表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方オリスト「東方光隕誕」   作者: 三郷吾請
35/40

エンディング01「虎域唱宴のハナシラ教祖」

エンディングとは表記しましたが、原作イメージの進行なのでもう少し続きます。


「ねひりん教」教祖の作り出した光の巨人が人里へと迫る中、これを退治しようと集まった人間3人と妖怪1匹。

 時間は夜中、夕餉時。




 から、しばらく後。

 もうすぐお昼の守矢神社。東風谷早苗が、特に落ちてる物も無い神社をのんびり掃き掃除中。


「ふあ~ぁ……暇だわ。今日はお客も無さそうだし、お昼適当に済ませて昼寝でも……あっ」


 ぼんやり見上げた空に見慣れた飛翔体。待ちかねた感じで手を振ってアピール。飛翔体が無駄に風を纏わせて降りてきた。


「どーもどーも、皆が待ってた『文々。新聞』です」


「待ってましたけどそれより例の『追跡調査』、どうなりました? 新聞はどうでもいいんで!」


「うーん、社交辞令の欠片も気にせぬイマドキ娘」


 勧誘お断りを同じく気にせず手帳を取り出す、着地した飛翔体こと射命丸文。

 何やら身を乗り出して覆いかぶさらんばかりの早苗が広げた手帳を覗き込んでくるのを、避けたり追われたり関節技で地べたに沈めたり。


「ちょーっとお待ち下さいねぇ。何しろ『全員』まとめて調べ上げたもんですから」


「あイタタタタタごめんなさい、ごめんなさい! 勝手に見たりしませんから……肩、肩が! 利き腕なんです!」


 手帳のページを送りつつ早苗を開放する文。

 背中側に絞られた肩をいたわりながら服の埃を落とす早苗。


「はぁ……それで、どうでした? その後の『ねひりん』関係者の足取り。あ、もちろん全員じゃなくても結構なんです、私としては何よりも──」


「分かってます分かってます。ちゃんと『お目当て』の調査も済んでますから。ただし、丁度いいんで情報掴めた順に全員分聞いといてください」


「へ? はあ。それはそれで有り難いですけど……丁度いい、とは?」


「それがどうにも、いくら調べても全然繋がらない点が残ってるものでして……」


 立ち話もなんなので、本殿の脇に移動して腰降ろす巫女と天狗。


「いやー、例の“教祖落とし”のお陰で、取材も手間取るのなんのって……私よりも新聞が有名になって欲しいんですけどねー」


「あー……お疲れ様です」


 とてもとても煮え切らない顔の2人。思い返す、教隕との弾幕ごっこのその後。

 それはそうと少女たちの会話は行き当たりばったりなので、戦いの顛末はもう少し後に回る。


「ああ、そうそう、先に番外編だけ。天邪鬼の足取りは依然として不明です」


「あらまあ。新聞記者やってて捕まえられないなんて」


「意外な事に新聞記者は新聞記者であって探偵じゃないんですよ。一応、噂では『ねひりん』の下剋上派に囲われて潜伏中だそうですが、箪笥の隙間に逃げた子鬼探して這いずるほど暇じゃあないもので」


「あー、『ねひりん』の信者の中で、教祖さんを追い落とそうってグループ。焚き付けて味方にしてるって『いつき』さんも言ってましたね」


「ま、他者を許容する程度の人徳も持てないのが『ねひりん』信者ですから。天邪鬼も遠からず持て余されて孤立するでしょう。そしてその後は元から居場所の無い下剋上派も本派に再吸収されて“元の木阿弥”と」


「じゃあ神社に足しになってもらうのは、もうちょっとお預けかあ。で、番外編が終わったならいよいよ本編ですよね? ね?」


 ずいずい顔寄せてくる早苗。鼻息荒め。


「はいはい……何なんですかねホント、その気にかけようは。例の『瓜姫』という妖怪でしたら、一応無事です。紆余曲折あって今は自宅で丸まってます」


「その紆余曲折を聞きたくて一緒に調べてもらうようお願いしたんです! 人里で別れる前に、ちゃんと守矢神社の当分の宴会日程お話したのに、顔も出してくれなくてもう心配で心配で!!」


「はいはいはい、分かりましたから……えーっと、まず人里に寄ったんですよ。そしたら取材始める前に『ねひりん』から声かけてきまして」


「信者の方がですか?」


「ええ。人間に変装しても、あの場を見届けてた信者の一部にゃバレちゃうようで。あの時の4人全員がヒーロー! しかも信者にも大人気! ……あーやってらんない」


「あはは……」


 まあとにかくですね。信者の方から「手伝ってくれないか」って頼みに来たんですよ。

 何かと思えば(くだん)の瓜姫さん、まだ例の空き家で寝っ転がったままだってんですよ。

 まさかと思ったんですが、案内されてみれば本当に靴底にされたスルメみたいになってまして。思わず「うへえ」って口に出ちゃいましたよ。

 何でも、頼ってきた信者達、以前に天邪鬼があそこで瓜姫さんに横暴働いてるの見た事があって、ずっと心配してたとか。

 人一人分くらい自分らでどうにかしたらどうだって、私言ったんですよ。そしたらあの信者ども、「人に何かして怒られなかった事が無いから、迷惑かけたくない」って……あ~やだやだ。

 だったら早速怒ってやろうかいと思った事は確かに記憶にあるんですが、何かもう情けないんだか面倒くさいんだか、一周回ってわけ分かんなくなったんですかね。ともあれお願い通りに瓜姫さんの自宅まで運んでやりましたよ。

 で、自宅に送ってあげたら瓜姫さんもようやく自力で動き出して、玄関開けて、そしたら膝から崩れ落ちたんです。しかもウフフとかエヘヘとか馬鹿笑い始めて、ほんっと気味が悪いんですよこれが。

 何かと思えば、家の中身が“ひっくり返した”みたいに大荒れ。持ち出せる物は雑巾代わりの端切れまで残らず消え失せたそうで、商売道具の機織り機は嵩張るからかバキバキに壊されてました。ええ、考えるまでもなく天邪鬼でしょう。お山で早苗さん達にシバかれた後、逃げ延びて空き巣してトンズラ。

 そして私もそれ以上付き合ってらんないので、後は信者に任せてトンズラこきました。


「ちょ、ちょ……ちょちょちょちょ待った! それもう無事もへったくれも夢も希望も完膚も無いキョム虚無ムタイじゃないですか!」


「まあ妖怪ですから、人間の糧に何日かありつけなくたって困りやしませんし」


「その何日かしてからの先が無いって言ってるんです! ああもうだったら今からでも私がっ……!」


「まままま、続きありますから。こっからはあくまで聞いた話ですけど」


 全力ジャンプで飛び立とうとした早苗の裾を文が掴んで、ついつい全力ですっ転ばせた。


「私が退散した翌日に、来たらしいんですよ……教祖が、直々に」


「あだだだ……き、教祖さんが、瓜姫さんのお宅に?」


「ええ。何でも、手ずから当分の食べ物と服と布団担いでエッチラオッチラ。でもって信者に荷物を家の中運ばせて、自分は玄関先で土下座したとか。それも一刻ほど。一応、あの天邪鬼も不肖の身内って事になりますからねえ」


「リアル土下座……!? ちょっと見てみたかったかも」


「その後は教祖と信者が交代しながら世話を焼いてるとか。ご飯くらいは食べてるらしいですよ?」


「その情報……確かなんです?」


「多分、ね。助けを求めに来た信者とまた出くわして、その時に聞きました。今は新しい機織り機を手に入れる伝手を探してるそうですよ」


「……とりあえず、今日の所は信じます。人里まで飛んでくのもそれなりに遠いですし」


 文の隣に座り直す早苗。転んでぶつけた鼻から血とか出てないか慎重に確認中。

 いち妖怪の私からすれば、瓜姫さんみたいなのは単なる怠け者にしか見えないんですがね……妖怪としてせっせと恐怖を集めれば力も付いて生きやすい、それだけの話だと思うのですが。人間や中小妖怪にしか分からない世界なんですかねえ。


「まあ、信者の手下にされてた文無しに頭下げてるのも、あの『ハラナシ教祖』の計画の一部なんでしょうけどね」


「ハラナシ?」


「魂胆が無いんだか見透かせないんだか分からんから『腹無し』です。いやあ全く……そういえば、大奮闘の末に“ボロ負け”だったお気持ちをまだ取材してませんでしたねえ」


「や、やめてください! あの時はちょっと頭がプッツンしちゃっただけで……それに“負け”って言うなら、あの場の全員そうじゃないですか」


「ま、そうとも言えなくも無いですかね」


 光の巨人戦、撃破直後の事を思い返して、お茶と思って飲んだのが柿渋だったみたいな、コーラと思ったら醤油だったみたいな顔になる2人。

 あの夜、人里への道の半ばも半ばで教隕のスペルカードが尽き、巨人が崩壊したまでは良かった。

 巨人消滅現場にて、すっかりボロっちい身なりになった教隕をさて置いて、何故か一緒にその場に居たシタンを見つけて4人がかりで念入りシバいた、そこがピークだった。あるいは、シタンがどんな痛めつけ方してもアラアラマアマアみたいなリアクションしかしてなかった時点で、ピークはとうに過ぎてたのかもしれない。


 とにかく、そうこうしてる内に現場に「ねひりん」の信者がワラワラと集まってきた。そして、押し寄せる誰も彼もが大喜びしていた。

「本当だ、教祖様の仰った通りだ」

「やはりこれが『ねひりん様』の、私達の定めなのだ」

「教祖様は御身を賭して証明してくださった。私たちは『勝つはずが無い』んだ」

 跪いたり、思い思いの祈りを捧げたり、あるいは呆気を通り越して寒気がしてきた霊夢達に嬉し泣きでグズグズになりながら何度も感謝を唱えていた。

 その場の4人から見て率直に言って、誰も彼もがトチ狂ってるようにしか見えなかった。

 魔理沙あたりは涙目になってたかもしれない。怖くて。(は? 泣いてないが?)


「不完全燃焼っていうか、キモチワルイばっかりでしたね。あの時は」


 思い出しながら、肩とかに鳥肌浮いてないか気にする早苗。


「『いつき』に教義を聞いていたのに、迂闊でした。試合に勝って勝負に負けてってやつですねえ」


「何でしたっけ……要するに『ねひりん』の信者になる人は、生まれた時から負け続きの不幸続きでナントカカントカ?」


「そ。幸せ者の食い物にされるために生きる使命だからナントカカントカ。だからつまり……例え象徴たる『ねひりん様』が、『ねひりん』の全力を注がれて、全身全霊大暴れしても……『幸せ』で『正義』な力には適わない。何故なら負けて『正義』を引き立てるために与えられた力だから」


「そういう風に日頃から教義で教えてるなら、実践しなくても良かったじゃないかって思うんですけどね」


「あそこの信者はね、“頭が悪い”んですよ。だから分かりやすく繰り返し告知して、センセーショナルに実演して、『わあ本当にそうだった』って刷り込む……そこまでしなきゃダメって事でしょう。皆の奇跡で復活した『ねひりん様』をブチのめさせて、教義の伝説を再現して巨人に死んでいただくのが『再誕の儀』。そして信者に自分たちの阿呆と不幸を悔悟させて、ようやく本当の『ねひりん教』がスタートする、と」


「もしかして、私達4人とまとめて戦ったのとかも、そのための演出だったって事でしょうか?」


「でしょうね。本当の教祖の実力は、私達が連携グダグダで足を引っ張り合ってる状態でようやく互角だったとも言えます。でも信者達に茶番がバレないよう、全力&互角の雰囲気は出したかった。もし露骨に隙を突いたりしたら公平感が薄れるし本当に倒しちゃっても困る。こっちが油断してるようなら、待つか、信者に見えないような不意打ちで気合注入。ついでに言えば、早苗さんみたいに戦い方がどうとかでやる気が無いのが一番困るから挑発してみたり?」


「は~ぁ……まんまと利用されちゃってたんですね。私達」


「あなたはどうか知りませんが、私は迷惑者を退けた、ごく普通の勝利者なので」


「んな!?」


 アンニュイな気分に浸ってグラビアの横顔っぽいポーズとってみたりする早苗さんの横で、文は得意満面。早苗のその顔が見たかったとばかり、半ば顔芸。


「なんですか自分一人だけ! 魔理沙さんから聞きましたよ、やれ天狗のメンツがどうとか必死こいてたそうじゃないですか!」


「ええそうです。そしてちゃーんと、『ねひりん』は天狗の力に屈服しました。あわや幻想郷の大騒ぎという事態を未然に防ぎましたし、敗北主義者たちが負け戦起こして『やっぱり負けた、それみろ読みが当たったぞ』と慰め合う寂し~い遊びにさえ付き合ってあげたんです。これが勝者でなくて何です?」


「むぅ……物は言いようですね」


「なに言ってんですか。例の不良天人とかも、いつだったか退治されたくて異変起こしてたじゃないですか。似たようなもんですよ。ぼっちの天人と違って、今回はキモチワルイ取り巻きが居たってだけです」


 射命丸、早苗の頭や背中をポンポンボコボコ叩いて、励ましてるのやら追い打ちしてるのやら。あるいは自分で自分に言い聞かせるためのオーバーアクションか。この天狗がそんなナイーブなタマなわけないかもしれないが。


「ついでに天人と貧乏神は、こないだ竹林で見つけました。どうやら貧乏神の分際で屋根付きの生活を気に入ってしまったようで、強い希望に天人が折れて、例によってクサビラ神の仮住まいを──」


「あ、そのお二人は私、今回会ってないのでどうでもいいです」


「ああやっぱり? 実は私もです。では話を戻して、次は教祖のその後なんかを」


 教祖について書いたページを早々めくる文。

 他にあの2人で書くことなんて、料理知らない同士がキノコとタケノコごっちゃにした戦場みたいにグロテスクな食卓囲ってたくらいしか無いですので。


「そういえば教祖さんは、さっきも瓜姫さんの所に訪れたりしてたとかって」


「そうなんですよ。人里と命蓮寺に大層な迷惑かけましたが、ひとまずの退治はされたという事で、今は『ねひりん』の活動を再開してます。その点ではお宅様のご同類でしたね、ハッハッハ」


「それは……何か素直に認めたくないなあ」


 昔、初めて霊夢が守矢神社にカチコミかけた頃の話。

 確かに霊夢にノされて以降、普通に宗教活動しちゃいるけども。


「これまで通りに、貧相な場所を借りて信者をまとめる傍ら、瓜姫さんの介護とか後始末入れつつ、そこかしこに出向いて一連の騒動を詫びて回ってるようです。まあどちらかと言えば、派手にデビューした新勢力が実力者に挨拶回りしてるってのが実状でしょうけど」


「へえ。ウチにはまだ来てませんけど……」


「天狗のトコにもです。まあスケジュールの都合でしょう。真偽はさておき聞いた所、挨拶済みなのは御阿礼の屋敷に命蓮寺に、人里の白沢──」


「ハクタク? 一介の先生じゃありませんでした?」


「ですけど、アポ申請してきた教祖と実際に顔合わせる一般人代表として、立候補して決まったそうです」


「あ、なるほど」


「後は博麗神社や竹林にも来たとか来ないとかで、近場から段々と回ってますね。こっちに来るのも時間の問題でしょう。気が重いですけど」


「またまたあ。殊勝なのいいことに色々ふんだくろうって魂胆なんでしょう?」


「私や天狗を日頃どういう目で見てるんですか、あなたは……まあ、否定はしませんけど。でもそうじゃないんですよ。実際会った人の話を伺うとですね。詫びを済ませた後の教祖はほぼ必ず、どこかしら土埃で汚れてるそうで」


「土……? 新しい能力を披露してるとか?」


「違います。土下座ですよ、瓜姫さんの時然り。「ねひりん」から直接迷惑受けてない連中にまで出会い頭に跪くんです。白沢に曰く、『まあまずは中で茶でも』と玄関開けてやって振り向いたら、もう音もなく土下座だそうです」


「うわあ」


「そこまで行ったらもう、いくら妖怪でも誠意どうこう以前に度肝抜かされますよ。“巨人落とし”で私が手を下したから、会談の場に間違いなく呼び出されるでしょうし、考えただけで今からもう……」


 妖怪にも、さする胃袋くらいある。


「……その辺、考えるの後にしましょうか」


「ええ。とりあえず教祖の情報も今ので大体ですし」


「後は……あ、命蓮寺の方々とかどうしてらっしゃいます? 聖さんも異変調査がんばってましたし、勝手に敷地に巨人呼ばれたりしてましたけど」


「全体的にはおとなしいものです。基本的にお人好しばかりですし、ご住職以外は教祖との初対面が土下座だったようですし」


「あー……そうでなくても、お寺の方に何ら被害も無かったそうですしねえ」


「ただし、巨人が出てくる前に直接対話したというご住職だけは、妙に『脱・ねひりん』とやらを張り切ってますがね」


「脱?」


「印象としては、『ねひりん』で囲ってる連中に、ご住職の裁量でできる程度の施しして、シェアを奪い返そうとしてる感じですね。改宗を誘ったり社会復帰を手伝ったり。信者になるような人妖は救うべきとしつつ、しかし救うのが『ねひりん』であってはならない……みたいな」


「うーん……何ででしょ? 根クラな教えではありますけど、宗教自体は人様に迷惑かけてないと思うんですが」


「さあ。気が向いたら追加の調査でもしてみましょうかね。気が向いたらですけど。本人に取材したら長ったらしい説法がセットで付いてきそうですし」


「そういえば、巨人の前に聖さんと戦った時も何かゴチャゴチャ言ってた覚えがありますけど……先に教祖さんと戦ってた時、よっぽどムカつく事でも言われたんですかね?」


「ま、所詮は幻想郷で起きること。少しすれば下火になって忘れて、また呑気に一日読経でも始めるでしょう」


 文のいう“巨人落とし”は、もう何日も前の事。

 早苗の記憶も、大詰めのVS.教隕の印象ばかりで、前後の記憶がぼやけ気味。まあ覚えていても、きっとリアクションは大して変わらない。


「後は……誰か居ましたっけ?」


「後はクサビラ神(シタン)縊り鬼(いつき)です。これも順番に行きましょうか。まずは巨人が消えたら湧いて出たキノコ女から」


「あ、そうそう居ましたね。私も霊夢さんも最後以外、直接会った事無かったから印象薄くって」


「まあアレの足取りは、有っても無くても良い情報ですが、一応お話しときましょうか」


 ペロペロ手帳のページめくる文。些細な情報も記録は欠かさない。

 クサビラ神はもう、アレ。調べるまでもなく人里ブラついたり幻想郷各地を物見遊山したりで気楽にやってます。

 巨人を倒して、信者が寄ってきて、何かもう色々アレで解散したあの後、クサビラ神は前々から交流のあった寺に避難し、宿と治療を受けてたようです。再開した時には傷一つなくツヤツヤしてました。

「ねひりん」では裏方に徹していたので、信者の中でさえクサビラ神を知る者は少なかったようです。お陰で事件後も、命蓮寺の他、大体の人妖に「ねひりん」の関係者だと気づかれてません。

 最近はアチコチに用意した仮住まいを転々としながら、山の神のキノコ栽培手伝ったり、悪魔の館の茶会に茶菓子持参したり、無縁塚にピクニックしたり悠々自適……というような話を、ほぼほぼ本人から伺いましたよ。

 人里で出くわしましてね。取材を申し込んだら、快諾した上に近くの茶屋に誘われて、一番高いのを奢られちゃいました。白玉あんみつソフトとコーヒーのセット。

 ある意味、クサビラ神が最大の勝者でしょうね。それも、手伝った事業が目論見通りに運んだとか、形式的な巫女の退治以外にリスクを負ってないとかは些細な事。何があっても、最後まで笑ってるやつが勝者なんだと、そう思わされますよ。


「その奢ってもらったお店って、赤い短髪の店員さんが居ませんでした? 首に何か巻くとかしてる」


「あ、はい。給仕してもらった方がそんな感じでしたが」


「そうですか……白玉あんみつソフト……」


「丁度お向かいが瓜姫さんの引きこもってた空き家でしたが……ま、深くは聞かないでおきましょうか。続いて『いつき』ですが、こっちは半分判明、半分不明です」


「あんみつ……あ、え、あ、はい。えっと、半分?」


「よしよし、ちゃんと聞いてますね。まずですね。『いつき』は元々、地獄は是非曲直庁の預かりなので、流石に騒ぎに気づいた職場が身柄を回収していきました」


「じゃあ、今は地獄に?」


「そこなんですがね。どうも地獄のお偉いは、『いつき』に謹慎処分下した後、ほぼほぼ放置してるようです」


「はあ。それが何か?」


「私も詳しくありませんが、罰が軽すぎるんだそうです。それに処分は下しても放置という事は、少し人目を忍べばいつでもコッソリ現世に遊びに出られる状態との事で」


「じゃあ、謹慎の意味ないじゃないですか」


「そう、実質お咎めなし。何故かというと、縊り鬼という種族もとい役職が是非曲直庁で不遇だからという、ようするに政治的駆け引きです」


「???」


「今は外の世界の事情が絡んで縊り鬼は商売上がったり。窓際で椅子を暖める役職と化してます。とはいえ、本来は重要な役どころでもあるそうで、更にその重要な役が明日にでも急に必要にならないとも限らないのだと。ただでさえ縊り鬼の関係ない所で暇を強制されてるのに、厳罰下すと縊り鬼全体のモチベがだだ下がりしかねないわけです」


「あ~、活躍させてくれないのにペナルティだけはモリモリ取り立てていくなんて扱い受けたら、やる気なくして“すとらいく”とかするかもしれませんね」


「そんな感じです。百年以上毒にも薬にもなれないでいた縊り鬼に久々に下すのが罰則となり、しかもあの世の存在としては中々変化球な罪状によるという事で、上がゴタゴタした末に日和った処分になったと。『ボス』も大層ご立腹だったそうですよ、誠実も公平もない結果に」


「ぼす?」


「情報提供者のボスですよ。とにかく、『いつき』は表向きには地獄で神妙にしてるはずですが、いつ抜け出してくるかも分からん……というかもう既にこっち来てる可能性まである次第です」


 あ、そうそう。情報提供者から、他所に流布する時は必ず付け加えるようにと言われてる(くだり)があるんでした。


 ──『いつき』が罰を受けるのは、現世を騒がせたとか、異変に加担しただとか、そんなチャチなもんじゃないよ。

 誰が起こそうが、チャチな現世で起こすチャチは、全てが終わってから偉くて怖~い十王(閻魔)様が『下す』のさ。

 ウチが内々で職場の部下にバッテンくれた理由は、ただ1つ……。

「出過ぎた欲を持って生まれるという罰」に、欺瞞の天啓をくれやがった事さ。


 どんな含みがあったか分かりませんが、あの時だけ、めっちゃくちゃ死神らしい顔で笑ってましたよ。柄にもなく羽毛が逆立ちそうでした。


「さて。『ねひりん』に関わりがあったと言える手合の調査は、コレで全部なわけですが……」


 手帳を一旦閉じて、スイッチ切り替えるようにもう一度開き直し、白紙のページを見つける文。

 そして早苗に詰め寄る。


「ずばり、ダメ元で知恵をお借りしたいのですが」


「へ? は、はい。私で良ければ」


「今までの話を聞いた上でですね……『ねひりん』が、どう山の神の利益になっているか。心当たりありませんか?」


「山の……神奈子様と諏訪子様の? ……あ、そうだ! お二方とも、ウチの信者を『ねひりん』に横流ししてるって言ってました!」


「だからそれはもう知ってるんです。『ねひりん』の活動が、結果として『ねひりん』を焼け太らせ、一部の賢者の得にもなりました。しかし関与を告白したお宅の神様が何を得たのか、教祖を討ち取っても未だ判然としないという話をしてるんです。取材の過程で、どうも神霊廟も早い内から『ねひりん』調査から距離を置いていたらしい事も分かっています」


「ああ、そういえば元々最初は神霊廟に突撃とかしてましたね、私達」


「その後、霊夢さんの思いつきでスキマ妖怪に突撃した件も然りです。あの時点で、賢者は2名とも『ねひりん』の目的を知っていたはずです。スキマ妖怪がふて寝し、自称大物が上機嫌だったのもその結果と見るのが妥当。命蓮寺の例外を除けば、有力者が上から中堅まで軒並み協力か不干渉を徹底してた事になります。つまりこれは陰謀の香りってやつですよ、お身内なら何か聞き及んでいませんか?」


「あの、ツバ、ツバ飛んでます……最初に言ってた、分からない事があるから順に話すって、それが理由だったんですね」


 顔を拭きつつ、間を挟んで文の饒舌を少しでも冷やそうとしてみたり。

 けれどカラスの瞳は揺らがない。一応口数は収まったが、ツバ引っ掛けた事など全く気にかけない。さっきまでの取材レポートは、さしずめ長いクラウチング。


「それで、ですね。私も文さんの言う件は気になってるんですが……芳しくないですね」


「本人らに問い質したりは?」


「もうやりました。でも何度聞いてもはぐらかされて……いや、はぐらかすっていうか何ていうか……」


「もうちょい詳しく」


「関係無さそうな事をお答えになるんですよ。『最近、里での宴会の調子はどうだ?』みたいな」


「宴会……人里での信者集めですね。託けて瓜姫さんに食べ物恵もうとしてたという。こっちで変な噂とかは聞いてないですから、『ねひりん』絡みで信者が減った以外はいつも通りって事ですよね?」


「はい。他にも、『信者絡みで困ったら遠慮なく相談しなさい』とか『早苗専属の信者とか居たりするのか』とか。どうも、お二方なりにヒントを出してるっぽい感じではあるんですけども」


「ふーむむむ……参考までに、後ろ2件のヒントについては実際どんな具合でしょう?」


「困った事なんてここ暫くとんと無いですから、相談も何もって感じです。専属とか、そういうのは……いやいや、神奈子様たちを差し置いて私だけ信仰とか、そんなまさか。えへへへへ」


「自信ありそうな面構えですねぇ。ともあれ、何がヒントなんだか、これじゃ私もチンプンカンプン……」


「『話を逸らさないでください』とも言ってみましたけど、2人ともちゃんと、『ねひりん』との繋がりの理由として説明してるつもりみたいで……」


「ふうむ……当事者なら何か察しが付く、託けや比喩だったりするんでしょうか。私は宗教家とは無縁ですし、私も早苗さんも他者の上に立つ身かと言われれば、正直とても……」


「え? 私、現人神ですけど?」


「じゃあ何です? 神社にあなたの身の回り世話させる人間侍らせてるとか、人里に日頃から信者集めさせるためのサクラ常駐させて計画考えて命令するみたいな、指導者っぽい事やった事ありますか? というかそもそもできそうですか?」


「ぐう」


 ぐうの音出すのがやっとである。


「と、とにかく、文さんも気になるならどうでしょう。今から直接2人で神奈子様たちに聞いてみるというのは?」


「それもちょっと思いつきはしましたけど、今はやめときます。どうせ私の立場に合わせた似たような返事が返ってくるだけでしょうし。まずは証拠をバッチリ集めて、ゆさぶってゆさぶってそして突き付け──」


「「ふあ~~ぁ……」」


 同時に揃って長いあくび。昼飯直前に頭の使いすぎ。


「あっと……えへへ。よかったら、お昼食べていきません? お昼寝もしたいんで簡単なものにしちゃいますけど」


「いえいえ、こんな話の後で二柱と膝突き合わせるのは気まずいですし。お気持ちだけ受け取っときます」


 まだ少し謎を残したまま、文は飛び立ち、早苗は掃除を切り上げ昼餉の支度へ。




 一方その頃、守矢神社、本殿内。

 きのこ栽培計画の図面を挟んでアレコレ計画中の神奈子と諏訪子。


「……そろそろ、お腹すいたねえ」


「干し椎茸なら余ってたはずよ」


「水分も欲しいなあ」


「シタンの寄越した茶も余ってるわよ。“おチャーガ”とかいう」


「少しはお腹に溜まるものが良いなあ」


「今日のお昼は早苗の当番だから我慢なさい」


「お腹すいたら頭も回んないよ~……あ、早苗と言えばさ」


 諏訪子はとっくにやる気なしで床の上でゴロゴロノタノタしている。

 どれほどやる気ないかと言えば、顔をナマケモノやへのへのもへじに差し替えてもバレなそうなくらい。


「もうそろそろ、ヒントだけにすんのヤメにしない? あれ絶対通じてないよ」


「それで良いのよ。あの子が分かる頃になるまで、私達が同じ問答を繰り返せば良いだけ」


「分かって欲しくないくせに~。ぶっちゃけ『信者を捨てたい』って話じゃんさ」


「諏訪子、言い方」


 会話の詳細は次話へ続く。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ