魔理沙・早苗編Ex「恬然八顧のパラワハ鬼使い」
霊夢と文が教隕&シタンに出くわしていた頃。
光の柱をぐるり回った反対側で霧雨魔理沙が、逃げていた。
「逃げてない! 私は接射じゃなくても強いだけだ!」
「な、何も言ってませんけど私!?」
魔理沙の傍らでは早苗も一緒になって柱から遠ざかり中。
2人の間を縫うように、もとい2人が間を縫うようにして、柱から放たれるレーザーの網をヒイコラ避けている。
ある程度まで離れた所で柱の弾幕が止んだので、改めて2人とも柱に向き直る。柱というか、もう岸壁。
「ふぃー……くっそ。何もしてない内から反撃してくるなんて、品行方正な私には思いも寄らない姑息っぷりだ」
「とりあえず、弾幕は正統派ですよね、魔理沙さん……弾幕だけは」
さっきまでの経緯。
魔理沙と早苗は柱のすぐ近くまで接近してた。
全部見て回って調べるにはデカすぎるので、魔理沙が手早く吹き飛ばそうとした。
さあ撃つぞと狙いを定めた瞬間、殆ど前触れなしに柱の表面から光の弾幕が飛び出した。
そして今ココ。
「やっぱり普通の光じゃないんですよ、アレ。あんなに明るいのに、触れそうなくらい近づいても、眩しすぎて見えないとか目が痛いとか無かったですし。撃ってきた弾幕もそうでしたよね?」
「私らみたいな『すぐ近く』は照らしてたが、外れて飛んでった向こうで地上や山に光の跡すら映ってなかったな。ああいうのはいわゆる、『光』ではあるが『光ってる』わけじゃないってヤツだな」
「は、はあ。幻想郷にはまだまだ知らないモノがたくさんあるんだなあ……」
「とりあえず撃つのやめたっぽいなら、ココからなら反撃されないって事だろ。だったら今度はコイツで……」
魔理沙、得意の八卦炉を取り出し構える。
八卦炉が起動する……前に、柱から弾が飛んでくるのが見えた。
「うぉあっぶね!?」
「ちょぇっ!?」
八卦炉引っ込め、隣の適当な襟首掴んで引っ張り寄せる魔理沙。
目の前持ってきて盾にしたのと、その盾に真正面から光の弾が直撃したのが、ほぼ同時。
「ふぅ。早苗が居てくれて本当に助かった」
「あの……ソレ、私じゃないんですけど」
「へ?」
よく見ると、盾が居たのと反対側の隣に早苗が健在。トゲ付きの眼差しだが魔理沙にノーダメージ。
「え、じゃ何だコレ、こわ」
目の前の悲惨な事になってる盾が、グギギと恨めしげに首だけで振り向いた。
「ちょっと・今のは・あんまりすぎやしませ・ん・か・ねぇぇぇ~~~……」
「なんだコレ、縊り鬼じゃんか、いらん」
ペイッと、袋入りの果物取ろうとしたら袋だけ取れた時みたいに、ソレこと求代いつきを手放す。
「どっから湧いてきたんですか貴方」
「あ゛ぁも゛ぅ……さるお方に使いを押し付けられましてねぇ。つい先程、お二方の6尺ほど後ろに飛ばされました」
「飛ばされた……?」
「全く、『ねひりん』も一段落ついて地獄でグータラ謹慎してたらコレですよ……あのちょっと~、いつまで喋ってりゃよろしんでしょ~かねぇ~?」
適当な虚空に向かって何だかぶーたれる「いつき」。
3秒ほど経過……。
どこかで、何かが開く音がした。
「もきゅもきゅ……まあちょっと待て。夜食の鯛焼きが……んぐ、いま飲み込んだ」
やる気なさそうに猫背の「いつき」の背後から、ニュッと飛び出す誰かさんの上半身。
ほっぺに付いたアンコを指ですくって舐め取って、それから「いつき」の頭を肘置きに。
「また隠岐奈かあ……」
「やあやあ、魔理沙。私が『いつき』を遣わしたお陰で、撃ち落とされずに済んだようだね」
「居なくたって犠牲ゼロには変わりなかったが?」
「いや私を犠牲にする気でしたよね!?」
欠かさぬツッコミに返事がない。魔理沙は八卦炉を取り出して、賢者を縊り鬼ごと消し去る準備をしている。
返事がないという事は認めたという事。早苗が抗議を続けようとするが……パンッと気味の良い音がして中座。
隠岐奈が柏手を1つ叩いた音。隠岐奈の斜め後ろ辺りに、後戸の国で見たような扉が1つ現れる。
「ところで魔理沙よ。随分元気そうで何よりじゃないか。“巨人落とし”の後で信者に群がられてチビッたとか聞いてたのに」
「いくら何でもねーよッ! ぶっちゃめるぞコラ!」
「ま、魔理沙さん、そこまでキレなくても……(『ぶっちゃめ』……?)」
八卦炉の狙いを解いてまで全身ブンブンしてお気持ち表明する魔理沙に対して、隠岐奈は何事も無いかのよう。
「アレから霊夢は不貞寝三昧だったし、そこの早苗も何だかモヤモヤしてたらしいと言うに、お前は鬱ぐ様子も無さそうで良かった良かった。ついでにその理由でも聞いてみた──」
「するか。私らが何しにこんな所に来てると思ってるんだ」
改めて八卦炉の照準を「いつき」の顔面に合わせる魔理沙。これなら隠岐奈の土手っ腹もまとめて撃ち抜ける。
隠岐奈が柏手。先の扉とは左右反対の座標に新たに扉。これで扉が一対。
話題の外で持て余してた早苗の注意が、扉に向き始める。
「どうせ埒が明かないんだ。ここは賢者の誘いに従いなさい」
「あのぉ~~……長いようでしたら、わたくしの背中から出てってからにしていただけませんかねぇ。計り知れないほどみっともない絵面ですよこれ──おわっととと?」
隠岐奈が「いつき」の両肩をグワシと掴むと、2人揃って素早く真横にスライド。「いつき」を引っ張ってるらしい。
魔理沙の手が標的を追うのが一瞬遅れて、構えた八卦炉の射線上に、光の柱。
「あ……」
気付くと同時に魔理沙、緊急回避。
一瞬前まで魔理沙が居た場所を、光の柱からのレーザーが駆け抜ける。帽子のツバがちょっと焼けた。
「ちっくしょ、やっぱ射程内か」
「どこまで逃げても射程内だぞー?」
「あ?」
茶々を入れたのはウフフ顔の摩多羅隠岐奈。
魔理沙の興味がこっちに向いたのを確認してから、改めて「いつき」の肩に体重預けて扉からモゾモゾ出てくる。
「ちょ、お、おっも……!?」
「お前は泰山でダラけてばかりいないで、もう少し鍛えなさい。よっこい……せっと。あ~狭かった」
セミの脱皮みたいに空中に降り立った隠岐奈が、調子を取るように三度柏手を打った。柏手の数だけ空中に扉が増えていく。
「言ったろう? どうせ埒が明かないと」
流石に魔理沙も扉に身構え始める。
「それでだ、魔理沙、お前……『ねひりん』が“負けるために”お前たちを利用した事、気にならないのか?」
「……は? いや、そこに話戻んのか?」
「良いじゃないか、他に迂闊に出来る事も無いだろう、付き合いなさい。一晩中耐久弾幕を踊り狂って帰りたいだけなら別だが」
「~~……」
猫みたいに呻く魔理沙。このまま無視して背中から狙われでもしたら、柱と挟み撃ちは幾ら何でもマゾ度が過ぎる。
ほぼ秒刻みで隠岐奈が柏手を打ち、4人の周りに扉がどんどん増えていく。この扉もまず間違いなくロクなモノじゃないはず。
早苗と「いつき」は何が起きてるか分からんのでボケーっと見ている。
「ほれほれ、賢者だって見透かせないモノくらいあるんだ。自分だけの知識を披露するつもりで得意になってみろ」
「……べ、別に大した理由も要らないだろ、そんなもん。異変解決さえしちまえば、私がどう勝ったかなんて、私が好きに決める事だ」
「ほう……ふふふ。なるほどなるほど? 思惑なんぞ歯牙にもかけない芯があるわけだ」
「悪いかよ」
「いやいやとんでない。良いぞ、実に良い。そういう事なら本当に。ワハハハ」
何やら無闇矢鱈に笑い飛ばしながら、ヤンヤとばかり拍手のペースが上がる。すっかり4人の周囲が扉だらけ。
「あ、あの……さっきからその沢山の扉……何に使うおつもりなんです?」
「まさか代わりに柱と戦うとか言うんじゃないだろうな……?」
早苗の問いに魔理沙も乗っかる。
光の柱の弾幕は、こっちが撃った時にはもう食らっている。それほど速い。扉が弾幕の砲門だとしても、数を頼れば良いとは思えない。
もしかしたら万が一、隠しボスをスピード攻略したご褒美のように隠岐奈が光の柱を舐めプで撃破してくれるかもしれないが、それはそれで気に入らないので魔理沙的には意地でも止めたい。
「もちろん戦うためではあるが……全く不合格だ」
召喚された扉が一斉に開かれた。
しかし、かつて後戸の国で戦った魔理沙だけ咄嗟に気付いた。扉の開く向きが違う。
後戸の国から現し世へ、現し世から見て手前に開く観音開きが、奥に向かって開いている。
「お前たちの目には、扉が宙に開いたように見えるのだろうね。だがこれもいつもの『後ろの戸』だ。この扉は信仰の背中に開いている」
「つまり……いや全然分からん」
「柱の光は、『光』ではあるが『光ってる』わけじゃない。一つ一つが柱に託された信仰の『目』なのだ。柱に照らされる全てを、殊に“巨人落とし”を為したお前たちを、柱は見ている。反撃されずに攻めたかったら、全く光の届かない場所から狙わなくちゃならんという事だ」
「あ、『どこまで逃げても射程内』って、そういう……」
早苗がふわっと察する。魔理沙も同時にぬぼーっと察する。
細かい理屈は結局チンプンカンプンだが、とにかく光の柱は自分を狙おうとしてる存在が、光の柱で僅かでも照らされてる場所に居るなら、直ちに反撃できるらしい。
山の反対側でもこれほどの光量だと全くの影が作られてるとは考えにくい。つまりほぼほぼ、幻想郷全土が光の柱の射程範囲。
よしんば真っ暗闇を見つけられても、射手から見えないターゲット目掛けて、障害物くぐって、超長距離を飛んでってくれる弾幕なんて普通用意してない。
「つまりだなあ。今のお前たちでは逆立ちしてもアレには勝てない。だから私は……箔をつけに来てやったんだ。『ねひりん』の尻拭いのついでにな」
柏手を打つ。開いた扉たちの奥から得体の知れない光が湧き始めた。
スルリと移動した隠岐奈が「いつき」の頭を鷲掴み。「ひぃ」と小さく鳴く「いつき」。
「あ、あの~、郷の賢者様? もしや、わたくしを叩き起こして命じた件……マジだったと?」
「嘘ついてどうする。さあやれ、『いつき』」
「『押す』のは私の仕事なんですがねぇ……」
全く渋々と、「いつき」が弾幕を展開。ほぼ隠岐奈の武器代わり。
こうなっては魔理沙も早苗も、このフィクサーが何しに来たのか分かるしかない。
「さあ、どこを狙っても扉が遮るから柱を巻き込む心配はない。魔法使いも風祝も崖っぷちで憩うが良い。勝ったらご褒美にこの、きたない『いつき』をくれてやろう」
「きれいなわたくしが別に存在するみたいな言い方やめてくれませんかね……」
「その遮ってる扉から私ら狙う気のクセして、偉そうによく言う。話も見えてこないが……売られた弾幕は売り尽くすのが私の流儀だから仕方ない」
「“ハク”がどうのとか言ってましたし、何か意味があると良いんですけど……」
頭掴まれっ放しのいつきの弾幕と、八方囲う扉からの弾幕と、魔理沙と早苗のショットが同時に火を噴いた。
ただ、ご褒美はいらないな。
ですね……あんまりっていうか、全然欲しくない。
次が最終話で、その次に最後の設定語りして完結の予定です。
よろしくお願いします。




