてソファにかけてくれるかな」
私は2人をソファに案内しテーブルを挟んで向いにのソファに腰掛けた。
私が座るのを確認してから、2人ともソファに座った。
「レオはまだ10歳だろう?見た目は私と同じくらいに見えるよ」
私はクスっと笑った。
「ありえないでしょう。ルーカス様はまた背が高くなってらして、同世代の中では1番背が高いのではないですか?」
「イヤ、それがフレデリクをまだ超えれないがもうすぐ超えれるかもな。今度の夜会には無理だろうが学園の入学までには超えていたい」
「なぜですか?」
「それは、一番目立てばクロエの視界に映るだろう?」
クロエとうい名前に赤髪の男がピクっと反応した。
レオは少し複雑な表情で
「恐れながら、ルーカス様はこの2年間、姉上とはどうなっているのですか?」
「どうもなってないよ。どちらかと言えば、クロエはフレデリクと親密かもしれない」
レオは少し考えて
「そうですか」
とだけ答えた。
「挨拶が遅れてすまない、マクシム」
私は赤髪の男性がソファから立ち上がり、
「いえ、第一王子様ご無沙汰しております」
赤髪の男、マクシムは片膝をつけてお辞儀をした。
「第一王子様のおかげで今の自分があり、感謝の気持ちでいっぱいであります。しかもレオポルド様と出会わせて頂き、この縁を大事にしたく思います」
マクシムのこの言葉にはきっといろんな気持ちが込められているんだろう。
「マクシム、ありがとう。ゆっくり話しを聞かせて欲しい。ソファにかけてくれるかな」
マクシムは軽くお辞儀をしてまた、ソファに腰掛けた。
「レオ手紙では、読んではいるが、直接説明してくれるか?」
「はい・・・・・・・・・」
そしてレオは執事見習いになった日からの事から話しだした。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
ベルジック公爵家の執事は基本的には、担当の公爵家の方の身の回りの世話や屋敷の管理、使用人の教育など屋敷内の事は全て把握している。
ただ、公爵家の方々全員を担当出来ないので、個別で専属が付きそれを取り締まるの執事長のモーリス様だった。
モーリス様はベルジック公爵家では1番長くベルジック公爵様から厚い信頼がある。そのモーリス様からの指示で僕はマクシム様から教育を受ける事になった。
朝は誰よりも早く起床し、屋敷内を隈なくチェックして不審者がいないか、屋敷の物がなくなっていないか、調理場の備品から食品まで全てを確認していた。
1週間一緒にいるけど、マクシム様はさすが!という言葉しかないくらい完璧だった。
廊下に飾ってある花を指差して
「レオ、あの花おかしいと思わないか?」
指差す花を見たけど、綺麗な白い花と黄色い花が綺麗に飾られている
「すみません、僕には綺麗な花に見えますが」
「そうか、この屋敷は大事な来客がある前日には屋敷内の花は全て入れ替える。今日はセドリック様のお客様が訪問予定なのだが、この花は昨日と同じ花が飾ってある。玄関ホールや客間の花は入れ替えられていたが、ここは変わっていないみたいだ」
え?花の種類まで確認していない。枯れていないかの確認はしたが。
「お客様はこの廊下は通らないのでは?」
「そうだな、だが屋敷内の花は全て統一されているんだ。公爵家では『とりあえず』という言葉はありえない。常に完璧でなければならない屋敷も人も。私達はそういう方々に仕えているんだ」
そういうと近くを清掃していた使用人に指示して新しい花に早急に取り替えさせた。その使用人は顔が少し青ざめていた気がする。
「あの方の顔色が悪かったですが」
「あぁ。今回は未然に防いだし、注意か減給ぐらいじゃないか?」
「減給?」
「あぁ。ひどい時は解雇もあるぞ。辞めたくなかったら必死にならないとダメだ」
マクシムが使用人を叱る事はなかったが、このことは必ず侍女長や警護長にも報告され担当長からかなり、怒られるらしい。減給はもちろん、居残りで仕事をさせられる事も。内容によっては解雇もあるらしい。公爵家を解雇になればなかなか他で働けない。だから誰もが必死に責任持って仕事をしている。
うちの伯爵邸も裏ではこんなに厳しく指導されているのかもしれないが、徹底度や仕事に対する責任度が違う気がする。全てに置いて公爵家の使用人のレベルは格上だと思った。
そんな中で、暗殺などあるのだろうか?
毎日の変化に敏感なマクシム様やモーリス様がいるのに、新人には仕事を覚える事がいっぱいで、難しい気がする。
「お前はちょっと変わってるな」
「え?」
「8歳のくせに覚えはいいし、ほとんど失敗もない。居残り経験などないしちゃんと剣術を教えてもらいながらでもしっかり自分の分担はこなしている」
そりゃ中身はもう13歳ですから、とは言えない。
「もうすぐ9歳です。それに僕は一度見たら大抵の事は覚えられます」
「はぁ?嘘だろう?」
「すみません、花の入れ替えは知りませんでしたが、花器は僕が来た日青色でしたが、次の日から白い花器に変わっています」
「マジか・・・・正解。俺、お前に教える事ないかも」
「いえ、そんな事ありません。僕は甘やかされて育ったので、水仕事が苦手です。当たり前にできる事が出来ません。これからもご指導おねがいします」
僕は深々と頭を提げた。
マクシム様は僕の頭をワシワシ撫でて
「お前、全然偉ぶらないし、頭いいし。その年で親元離れて不安だろう?俺を何でも頼れよ」
「いいのですか?ここでは・・・・・」
「いいんだ!俺はお前が気にいったんだ。お前に手を出す奴がいたら俺が守るから何でも言えよ」
「・・・・・・・・・はい。」
この人の瞳は凄く綺麗で、僕も僕の直感を信じて見ようと思った。
この人は僕を裏切らない。
この人を僕は信じる。




