魔理沙・文編06前編「護子役孫のウロシド賢者」
人里から少し離れた所の空の上。
教隕が聖と相対していた時、眺めていた弾幕ごっこ。
それの丁度、一段落ついて煌めきが収まった頃。
「やーらーれーたー」
わざと棒読みしてる負け口上。
いかにも撃墜された感じでヒラヒラ降下しながら、下で待ち構えさせていた空飛ぶ椅子にヒラリ着席。
そしてすかさず、再上昇。傷一つなくニタニタしてるのは幻想郷の賢者こと摩多羅隠岐奈。
対戦相手は魔理沙と文。
「ウムウム、実になる努力を続けているようで感心感心」
「何しに来たんだ」
「一体なんなんですこの人」
「おいおい、まずはひと勝負凌いだ事を喜んだらどうだ」
めんどくさそうな顔の二人に、「やれやれ」みたいな笑顔の隠岐奈。
「道すがらの妖怪みたいにいきなりスペルカードかましてきて、それがお前ってのがなあ……」
「あなたが考え無しのスカポンタンでそんな真似するタイプとは流石に思えないんですよ、悲しい事に」
「はっはっは、そりゃーそうだ。なんたって幻想郷の『ふぃくさあ』だからな。安心しろ、理由くらいちゃんと持ってきている。もちろん包み隠さず語ってやるともさ……なあ、天狗よ?」
「……」
隠岐奈が文をチラチラ見つめてくる。
視線の意味が分かる文は、意地でも取材手帳を広げたりなんてしない。カメラすら構えない。ばかばかしい。
「秘神相手だからっていけずだなあ、もう。まあいいさ。理由はだな……ちゃんと異変らしい動きが現れたので私自ら異変を治めに出てきてやった。しかしお前たちが邪魔するものだから仕方なく……というのがまず建前だ」
「建前ぇ?」
「やる気ないんならとっとと帰ってくれません?」
「まあまあまあ、まだ続きがあるから」
紫の屋敷で這いずり出てきてからこっち、隠岐奈の謎の上機嫌は相変わらずだった。
一杯ひっかけてるんなら奢ってもらいたいもんだぜ。
「実のところな。アレは中々、役に立つんだよ」
隠岐奈の親指がクイッと光の巨人を指し示す。
「もうそろそろ夜半だと言うに、眩しい公害にしかなってないようですがねえ」
「そうとも。その迷惑な巨人が役に立つ。遠かれ近かれ、私の国の……ね」
「ははーん、棚からぼたボムってわけか」
大体わかった二人。隠岐奈は「ねひりん」のやる事を、とにかく何だか自分への信仰に繋げる算段があるようだ。大方思いがけず転がり込んだチャンスだったからって、浮かれてテンション高いのだ。
「あの教祖、誰より慎ましいこの私と比べてさえ、なお途方もなく卑屈で、それゆえにうまくやりやがったんだ。頭も心も歪んだ民をよくもまあ、ああまで抱き込んで見せたものだよ」
「本気で説明する気があるのなら、もうちょっと背景事情も交えて話してもらえませんか?」
「んんー? 何を言ってる?」
「はいー?」
「私は『語ってやる』と言ったんだぞ? 至って私的で楽しい自慢語りを。お前たちは有り難くも聞き手として選ばれたのだ」
「……つぶしましょっか」
「おう」
無駄なくスマートにエモノを構える魔法使いと烏天狗。一緒に最大出力でぶちこめば、賢者だってアフロヘアーくらいにはなるかもしれない。
「せーの……って、ちょっと待てアレ!?」
うざい年長者にご退場願おうとした矢先、割と遠くの空に見覚えある影。
光の巨人が眩しくて逆光気味だが、シルエットだけでもすぐ分かる、赤いいちこと緑のはふり。
「霊夢と早苗……!」
「こんなのと付き合ってる間に先を越されちゃいましたね……」
「あっちは適当に二童子でも寄越すつもりだったが、いい感じに尼が飛んできそうな予感がしたんで様子見してたんだ。私達がやりあう後を追うようにおっ始めて……うん、そこそこの時間は稼げたかな」
隠岐奈の自慢に付き合わなければ、今頃は巨人一番乗りは魔理沙達だった。
もとい、今からならまだ追い越せるかもしれない。
「こうなりゃ与太話なんか聞いてられん、行くぞ!」
「同感です。情報は鮮度が命、勿体つけた関係者よりも黒幕を最優せ──」
「ホイ後半戦♪」
隠岐奈がスペルカードを取り出した。
曲線を描く弾幕の連なりが二条ほど現れ、幾何学模様を描いて踊り、魔理沙と文を取り囲む。
「おわっ、ちくしょー見覚えあるぞコレ!」
「自分から『やられた』つったんだから引っ込んでてくださいよ!」
「だからインターバル挟んだろう? これでお前達が負けたら第3ラウンドな♪ さて、と……」
隠岐奈が手すりに体重かけて、便利な椅子から御老体みたいにじっくり立ち上がる。
「私はな、この騒ぎに箔を付けに来てやったんだ。私の利益とは、即ち幻想郷のあまねく益を守るためのものだ」
椅子から降りて浮かび上がると、椅子がどこかに下がっていく。
「私と『ねひりん』の縁を繋ぐのもまた然り。コレによって守られる存在の一つでもあるなら、私は遠慮なくヤる」
隠岐奈が何かの面を一つ取り出す。
光の巨人を背にしているせいで逆光&眩しくて、面の種類はよく分からない。
そしてこの面を、隠岐奈は後ろ前に装着。
「ダメ押しに、いっちょ披露しようか。河原芸者のイキってものを」
腕組んで後ろを向く隠岐奈。何だかちょっとダンディズム。
そのままユラリと腕を広げ、踊りっぽい動作。見てると空気と時間がドロつく錯覚。ゆったりとしつつ無駄がない。
後頭部に面があるものだから、髪と髭を蓄えた人間国宝とすり替わった気までする見事な業前。悔しいけれど能楽の神。
ビシッとシトメに入った瞬間、隠岐奈の背中から弾け飛ぶ追加の弾幕。
「おわぁチョマテマテマテ! 見覚えの方の弾幕はこんなの無かったぞ!?」
「ふざけてる割に随分と腰入ってる!?」
酔狂な格好でも、所作は幽玄。
舞ってはトメてトメては舞って、そのたびにクラスター爆弾のような弾幕。居もしない囃子方の鼓と掛け声が聞こえる。
「卑しき光の絶ゆるべし、さに宣うる秀の民草よ。扉の外なる秘神が見せん。これぞ戯ける河原者、真髄気迫大意気地、かかるが如しいざいざや!」
「何いってんだか全然分からん!」
「あーもー分かった! この賢者、自分に酔っ払ってんのよ! 未来だとか何とか格好つけて遠い目したら話通じなくなる系のロクデナシ!」
そうこうしてる間にも、聖を倒した霊夢達の影がジワジワ遠くなる。巨人の光のせいで、後方で光る隠岐奈の弾幕に気づいてないようだ。
「(でも、障碍の神が河原者を名乗って、ねひりんの肩を……歪んだ民が秘神の利得……うーん?)」
何か引っかかる文だったが、今は弾幕に目と調子を慣らさないと正直キツい。
魔理沙達が巫女に追いつくには、もう少しかかりそうだった。




