第29話 ロベール侯爵
無事にレオがベルジック公爵家に潜入出来たと知らせが来た。
送り主はベルジック公爵様
「王子様の送ってくださった少年は中々の逸材のように思う。願いが叶うなら、このままこの屋敷で働いてもらいたいと、私の直感が言っているが、それは無理なんだろう。王子様の思う通りに行動させるが、公爵家は厳しい場所でもあるので、それだけは庇えない。彼が無傷でこの屋敷から出れる事を願う」
そうかレオは無事に入れたんだな。
公爵家に素性を隠したのか・・・・・・王妃様を陥れる人間が公爵家に侵入しているなら、私とは無縁の方がいいだろう。
レオならきっと大丈夫だろう。あそこには彼がいる。彼がレオを守ってくれるだろう。
窓の外を見ればもう日が傾きオレンジ色の綺麗な夕日になっていた。
オレンジ色・・・・・・・
先程のイザベラ嬢を思い出してしまうな。泣かせたのは間違いなく私なのだろう。
その仕返しがクロエにいかなければいいが、フレデリクが何とかしてくれるだろうか。
イザベラ嬢がそんな女性ではないといいが。
それより王妃様を守らなければならない。
前回は誰が王妃様を死に追いやってしまったのか。それとも本当に病死なのか?
今、王妃様には内密で私が手配した医師に診てもらっている。そろそろ終わる頃だろうか。
ただ私が動くわけには行かない。王妃様のところからの返事を待つしかないのはもどかしい。
書斎でウロウロしていると宰相のロベール侯爵より公務の件で呼び出しがあった。
「今日は城を抜け出してしまったからなぁ。それともカーリー妃の件か?」
ハァーっと大きなため息をついて、
怒られるのを覚悟で
王様と宰相がいる王の間へと向かった。
王の間の前にいる護衛に
自分が来た事を告げ、中に確認を取ってもらった。
ガチャッ
大きな扉が開いた
「中へどうぞ」
「ありがとう」
中へ入ると大きな広間の先には、一段上に宰相の机
もっと奥には2段上に王様の机がある
2つともにこちら側に向かって配置されてあるので、王様が机に片肘を机の上に置いて頭をかかえているのが見えた。
「王様!ルーカスが参りました」
私の言葉に王様は大きなため息をついた
「わかっておる。ルーカス・・・・・・・・・お前は何がしたいんだ?先程までカーリーがここでキャンキャン叫んでおったが。ケンカでもしたのか?」
「カーリー妃は何と?」
「お前の婚約話が白紙になったせいで、アベルの婚約がなくなったと叫んでおったが・・・・・お前も何故、イザベラじゃ駄目なんだ?」
横にはロベール侯爵もいて話しづらいが、
ロベール侯爵から
「私がいてはお話しづらいのでしょう。私は退席いたしましょう」
「いえ!宰相様にも聞いて頂きたいです」
後で説明も大変ではある。
「では、私の事は気にせずお話し下さい」
「ありがとうございます。イザベラ嬢との婚姻は私にとって、得でも損でもありません。王家の妃に対する考え方は子孫を残す事。なので、王妃以外に側室を置いてもかまわない。生まれた子供に王家の証があれば、王妃のみでも。そうですよね?」
「うん?今さらだが、何故そんな事を?」
「王様は強運な事に、2人の王子が王家の証を持って生まれました。私でもアベルでもどちらとも王太子になる資格はあるのです」
「だから、アベルが邪魔か?」
「いいえ、その逆です。前にも言いましたが、私は私の人生を共に過ごす伴侶を自分で決めたいのです。ただそれは今じゃない、王立学園に入って世界をもっと知ってから将来を決めたいのです」
「あぁ。それは知っているが、何故それでアベルの婚約がなくなるのだ?」
「アベルは・・・・・前からイザベラ嬢を慕っていたようなのです。だから私が身を引いたわけじゃありません!私が婚約しないと知ったからアベルは本心を教えてくれたのです。」
「え?アベル様がですか?」
ロベール侯爵様も驚いていた。はっきりとは聞いてなかったようだった。
「アベルが王にふさわしいと思われた時は是非にアベルを王太子にされて下さい。私は精一杯アベルの側でこの国の為に、尽力致します。私の願いは、この国の平和と愛する者の幸せを私がこの手で叶えたい。ただそれだけです」
「想う令嬢がいるんだな?誰だ?」
「ただの私の片思いですし、学園を卒業するまでは私は誰も選びません」
卒業するまでこの国が平和であれば、その時にやっと私は私の幸せを考える事が出来るのだから。
私の目が真剣に語ってると伝わったのか、
「ルーカスがここまではっきり言うのは珍しいな・・・・・・・・」
王様は少し考え
「宰相もいいか?イザベラには良い縁談を用意しよう」
「イザベラの事は気になさらないでください。元々婚約していたわけではないので、ただの夢物語と本人は思うでしょう。それにアベル様を考えると今すぐ、イザベラに婚約者を見つけるのは、問題が起こりそうですね」
先程まで、イザベラ嬢の父親の雰囲気を出していたが、
ロベール侯爵は宰相の顔になった。
「カーリー妃をなだめるのが先にかもしれませんね。アベル様には少し自粛してもらいましょう。イザベラは当分城への出入りを禁止します」
ロベール侯爵は階段を降りて私の近づいて来た。
「第一王子様、娘に傷がつく前にはっきりとおっしゃって頂いてありがとうございます」
深々と頭を下げた
そして小声で
『このまま王子様の妃になったとしても辛い人生だったでしょう。王子様には感謝致します』
「・・・・・・・・・」
ロベール侯爵に何と言っていいのかわからなかった。
「ところで明日、リシャール伯爵家の令嬢から謁見の申し出がありますがお受けいたしますか?」
え?クロエ?
私はバッと顔をロベール侯爵へと向けた
私の顔は赤かったのかもしれない
「なるほど」
ロベール侯爵がニヤリとした。
それを見ていた王様も
「ルーカス、甘いな。誰にも知られてはならんぞ」
「はい・・・・・」
返す言葉もない
「ですが、その謁見は断って下さい。」
今この城では会えない。カーリー妃の目に止まってはならないのだから。




