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東方オリスト「東方光隕誕」   作者: 三郷吾請
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エンディング02「狼長誘虎のリラトス責任者」


 お昼の幻想郷。早苗が文の調査結果を聞いてた少し後。

 守矢神社の居間で、お茶碗をねぶる諏訪子。


「お行儀悪いわよ」


 向かいの神奈子が、お茶碗回収しようと手でジェスチャー。


「だってー。お茶漬け一杯じゃ物足んないしー」


「おやつまで我慢なさい。早苗も今頃、昼寝でも始めてるでしょうし」


 渋々茶碗差し出す諏訪子。ヨダレで縁までベトベトの茶碗を渋々受け取る神奈子。茶碗と小皿を重ねて片付け準備はいつでもOK。

 諏訪子はそのまま寝っ転がってウシガエルになる。


「やれやれ。暇すぎて早苗もグータラしてきちゃったねえ。まだまだこの調子が続きそうかな」


「でしょうね。“巨人落とし”で集めた注目を、謝罪行脚でいい塩梅に惹きつけ続けてるそうよ」


「んで、参拝するまでが億劫なウチは割ばっか食わされるわけだ」


 今回の騒動、幻想郷ほぼ全土から見上げられる巨人を披露した「ねひりん」に、人も妖も注目を集め、つまりバズってる。

 お陰で他の宗教やら催しやらに通ってた有象無象も「ねひりん」見物に一時流されゴッソリ減少。

「ねひりん」の活動は主に平地か、山でも麓の方。近場に流行りがあると、常連もちょっと参拝を先送り。こればかりはロープウェイ通しても致し方なし。


「もうそろそろ早苗がぶーたれそうだねえ。『参拝客まで奪われてるのに、守矢神社に何の得があるんですかー』って」


「その時は、まだまだ早苗の視野が狭いだけの事よ。それよりそういうあんたもあんたで、何だってそう早苗に『ねひりん』との繋がりぶっちゃけたがるのよ?」


「知識を得るのに早い遅いも無いじゃんさ。私からすれば、早苗を子供扱いプラス自分はキレイなオトナぶりたいって感じで、そーゆーのあんま好きじゃないし」


「あの年頃ってのは、『正義を貫いて生きてないのは陰険な甘え』とか、無意識にそんな風に信じてるものよ。本音を知った所で頭ごなしに嫌悪して、それが過去として染み付いて、長じても清濁併呑できず、殊更陰険に『こういうやり方』に手を付けるようになるのよ。己の良心から隠れるように、ね」


「経験者は語る?」


「お互い様にね」


「まー何にしても、こんなにお客が来ないままじゃ、早苗はどっちみち焦っちゃうだろうなーってのも理由かな。生まれたからには青春は一度だけ。そこは人間も不老不死も変わらないもの。早苗だって動かず分からずで通り過ぎたか無いでしょ」


「赤子で一生終えようとも、生涯は思うより嫌になるほど長いものよ。若気の焦りに当たりなし。便りの無いのは良い便り。現状まだ信仰まで遠のいていないのは、神様やってればいずれ勘で分かる事……あの子がまだまだこれからな証拠よ」


「ほーらまたそうやって~♪」


「はいはい、過保護でも何とでも言いなさい。私はすべき事しかしないのだから」




 同じ頃、仙界の神霊廟にて。

 神子と布都がデザートタイム。太子直々に買ってきた、鯛焼き一揃い。

 神子は片手に書を開いて読み耽りながら。


「──結論から言えば、だ。『ねひりん』は放っておくだけで役に立つ。だから手を引いた。一度調査に手を染めれば、こちらの心に先方との距離が開いてしまう」


「ふむ……敵の粗が民に露見するまでは、何者だろうと中立か友好を装えるよう備える。(まつりごと)の基本という事ですな」


「ふふ、それも無くは無いがな。アレは──三千久辺教隕は、政敵と呼ぶには畑が違いすぎる」


「畑?」


「政に寄与できない命というものがあるだろう? 竹やぶ河原に家なき子。『ねひりん教』はそういう者達の受け皿だ。重要なのは、“単なる受け皿”であって、私達のように信仰を求めて鎬を削る“統治者”ではない。狙う客層が違うのだから」


「ふむふむ……ふむ? あのー、恐れながら太子様。そういった寄与できぬ命……“哀れ”だなんだと呼ばれる類は、かの仏教徒どもの得意とする所と存じております。しかしながら我ら道教と、かの仏教とは……」


「うん、折り合いがついてるとは言えんな。個々人の間では別として……布都と寺の尼僧のように」


「あいや、ははは……」


 目上にからかわれるとリアクションに困る。とりあえず笑って頭掻く布都。


「客層が違うからいがみ合う事が有り得ぬのなら、道教と仏教が形の上でも争う理由は無いはずで、しかし現実は違う。しかも仏教と『ねひりん』は似た客層を持ちながら、特にあの住職が『ねひりん』と相性が悪い。今も孤軍で躍起になってると聞くくらいだ。さてこの仕組み、どう見る?」


「ぬぬ? う~ぬ……わ、我には、まだまだ太子様の深謀遠慮には及びませぬゆえ」


「と言いつつ何も考えてない声しか聞こえん。ま、良いけどね。難しい事じゃない、ただの損得の話だ」


 並んでる鯛焼きから一匹、尻尾をむしり取る聖徳太子。中身は白あんであった。


「うん。スミまでギッシリ。どちらかと言えば尾っぽは餡なし派だが、どちらも違う良さがある」


「その菓子の尾が、答えであると?」


「半分当たり。とりあえずは……ほら、あーん」


 ニッコリ笑顔で、つまんだ尻尾を布都にプレゼント。こっちも遠慮なくニコニコ食いつく布都。目上の施しには快く応じてみせるが渡世の粋という事。多分。


「おいしい?」


「むぐむぐ……ふぁい、流石は太子様のお眼鏡にかなう品でございます♪」


「それは良かった。ところで実は、“一昔前”までは鯛焼きの尾には餡を入れぬのが正当だったらしい。その頃まだ眠ってたから、あくまで聞いた話だが」


「むもむも……ふぉほう」


 大切に大切に尻尾を噛むと、生地の甘みがじんわり深まる。


「理由は、細かく探せば色々ある。例えば当時の都は超が付くほど人口過密で、一人頭の使える水にも限りがあった」


「ふうむ。我らが生きた時代からすれば、いつの世だろうと便利なものと思えますが、やはりままならぬ事も多いのですなあ」


「そして『しゃぼん』も超貴重品。庶民は体に糠を擦り込んで洗い、髪を洗う時は海藻とうどん粉を溶いたものにヒタヒタと」


「う、ぬう……?」


「そんな時代、庶民が素手で親しんだ菓子の1つが、その鯛焼きだ」


「……」


 聖徳太子が、ズビシと指差す布都の口。さっき素手で差し上げた、鯛焼きの尻尾。

 咀嚼を止めて、渋い面持ちの布都。瞳が潤んでて何だか庇護欲をそそる。


「くく……スマンスマン、ちょっとした悪ふざけだ。ちゃんと食前に手も洗ったから安心なさい」


「ぬ゛……」


「だから、つまりだ。鯛焼きの尻尾は、野菜のヘタの如くに捨てるもの。手に職の垢がまみれているから、尻尾だけ持って(かしら)と腹を食い、残りは犬猫なんかにやったのだとか」


 神子が白あん鯛焼きの残りを持ち上げ、わざわざ手に取った部分が口に来るよう持ち替えてガブリ。

 不当な穢れを負わされた食物は、為政者の舌が清めるもの。安いパフォーマンスだが民にはよく効く。


「ごっくん……そして、尻尾をちぎるのが我々だ。尻尾を食らう犬猫が『ねひりん』なのだ。分かるな?」


 わざわざカリスマ醸してキメたつもりが、狙いの布都は鯛焼きしか見ていない。


「……尻尾に持ってかれて、何ひとつ頭に繋がりませぬ」


「ぶはっはっはっは、本当に悪かったって」


 太子、素で大笑い。


「じゃあ率直に教えてあげよう。ずばり『ねひりん』の使い道は、“掃き溜め”なのだ」


「は、掃き溜め……ですか?」


「そう。無くてはならない、貴重な掃き溜めだ。捨てる場所も食わせる畜生も無いのでは、汚れた鯛焼きの尻尾を無理に食って毒に(あた)るしかないのだから」


 布都の顔が、口の端だけ持ち上げて硬くなる。口で微笑む太子の目は本気である。

 こんな顔されては、言いたい事は布都にも分かる。

「ねひりん」に道教が、否、幻想郷の宗教が与えて太らせたものと言えば、他ならぬ信者である。

 他所の、特に仏教などはいざ知らず、少なくとも聖徳太子殿におかれては、道教の信者を御自らちぎって捨てて、そいつを「ねひりん」という捨て場に曜日も構わず放り込めるから大助かりだと、そう言っている。


「な、な……な、なななるほど!! 信者如き、我らが仙人として完成する道の糧に過ぎませぬからなあ! わは、わはははは!!!」


「うんうん、そんな大声で言わずとも、ちゃんと聞こえているよ。『信者をゴミ扱いは感じ悪~い』とね」


「ぅぬぐ! い、いえあの、そそれはその……!」


「まあまあ布都よ。まずは思い出してご覧なさい。こないだ、幾らか入門希望者を選別したろう」


「ぬ? それは確かに、記憶にも新しい事ですが……」


「その時の誰ぞが、入門願うなり開口一番に言ったじゃないか。確か、『修行とかそーいうのはいいから不老不死の薬とかそういうのちょうだい、一口くらいいいでしょ』だったか」


「あー、あれは忘れようにも易々とは……全く、近頃の者は道教を何だと思うておるのか。太子様がお出でなさらなんだら、屠自古が要らぬ煤を増やす所であった」


「そう。私の言う『尻尾』とはそういうものだ。我々の誰もが一度は臆面もなく、喜々として排除してきた者たち」


「ア、アレが『尻尾』ですか……? お言葉ですが、アレめは知っての通り門前払い。信者とは到底……」


「アレの場合は門前払いだったが、多くの民を従えてきた我々だ。不実の咎を破門で手打ちとしたためしなら一度や二度では収まるまい」


「いやあ……ソレらもまた問題外という類では」


「問題外にして来ざるを得なかった事が、今まさに問題となっているのだ。『信者』と名乗る中に、不手際下劣の過ぎる輩は絶えぬ。人里の龍の水洗い1つできずに泥を被せる者、はたまたどこぞのお優しい住職でも御免被る正真正銘のシロモノ……だがそんな手合とて、心底から信心の欠片も無くてそうしているのではない。先だっての“薬ねだり”とて、漠然とした道教への憧れあってこその蛮行であろう」


「ぬぅ~……やにわに認めるのは少々難しいですが、アレなりの人情があったと仰りたいのは分かります」


「人情どころか。私にも信じがたい時があるが、欲を聞くとどうやらそういった連中、彼らなりに自然体な事が意外とある。つまり、彼らなりに誠意を尽くして、望む結末への許されるだろう能率的な近道を考え抜いた末、屠自古の雷が下るような真似をしている」


「うえぇぇ……?」


 顔中ひん曲がる布都。幾ら何でも、飯の種に合わない冗談か何かだろう、そうあってくれと、そんな顔。


「これがなんとマジのマジだ。こっちにとってバカバカしくても、向こうにとっちゃ大真面目。普通にしてて非難轟々と相成っては、叩き出された当事者の心は大きく分けて二通り。『何やったってどうせダメになるさ』と悲劇を気取ってひねくれるか、『裏切りやがって非常識ども』と被害者気取って逆恨みか……つまりだ。どちらに転んでも、長い目で見て信者は遠のく」


「ふ、ふむ……信者に関わるのは分かります。思えば、いつぞやの天変地異の後も些か荒れましたからな。中には宗教など一括りに放り出して『世界が終わる』などと宣う輩もあったとか」


「こじらせて独り身のまま世を儚みでもすれば、未来の信者候補も立ち消える」


 その他例えば、悲しみ怒りでドンチャン騒ぎしたいがために宗教をダシにして、やれ「どこそこの教えは己の戒律で人を値踏みし蔑む偽物」とか何とか喚いて往来と酒場を行き来して、真に受ける者が1人でも居て、真に受けた者が子を産んで、子にもそのように吹き込むならば。

 子が育ち、親から受け継ぐ宗教嫌いが、厭う謂れの無い者と夫婦になれば、家庭における宗教の是非、我が子に託す世の善し悪し。“正しい”行いは声の大きい側にあり。


「それを避けるのが『ねひりん』なのだ。当人の落ち度、宗教の都合、理由は何であれ切り落とした『訳あり品』を、『ねひりん』はこぞって回収してトゲを落として、まあまあ大人しく生きていられる程度に調理してくれる。即ち我らの出さざるを得ない損害を和らげてくれるし、信者の質からして数の力も恐るるに足らず……まあ先だっての巨人みたいなのは例外として。とにかく、元・信者以外でも、どうしても誰もが追い出したがるような不憫な者まで引き取ってくれるのだから幻想郷全体のタメになる。ならば、むしろ末永くよろしくやっていくのが定石だ」


「ということは……これまでは“薬ねだり”のようなのが道教を逆恨みして嫌がらせなど企む所を、そこに『ねひりん』が嗅ぎつけて抱き込む事で、余計な真似させず『ねひりん』の中で飼い殺しに出来る、と。なるほど、だから先日、人里に調査に出たと思ったら夕方前にお帰りあそばされたわけですな。神霊廟の足しになるモノであると解明されたが故に。そういえばあの日も随分と菓子を土産に買い込んでおられましたが、あれも神霊廟のささやかな躍進を祝っての事……?」


「あ、いや、あれは野暮用を片付けた帰りに山の仙人と鉢合わせて、つい流されちゃって……」


 思わず笑う2人。神子はアハハ。布都はワハハ。あの日は余りの衝動買いっぷりに屠自古が眉を顰めて、それはそれはささやかに大変だった。

 ついでに神子、読んでた本に栞を挟んで読書は休憩。


「さて、そろそろ話を戻して……我らは『ねひりん』とうまくやってくつもりだが、寺の住職は『ねひりん』と張り合う気でいる。これは何故か?」


「あ、そういえばそんな話でしたか……えーと、取り敢えずウチが『ねひりん』を気にする謂れが無いのは、我らが『身』を食い、『ねひりん』が『尻尾』を食らうから……ですかな?」


「そう。信者を得るという目的は同じでも、棲み分けができている。ところが寺の方では、我々とも『ねひりん』とも棲み分けができぬという」


「ははーん。読めましたぞ。あ奴らめの教えでは、どっちも食わねばならぬと。そうですな?」


「仏様が、一切の衆生をお救いなさるそうだからね。金持ちから浮浪者まで隔てなく教えを届けられないなら、教えそのものか、でなくば僧侶の出来が悪い事になる。だからこそ道教より仏教の方が広めるに向くわけだが」


「ククク。仏の教えそのものが損得のまな板に乗らざるを得ぬとは、いや皮肉ですなあ」


「まあ、あのご住職の事だから、そんな理由で動いてるのでは無いだろうけどね、良くも悪くも……。ついでに、『ねひりん』を調べる前にあった『弱み』……信者横ばい問題。覚えているか?」


「もちろんです。白いのども(自機組)のお陰で散々でしたからな。結局、かの問題は相変わらず……んにゃ、『ねひりん』が注目を浴びて、言いにくいですがいよいよ微減の兆しが……大衆にはやはり仏教や神道の方がウケますからして」


「私もな、多少の信者は必要経費、『ねひりん』ブームが冷めるまではやむなし、と……そう思ってたのだけど。これがいやはや、『ねひりん』は妙な所で取り入るのが上手い」


「と、言いますと?」


「“巨人落とし”の後も、私はしばらく人里の声を聞きに出向いたろう? あわよくば浮足立つ民を仙人の威光で……って」


「はい。『ねひりん』しか寄らぬような端の端まで、思いの外に精力的に」


「聞いてみるほど、よく分かった。信者の入りは減ったけれど、信仰は減っていなかったのだ」


「はい? 浅はかながら、我は信仰とは人の数と思うておりましたが……」


「そこは間違っちゃいない。だが……例えば先日、例の“薬ねだり”を見つけたのだ。案の定『ねひりん』信者として、道教の愚痴をブツクサやりながら息災にやっていた」


「何だ生きてたのか……」


「生きてたお陰で理解できた。奴の声には、『ねひりん』への信仰と、我々への信仰の両方があった」


「は?」


「嫉妬という欲がある。つまりそういう事。道教を叩き出された彼奴は『裏切られた被害者気取り』の道を進んだようだが、『裏切られた』と思うという事は、『信じている』という事だ。道教と、そこで得られたかも知れぬ自分の理想を、今でも」


「何とみみっちい、仙人など夢のまた夢ですな。……とはいえ、それも1つの信心であると?」


「結果として、ね。『ねひりん』の教義は、こないだ話したな?」


「はい。不幸も自業自得も、逃れ得ぬ生まれの呪いによって落ちぶれる定めのゆえ。頑張るだけ無駄だし、それでも頑張りたいとか夢を持つのも呪いのせい……とかいう、卑屈を吹き込むものでしたな」


「そう。しかしこの卑屈な教義、仏教や伴天連が言外に濁す、大衆宗教の一側面でもあるんだ。即ち『お前はバカだ、諦めろ』。海の向こうの旧き哲学とやらに言い換えれば、『無知の知』ともなるか。人は無限に無力で、どんなに己を律しても欲は消せぬし間違いも冒す。だから神仏の教えに浅ましい悪巧みを持ち込まず、賢しらぶって屁理屈付けず、そんな浅薄は放棄して謙虚に従い、教えを己を良くする糧にするよう考えなさい、と」


「その点、為すべきを為して為さざるを無くし、自ら然る(タオ)へと至らんとする道教とは大違いですな」


「道教者たる私の知識だけの理解では多少の齟齬もあるだろうが、『ねひりん』が大衆の信心したくなる勘所を捉えて、それをストレートに教え込ませる……そういう長所を持つ事は確かだろう。お陰で『ねひりん』をちゃんと信仰できている者ほど、良くも悪くも己に謙虚になれるわけだ。表向き強がってみせても、心の何処かに『今までの私が間違っていたのだな』という気持ちが生まれる」


「それが、“薬ねだり”が我らを信仰する事に繋がると?」


「そう。面倒だったから本人からその辺の欲は聞かなかったけど……『道教とは、自分如きが感得するなど烏滸がましいほど、深淵至上の教えだったのだな』みたいなとこかな。“薬ねだり”の心は別の視点を持てるようになったのだ。道教が傲慢だったんじゃなく、本格的に高みを目指す者達をブチ切れさせるくらい自分が卑しすぎたのかも、と」


「そも神霊廟の門を叩いたのも道教への憧れあってこそ、という話に繋がるわけですな。己の未熟から目を背けぬ事だけは、道教においても欠かせぬ心構えですからな。感心感心」


 何だか得意満面にうなずく布都。

 そしてそろそろほとぼりも冷めて、次の鯛焼きを尻尾からアムッといく。


「信仰の仕組みとしては、さしずめ大乗仏教……読経も知らぬ者が阿闍梨をおだてるだけで信仰になるのとさも似たりだが、それもまあ良いだろう。兎にも角にも、『ねひりん』がうまくやってくれるほど、我ら宗教家は信仰を維持したまま遠慮なく、“落第信者”を切り捨てられる。捨てる信仰あれば拾う信仰あり、だ」


「んーふ♪ なるほろ、太子様イチオシの小倉はまた格別ですな!」


「あ……」


 小倉、最後の一匹だった。




 そんな頃、守矢神社の台所。


「まー要するにさ、神様は人を救うけど、どこまで人間扱いするかくらい神様だって選びたいって、そんな話でしょ。そんなこと気にしないってほど万能だったらとっくに世界中で崇められてるもん」


 洗い物中の神奈子が諏訪子にチョップ。

 中折れ帽と化す諏訪子の帽子。なお、諏訪子は神奈子の隣で暇つぶしに洗い物眺めてるだけ


「ひどーい」


「そういう事は、思っても口に出すものじゃないの。たとえ綺麗事だとか言われてもね」


「思うも何も事実じゃん。群れが『キレイ』になるほど、『キレイ』にしていけない普通の人から“ひとでなし”になってくのは摂理だし」


「世の中が落ちない汚れだらけだからって、1つでも多く汚れを落とそうと精進する事が欺瞞という事にはならないわよ。あなただって、渡来のザリガニに早苗をやるくらいなら湖の底だって抜くでしょう」


「それ言われちゃうと弱いなー」


「じゃあ問答は終わり。まだまだ早苗の前でトボケ倒してもらうわよ。学に則るは天の業にあらず、ただ自ずに由るなり。知識は世の中の都合で出入りするだけで、早いも遅いも無いのだから」


 頑固でしつこいヨダレも建御名方の洗浄力で落としきり、洗い終えたお茶碗を台所のスミに置いた。




 そんな頃からだいぶ経った、ある晩の博麗神社。

 博麗霊夢は寝床でダラダラしていた。


「ハァ……寝過ぎて寝付けなーい。でも眠たーい。やってらんなーい……ハァ」


 独り寝っ転がって、天井にダラダラ愚痴っている。

 ここしばらく、神社の仕事をサボっている。

 天才的に手を抜いた飯を貪って、他にする事も無いので茶をガブガブやって、茶も飲み尽くしたら布団を敷く日々。

 その布団も昨日から敷きっぱなし。

 ……いや、一昨日だったかも? お日様昇ってからが日付変更ならギリセーフのはず。


「うぅぅぅぅぅぅ~~~……誰でも良いから異変ボコりたい」


 八つ当たり感覚で異変と闘争を求める。

 原因は「ねひりん」。首謀者の教隕を倒したのが、「ねひりん」側の思惑通りだったというのが気に入らない。

 異変の黒幕を見つけたら、とにかくやろうとしてること邪魔して吠え面かかす。それが解決ってもんでしょ。「やったぜありがとう」とか虫唾が走る。しかも神社に押しかけて異変のお詫びに土下座とか更にムカつく。もっとやられる側として相応しい態度を見せろってのよ。誠意が足りない。


「『ねひりん』がわるーい。私がこんなんなのもアイツらのせいだー。異変起こせー」


 ふて寝生活続けるほどのショックかと言えば別に全然だが、一度ダラけると今日の一針明日の十針、面倒くさくてズルズルと。つまり「ねひりん」が悪い。

 異変でなくても気分転換ができれば何でも良いが、霊夢的には今回みたいな結末を解決とは認めない。だからもう一度やり直して、バシッと大解決して、ついでにあのいけ好かない教祖に溜まった掃除洗濯を片付けさせたい。


「……ハァ。歯磨き忘れた……明日でいいや」


 著しく少女力欠乏症を呈しながら、目元に布団をかけて、首から下を敷布団から完全コースアウトさせ畳に投げ晒す霊夢。普通にお布団入るのも飽きてきた。




 ……。




 ……。




「こーんばーんはーーーーー! ぶーんぶーんまーるでーーーーーす!!」


「──ふがっ!?」


 いつの間にか眠れたらしい。畳の上だった腰とか肘とかちょっと痛い。

 布団を跳ね除け見てみると、障子から斜めの光が燦々と。


「もう朝か……」


「れーいーむーさーーーん! こーんば──」


「うるっさい! 新聞以外なら開いてるから勝手に入んなさい!」


 返事してやるなり秒もかけずにスパンと障子を開けっ広げて、現れたるは射命丸文。さしたる用は、かなり有りげ。


「やー、どうも。夜分遅くに失礼します」


「どこが夜分よ、鳥目にも程があるでしょ」


「……だと、思うでしょう?」


 とても上から目線の、「フッ……」な顔。

 イラッとくる。


「まあ、まずは外を見てみベプッ!?」


 顔面パンチ。それから言われた通りに縁側を覗き込む。

 そして唖然。


「…………何じゃこりゃ」


「あだだ……ち、ちなみに今、寅の刻に入った辺りです」


 まず一番に、光の柱。

 教隕の生み出す巨人かとも思うが、ハッキリパッキリ十字架型。今のところ、人型っぽい要素は見えない。

 次に、眩しい。

 昼白色の光が柱から降り注ぐ。寝室に差し込む光は完全に朝日にしか見えない。不夜城ってレベルじゃない。

 柱のすぐ上空に至っては、柱に下から照らされて澄み渡る青空と化している。神社の真上を見上げれば、まだ星空。天狗の大掛かりなドッキリとかでは無さそうだ。

 最後に、柱の場所。

 殆ど人里のド真ん中。神社でこれなら、人里なんか考えるまでもなく全世帯でギンギラギン。


「見ての通り、異変です。曜日も忘れて引きこもってるとの噂でしたから、出動させに来てあげたんですよ。ちなみに守矢の巫女は既に飛んでったの確認済みですし、魔理沙さんも行きがけにひとっ風吹かせて叩き起こし……霊夢さん?」


「……とりあえず着替えるから、出てって」


「あ、はいはい。……今、ガッツポーズしてませんでした」


「知らんわよ、はよ出ろ」


 文の髪の毛掴んで、ぶん投げて強制退室。

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