プロローグ4「異変を私が潰すんじゃないの、私が潰すものが異変なのよ」
命蓮寺に押し掛けて、聖白蓮に説法を試みた門外の不届き者が居た。
射命丸文がかつて取材した謎の集団が居た。
いずれも「ねひりん教」なる言葉が関わっているという。
「ねひりん教を取材したのは、もう幾らか前の……週刊誌というものを立ち上げようとネタ集めに奔走してた頃でしたねえ。まあ週刊誌自体は諸々の事情でお蔵入りしたのですが」
大まかには神道に近い印象を受けましたが……神話はあれど経典なし、教祖はあれど御神体なし。そもそも祀る社も無く、方方で寄り合ってる感じでしたね。
ちなみに別に偶像崇拝を禁じているとかでなく、崇めるものの姿が薄ぼんやりしてるだけのようです。
教義は確か、人間寄りな内容だったと思いますよ。それでいて妖怪も広く受け入れてるらしく、そういう意味では命蓮寺さんに通じる部分も……。
いえいえ、断じて取材を手抜きしたわけではありません。
取材した時に、人に説明できるほど教義に詳しい信者が居なかっただけです。ですからまずは存在だけ軽く纏めて、連載決定してから掘り下げていけば良いやと思ってまして。
その頃の「ねひりん教」は、まだ出来上がったばかりの小規模なもので、例えるなら……有閑な奥さん方の集まりとか未満、そんなものにも及ばないちっぽけなものでしたから、初手から入れ込む事も無いだろうと。
信者は、これはもうひと目で「いかにも」って顔ぶればかりでした。
要するに人里でも食うに困ってるとか自業自得で居場所が無いとか、そんな連中ですよ。
取材してあげてるんですから最低限の身なりというか……顔くらい洗って欲しいもんでしたねえ。死んだ魚みたいな目で、喋ってるのやら、うなされてるのやら。
はっきり言って、他所様と比べて到底、良い宗教とは思えませんねえ。
あんな辛気臭さが服着てるだけなのばかりで、人が集まるとは私にはとても想像できません。
んでまあ結局、掲載するには余りに木っ端すぎるので、選考の段階で資料確認するまでも無く掲載は見送りましたよ。
そしてそのまま存在忘れて、私の仕事道具に埋もれっぱなしだったと。いや怪我の功名とは言いますがお恥ずかしいハッハッハ。
「──と、まあ大体の経緯はこんなトコです」
資料を貸して読ませつつ、文がねひりん教の説明を終える。
聞いた一同は考え込んだり考えてなかったり。
最初にぼやいたのは早苗。
「うーん……外の世界のマイナー宗教でも幻想入りしたんでしょうか。全く心当たりがありませんが」
「心当たり無いなら、なおさら幻想入りするんじゃねえの?」
「結局情報が足りぬし、聞くからに幸も影も薄そうだが、他に心当たりがのう……」
こちらは適当に返事する魔理沙と、呻く布都。
「先ほど少し人里の声を聞いて歩いて来たが、不信心が増えたとか信仰から離れた者がどこぞへ消えたとかいう話も無かった。宗旨変えした以外の線は薄そうだ」
「いやしくも宗教家の我々に教えを説こうとするくらいには、昨今の『ねひりん』が勢いを付けていると考える事もできますしね……」
神子と星も意見を出し、あと口を開いてないのは、ペラペラの資料を流し読んでる博麗霊夢のみ。
その霊夢が、判を押すように拳を手のひら……の上の資料にポンと乗せた。
「よし、異変ね」
そして滑らかに一同に背を向け、空の向こうへ飛び去ろうとする。
「おい、ちょっと霊夢、どこ行くんだ?」
「サラッと私の直筆資料ガメないでもらえます!?」
魔理沙の呼びかけには応じなかったが、射命丸が回り込んできたので仕方無さそ~に停止する霊夢。
「どこって、まずは──」
「魔理沙さんに返事する前に手の中のモノ返してください!」
「ちっ……異変解決は私の仕事。こんな切れっ端でも使えそうなものは持ってって当たり前でしょ。正当な接収よ、接収」
「報道は権威に屈しません!!」
スピードゴリ押しで霊夢から資料を奪還する射命丸。たとえさっきまで九分九厘忘れてたとしても、仕事の成果は譲れない。
「ところで博麗の巫女よ。君の欲は、心当たりをたった今から欲しているように聞こえたが……どこを頼る気なのだね?」
「頼るんじゃないわ。『働かせる』のよ」
「働かすとな……はて巫女に都合の良い便利屋などあったろうか?」
「そもそも異変ってほど大ごとなのか? コレ」
聖職達には一大事だろうが、幻想郷を巻き込むほどかと言えば、全然である。魔理沙の食指もピンとも来ない。
霊夢はどうやら、ねひりんの黒幕についてこれから誰かに探させる魂胆らしい。
「これは異変よ。今そうじゃなくても、すぐにそうなるわ! こいつらは一発シバかないと、あんたらみたいに幅利かすに違いない!」
「生意気な商売敵に『分からせ』をブチかましたいだけでは?」
「何という恫喝外交…」
「新規参入者を叩いたからって顧客が戻るとは限らないのでは……」
文、星、早苗がそれぞれドン引きしている。
「うっさいわね! どっちが霊験あらたかか見せつけてやれば信仰もV字回復するってもんでしょ! それにさっきから、ずっと私の勘が囁くのよ!」
「囁くって……どんな風にだ?」
「この ”異変!!!” の黒幕は、絶対に私に喧嘩売る気つもりだわ。間違いない!」
「ひねもす茶ぁしばくしかやる事ない妖怪神社にねえ」
「なんと醜い……」
「本気で言っているね、この巫女は。最大の敵は鏡に映った己の心とは、よく言ったもの」
「せめて言い方ってもんを考えなさいよ! こちとら立場があるんだからね!」
いくら私でも傷つくわよと言いたげに膨れっ面して、その場をスタートダッシュ決めて飛び去ろうとする霊夢。
「あっ、霊夢、忘れもん!」
「ぬ゛っ……!!」
急ブレーキ。
「な、何よ魔理沙……」
「お前がどこ行く気なのか聞いてなかった」
「あんたのかい!!」
とまあ、そのような事があって、その場はひとまず解散となった。
星は聖に代わって寺を守る職務がある。墓荒らしの元凶が退いたなら長居する理由もない。
神子と布都は独自に調査。そもそも神子は出先から帰ったばかり。今は一休みを先にしたい。
霊夢、魔理沙、早苗、文は揃って同じ場所へ向かう。
他に大した情報も無いので、霊夢にくっついていく事にしただけだが。
霊夢曰く、ねひりんの元締めをヒネってやりたい所だが、どこへ探しに行こうかと考えると、あっちも気になりこっちも気になり、甲乙付かず落ち着かない。
いつもの異変なら「とりあえずあっち」で即決できて、結果として黒幕にもすぐに行き着くのに、「どこにでも居る」かのように第一歩が踏み出せない。
なので博麗神社の危機に託けて、頭の回るやつに一働きさせるとかで……。
「いっちょ結界でも解除すれば向こうから来るんでしょうけど、そう何度もガチ説教はゴメンだもの」
筆者的にこの霊夢は少し粗暴すぎますが、ちょっと懐がピンチで躍起になってるとでも思っておいていただければと。
主要キャラの誰かしら話にガンガン首突っ込みんでもらうべきかなと思い、このように演出しています。




