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東方オリスト「東方光隕誕」   作者: 三郷吾請
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プロローグ5「不貞寝の賢者と煽る賢者」


 命蓮寺墓場で交わした話によれば、

 幻想郷の主立った宗教から信者が減っている。

 その中で、かつて零細の新興宗教だった「ねひりん教」なる団体が力を増している。

 だが「ねひりん教」の実態については情報不足。


 いつものように妖怪が騒いでいるわけでもないせいか、調査に飛び出そうにも行き先に目星が付かない。


 そんなこんなで、霊夢と興味本位の他3名が進展求めてやってきたのが……。


「ふあぁ~あ……急に押し掛けて叩き起こされたと思ったら、そんな事ぉ……?」


「なにが『そんな』よ! ウチの神社もねえ、常連の信者が2人よ!? 2人もプッツリ来なくなったの! ふ・た・り! 数こそ少なくても信者ひとりひとりに人生とか何かそういう……とにかくかけがえのないモノなのよ、分かるでしょ!?」


 八雲紫の屋敷である。

 目尻を垂れ下げて、髪は寝癖が付いたまま、テンション低い屋敷の主人。

 式の八雲藍が淡々と茶と菓子を用意するなり、花<団子≦弾幕の序列に従って小娘たちがモリモリ消化していく。

 神社でダベってる時、3人って言ってなかったか?(もぐもぐ)

 言わないであげましょう、魔理沙さん……。(ズズー)


「幻想郷の結界担ってるウチが、謂れも知れない新興宗教に信仰持ってかれてるのよ!? じゅ~ぶん一大事でしょうが!」


「ふあ……ぁ。あーそうね。んじゃ、私寝るから」


「おやすみなさいませ、紫様」


 得意のスキマをどうしてかフワリと浮いて、ヒラヒラ手を振って去ろうとする大賢者。

 そもそも紫は茶室の廊下で突っ立ったまま入室すらしていなかった。

 しまいには廊下に寝そべりだして従者が毛布をかけたりなどもしていた。ハナからまともに応接する気がない。


「あ、ちょ、コラァ! せめて黒幕探しくらい手伝いなさい!」


「こりゃー空振りですねえ」


 文は折角広げた手帳に書く事が無さそうで、やれやれと茶を飲み干した。


「おーおー、嘆かわしい嘆かわしい。境界の賢者もいよいよ耄碌しはじめたかな?」


 その場の全員、ハテナを浮かべた。ここに居る誰でも無い声がした。


「あー、こっちこっち。従者の『背中』だ……どっこいせっと」


 八雲藍が客をもてなす手を止めて、何かに対抗するような動作をしたが、遅かったらしい。

 いつの間にやら藍の背中に扉が在って観音開き、そこからズズイと人が降り立つ。


「せめて靴くらい脱いで上がってもらえませんこと?」


「おや失礼。ハイカラなものでね」


「げっ……!」


 その場の早苗と紫以外、誰とも無しに顔をしかめた。大体めんどくさい因縁がある。

 賢者の家に賢者が土足。摩多羅隠岐奈はとりあえず、脱いだ靴を藍の背中の扉に放り込んだ。

 ゴミ箱にされたみたいで正直我慢ならない藍だが仮にも相手は賓客。裁量を求めて廊下に目を向けるが、もう主人は寝床に去った後だった。

 隠岐奈の不法侵入も憎まれ口も、紫にはスルーされたらしい。


「何・の・御・用・で……?」


「久方ぶりだなー、狐よ。相変わらずお前の背中は通り甲斐がある」


 背中の一歩先はモフモフの九尾がお出迎えなのだ。

 主人の下命を賜れぬならこうなりゃもう、式の務めしか果たせない。ゴゴゴと気迫だけ燃やしてみるが、隠岐奈にゃ動じる義理もない。


「何しに来たのよホント……」


「まーた子分がどうとかは勘弁してくれよ?」


「もう今からでも全部コイツのせいって事になんないかしら……」


「ほぁ~、この方が例の……」


 文、魔理沙、霊夢、早苗の順で好き勝手に思う所を捲し立てる。


「はっはっは、まあそう言うな。お前たちが何を求めてこんな所に来たかは分かっているよ。アレに代わって答えてやろう……おーい、私にもお茶」


「ど~ぞご自分で……!」


「微妙にテンション高いのがこれまたウザいですねぇ……」


 文のボヤきも届かないくらいこの隠岐奈、微妙にノリノリである。

 そんなこんなで、隠岐奈がセルフサービスでお茶を用意して一息。


「ま、結論から言えばだ。八雲紫も、この摩多羅隠岐奈も、信仰がどうのと言う話にゃまるで興味ない」


「あぁん?」


 賢者にガンくれる博麗の巫女。

 異変認定を軽視された事より、自分がお熱な物事に冷やかし受けた事でキレてると表現するのが正しい


「まるで問題にならんのだよ。妖怪としても神としても、賢者としても」


「お言葉ながら、それはどうでしょうね。秘めたる賢者様」


 脇から挟まれる八雲藍の異議。とりあえず我が物顔の客人にトゲの1つも飛ばしたい。


「紫様も、隠岐奈様におかれても、その『ねひりん』とやらの動きは認知していた……そう考えれば合点がいきます」


「何がよ?」


「先のご様子を見ての通りだ。ここ暫くの紫様は、不調でも無しに睡眠時間が5割増しであられる」


「見ての通りと言われても、スキマ妖怪は大体いつも寝てるってイメージあるしなあ」


「それはまあ……おほん」


 魔理沙のツッコミ。効果は抜群だったらしい。


「ともかく、巫女たちの言う『ねひりん』絡みなら時期的にも辻褄が合う。”繊細な”紫様には(くだん)の情勢、何らか思い悩む節があるのだと、式は愚考する次第です」


 つまりこう言いたい。

 神霊廟や命蓮寺然り、幻想郷の賢者も信仰の目減りには早くから気付いていた。

 そこでいつの間にやら紫と隠岐奈は事の起こりを確かめていた。

 何を知ったか知る由もないが、結果として隠岐奈は賢者の出る幕無しと判断。紫もそれに了承しつつも、何かが酷く気に入らなくてまんじりともせず熟睡の日々。


「惰眠三昧とは知らなんだが……やれやれまだヘソ曲げとるのかアイツは。ウブなネンネじゃあるまいし」


「んなっ……私の主人に何を働いた!?」


 机叩いて問い詰め従者。

 相手は主と同格といえども、幼子扱いは面子が許さぬ。


「私は何もしちゃいないよ。むしろ『過ぎた事だし良いじゃないか』と諭してやったくらいだ」


「ん?」


「それって……」


「紫さんも隠岐奈さんも、『ねひりん』が何か”しでかしてる”のを大体ご存知って事では?」


「ホラ見なさい、やっぱ異変じゃないの」


 文、魔理沙、早苗、霊夢もすぐさま言外の意味を察する。


「異変じゃあ無かろう。ただ新参がシェア広げてるだけで。巷のどこも騒いじゃいないし、夷狄の影もないのだ。少なくとも今はまだな」


「でもアンタ(賢者)らがわざわざ探り入れたんなら、何かヤバいって事じゃないの?」


「その結果がコレだ。さっきから言ってるだろう博霊の。結局『ねひりん』は我々にとって知ったこっちゃ無い。夢見がちな算盤(八雲紫)が私的にブーたれてるだけで」


 隠岐奈が紫に変なあだ名を付ける横で、藍の尻尾の毛が逆立っている。


「ついでに言えば、だ。私はいつだって幻想郷の全てを見ている。私がどこに首を突っ込もうと自然の摂理で、な~んにも不思議な事はない」


「……ハァ。ああそう、じゃあもういいわ。後は自分で調べるから、取り敢えず『ねひりん』の情報だけ全部出しなさい」


「そんなもん自分で何とかしなさい」


「「「「……は?」」」」


 客人4人の眉根が寄る。


「な……何よそれ! アンタ自分から『紫に代わって答えてやる』って言ったんじゃないの!?」


「ああ、そうだとも。ちゃんと代わりに場を取り持ってやった。だが紫の口になってやった覚えはない。私が何と答えるかは私次第だ」


「……ナメてんのアンタ?」


「ナメて悪いか、神様だぞ? 博麗の巫女風情よ」


 割と本気で睨みつける霊夢と、ニヤニヤしながら見つめ返す隠岐奈。

 霊夢についてきた3人娘はウンザリした顔で隠岐奈を見る。


「こんの……あ~もうっ! こんなの頼ろうとした私がバカだった!」


 ドスドス部屋を去る霊夢。


「あ、霊夢さんどちらへ?」


「調査に決まってんでしょ、異変調査! ちょうどいいわアンタも来なさい!」


「へ!?」


 呼び止めたばかりに目を付けられる東風谷早苗。


「この引きこもり(秘神)、神ってだけで巫女をコケにしてんのよ、悔しくないの!? こうなりゃ神様も知らない大立ち回りで歴史を塗り替えてやるわ!」


「は、はあ……。まあ、私は私を認めてくださる神様がいらっしゃいますので、お気をつけて……」


「……」


 博麗の巫女が、守矢の巫女を猫みたいに襟掴んで引きずっていく。


「え、ちょ、霊夢さん!? 何で……何でぇ!?」


「いっちょまえに四の五の言ってんじゃないわよ! どうせ神社の経営1つ任されちゃいないクセに!」


「そ、そんなぁ! ひどいです霊──待っ、歩きますから、服破けちゃいますからぁーーーっ!」


 霊夢・早苗、退場。

 ヒラヒラ手を振り送り出す隠岐奈。ぼんやり眺める魔理沙と射命丸。


「……何で早苗まで攫ってったんだ?」


 特に心配する様子もなく、茶菓子を頬張りながらつぶやく魔理沙。


「自分一人で解決して見返してやりたいのだろう。とはいえカチ込むアテも見えぬ一人旅もやってられん。道連れは欲しいし、体裁も保ちたい。だから最初に近寄った者に適当な理由付けて『気付いてないようだが、お前も同行すべきなんだぞー』……と」


「やれやれですねえ……」


 勘ぐり入れる余地は大体隠岐奈が持ってったので、文は茶の残りを啜るくらいしかやる事がない。


「つーか隠岐奈、お前まさかマジで茶ぁ飲むためだけに来たのか?」


「結局事件の核心ははぐらかして、煽って引っ掻き回してるだけですよねー」


 静かになった茶室で、手持ち無沙汰なので賢者を茶化す少女たち。

 お茶とお茶菓子があって、興が無いのは片手落ち。ぶっちゃけターゲットは誰でも良かった。反省もするわけない。


「はっはっは、こらこら家人を前に客をけなすものじゃないぞ。なあ式よ?」


「正直、全員まとめて帰ってもらいたい所です」


 霊夢らの湯呑を片付けつつ、諦めながらこぼす藍。


「だそうだ。ほらほら、鬱陶しい天狗も採用バックレた魔法使いも帰った帰った」


「「「あんただ(です)よ」」」


 摩多羅隠岐奈は腰を深く落とし、完全に根を張っている。

 当分帰る様子は無さそうだし、役にも立ちそうにない。


「こりゃ長居するだけ無駄だな。しゃーない、霊夢が動いたんなら私も適当に何かするかー」


「この神様、本当に今日は一段と酔っ払いじみてますねえ……取材は空振り。やっぱり地道にやるしかありませんかね」


 茶菓子を貪って腹も膨れたのでノッソリ立ち上がる魔理沙と射命丸。


「もう行くのか。では神様らしく、忘れ物をくれてやろうな」


「「は?」」


「──竹林でまた会おう。かつて『ねひりん』に接触した者がそこに居る」


 2人は半分聞き流すつもりでいたのだが、急に賢者らしい背筋の冷える笑顔で告げられたもので、少しばかり言葉を忘れて立ち尽くしてしまった。

次話から霊夢・早苗ペアと魔理沙・射命丸ペア2組のストーリーが別々に進行します。最終的に合流する予定です。

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