魔理沙・文編幕間「態萎気乏のフウロク宇宙人」
魔理沙と文が、秘神に唆されて病の神を追いかけ回した少し後。
ここは迷いの竹林入り口近く。
「おう、お前ら道案内ご苦労!」
「モークンナー!」
魔理沙が手を振る先には竹林の兎たち。
兎たちはとても迷惑そうな顔で口々にキンキン罵り散らしながら竹林の奥へ帰っていく。
「何だかんだいって律儀に入り口まで連れてってくれんだから、きっと歓迎されてるんだな。ツンデレってやつだ、次もまた来てやろう」
「全くですねえ。低級神ひとつ追っかけてドッタンバッタンやってたのを看過できずに取り押さえに来たとか、抵抗するのを警戒しながら強制送還してやったとか、そんな雰囲気は私ち~~っとも感じませんでしたからねえ」
当然の事を当然の速度で実行しているだけなのだから、罪悪感なんざ微塵もない。
竹林を完全に出るには、まだ道一本分残っている。何となく折角なので歩いて出口に向かう。
「んで……目的地は天狗の巣で良いんだよな?」
「巣とは心外な。山は天狗直轄の領地です。他の有象無象は天狗が貸し与えてるに過ぎません」
「へいへい。それでそのホームグラウンドの、どこ調べりゃ良いんだ?」
「ま、その辺の哨戒天狗に聞けばすぐですよ」
隠岐奈立ち会いの元で聞き出した「えみ」の証言を思い返す2人。ちなみに隠岐奈は話が終わるとすぐさま背中の扉から帰った。
お陰で竹林の騒ぎを全部私らのせいにされたんだ。全く姑息な賢者だ。
「あの『えみ』ってやつを『ねひりん』が誘った。でも“竹こもり”の『えみ』は結局断った。妖怪の山の“どこそこ”で『ねひりん』が集会やると言ってたが、『えみ』には土地勘も行く気も無かったから聞き流してた……と」
「全く、これだから行動半径の狭い手合は何をやってもダメなんですよ」
「山も結構広いんだろ? あちこち茂ってるから身を隠すにも都合良さそうだし」
「そこはご心配なく。哨戒天狗といえど千里眼“だけ”は侮り難しです。余所者が勝手に縄張り広げてたら気付かないはずがありません」
「目が利くんだか鼻が利くんだか分かんねえ話だな。おっ……?」
ちょうど竹林を抜けた矢先、魔理沙の視界の隅っこに、チラッと見慣れぬシルエット。
ピント合わせて見直せば、人影あわせて2人分。見慣れないのが1人と、割りと見慣れてるのが1人。
「どうしました魔理沙さん? 何か見つけ……おや素兎、こりゃあ縁起が良いですねえ」
見慣れてる方は因幡てゐ。この竹林の地主みたいなもの。
てゐが2人の視線に気付いて近づいて来る。隣の見慣れない人影も、まるで召使いみたいにてゐの後に続く。
「おやおや、やっぱり竹林の騒ぎはあんた達だったのね」
「そうとも限らないぞ? 私にしかできない芸当だからな」
「“達”の方に物申すんですねえ。ところで、そちらの方は?」
てゐが連れてる人影が気になる文。
いい天気だと言うのに、えらく丈の長いローブか何かで黒ずくめ、頭の実寸より倍くらいデカいフード部分も悪目立ち、控えめに言っても変質者。
「ああ、こいつはお師匠のお客さんよ。あんたらが派手にやってたから、そっちは他の兎に任せて私が護送してやったのさ。ほら、お客さんも挨拶くらいしてやんなさいな」
「あ、はい。初めまして……『宇面梟 森』と名乗らせていただいてます。そちらの魔法使いさんは2度目だったと思いますが」
「名前は初めて聞いたと思いますがな」
フードをちょっと持ち上げて挨拶してきた。見た目の怪しさの割に柔和な顔をしている。
「へえ。お客さん、そっちの黄色い白黒とは会った事あんの?」
「私もあの時の事はよく覚えてる。こいつは不意打ちが得意な地底の行商人だ。ちょっと本を借りに行っただけの“いたいけな”私に襲いかかって来るくらいの危険な妖怪だ」
「ほほう、そんな面白事案が?」
条件反射で手帳を広げる烏天狗。
「いつも通りに真っ直ぐ飛んでたと思ったらな、こいつの鳴き声が聞こえて、そしたら途端に横が縦になって床に顔面ダイブだ。気付いたら外に転がされてたし、あの時は『なんて姑息で残忍なやつだろう』と──」
「変に盛るの止めてください!」
「では、そちらの『森』さん側の証言は?」
「湖の紅い館にお邪魔していた時に、そちらの魔法使いさんが襲撃に来たと報せがあったんです。館の魔女さんは上得意でしたし、魔女さんの使いにも頼まれて、よしみでほんの一手ばかりお手伝いを……」
「ですよねー。だろうと思いました」
「おいおい薄情な天狗だぜ」
「まー魔理沙のやることだものねー」
笑う娘3人と、落ち着かない様子の「森」。今ので疑いが晴れてくれたのだろうかと、自信が持てずにいるようだ。
一息ついてから文が「森」に詰め寄る。
「そうそう。これも何かの縁と言う事でですね、『森』さん、『ねひりん』という言葉に何か覚えはありませんか?」
「『ねひりん』? 地上の宗教ですよね? 最近も声をかけられましたし」
「「おお?」」
魔理沙もズズイと距離を詰める。
「よーしよし、そうと来ればザ・霧雨流・火力取材を見せてやろう。紅魔館のお礼参りとセットで」
「こらこら魔理沙さん、殿方に弾幕ごっこ吹っ掛けても話が合うわけ無いでしょうが。……殿方、で合ってますよね? 声色的に」
「あ、はい。今はこんな見てくれですが、れっきとした男です」
かすれた声だが細くて高いし、背丈は魔理沙の頭一つ上程度。
「そうだったのか? 珍しいモン見つけたなあ。妖怪だの神だの、見かけが女子供のやつばかり見慣れてたし」
「初対面でもなしに性別に気付かないってどうなんですか……しかも魔理沙さん、人間ですよね?」
「ま、まあ、魔法使いさんと初めて会った時はドタバタしてましたし……」
「おーい、あんた達ー。ケンカの心配無いようなら、あたしゃ帰らせてもらうわよー?」
話題から外されたのを察して割り込むてゐ。
「おっと、これは失敬。彼は大切な取材対象になりましたので、どうぞご安心ください。ついでに他の兎達にも『またよろしく』と」
「ほいほい。次があるんなら、首でも洗ってからアホ丸出しの兎狩りとかで頼むよー」
皮肉交じりでのんべんだらりと竹林に帰っていくてゐ。
「さーて、私達もまだまだ手探りなので、色々と伺いたい事はあるのですが……先にズバリお聞きします。『ねひりん』の集会が近々あるって、聞いた事ございます?」
「ああ、集会なら確か、山の麓の『河原』でやると誘われた事が何度か」
「お、よし! 山のどこだか特定できたな!」
「んー、河原……麓の河原ですかあ……」
「なんだよ文?」
「いえ……まあ、行ってから考えましょう。ご協力ありがとうございます。後は、『ねひりん』について雑感などありましたら参考までに」
「そうですね……私、昔はかなり塞ぎ込んでた時期があるんですが、あの頃の自分だったら、今の生活捨ててでもコロッと入信するかも……そんな印象がありました」
「どういった所が魅力的だった、とかは?」
「今は余り縁が無さそうだったので話半分で聞いてたのですが……『幸せになる事はない』みたいな教えだった所に、ちょっと興味が」
「「宗教なのに、『幸せにならない』……?」」
魔理沙も文も、思わずピッタリ揃って小首を傾げた。




