第23話 王子とイザベラの現実
「いつも突然の訪問ですまない」
クロエがいたことは、驚いたが今はクロエに会いに行く時間はなかったから少しでも会えて嬉しいと思う私はズルいのだろうか。
クロエの未来、この国の未来を変えなければならないのに。
それでも私の顔は少し緩んでいたようで、
「第一王子様、何かいい事がありましたの?」
侯爵夫人が目の前のソファに腰掛けて話しかけた。
「いえ・・・・・」
そう、今日ここに来た目的を果たさなければならない。
「ロベール侯爵には、先日話したのですが、イザベラ嬢がいろいろと誤解してはいけないと思い、直接一連の流れを説明に参りました」
「申し訳ございません。王子様自らお越しいただくなんて、恐れ多い事ですが、娘の為にありがとうございます」
侯爵夫人は立ち上がり、深々とお辞儀をした。
「今までの私の行動が招いた事だし、何よりフレデリクの頼みですから」
夫人は後は任せます。と部屋を出て行った。子供とはいえ、未婚の男女が2人きりになるのは良くないので、私の護衛騎士と侯爵家の侍女が部屋に残った
先程から1言も話さずただ、下を向いたままのイザベラ嬢がソファに座っている。
「イザベラ嬢・・・・・」
私の声掛けに赤らめた顔をバッと上げた。
「ルーカス様、私は・・・・」
「イザベラ嬢、申し訳ない国王より私の婚約者にと打診があったのだろう?」
「はい。なので、私は・・・・・」
「しかし、以前の私なら君を婚約者にしていただろう。それが国王の頼みなのであれば」
以前は、私は国王である父上の言いなりだった。全て国王が正しいのだと信じていたから。たった一度だけわがままを言った。好きな人を側に置きたいと。それが間違いだったと思いたくはないが。でも今回は間違えない。
「ならばなぜ白紙になったのですか?」
溢れそうになりそうな涙をグッと堪えて尋ねる。
「元から私は婚約者を決めるつもりはないし、今はこの国の為に多くを学ばなければならない」
「ですから早くから婚約者を決め、王太子妃として幼き頃より勉強が必要なのではなかったのでは?」
「私は婚約者にそれを望んではいない」
「え?・・・・・国の母になるのですよ?」
「そうだね。でも私が王太子になるかは決まってはいない。アベルかもしれないだろう?」
私は淡々と話した。
「そんな王家の内情を他人に入ってもらいたくないんだ」
「他人?」
「そうだよ。キツイ事言ってるかな?私は国王が決めたらそれに従って来た。そこに愛情がなくてもその者を婚約者にしただろう。でもそれでは、私も国も幸せになれない」
イザベラ嬢は顔を真っ赤にして
「私は、私は!初めてお会いしたときからルーカス様をお慕いしております!」
涙はすでに瞳から溢れ出していた。
でも私にはその涙を拭いてあげる優しさなどない。
私の身体はこの国のため
私の心はたった1人の女の子のために
捧げると誓った。
侍女が慌ててイザベラ嬢の元にハンカチを持ってきた。
「白紙と言うと。婚約破棄に聞こえてしまうが元々この話しはなかった事だよ。国王が勝手に打診しただけ周りが勘違いしてイザベラ嬢の耳に入ってしまった。ただそれだけ」
「そんな・・・・・お父様もお母様も喜んでて・・・・・」
「今日ここに来たのは、勘違いをされない為だよ」
「勘違い?」
「私ははじめから婚約者を決めるつもりはなかったし。15歳までは誰も婚約者にしない。」
「それって、5年後また私にもチャンスがあるのですか?」
「さぁ。どうかな・・・・・」
その時にこの国が平和であればいいが
「ただ私には気になる子がいるんだ。その子を守るためなら私は何でもする」
「それは、クロ・・」
イザベラ嬢が名前を言い終わる前に私はソファからバッと立ち上がり、
「勝手な憶測は不敬とみなす」
私は誰よりも冷たい表情でイザベラ嬢を見下ろした
その表情にイザベラ嬢は驚き、ソファから降りて、地べたに土下座をした
「申し訳ございません」
その体は震えている
今まで優しかった私が、誰よりも恐ろしい表情をしたのだから。
「これから5年間変な噂を立てず、君が他の者より婚約を申し込まれたら君の意志で選ぶといい。私が君を選ぶと思わないで欲しい」
「待つのも自由?」
「それは君の勝手だよ。君は君の人生を歩めばいい」
君がクロエを陥れた人物じゃないことを願うよ。
私は横目でイザベラ嬢を確認して、部屋を退出した。
帰りに夫人に会ったので
「本日はありがとうございます。イザベラ嬢に良縁があるために王家でもお手伝い致します。」
「いいのですよ。王子様は王子様のご心配を。こうしてちゃんとイザベラに話していただけただけでもありがたいのに、婚約前にはっきり言ってくださって助かったのは私どもです。婚約破棄だと娘はもうどこにも嫁げなかったでしょうから」
夫人は優しく微笑んで
「クロエちゃんは難しそうですわ」
私の耳元で囁いた
「え?わかるのですか?」
私は赤くなっていく顔を腕でかくす
「そうですね。わからない人はいないのでは?」
「前も話しましたが、私は15歳までは・・・・」
夫人はニコニコしてそれ以上は何も語らなかった。
「では、私も周りに気づかれないように振る舞います」
このままではいけない。
もっと気合いを入れなければ。




