第28話 レオ執事見習い
一方ではレオポルドが内密調査で、王妃様の実家に潜入していた。レオポルドの事情を知るのは、この屋敷で2人だけ。
ベルジック公爵様と次期公爵のセドリック様のみ。
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「今日から、見習いで来ましたレオと申します。よろしくおねがいします」
僕は初めて足を踏み入れた屋敷でドキドキしながら挨拶をした。髪は銀髪ではなく、茶色のカツラをつけた。
リシャール伯爵の子息とバレればいろいろ面倒くさそうだったから。ベルジック公爵様も賛成してくれた。
ルーカス様の知り合いだと思われれば、調べたい事が思うように出来ないかもしれないからと。ただ後ろ盾がないのは、この屋敷では大変かもしれないという事で、セドリック様の友人の子供とした。子爵家の3男という事ならば、動きやすいとの案を受けた。
「セドリック様のご厚意で執事見習いをさせて頂きます。ゆくゆくはどこかのお屋敷で雇ってもらえるように本気で頑張りますので、どうぞよろしくおねがいします」
僕は深々と頭を下げた。
その時一瞬でそこにいた人、30人程の従者の方々の顔を覚えた。
僕の取り柄は一度見た人は忘れない。
名簿は事前にベルジック公爵様から見せてもらっていた。
「じゃあ後は執事長のモーリスに頼む。みんなも見習いとはいえ、他所に出しても恥ずかしくないように指導を頼む。彼には明日から、この屋敷に相応しいように剣術の師範をつける。その時間は彼の時間を空けるように。いいな」
30人が一斉にバッとお辞儀した。
その統一感はとても綺麗だった。
うちの伯爵家でも礼儀正しく指導はされてはいるが、ここまで統一感はない。
見事!という以外言葉がない。
その光景に見とれていると、執事長のモーリス様がセドリック様が席を外してから
「君も今日からこの仲間の一員なのだから、先輩達を見習うように。君の担当指導者は執事のマクシムだ」
名前を呼ばれたマクシム様が近づいて来た。
マクシム様は高身長の赤髪で、かなり女性から人気がありそうな端正な顔立ちをしている。
「モーリス様がおっしゃるのならば従います」
「彼は今は17歳だが、5年前からここにいる。君みたいに子供の時から働くのは不思議じゃない彼から学ぶ物は多いだろう。しっかりと励みなさい」
みんなの方へと向き
「では解散!持ち場につきなさい」
そう言うとモーリス様の掛け声とともにみんな持ち場へと向かって行った。
2人きりになった途端にマクシム様が
「お前、子爵家の3男?」
「えぇ、まぁそうですが。何の力もないですよ?」
「ここでは実家の力何か影響しねーよ。俺は平民だが、ここでは実力で上に上がれる。従者の中には伯爵家の次男とかもいるんだが、実力が全てだ」
なるほど。実家は関係ないのか
「俺が言ってる意味がわかるか?」
僕はマクシム様にニコっと笑って
「はい。マクシム様、僕でもここでは出世ができるのですね・・・・裏を返せば実家は頼れない。自分がどんな体罰を受けたとしても」
マクシム様は少しだけ表情が優しくなった
「頭のいいヤツは嫌いじゃない。ただ環境は厳しい自分の身は自分で守れ、運良くお前には剣術の指導者が来る。それだけは必ず守られる時間だ。しっかり学べよ」
言葉遣いは、わざと悪くして話してくれているように見える。10歳からここで指導を受けてたのなら、それなりの言葉遣いが使えるはず。ここが厳しい世界だと教えてくれているんだと思った。
まずはマクシム様が信頼できるかの調査からだな。
「今日いたのは、今の時間の出勤者だけだった。明日はまた、たくさん知らない者に会う。執事であるならば、ベルジック公爵家様の皆様とそこで働く従者の顔と名前を1番に覚えた方がいい。侵入者は誰かのフリをして入ってくるのだから」
マクシム様の言葉遣いが仕事モードになったのか丁寧な言葉遣いに変わっていった。
「マクシム様は綺麗な発音でお話しされるのですね」
その言葉にマクシム様の顔は少し赤くなった。
「うるせーぞ!俺の事はいいんだ!自分を守る事を考えろ。ここでは誰も助けてはくれない」
この方は味方であって欲しいと心から思った。
「マクシム様、では初めにそれぞれの部屋と執事としての1日の流れを教えて下さい」
「おぉ!いいなお前。俺は優しくはないが、指導者には向いている。なぜならここのことはモーリス様に直々に指導された唯一の人材だからな」
そうか・・・・・みんな長いのかな?
「執事の中で1番長いのがモーリス様でマクシム様が1番短いのですか?」
「執事になれるのは数人だから、お屋敷の方にそれぞれ専属の執事が1人がつく。それを補佐する者が何人かいるぐらいだな。俺はセドリック様の専属執事じゃなくて補佐だから、指導の時間も割と作れる。ただ、俺が若いから専属になれないのじゃなくて、新しく入った人の指導が多いな。俺より年上で短い方々も多いが専属についてもらっている。相性もあるからな」
「レオはここをいつかは出て行くんだろう?」
「そうですね。ここで雇って頂けるかは、おいおい見てからと言われています」
「なるほどね。じゃあここで働きたいなら、まずはどんな仕事でもこなせよ」
そう言って、マクシム様は僕の頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。
その笑顔は眩しく、男の僕でも顔が赤くなるほどだった。




