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東方オリスト「東方光隕誕」   作者: 三郷吾請
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魔理沙・文編幕間「瀑礫隕泗のカナシイ神」

※縦書き出力で読むと少しだけ読みづらくなる部分があります。念のため


 魔理沙・文VS.比那名居天子の弾幕勝負。

 何枚目かのスペルカードを魔理沙達が打ち破り、天子が山肌に頭から突き刺さっていた。


「もがご……ぶはっ! くっそ、まだまだぁ!」


 岩に埋まった首から上を引き抜いて、天子は通常弾幕をバラ撒きながら一直線に飛び上がる。


「まだやれんのかよ……そろそろ私らもしんどいぞ」


「霊夢さん達からの流れ弾も何とか避けられるようになりましたけど、面倒な事に変わりないですしねえ」


「ちょっと飽きてるんじゃない! そっちからちょっかいかけてきたクセに!」


 天子はおざなりになってきたショットをベチベチ撃ち込まれながら、まだめげる様子が無い。

 下方では、「シタン」と紫苑が弾幕ごっこを見上げている。

 紫苑は弁当も粗方食べ尽くし、膝枕から起き上がって、少しハラハラしている様子。


「何だか……天人様、負けちゃいそうだよ? 何で? アンタが居れば負けないんじゃなかったの?」


「んー、ちょっと違うかなー。アタクシの能力はドン底の負けに陥れたりしないけど、絶対の勝利も約束『させない』ものなの。不規則な流れ弾が舞い込んでも、天子ちゃんの弾幕が避けられないものにはなってないでしょ?」


「カッコつけたって白けるだけだから分かりやすく言って」


「アラごめんなさい。つまりね、ワンサイドゲーム(一方的な勝負)を少し公平にできるけど、最後に結果を決めるのは当事者の力量差なの。単純に、お二人さんの方が強くて調子を乗りこなしちゃってるのね」


「ナニソレつっかえない! 神様のクセに! あと天人様が弱いみたいに言うな!」


 自分も仮とはいえ神の肩書を持ってるのを棚に上げて怒り心頭の紫苑。

 罵られてる「シタン」は、天子の劣勢を見てる時から終始、あっけらかんとしている。


「アンタが役立たずなんだったら、こうしちゃ居られないわ。天人様をお手伝いしないと!」


「ごめんなさいねー。応援してるわ。これなら2対2対1.5でバランスも良さそうだし」


「よくわかんないけど、勝たせてくれない意味無し神様でも私の不幸(能力)を、こう……都合よく抑えたりとかは出来るんでしょ? 今日までずっとそうだったし」


「そうねー。取り敢えず、『みんな揃って不幸のドン底』みたいな結果だけはならないはずよ」


「ぃよーし、見てろ~。そんなら天人様のため、久しぶりに本気出してやるんだから……!」


 紫苑はキリッと空を見上げた。手に持ってた食器を、その中の2,3口分のキノコ料理ごとガチャンと投げ捨てながら。

 上空では、そろそろ服もボロり始めてきた天子がスペルカードを取り出す。


「今度の今度こそ、タダじゃ済まさん!」


「とか言って、流石にそれで最後だったりするんじゃありません?」


お前(天子)って、ムキになってるとすぐ顔に出るしな」


「常識の色眼鏡で私を測るな!」


 スペルカードが掲げられ、緋想の剣が一際輝き、いざ弾幕が展開されようというその矢先。


「待ったーーーー!」


 天子を庇うように紫苑が乱入する。

 別に何が間に割り込もうが魔理沙も文もお構いなくショットを浴びせるが、青い鬼火のようになった紫苑には余り効いている様子が無い。

 ちょっと身構える魔理沙と文。


「あやや……貧乏神がヤる気なのは、ちょっとマズイのでは?」


「ランタンみたいな貧乏神と会ったら、味方と思うな。敵にも回したくないが手遅れだ……御伽噺にもそう書かれてるらしいな」


「し、紫苑!? 大丈夫だ、私はこれから一発逆転をだな……!」


 天子もやんわり下がらせようとする。

 紫苑の能力を恐れてるとかじゃなく、助け舟出されるような格好悪い結果にはしたくない。


「天人様……あの神様(シタン)が居たら、そんな大きな幸運が転がり込んだりしてくれないと思うんです」


「う……それは……」


 一部の例外を除いて自他共に必ず不幸を付き纏わせる依神紫苑を、月単位で平和漬けにした「シタン」の能力が、この場で裏目に出ないという補償は無い。というかメチャクチャあり得る。視点を変えれば、撤退した獲物を追い詰めてた魔理沙と文が獲物に反撃の猶予を許してしまったのも、最初だけとはいえ弾幕でてんてこ舞いしたのも、同じ能力の帰結と言える。


「でも今、私達の方が不幸なら、ドン底に落っこちる高さは私達の方がずっと低い! ……かなーって!」


「紫苑……」


 アイツの能力が、幸運にも不幸にも両方に作用する事は屋敷に住んですぐの頃に聞いてる。「シタン」の能力は、出過ぎた事を起こさせない。

 でも、世の中全体から見てそこそこの不幸でも、受け手のショックは人それぞれだ。同じ無一文でも、小銭が全財産の貧者と蔵を抱える億万長者の苦しみは天地ほども違う。

 そいつだけの幸不幸なら、きっと「シタン」も手を出せないだろう。

 なら、同じ不幸をまとめて背負って、それでも痛む体を引きずって先に這い上がった方が勝ちなら、認めたくないけど落ち目のコッチに幾らか目がある。

 天人たる私が這い上がって、ね……。


「ふっ……面白いわ。紫苑、是非とも一緒に落ちてみたい! 幻想郷全土を巻き込むつもりでやれ!」


「「ちょっ!?」」


「はい! 天人様をいじめるヤツは、刺し違えたって許さないんだから!」


 空はもう夕焼けのピークを過ぎ去り、何分もせず黄昏時になろうかという頃。

 心ばかり残った夕日の赤みの、彩度が上がって明度が下がり、毒々しい気配を見せた気がした。


「見たこと無いほど魅せてくれ! 急転直下、全幸福の緋想地獄!」


「ぬううう~~~~~ん!」


 紫苑のオーラが荒ぶる余り、髪が殆ど全部炎か何かに置き換わったみたいに見える。近辺の光源が残らず紫苑に塗り潰されている。

 

「アラアラマアマア。手元がよく見えて助かるわー」


 朗らかな笑顔の「シタン」は広げたお弁当セットをのんびり片付けている。

 一方、魔理沙と文は大慌て。こりゃあ逃げたほうが良いかって身振り。


「いつかの異変の時よりヤバイ雰囲気出てるぞオイ!?」


「あややややちょちょちょ! ちょっちタンマ! たかが弾幕ごっこですよ平和的にいきましょうよ!?」


 怖気づいたとかではないし、負けるつもりもないが、不幸というやつはいただけない。

 なにせ、ごつい不幸ほど責任転嫁する相手がいないのだ。ただただ切ないやるせない。言い訳立たない楽しくないが何より困る。

 特に天狗社会は、上司が無能だとミスは実質自己責任なんですよ……。


「ぬうぅぅぅぅ……ぬうっ!!」


 力んでた紫苑の目がクワッと開かれ、嵐の前の静けさみたいに光が止んだ。


「…………」


 辺り一帯、静寂が流れる。

 魔理沙が周囲を見回す。まだ何も起きない。

 文がカメラを構えて予想もつかない瞬間に備える。まだまだ何も起きない。

「シタン」が道具一式片付け終えてヨッコイセと立ち上がった。まだまだまだ何も起きない。

 天子が全てを受け入れたつもりでふんぞり返っていたがそろそろ間が持たなくなっている。

 まだまだまだまだ、何も起きない……。




 最初に、音があった




 きゅ~~~んごぴょろろろぎゅるぎゅるぐるるるるるころろ……。


「…………」


 その場の「シタン」以外の全員がゲッソリした。

 とても良く知っている、下世話で調子っぱずれの音だった。

 紫苑の髪より、顔の方が青くなってる。


「あ゛……あ゛ぅ……おなかいだい……あ、あ……ア゛・ア゛・ア゛」 


 お腹の左下あたりを両腕で抱えるようにして、内股で、猫背をますます丸くして、口がイともエともつかない形に歪んで、どう見ても急転直下の悲壮感湧き立つただの地獄だった。


「えぇ……」


 多分魔理沙あたりの口から漏れたぼやき。


「アラアラ、だからよく噛んでねって言ったのに」


 困ったようでも心配するようでも嗜めるようでも無いフワフワした声。「シタン」がフワッと天子の隣辺りに浮き上がる。


「キノコはね、特にナラタケは食べ過ぎるとお腹を壊すモトになっちゃうの。あなた達も気をつけてね」


「えぇ……」


 今度は恐らく文あたり。進んでモリモリ食べさせといてこの言い草。

 ぎょよ~~ぴきゅぐろろ……ごぼる……。

 紫苑はミイラみたいな顔をぶら下げて、もう信じられない胃腸音しか聞こえない。


「何事もバランスよ。禍は救う、福は突き落とす、アゲたらサゲて食べたら出す、これが世界の正しい姿なのです。きっとナラタケだけにオナラもどっさ──」


 ご

 ち

 |

 |

 |

 ん


「あっ♥」


 緋想の剣を顔面にもらって「シタン」は斜め下へメテオのように落ちていった。山肌に衝突しても勢い衰えず、水切り遊びの小石のように、雪山登攀で滑落したように、スムーズに麓へ消えていく。


「……白けた。もう帰る」


「あっ、お、お疲れ様です……」


 天子の声はすっかり魂が抜けたみたいになっている。思わず文が気遣い気味に返事。


「で……で、じ、ざま……が、かわ゛や゛ぁ゛……」


「私は厠じゃねぇ!! ったくもう……ほら、連れてったげるから。それまで何も撒き散らすんじゃないわよ!」


「ぁゔゔ~……」


 天子が紫苑をおぶって去ろうとする。

 はたと気付く文。「シタン」が強制退場された今、これではネタが得られず走り損。


「あ、ひ、1つだけすみません。先のシタンさん……というか『ねひりん教』について、少しでも何かご存知でしたら──」


「あ゛ぁん!?」


「す、すみません! あああの、センター最寄りの厠の場所を話しますんで何卒!」


「……ちっ、取引しようなんて身の程知らずが」


 ぐちぐち溢しながらも、山裾の更に向こうを指差す天子。


「シタンのヤツが、手伝ってる宗教が近々騒ぎを起こすみたいな事言ってたわ。目的地は人里……んにゃ、近くの寺だったかしら」


「命蓮寺……!?」


「人を山にけしかけといて、テメエらは麓でゆっくり下準備か……ナメてくれやがる」


「他は、信者集めて派手にやるとか、『再誕の儀』とか呼ばれてるって事だけ」


「再誕……?」


「ホラ教えてやったんだから厠の場所!」


「あ、はいはいご協力どうも! 皮肉とか抜きで本当にご武運を!」


 文が手帳に地図を急ぎ書き起こして、頁を破いて天子に手渡し、そのまますれ違い気味に飛び去って命蓮寺へ超特急。魔理沙も直ちに後に続いて、目にも留まらず見えなくなる。




「あ、あア……て……ざま゛……ご、ごめ、なざ……も゛う……」


「ちょ、こら、耐え抜きなさい! もう一山だから!! 這い上がれ!!!」




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