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東方オリスト「東方光隕誕」   作者: 三郷吾請
39/40

幕引「昡桜戳眼のボウソウ現人神」


 人里上空。呉服屋「くりや」を中心として円の面積で半分ほどを飲み込んだ光の柱。計算式は各自で求めよ。

 怒涛の弾幕の中を飛び交いながら、1点にショットを集中させる4人。


「おおっと!」


「も、もぉ~勘弁──おげはっ!?」


 戦ってるのは4人だが、頭数だけなら6人。

 魔理沙と早苗は縛り上げた「いつき」を持ち運びつつ、カスリきれなかった時の盾にしている。今のもそんなやり取り。ドッジボールサイズの光の弾が「いつき」の腹にめり込んだ。

 当てればどうということは無いってやつだな。


「避けきれるだけ『押して』くれないから“庇ってもらう”しか無くなっちゃうんですよ。もっと気張って能力活用してください!」


「ジ……ジゴクヨリムゴイ……」


 今のところ、「いつき」は道路で雨ざらしになった新聞紙が乾いた後みたいになっている。早苗的には汚らしいが無いよりマシ。天狗ならもう少し使い道あるかもしれないのでまだ常識人。

 一方、霊夢と文の方にもオマケが1人。こっちは2人の傍を自分からフワフワついてきてる。


「むこうは便利そうで良いわねー」


「真似しようとか思わないでくださいよ? きっとロクな事になりませんから」


「あ、来た」


 ぼやく文を無視して、霊夢が「連れ」の襟首掴んで弾幕の軌道上に放り投げる。


「あたっ♪」


 友達とのふざけ合いでデコピンもらったみたいな声あげる「連れ」ことシタン。

 額に命中した光弾だが、偶然角度がよろしくなく、シタンのデコの丸みを掠り、軌道が曲がった弾はそのまま文の方へ飛ぶ。


「ほわぉ!? だから言ったじゃないですか!」


「良いじゃないのアンタ速いんだから。コレならそこそこ使えそうね」


「ほあた♪」


 友達とのふざけ合いでシッペもらったみたいな声あげるコレことシタン。

 もっかい額に命中したが、偶然角度が真っ直ぐすぎて、初弾の衝撃で無重力みたいに後方軸回転してたシタンを回転速度上げさせつつ撃ち退けて、弾道曲がらず真っ直ぐ霊夢目掛けて飛び込む。


「どわお!? やっぱり役立たずじゃないの!」


「だから言ったじゃないですか! 幸不幸も平等みたいな顔してこの神様、自分だけ不幸を回避しまくってんですから」


「アラアラ、そんな事ないわよー?」


 友達とのドつき合いで根性焼きもらったみたいに額の1箇所を赤くしたまま笑顔でクルクル説明するシタン。厄神とは回転軸が違う。


「『不幸中の幸い』って言うじゃない? 他所様の弾幕ごっこに巻き込まれるのも、弾が当たるのも立派な不幸だもの。アタクシは禍福の凪に居るだけ。そして禍福は後からしか埋め合わせられないのよ」


「能書きなんざ今どうでも良いのよ! あのソックリサン教祖が『連れてけ』って言うから仕方なく置いてやってんだから、弁えて少しは役に立てっつってんの!」


「いや、役には立ってるんじゃないですかね? こっち、魔理沙さん達ほど弾幕にあくせくしてませんし。さっきも避けた方が楽なのに、わざわざシタンさん盾にするくらいに余裕ありましたし」


「それは私が強いだけ」


「いやぁ……」


 言葉が出ない文を半ば放置して霊夢が、シタンのうざったい回転を止めるために延髄の辺りにアッパーを合わせたが、角度が良くもあり悪くもあり、首に全くめり込まずにシタンを受け止めるだけに終わった。


 先程の道中、二組がそれぞれに戦った後、隠岐奈は前口上通りに「いつき」を、教隕はシタンを同行させるよう薦めた。どちらも、同行させなければ光の柱に勝ち目は無いとの触れ込みで。

 魔理沙たちは光の柱に実際手こずったので、余計な真似しないようにふん縛った上で念のため持っていく事にした。

 霊夢たちも最初はナメた口利きやがってと思ったが、躊躇いなくどこまでも下手(したて)に拝み倒す教隕に根負けした。


 改めて出発、合流した二組が光の柱の中枢たる「おこん」を見つけてショットをぶち込んでみて、思ったより反撃をかわせたので、一応連れてきた甲斐はあったんじゃなかろうかと今は全員考えている。


「魔理沙ー、そっちの鬼、もっとシバきなさい。攻撃が全部薄い光で防がれてる。この程度の『押し込み』じゃ足りないわ」


「おーう。そっちもソレちょっと“貸して”くれ。この盾を潰しちまったらまだ少しキツい」


 会話の脇で「いつき」が声にならない声をあげてるが本筋には全く関係ない。

 とにかく、まず「いつき」の『後押し』する力は、弾幕が激しいほどに二組の集中力を弾速が遅れて見えるほどに高めて、人智を超えかねない密度の弾幕を裁かせている。

 シタンの能力は、1つの弾を避けて飛び込んだ先が偶然にも自機狙いの弾が曲がりきれない懐だったりと地味な幸運を招き、結果として柱の弾幕の精度を落としている。

 つまり借り受けた二者の能力でもって、光の柱との戦いはどうにか形勢不利程度に抑えられている。

 4人誰もが絶対に口に出そうとはしないがこの柱の迎撃弾幕、もし丸裸で挑んでいたら、「やれる」と強がれる自信どころか、そんな事考える猶予すら確保できたかも怪しい。文以外の3人は、月の兵器が幻想郷に攻め込んできた時の異変を想起したりしている。


「全く、コッチは大真面目に弾幕ごっこ中だってのに……肝心のアレがアレってどういう事よホント」


 グレイズの最中以外は、シタンと「いつき」の能力を最大限受けられるよう適度に寄り合う陣形に落ち着きつつある4人。

 弾幕の隙間にアレことターゲットがチラつくたび、霊夢は不満たらたら。

 視線の先は、光の柱の中枢と化した「おこん」。「おこん」は両腕と腰から下を光の柱に埋め、教隕さながらの生体ユニットスタイルで、4人もとい6人を見下ろすかのように不動。


「……くか~……すぴょー」


 そして寝てる。

 弾幕ごっこの真っ只中で、安らかに爆睡中。

 よくよく見ると、柱を構成する不可思議な光は「おこん」の顔を直接照らさないように光っており眠りの質もバッチリである。


「まあ、勝手に大きくなった『ねひりん』に巻き込まれただけのようなモンでしょうし……」


「そういえば先程、隠岐奈さんが『光は信仰の目』とか、何かソレっぽいこと言ってました」


「私らが本当に戦ってるのは『おこん』じゃなく、『ねひりん』信者の一部って塩梅だな」


 事ここに至って、寝ながら戦える新能力なんて事は流石に無いと結論。対手の意識が無いとなれば、段々と構図も見えてくる。

 勝利と優越以外で幸せになれない一派の願いが、都合の良い依代に流れて実体化してコレ幸い、柱が勝てば自分の手柄と解釈して悦に浸りたい。


「危ない所は人っ子一人に任せて自分たちはシューター気取りとか、良いご身分だわねぇ全く!」


 付け入る隙を見つけて霊夢が率先してショット。残る3人も後に続く。これで倒せるなら、各々が自分の手柄と主張する腹積もり。

 しかしショットは未だ、「おこん」の周囲を柔らかく照らす間接照明の塊みたいな光のモヤに阻まれて、最新の洗濯機よりも静かに優しくかき消される。

 そしてショットの数だけ~3倍くらいの体感で返される光の弾幕。「ねひりん」信者は十中八九、最新トレンドの弾幕ごっこなんて知らないいい年の連中ばかりであろうからして、年甲斐も大人げもなくバラ撒きゴリ押しの自動操縦感が臭う。

 本来の弾幕ごっこなら美し成分欠乏で即失格モノ……と、後でグリモワールに書いてやろう。


「だああもう霊夢! シタンと『いつき』使ってもしんどいのは変わんないんだから、ちったあ息合わせるって事おぼえろ!」


「アンタらもまとめて攻撃しといてどの口が言うのよ!」


 無差別反撃の責任を擦り付け合ったりシタンと「いつき」(オプション)でガードしている間に、光の柱から光のカードが湧き出て、バリアのように「おこん」を囲んだ。

 どうやらようやくスペルカード。本当の弾幕地獄はここかららしい。




 と、上空がてんてこ舞いの中、人里の方も当然大騒ぎ。何しろ眩しすぎて半分以上の住民が寝てられない。年を取るほど中途覚醒からの寝直しがツラい。

 光に飲まれてる部分に住んでる人々や飛頭蛮や上白沢などは何事かと外に出ようものなら、目に痛くも無いのに数メートル先さえ白飛びだらけで何が何やら。大人しく家に篭って過ぎ去るのを待とうかと思ったら、今度は扉がどこへ行ったのか手探る始末。

 要するに、騒ぐ事は出来ても何も出来ない。


 仮に、柱の中心「くりや」で騒ぎが起きたとして、騒ぎの張本人がその場を離れたついでに訪れても、店員が何も知らず普通に接客する程度には離れた所にある茶屋。それとその向かいの空き家は、辛うじて柱の外側だった。

 空き家の二階は、襖も壁も無い広々ワンルーム、またはワンホール。かつて木材を打ち付けた釘の跡の残る窓障子から、ついでに暴漢が鉄球でも投げ込んだようにぶち破られた跡も残るそんな窓障子から、遥か上空の弾幕ごっこを見上げる人影が1つ。

 人影が居る方と反対側の障子がスパンと開く。


「ア扉開いてどっこいしょっと……お、いたいた。歴史にも世間にも負けた仙人が」


 障子から入ってきたのは摩多羅隠岐奈。先に居た人影は豊聡耳神子。

 歴史はさておき、世間には勝ち続けてるし枯れてもないからな。郷を追われる謂れも無いしとっくに一度キレイに死んでる。


「やあいらっしゃい。我らの不徳が生みし哀れな神様」


「お褒めに預かりどうも。我らは“なよ竹”の昔、“事代主”の昔から、お前たち(為政者)を嘲る象徴である故」


 インテリぶった皮肉の応酬。別にお互い敵意も無いし言われて腹が立つでもない。人を下にして立つ者たちの、和やかな言葉遊び。


「で、幻想郷道教の主導者が、こんな夜更けにこんな所で、しかも1人で夜涼みとは……此度は何のお戯れかな?」


「何でも無いよ。家主が住み心地を(あらた)めるのに理由が要るものか」


「んー?」


「おや? 人を思い浮かべるだけでも当てるほどに、秘神は何でもお見通しと聞いていたのだが」


「生憎、ここんとこは『ねひりん』の尻を拭いてやってて忙しくてな」


「それはそれはお疲れ様。一杯どうだい? 我が老師直伝の花茶だ」


 神子の傍らには大陸様式の茶器一式。それと一冊の本。

 青い邪仙の伝えた茶と聞いて食欲が萎えるのはまだまだ十人並。喜んで隣まで来て座る隠岐奈。


「この家はね、“巨人落とし”のすぐ後に私が買い取ったんだよ。いつまでも不法侵入では、かの信者らも肩身が狭かろうから」


「『ねひりん』に貸すためだけに?」


「貸すためだけに。あすこに恩を売り込んでおいて損が無いのは、お互い様だろう?」


「なぁるほどなあ。流石に“杵柄”持ちの足腰は違う」


「それほどでも。たまたま間が良かっただけで。それに連中に使う予定が無い時は私の別邸だ。気が向いた時、市政の寝床を知るのも何かのトクになろう」


 つまり神子は、騒ぎが終わっていち早くにこの空き家を買い取って、「ねひりん」が堂々使って良いと許可を出した。多分、掃除や管理は「ねひりん」の自己責任で。

 信仰の面で「ねひりん」と縁を持った隠岐奈に対し、神子はより即物的に「ねひりん」と簡単に切れない縁結び。他の宗教者たちに先駆けて。

 要は政治家によくある博愛ムーブ。居るだけで臭がられる人々に、匂いが移らぬようにしながら良くしてやれば、自称・一般人たちのウケがよろしい。


「秘神様が手を貸してやり、そうしてあの弾幕ごっこが一区切り着けば、異変も『ねひりん』も一件落着……かな?」


「そういう事。アレだけやってまだ巫女達がヘマするなら、賢者として私と八雲の者が事を治める」


 神子と隠岐奈と二人して呑気に、ガラスの茶壺でお湯に浸かった花が開くのを眺めたり、上空に散らばる弾幕の有機交流電燈を眺めたり。


「んで、耳に鼻まで聡い太子殿が特等席で物見という事は、だ。騒ぎになる事くらい、やはり読めていたか」


「まあね。『ねひりん』の中に、かつてウチの門を叩いたものがあったのだ。そいつに久々に会ったら、“巨人落とし”に随分不満があるようだったから」


「信者の実際を見てる者なら大抵は考えつく帰結だな。アレ(教隕)何人(なんぴと)にも決して邪険にせんし軽んじも出来んのが欠点だ。例えば教隕の隣にはこないだまで、秘書代わりの『いつき』の他にもう一人、世話役の女が侍ってたのだがな」


「らしいとは聞いてる」


「その女、光の巨人が負けて信者が大喜びする中、『こんなの聞いてない、騙された』と大層傷付いた様子で当たり散らして、どこぞへ去ったきりらしい」


「その女とやらが、今はどこかの陰で光の柱の一助になってるのは想像に難くないが……そこら中の信者が『“巨人落とし”は負け戦だ』と、教祖様の仰る通りだと大喜びしていたのに、何も知らされていなかったと?」


「『いつき』に曰く、再三再四、再の五も六も七も説いて、聞かせて、返事もさせ復唱までさせたらしいがな。しかし教隕に自分語り聞いてもらう以外に物が見通せん女だったらしいから、事が済むなり頭から抜け落ちていたのだろう。でなけりゃ、耳障りの良い事以外ははなから『どうでもいい話』と決めつけていたか」


「それはそれは」


 聖徳太子もこれにはコロコロ苦笑い。


「三千久辺教隕は、そういうブツらを手懐けるには向いている。だが好かれて頼られはしても、奴からは決して何も強いる事が無い。仮にも側仕えだった者にさえ、だ」


「そういう所でアテにならないから、貴方が一肌脱いだと言いたいわけだ」


「フィクサーだからなあ。傘に入れた者の不始末は風物詩みたいなものさ。ハッハッハ」


「ふふ、自慢と愚痴と暴露の欲の声だ。良いとも。この厩戸皇子でよければ、存分に『聞かせて』もらおうじゃないか」


 聖徳太子の手ずから注いだお茶で舌を湿らしながら隠岐奈のターン。


 まずはそうさな。八雲紫がスネて惰眠を貪る羽目となった“巨人落とし”。もとい『再誕の儀』か。

 儀式が「ねひりん」側で画策されてる事、それと多かれ少なかれ人里を巻き込む事は把握済みだった。スキマ妖怪の心情としては騒ぎの芽は摘んでおきたい所だったのだろうが、だが理屈としてはそうもいかなかった。

 大人しく倒されて家に帰るまでが儀式で、故に迷惑は最小限として計画してたから……ってのは些細な事。厄介事は厄介事なのだから、回れるものなら先回る。本来ならな。

 だがちゃんと倒されたなら、むしろ長期的な利益になる。これがヤクモのクセモノだった。

 再誕の儀の狙いは、「できない者」である信者どもに「弁え」を植え付ける事だ。有り体に言って、八雲紫とは特に遠い連中にだ。理屈のリの字も獣ほどの知性も捨てさった脆弱下賤な毛無し猿の群れにだ。私達賢者だったら、そういう手合はもっと力ずくで、すぐにでも効果の出るヤり方しか出さんだろう。それを教隕はもう少し穏便な形で骨折ってくれる気でいると来た。

 事が済んでから言うのも今更だが、素直に助かるんだよ、私達にとっても。近いという概念を知る者の内に同時に遠いという概念があるように、良いものにするという事は良くないものを作るという事だ。幻想郷がより良い土地となるほど、真の河原者はいよいよ救われぬ。やれ悪鬼外道、やれまつろわぬ化外、果てはただの公共の汚物だとな。常識の壁に押しやられた者同士だろうと、地底に押し込み棲み分けて来た歴史もある。

 本気の本気で根本からこれを解決しようと決意したなら、あまねく人妖すべからく洗脳すべし。これ以上クリーンな方法はあり得ないからな。なまじ効率ってものを見に付けた我々には、楽チンな溝浚いを企画できても、自分から労働するほど足腰が効かない。


 私は幻想郷のタメになる事なら何だろうと構わないから、ホイホイ「ねひりん」に話を通しに行ったわけだが、アイツはどうにもその辺り生ぬるい。結局、来ると分かってる異変を敢えて見逃さざるを得ないのが気に食わんで寝逃げに走った。いやー実に愉快だった。


 だがまあ、さしもの私でも2つ3つ、見過ごせないものはあった。

 まず連中の最大の狙い。つまり「負ける事が大勝利」って所だ。

 再誕の儀を効果的にするためには、より「箔がつく」相手を用意するに越したことは無い。ならばやはり博麗の巫女に限る。

 少し話逸れるが、万一にも巫女の直感が私の皮算用の匂いを嗅ぎ取ってやる気を出さないだとかで不発だったらと、一応ピンチヒッターを見繕ったりもしていたが、まあそこは問題なかった。むしろ霊夢の方から燃え盛ってたのみならず、3人ばかり用立ててくれたのは大助かりだった。

 話戻って今回、それでも少し毛色が違うんだな。そう、「負かした相手が大喜び」って事だ。「博麗霊夢が釘を刺すとますます繁栄する」とも言えるか。

 巫女に平定されることまで計画に入れた異変、それ自体は今後とも無いとは限らんだろうが、尚もって「ねひりん」の狙いは、お子様どもには歪すぎるんだ。

 よいこのお気持ちだとか情操教育なんてのはどうでもいい。どんなに多くても問題の3割だ。ホントだぞ?

 避けたいのは、今後とも異変解決の必要があった時に、禍根を遺すんじゃないかって事だ。

 今回で言えば霊夢は元より、ほぼ毎回首突っ込んでて何かと便利な魔理沙が特に懸念だった。もしあの2人が“巨人落とし”に利用された事で以降、「退治しようとしたら、またまんまとハメられるんじゃないか」とか変な物の覚え方したら面倒だ。何事も初動の遅れはいただけない。

 あの2人以外、異変の内訳によっては「まあいっか」で普通に寝起きする部分あるしな。


 そこで今やらせてるアレだ。教隕の「片手落ち」で起きるべくして起きてる、あの光の柱だ。アレも利用してやろうって紫に言ってやった時のあのツラと来たら……茶でも酒でも幾らでも持って来いって気分だったよ。

 教隕の奴、信者絡みの不手際は「やらかす」と分かってても本当にただの1つも手を打たない。だから「やらかす」規模も好き放題に膨れ上がる。間違いなく「異変」と呼ぶに充分なくらいにな。

 もし霊夢や魔理沙が“巨人落とし”でヘソ曲げても、光の柱をぶっつけてやれば良い。弾幕ごっこの熱気で若人の脳みそに上から刷り込んでやれば良い。

「博麗の巫女たちを小手先で利用しようとも、どうせボロを出す事になるのさ」と。「最後には力が正義となるから問題ない」と。理屈は要らん、茶番でも何でも達成感が人を前に進ませるのだ。

 間違いなく霊夢たちの手に負えないだろう相手だがな。重々承知の上でセッティングしたんだ。


 適わないよ。適わないって。巫女だろうが何だろうが。人間や“人間紛い”にアレはどうこうできない。

 アレは一際に人格を拗らせた連中の鬱憤の塊だ。なまじ“巨人落とし”で信仰の敗北を見せつけられた連中が「巨人より強い、絶対に強い」と、「“巨人落とし”のヒーロー達なんぞに負けるものか」と、煮凝らせ抜いたそれはそれは汚らしい執念の輝きだ。人の願いの、掃き溜めの底の底から積んで潰して金剛石にまで固めた肥の山だ。

 ましてやその執念は内輪にとって真実であり、周りにとっては負け犬の与太。腹立たしくも片付ききらない『噂』の力も間違いなく掛かる。その力は控えめに言ってもインチキ確実。満たされてる者の平和の願いなんぞに何ができようかってもんだ。

 あんなのを黙らせられるのは、人間など及びもつかない高みの存在……それこそどんな悪党弱者も芯から救えるような、よほどの神様仏様くらいだろう。そんなのでない我々賢者ならゴリ押しの“救済”一択ってところだな。


 そしてそのゴリ押し救済を曲がりなりにも霊夢達が猿真似できるよう、今しがたわざわざ前座を用意してやったわけだ。

 同じ「ねひりん」を根とする教隕と、「ねひりん」にあやかった私とが立ちはだかって、霊夢たちに私たちを倒させる。これで“巨人落とし”で培った「『ねひりん』に勝てる存在」という「縁」を補強する。

 この眩しさで寝ている者の方が少なかろう。こないだの巨人を思わせる柱に立ち向かうこないだのメンバー。慣習がどんなシナリオを期待するかは明白だ。どんなに力をひけらかしたって、幻想郷で勝つのは信用と美しさを持つ者だ。

 それに信者達は“巨人落とし”で弾幕ごっこを既に見ている。学を持てない信者どもにとって、ただの血腥い暴力などよりずっと美しく派手な弾幕ごっこは「正しい暴力、綺麗な暴力」として印象付けられるに充分だ。弾幕ごっこの俎上へ誘導する下地もバッチリ。

 そしてもう一声。一方的な勝負を少しでも対等に持っていけるクサビラ神と、自殺行為じみた力の差に気圧されない「一押し」を与える縊り鬼も保険に持って行かせる。

 シタンも「いつき」も「ねひりん」の関係者だ。この2人を逆に従えて「ねひりん」を討つという構図になって尚都合が良い。


 これだけ根回ししてでも、柱を折る事は異変解決の一環にするべきなのだ。幻想郷の賢者としてな。

 柱は捻くれた願いの顕現だ。放っておけば今に意味もなく世界を憎んで手当たり次第憂さ晴らしし始める。

 となれば遠からず「柱が現れてから呉服屋の娘が見当たらん」と話題になり、人里の娘が1人、身の丈に合わぬ罪をおっ被り、たちまち幻想郷全土の爪弾きだ。

 かといって皆が柱に注目してる中、胡散臭い妖怪と秘密で偉大な神様が突如出てきて、機械仕掛けの如く誅滅してはその後の始末も知れたもの。賢者が直々に潰すような案件という「縁」を柱とその依代に刻んでは、実質結果は同じだ。

 だから私や紫はあくまで最終手段でなきゃならない。見知らぬ者が事の次第を結びつける前に、「いつもの異変」として片付けさせるのだ。




「ふむふむ……若人が気味の悪い敵を退治したトラウマ抱えないように気晴らしを用意して、そのくせ気晴らしの贄にした『おこん』ちゃんの風評被害もなるべく避けたくて結構頑張った、と。そこまで細々語らずとも、私には大体聞こえるから心配いらないよ」


「良いじゃないか。お茶請けの自慢話なんだから」


「賢者として?」


「賢者として」


「ふーん」


「賢者がそう判断したんだから、全ては賢者としての理知的な行動だ」


「ふーーーん♪」


 何だか唇とんがらせながら茶を飲む隠岐奈。

 何だかクスクスしつつ口元を笏で隠す神子。


「ところで、そのホ──」


「ところでご存知だろうか? 命蓮寺のご住職が、個人的に『脱・ねひりん』活動してるという話」


「……まあ、そのくらいは」


 隠岐奈から何か言いかけて、あからさまに被せる神子。

 隠岐奈の眉毛がピクリと寄ったが、話を合わせてやる。


「涙ぐましいものだねえ。信じないなら地獄落ちなんて仏が説いたでも無し、だのに救うのは仏教であり『ねひりん』ではいかんのだと。もうはや使命なのやら我欲なのやら。大方、住職なりにその辺り葛藤しての孤軍奮闘なのだろうが」


「『ねひりん』を丸ごと仏教に取り入れたがってるようにも見えたな。利害抜きに、さながら教隕諸共、仏が面倒見てやると言わんばかりに」


「『ねひりん』の如き衆生には執着せずにおれんのだろう。アレ(白蓮)はどうも、浄土の方から今日明日にも舞い降りると信じて、出迎えるに相応しく穢土を“地ならし”せんと考えてる節がある。裏を返せば『自分は天地人にそうさせるだけの徳がある』と。なんといじましいヒロイズムだろうね」


「その拗らせた物言いは嫌いじゃないぞ」


「いやいや、ただの可愛い嫌味だよ。ウチの老師を調伏したがっていた者に、たまにはこちらからチクリとやる権利だってあろうというもの」


 謙遜してるみたいな笑顔で返す神子。何も褒めてない。

 隠岐奈の目線は神子の顔なんか見ていない。


 仏教というやつは、まあ貧窮する者には聞こえ良いだろうね。『自利利他』なんてよく出来てるよ。

 信者は誰彼構わず救えば、巡り巡って己の利益となるみたいな触れ込みだったか。そう聞けば誰しも思うだろうさ。「だったら私の事もタダで面倒見てくれるんだろうな」と。だったら大根(おほね)の切れっ端くらいの施し(托鉢)はしてやっても良いかと思いもするだろう。

 私としては、のしかかる業と不道理の上から幸を積み上げられたって、重苦しいだけだと思うがね。しがらみの遥か高みにチョンと乗った利他行為を、今日に飢える貧民がいつまで有難がっていられるものやら。それとも誰彼構わず人の業を肩代わりする用意でもあるんだろうかね。

 威を借りただけの衆生風情には手の施しようのない者がある。だから神や仏が身を擦り減らし、衆生も他を救い導けるようまず人の身を超えんとするのだろうに。その点、あの尼公はどうにも履き違えたがる。修験道の方が肌に合っているんじゃないかな。


 それに助け合いを謳うような教えほど、野放図に宣うものだ。どんなはみ出しものも卑怯者も、学び慎み励むなら、社会という枠で楽しくワイキャイ天珠を全うできるはずだと。

 だがこういう口上、誰もが隔てなく、仙人でも阿羅漢でも当然なれると宗教者自ら言ってるのと同じじゃあないか。目標を指す単語を「仙人」から「社会の一員」にすげ替えただけなのだから。

 ひとたび口上に酔ってしまえば、“悪党”がいつまでも改めないのも、僧侶がいつまでも解脱できないのも同じ答えで考えるようにならざるを得ないだろう。曰く「変われないのは甘え」。

 だから、悪を許さず平等とか慈愛とかを重んじる某な輩は、方々に同じ敵を作る羽目となるわけだ。鳶に梟、鷲に鵲、そして鳩……。


「より良くしたい」とはつまり、「悪いものは根絶やしにしてでも受け入れない」という事だ。それを善悪の区別も定かでない未熟な身で誰しも望むのだ。そしていつしか仕舞いには、彼らの無意識が終末を望んでいるのだ。「こんな汚く不愉快な現世は塵1つ遺さずブチ壊されて、善良で清潔な私は、理想だけを体現した楽園に送り届けてもらえるに違いない。それもただ生きてくたばるだけの生活するだけで」と。




「ああそうそう、摩多羅隠岐奈さま。わざわざ私を探して訪ねた理由……茶を囲みたかっただけではないんだろう?」


 会話の脈絡踏み踏みしつつ、傍らに置きっ放してた本を拾い上げて見せつける神子。鈴奈庵で借りたやつ。

 さっき隠岐奈が言いかけた話題を、弁舌で煙に巻いてから逆に仕掛け直す形。話し手聞き手のアドバンテージ。

 隠岐奈としては心底腹立たしいが、本題に入られたなら致し方なし。大きくため息ついて機嫌紛らせ。


「……全く、『杵柄』持ちは足腰が違う」


「単純に興味があっただけだよ。行き着けたのも偶然、博麗の巫女が人里で騒ぎを起こしてくれたお陰」


 目を合わせない神子。これ見よがしに、適当なページ開いて撫でてみたり。

 ようやく賢者らしい顔の隠岐奈。


「ただの滓取りゾッキ本が、後付の信仰で今や立派な経典ときたか……貸本屋が気付かなかったら、後戸越しでさえ見落とす所だった」


「まるで、趣味で仙人目指してた一介の政治家が非常識の世界に羽ばたいたかのように」


「人里に剥き出しで並べるには“モノホン”過ぎる。せめて写本にすり替えるか、でなけりゃ妖魔本に貶めるかだ」


「神様の方から受け入れといて、今さら御本人が妖魔本認定は無茶があるねえ」


 隠岐奈の視線が、聖徳太子の首から上に突き刺さる。

 神子は涼しい顔で、栞を挟んだページを開く。この状態から読める続きがある。

 雰囲気はどうにも神子有利。


「おい」


「おねだりしたってダーメ。又貸し厳禁」


 待ってましたと言いたげに、栞をすかさず挟み直して、裏表紙の裏っ側開いて見せつける豊聡耳。

 蔵書元として、鈴奈庵のマーク入の管理票。


「光の柱を実力で降せる“お高い”神様なら、人の世の決まりくらい守れるよねえ?」


 笏を置いて、代わりに本を抱きしめて、一昔前の文学少女キャラみたいなあざといポーズ。

 ほっそり微笑む目元はおキレイ、まるで女狐。


「もうちょっとで読み終えるから。期限も近いし。ちゃんと返したら、後は誰が借りるもご自由に♪」


「……チッ」


 かなり本気の舌打ちしてから、何杯目かの花茶を一気飲み。

 貸本屋の規則の範囲でなら、今の所有権は神子のもの。貸本屋の規則に書いてなけりゃ、期日までに本に細工だってできる。

 本当にはやらないとしても、そうできる状況を、そうなる前に防ぎたかった神様の前で見せつけた。2人の間でこれが大事。権力者は看板(体面)が命。

 それにだ。“尾っぽ食い”のウソ歴史にあやかったって、ウチには一銭の足しにもならない。


「……ま、私だってたまにはポカもあるかぁ」


 ちょっと頭引っ掻いたりした後、隠岐奈から無気力そうに引き下がり。「別にどうでもいいし」っぽく装う雰囲気。

 座り方崩して賢者力を解除した隠岐奈が続けてぼやく。


「やれやれ。締めの締めで、どうにもパッとしない始末になっちまったわね」


「良いじゃないの。直近、どう事が転ぶのか、おおよそ想像はつくんだから。彼女たちは柱の依代をほぼほぼ『純粋な被害者』と聞き取ってるようだし、無下にはしないでしょう」


「そうさなあ。後は『おこん』に、どう懲りさせるか。夢枕でもいじって怖い思いさせて、しばらく宗教から距離置かせるとか……追々ね」


「そう、それ。大事でしょう? どんな形でも明日のアテがある事は。百年千年ただただ生きる私たちには尚の事。永劫を楽しむ道へと至るにはまだまだ未熟」


「勝った気で居るんじゃない。結局大した考えもなしにヘロヘログダグダしてただけのクセに」


「良~いじゃないの。締めは雰囲気だけでもそれっぽくするもんだ♪」


 神と仙人が揃って見上げてみれば、柱のスペルカードはもう残り何枚も無く、勝負の結末が見えてきた。

 徹頭徹尾トンデモ殺意な弾幕だが、慣れてみれば芸が足りない。ここまでくれば消化試合。

 きっと日の出前には片付いて、朝になれば、どうせきっとの、いつもの幻想郷に違いなかった。






本編はここで完結です。


自分で「蛇足かもしれないな」と思う段落も多々ありましたが、キャラの行動経緯とかがよく分からないよりはマシかなと、極力削らずに書いてみました(読み物としては説明より展開の速さが大事とも聞きますが)。


神子の嫌味は、別に深く取材したとか考えたとかでなく思想的な意味合いもありませんので話半分で読み流しておいてください。神子としても本腰構えてDisるつもりはなく、茶席での軽口感覚という事で。

「リラトス~」でも書いた(つもりの)「本当に救いようのない人まで救いたいなら、博愛とか慈しみとかの綺麗事では限度があるんじゃないか」みたいな話を神子が白蓮にこじつけて、隠岐奈の自慢話のお代がわりに茶化しを盛々で語ってるだけって感じです。

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