霊夢・文編Ex「純誠不省のランテク大霊」
朝みたいに眩しいド深夜の博麗神社。
縁側で、ちょっとボサっちゃった髪を手ぐしで直す烏天狗と、障子を挟んだ寝室で手早くいつもの服に着替える巫女。
「やっぱりやりやがったわね、『おこん』のやつ」
「はい?」
「ハイもロウもないわよ。あの眩しいのが『おこん』のせいだって言ってんの。『くりや』の」
「そ……へ? そうなんですか!? ついさっき現れたばかりで原因も犯人も全く──」
「んなもん知ったこっちゃないわよ。ただ教隕の話ぃ聞いた時からヤな予感してたから間違いないわ。『絶対何か面倒が起きる』ってね」
「教祖の話? あっ……!」
思い出した射命丸。教隕と戦う少し前、教隕の正体が「おこん」なんだか違うんだかわちゃわちゃしてた時。
「はてさて、それが些か込み入っておりましてな。何から語ったものか……例えば、『完全憑依』と言いましたか。噂だけだと、こう聞こえるものですよ。『誰かが別人に成り変わる』」
「あー……つまり何? 『ねひりん教』を流行らせたのは『おこん』だけど、実物を回してるアンタは『影』みたいなもんだって?」
霊夢だけ、すぐさま何かに合点してた。
「そうだ忘れてた! 霊夢さん、あの時のネタ今からでも聞けませんか!?」
「はあ? 今更ぁ?」
「あの時はクサビラ神が出てくるわ信者がゾロゾロ寄ってくるわで有耶無耶になってただけです、諦めたわけじゃありません! ちゃんと今回は持ち合わせもありますから! 何か取材のネタが拾えるかもと思ってバッチリと!」
「あーもーうるさいなあ。分かったから、財布くらい丸ごともらったげるわよ」
「ありがとうございますー。いやー、『そんな気』もしてたんですよ♪」
安っぽいガマ口取り出す射命丸。こんな事もあろうかと、安い銭だけズッシリ詰めて、手触り重量お得感。値段としても相場のチョイ高めなので詐欺でもなし。カラスである。
障子の隙間からガマ口をポンと投げ込むと、落ちる音せず障子が開く。
ちょうど着替え完了した霊夢が財布をキャッチ。ガマ口片手に出てきた風情はピッチャー交代、真打ちもとい真投げ登板。
「じゃ、話は行きがけのついでで良いわね?」
「ええもちろん。霊夢さんとなら時間もタップリ取れるでしょうから」
皮肉はスルーで飛び立つ2人。
そして光の柱へ向かう道中。妖精とか薙ぎ払いながら。眩しさで叩き起こされ妖精たちも深夜テンションなだけかもしれないし、光の柱が何か影響してるのかもしれないが、霊夢も文もその辺は別にどうでもいい。
「まず、最初に『ねひりん』を吹き込んでたのは『おこん』なのよ。だのに『おこん』には自覚も心当たりも全然だった。結果として同じデカ女が元締めやってても、根本が違ったのよ」
多分「おこん」は最初、名前もロクに決めてない宗教もどきを思いついて、足がつかないように如何にも呉服屋なんて縁がなさそうなの相手に吹いて回っていい気になってたんだわ。
そしてロクに広めきりもしない内に、飽きたか何かでとっとと手を引いたのよ。だから教えが後から信者たちだけで軌道に乗って膨れ上がったなんて思いもよらない。「ねひりん教」なんて名前が勝手に付いてた事も知る由もなかった。
信者が増えればその内、最初に吹き込んだ「目立つ図体の女」の正体知ってるやつも出てくる。でもそうして探し当てた教祖っぽい女は、関わり合うはずもない良いトコの娘で、しかも病弱で寝込みっぱなしと来てる。
「こりゃどういうこった」って信者たちが頭抱えて、その頃にお誂え向きに噂になってたのが「完全憑依」ってわけ。
教隕が言ってたでしょ。噂しか知らないやつには、完全憑依は「成り代わり」にしか聞こえないって。
具体的にどうなったか説明できるような話し手から聞かない事にゃ、「精神も肉体も乗っ取る」って聞いたって「想像以上に自由度高く動かせるのかな」くらいにしか理解できないのよ。私が羽生やして声まで変わって新聞勧誘でハタ迷惑振りまくようになるなんて、普通は想像できるわけないもの。
つまり、信者連中は「自分たちが良いトコ育ちの自分探しごっこに踊らされるほどの阿呆」だなんて現実認めたくなくて、どっかの新聞みたいに情報のファクトチェックもしない“噂だけの完全憑依”を言い訳にして生まれたのが教隕よ。「本物の教祖様が『くりや』の娘に憑依して布教してたんだ』って具合にね。「おこん」を問い詰めようとか思ったって、相手の周りにゃ毎日良いもん食ってる小金持ちどもが病気のお嬢様をお守りしてるもの、叩き返されて終わりだし。
噂から生まれた噂が、身内の中でだけ「信仰」になって、外から見りゃ陰気な上に肝心の神様も指導者も不在の「噂宗教」のまま。
そのお陰でオカルトボールよろしく形を得て、神様とおんなじくらい本気で信者に崇められて、モデルが他に無いから「おこん」とそっくりそのままの「影」みたいなのが、「ねひりん教」のトップに担ぎ上げられてたのよ。
「ふうむ。同じ場所から同じ形で現れようと、所詮影は根源から別人である、と……して、肝心の『おこん』さんが『ねひりん』を広めたという情報の出処は?」
「勘」
「はぁ~~~……」
でっかい溜息。薄々そんな気はしてた。
「幾ら博麗の巫女の勘でも、それじゃあ三文陰謀論と一緒じゃないですか……これじゃ流石に記事になんて出来ませんよ~」
「あんたの都合なんて私が知るか。私は自分の知ってる事を事実に変えていくだけよ」
「然様でお困りにございますれば、私が証人となりましょうか?」
「ぬ」
脇から会話に割り込む声。急ブレーキする霊夢と文。
漂うように現れたのは、話題の当人こと三千久辺教隕。空中でも深々お辞儀。
霊夢がちょっと渋い顔。こないだ顔見せに来たと思ったら縁側チラ見する度に不動の土下座のままだった時の教隕が目に焼き付いててオーバーラップ。あの時は本当に茶が不味かった。
「私、因果な経緯のためか、記憶も多少ながら『元』と共有していましてな。お巫女さんの仰る所、中々的を射ております」
「あやや、それはご協力の提案まことにどうも。ま、それは追々改めて取材させていただくとしまして……何です、急に?」
「いや~、ははは。お恥ずかしながらその辺りも、お巫女さんの仰る通りにございます。手短に申しますと……」
教隕の背中から、光る腕が沢山。観音様みたいに広げて、手のひらを霊夢達にロックオン。
「不肖の『柱』を退治するためにも今一度、弾幕ごっこと仕りたく」
「いや全然意味わかんない」
「手短過ぎません……?」
生やした光の腕は全部普通サイズ。巨人は幻想郷的にも『倒された』後なので、しばらく出番はお預けっぽい。
それはそうと意図が見えない。
「それじゃあアタクシがお答えしまーす♪」
「「あー?」」
「どーもー、文ちゃんも霊夢ちゃんもお久しぶりー♪」
「「(ウザ……)」」
更に湧いて出たのがクサビラ神こと大戸囷シタン。
真夜中なのにクソ眩しくてバタバタ出動して、にこやかに喧嘩吹っかけられた所に、しゃしゃり出て来てこの馴れ馴れしさ。威圧で返事せざるを得ない。
こんな状況で「何でも無い日常ほど幸せなことはない」とでも言いたげな笑顔がダブルで並ぶと心底イラつく。
「はい、それじゃあアタクシのお話聞きましょうねー。『きょーちゃん』もそれで良いわよね?」
「ええ。大戸囷さまの望まれるがままに」
「「きょーちゃん……」」
「まず大事なのは~……2つ! 1つは霊夢ちゃんの言った通り、あの柱は『おこん』ちゃんって子が原因でーす」
「ほれみろ」
「いや、勝ち誇られましても……ていうか順応早いですね霊夢さんも」
「ただし、原因はコッチのきょーちゃんにもあるのよ。ねー?」
「いやあ、汗顔の至りとはこの事ですな」
汗1つ無いし縁側で日向ぼっこしてそうな顔で頭掻いたりしてる教隕。
説明のターンが一時、教隕に移る。
「先だって皆々様にご征伐いただいた折の事でございます。どうやら、『ねひりん様』が討ち果たされても尚、腑に落ちきらぬ者もあったようで」
「よーするに、パワーアップとか不意打ちとか何でもやれば、『ぼくらのねひりん様』は絶対勝てたんだーって、そういう信仰も一緒に吹き上がっちゃったって事なのよ」
「私こと三千久辺教隕は既に敗れた身ですから、やり場の無い信仰が巡り巡って、本来の出処たる彼女へと流れていき……まあ、とても手に負えずこの有様に相成ったと。結局のところ、彼女もごく平凡な人の子ですから」
「他人事みたいに言ってくれるわね、この教祖」
「と、言う事は……あ~、多分アレですかね、『おこん』さん? ずっと上の方、眩しすぎてよく見えませんが」
文が手で庇作って目を細めながら見上げた先に、光の柱に一点だけポツンと別の色が見えなくもない。
「もー、きょーちゃんったら人が好すぎるのが玉に瑕よねえ。人生色々なのだから、アレだけじゃ納得できない人も当然いっぱい居るってものです。こうなる事くらい私や『いっちゃん』だって分かってたのに」
「いやあハハ、お恥ずかしい。信者をまた信じて見せるのも私の在り方ですので、こればかりは如何とも」
「いっちゃん……?」
「多分、『いつき』じゃないですかね……例の縊り鬼」
「ていうか、つまりじゃあ何? どいつもこいつも『おこん』にシワ寄せ来るの分かってたクセに、教祖がロクデナシばかりの『ねひりん』信者を無責任に信用してるってだけの理由で気にせず“巨人落とし”やって、それで案の定この異変って?」
「そうそう♪」
「ええまあ」
「控えめに言ってクソですね……」
冷たい眼差しの文の横で、霊夢が指と首をゆっくり優しくゴキゴキ鳴らす。監督不行き届き、これはケジメが欠かせない。
「それじゃあ、遠慮なく戦ってもらう理屈も付いた所で~? 大事な点その2!」
「冥土の土産に聞いてやるわ」
「……あなた達の力そのままでは、光の柱には絶対に勝てません♪」
「然様な次第ですから、某氏の言葉を借り受けまして……『箔を付けに来てやった』次第です」
返事を待たずに、教隕とシタンは同時に弾幕を斉射した。
幻想郷の地理的にもしかすると、山から博麗神社に行くなら道中で人里を通り過ぎてるかもしれませんが、その辺はあまり深く考えずによろしくお願いします。遠巻きに写真取ったりしながらもまずは霊夢と合流するの優先したとかそんな感じで。




