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東方オリスト「東方光隕誕」   作者: 三郷吾請
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魔理沙・文編01「襷長帯短のイサガモ神」


 幻想郷の竹林で、昼飯前から星がきらめいていた。

 ついでに竹の葉が汚部屋のスミでため息ついたように飛び散りまくっている。


「文、アッチ行ったぞ! とりあえずこの辺じゃないどっかがアッチだ!」


「自分の弾幕で標的見失ってちゃ世話ないですねえ。道開けますから、追いつけるもんならついてきてください」


 竹やぶ笹の葉かき分けて、迷いの竹林を突き抜ける霧雨魔理沙と射命丸文。

 文がカメラのシャッターを切り、ファインダーに収まった弾幕が消えて、くだんの標的が竹やぶ縫いくぐり逃げてく姿を視界に捉えた。なおくだんの標的とは言っても相手は二足歩行。

 その標的を追う文と、後に続く魔理沙。何気に文に先行させる事で安全を確認させつつ道順も文任せで、魔理沙は結構おきらくチェイス。

 伸び放題の竹林は、竹同士が肩幅あるかないかの間隔で居並んでいる。移動が速いというだけでは1秒かからずゴッツンコ。文も大口叩いては見たものの、グレイズレベルで通れる道を探して迂回せにゃならないネイティブ竹やぶ弾幕。


「ゼヒー、ゼヒ、ひぃっ……な、何なんじゃと、言っておろうがそなたらぁ!」


 追いかける先の標的が、息も絶え絶え必死に叫び、魔理沙と文に抗議をぶつける。魔理沙よりも更に小柄なその人影は、すっかり涙声。


「だーから取り敢えず倒してから説明してやるって言ってるじゃないか、逃げてばかりじゃお近づきにもなれないぞ」


「すいませんねえ。取材に来たんですが、相手はあなたじゃないんですよ。他に曰くありそうな竹林の住人も見当たりませんし」


「何を言ってんだか全然わからん!!」


 懸命の文句も効果が無いみたいだ。

 追われる標的は明らかに竹林に慣れた挙動。どこへ追い込んでも逡巡もせずにヒョイヒョイ道を変えていく。見る目を騙す迷いの竹林だと言うにも関わらず。間違いなく、こんな所に住み慣れてなければできない芸当。ついでに言えば、ちっこいので文の羽根や魔理沙の帽子が引っかかるような竹の隙間も容易く通り抜けている。

 お陰でスピード派の2人でも中々追いつけない。むしろこういう場所では霊夢達の方が速いかもしれない。

 おいおいバカ言え、私が霊夢に負けるわけないだろ。


「このままじゃ拉致が明かないな。弱っちそうな相手だから節約しときたかったんだが……」


「火災だけは勘弁願いますよ」


「大丈夫だろ、いつかの異変でバカスカ撃っても何ともなかったし。つーわけでボム1だ!」


 魔理沙を中心に、グラデーションのかかった光の帯がデタラメ方向へ伸びていく。

 指向性の無い(ノンディレクショナル)光線達が竹やぶを、燃える間もなく炭にしたり、その熱で竹を爆裂させそこら中で痛快な音を奏でたり、あるいは芝生を刈るように易々と竹を切り飛ばす。ついでに自分達で撒いた弾幕の残りも呑み込んでかき消す。


「ふぎぃっ!? 今度は何だあ!?」


 パーンとかジュッとかの音が幾つも幾つも。逃げ惑うちっこい標的も、思わず怯んで振り向く。そして振り向いて減速した、その丁度真上に、切り飛ばされた竹の一本が落下し、脳天直撃した。


「へがっ!?」


 竹の幹がしなって後頭部からうなじ近くまで引っ叩く。頭の上で、星の瞬きと土星の輪が見えた気がした。

 幸か不幸か気を失いはしなかったようだが、当たりどころはよろしくなくて視界がチカチカグラグラと。まともに逃げても居られない。


「よーし結果オーライ! 文、捕まえとけ。私がまとめて吹っ飛ばす!」


「遠慮してあげますから勝手にやってくださいな。私は撃墜の瞬間を撮るのが使命ですので」


 逃げ足が止まれば後は簡単。魔理沙は八卦炉、文はカメラを取り出して、気ままに竹の間を縫う。


「しかし……これであのターゲットが本当に全く無関係だったらどうします?」


「アイツから私達を竹林に呼びつけたんだ。その私達が騒ぎ起こせば、少しは責任感じて慌てて出てくるだろ」


「うーん、賢者の体裁を信じたい反面、あの名義盛り盛り神様が律儀に応じるタマかも微妙ですが……」


「知ってるか? 後悔は後にしかできないんだってよ♪」


「ま、まま、待て! 待って! ちょぉっとタンマぁ!!」

 

 標的は頭をさすりながら命乞い。もちろん2人にゃ知ったこっちゃない。いつもの通過点のザコである。


「何で……真面目に必死こいて生きてきて……何でこんな仕打ち受けなきゃなんないのーーー!」


 何だか真に迫った悲鳴をあげてるが、やっぱり知ったこっちゃない。

 適度な弾幕で仕留めるために、八卦炉が八卦20%くらいで光る。




「ほい、そこまで」


 割って入った例の声。

 標的の背中がパカっと開いて、扉の中から摩多羅隠岐奈。

 ついでに肌で感じる反撃弾幕の気配。思わず急ブレーキから低速飛行モードに移る通り魔2人。


「「うわ、やっと出た」」


「はっはっは、素直でよろしい。しかしだ……天狗よ、名義盛り盛りなのは、それだけ権威があるという事だ。舐めてかかれる余地はないからな」


「あらやっぱり聞こえてました? 敢えてああ言えば、面子を重んじてきっと出てきてくれると狙ったんです。駆け引きってやつですね」


「はっはっは、捻くれてて実によろしい」


 扉から全身ズルっと引き出して竹林に立つ隠岐奈。紫の屋敷でもそうだったが、やはり妙に機嫌が良い。

 腰が抜けたみたいになってた標的は、自分の背後から出てきた賢者をポカンと眺める。


「はぇ……マ、マタラ様?」


「うむ。いかにも摩多羅隠岐奈である。済まんな『えみ』。このオタンチンどもを走らせたせいで、怖い思いをさせてしまった」


「い、いえいえ滅相もございませぬ!」


 形ばかりの隠岐奈の陳謝に、跪いて応じる「えみ」と呼ばれた標的。


御丹珍(のろま)とは聞き捨てなりませんねえ。こちとら筆の速さに命かけてるんですよ」


「まあ私は火力の方が先だからどうでも。それよりソイツ、隠岐奈の子分か何かなのか?」


 目当てが出てくりゃ、わざわざドンパチ疲れる道理も無い。

 何もなかったかのようにエモノを収めて、涼しい顔で話し合い。


「子分じゃあない。格は天地ほども違うが、これは私と同じく神……ホウソウ神だよ」


「包装紙ぃ? 新聞紙のカミって事か?」


「どう見てもそんな尊い神格には見えませんがねえ」


「違う違う、読みを変えればイモの神……」


「芋ぉ? ますます遠ざかってないか、こんな幸も実りも薄そうなの」


「ましてや、幻想郷の賢者を地につけるほど格が高いなどとは……」


「天狗までボケ倒すな! 『あばた』だ、『あばた』」


「あばたー?」


「ん? ……あー、あー、はいはい、痘痕! 大痘瘡とか要するに疫病(えきびょう)の神の一柱って事ですね」


「魔理沙はともかく、お前は知らんような歳でも無いだろうが。それも新聞記者が……」


 かなり素で呆れて頭痛そうな摩多羅隠岐奈。


「いやー、お恥ずかしい。何せ幻想郷でももう何十年か前にちょっと騒がれたきりでしたから、常に未来を見据える者としては何とやら」


 恥じらいの欠片も屈託もない笑顔。


「って事はアレか、どこぞの疫病(やくびょう)神と同レベルか……」


 何となく残念そうな顔で「えみ」を見下ろす魔理沙。


「ぬぅ……マタラ様、この野蛮で微妙に腹の立つ連中は一体?」


「そうだった、そうだった。えみ、お前いつぞや『ねひりん』を名乗る連中に『勧誘』されたろう?」


「「お……?」」


 人間と天狗の眼差しが、つまらない物を見る目から好奇心に満ちたソレへ早変わり。


「あー、『ねひりん』……」


 シワを多くして苦い顔する「えみ」。


「この蛮族ども、ちょっと用向きがあって奴らを探していてな。役立ちそうな話があれば教えてやってくれ」


「ふむぅ……あたし──あいや、“ここもと”と致しましては、語るにも複雑な思いの募る連中でしたが……あい心得ました。マタラ様の頼みとあれば協力は惜しみませぬ」


「よーしよし。こいつらは情報さえ食えば猫のように愛想を尽かしてくれるからな。安心して元の生活に戻るがいい」


 前屈みになって「えみ」の頭をポンポン撫でる摩多羅隠岐奈。


「散々に言ってくれますねえ……」


「自分がけしかけたみたいなモンのクセしてなあ……ま、情報手に入るんならひとまずいいか」


 別に「襲え」とは一言も言ってなかったはずだが、2人は遠慮なく自分らの行いを隠岐奈に10割責任転嫁した。

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