霊夢・早苗編05「無宝無惜のユナカイ紛い鬼……+α?」
「ねひりん」の所在を求めて、妖怪の山を乗り越えに来た霊夢と早苗。
誘いに乗って守矢の二柱と弾幕ごっこに突入した、その後……。
早苗さんは、得意満面であった。
「ふふっふっふ~~♪ ほらほら、私だって立派な神様。これが実力ってものよねー♪」
「まあ……ゴキゲンなら結構な事だけど」
既に山の頂上を跨いで、目的地へと下っている所。
八坂神奈子と洩矢諏訪子に勝利した巫女たち。
目上にまとめて勝利した早苗のメンタルだけ頂上も雲も超えて舞い上がっている。
何だかツッコミ入れるのも面倒くさくなった霊夢は好きにさせている。
「早苗、道、間違ってないでしょうね?」
「ぬへへぇ……あ、はい大丈夫です。なんたって……現人神! ですからね!」
「へーへー」
呆れ半分に生返事してから、頭の中で情報を洗い直す霊夢。
先の二柱との戦闘、霊夢的には気に食わない所があるが、この早苗に相談してもしょうがない。
適当に思い出しとけば、私の直感が何か見つけて、だいたい上手くいく。これがいつものパターンよ。
「(あのミエミエの手加減でやられてった山の神……最初に私らと戦う理由、『足止め』って言ってたわよね。人里でゲットした『あの辺り』の情報……んにゃ、今はもう『この辺り』か。結局あいつらも倒した後『ココに行け』って指図してきて……)」
少し向こうに、山肌切り拓いて広がるなまらデッカイ構造物。
眼下の景色は、岩だらけのあちこちから吹き出す湯気。むせ返るほど硫黄の匂い。
「早苗ー、ここって確か、温泉騒ぎの頃に作ったとか言ってたわよね?」
「はぁ~、次からは神社に私のグッズとか……はぇ? あ、はいはい。この辺り丸ごと、間欠泉地下センターの一部ですよ」
「下で地底の烏が竈炊きだか何だかやってるっていうアレねえ……」
山の神の企みで、自分を太陽の化身と思い込んだ地底烏が核融合で間欠泉のお湯を沸かしたりとかしており、守谷のエネルギー産業に一役買っている。
霊夢には難しい事は知る由もなく、インパクト五右衛門風呂祭りとかそんなもん。
「(こうもお膳立てされてると、もう騙されてる気しかしないわ。もしかして都合よく誘導されてない? 大体、『再誕の儀』だか言う集まり、こんな暑っ苦しい場所で開かなくたって……って、そりゃ神奈子達と会う前に早苗も言ってたっけ……)」
「──霊夢さん! 霊夢さん!? れーいーむーさんってばー!!」
「あ? ん、んおぉっ?」
早苗に呼ばれて気が付いた。霊夢だけ、空飛ぶ高度がズリズリ落ちてる。
早苗との差は首を真上に向けるくらい。ちょっと慌てて浮き直す。
「どうしたんですか急に……? さっきから何度も呼んでるのに返事も無いし」
「何度も……? あ~いや、私にも何が何だか……普通に高さ戻せたし、何かに邪魔されたとかじゃ無さそうだけど」
「気をつけてくださいよ……あっ! もしどこか調子悪いんでしたら、この私こと東風谷早苗が──わぶっ!?」
何か調子乗った事言おうとした早苗が、地下から湧き上がる湯気の濃い奴に顔面から突っ込んだ。前方不注意は事故の元。
「ゴフッ! ごぇっふ、げふっ!? おぐ……顔中の゛奥に゛クる゛……!」
「アンタこそ何やってんだか……」
「そ~そ~、ご用心くださいね~。火山性ガスは呼吸と意識を奪いますから」
「「!」」
興味を引いてくださいと言わんばかりに、テンポを読んで割り込む声。
いつの間にやら前方に、首から上を慇懃無礼とすげ替えたような笑顔の女。
「古今東西、臭いモノは頭の毒だと、そう定められているのです。硫黄に然り……浮浪者然り、ね。ですから人の住む地から除けられて、こうして追いやられるのです」
「無駄口いいから、はたき落とす前にどこのどいつ、もとい『ねひりん』のどいつか名乗んなさい」
「ここで働いてるのは河童ばかりのはずです。どう見ても河童じゃないなら侵入゛……えぎしゅっ!」
客席最前線で胡椒の代わりにトンガラシを焚べられたようなエグいクシャミが我慢できず、袖で顔覆う早苗さん。早速一過性の鼻炎気味。
「い~~えいいえ、守矢様のご許可は得ておりますとも。施設のお邪魔にならぬ程度の近所周辺、たかだか数十ばかり寄り合うだけなら好きにせよとの──」
「おい、私の返事」
「ア失礼いたしました。わたくし、『いつき』と申します。求代いつき。覚えよけれ……ヴァオっと!?」
フルネームまで聞いた所で、陰陽玉が弾丸ライナー。
霊夢の投球フォームが見えてたお陰で「いつき」はどうにかギリギリかわせた。
「い~~やはや……『片一方』の方々よりも喧嘩っ早い」
「もうネタは上がってんのよ。私達を嘘っぱちで散々引っ張り回した事くらい」
ビシリと指差す博麗霊夢。逆転の証拠を掴んだとばかり。
喉鼻の点検中の早苗もこれにはびっくり。そんな話ついさっきまで聞いてない。
「コホっコホっ……う、嘘っぱち? 『再誕の儀』がですか?」
「見りゃ分かんでしょ。ここら一帯、隠れる場所も無いのに人っ子ひとり見つかりゃしない。最初っからそんな集まりは無いし、よしんば有ってもこんな所でやりゃあしなかったのよ。『ねひりん』を嗅ぎ回る私達を陥れるためのデマよ!」
「ん~……ほほ~~うほうほう、なぁ~る・ほ・ど。当たらずとも遠からじ」
痛い所突かれた様子は全くない「いつき」。言ってる意味を汲み取るのに少し頑張ってるような雰囲気とか醸している。
「お言葉ですがねぇ~、ついさっき言ったばかりですよ? お山の神様の許可は得ている、と。集会場の1つなのは本当ですとも。『ねひりん』の者達は、少しでも住みよい土地では優れた人々に追いやられ、押し込まれ、こういう場所で細々と永らえる他に無いような方々なのですよ。さしずめここは、『まだ生きてやがる』という罰のため、身の丈を思い知らされる適度な責め苦が四六時中……いや~思い出しますよ~。職場が潤っていた頃を」
「スラスラ話を逸らすな。あんたみたいな手合の欺瞞には、私の直感はビシバシ効くんだからね」
「おっと度々失礼をば。いや悪いクセでして。とにかく、ここを集会場に使ってるのも『再誕の儀』を執り行うのも本当です。それに騙したんじゃありません、場所を移しただけです」
「では……本来ならここで『再誕の儀』を?」
「い~えぇ、違いますよ?」
「「??」」
「皆様方が『再誕の儀』の情報を得たのを確認したので、場所を『本来の開催地』に急遽変更したんです。紙より早く口コミで伝えて、ね♪」
「「そういうのを騙すって言うんでしょうが!!」」
「アラアラお厳しい★ では……もうそろそろ、『準備はよろしい』でしょうか」
紙切れを1枚取り出す「いつき」。すかさず身構える霊夢と早苗。
弾幕ごっこヘヴィユーザーには暗黙の了解。
「上から来るぞ、気をつけろ!」
「う、上!?」
突然の大声に、不意に反応して空を見上げる早苗。
「ドアホっ!」
「あだぁっ!?」
真上ばかり見てる早苗の死角から霊夢がド突く。
ちょっと吹っ飛ばされる早苗とすかさず離れた霊夢の間を、縦に弾幕が駆け抜ける……「下」から。
「あぐ……わきばら……」
「今の声、あの『インチキ臭いヤツからじゃ無かった』でしょうが!」
叱りながら、ついでに下に針を投げる霊夢。
「真逆の警句で陥れるなら、つまり『オマエ』だ!」
「いっでっ!!」
下から悲鳴。
わきばらから回復した早苗が見ると、「いつき」は前方でニヤニヤしてるだけ。
下方では弾幕の正体が、頭頂部に刺さった針数本を痛そうに慎重に引っこ抜いている。
噴出するガスの陰に隠れていたらしい。人間に過酷な環境でそんな真似ができるなら、つまりは人外。
「初見殺しも失敗しちゃいましたねぇ~~~。いよいよ、後が無いってやつですね~、鬼人正邪さん♪」
「うるっせ黙ってろ! 手伝うしか能がないクセに!」
嫌味の「いつき」に、文句で応じる射手の正体こと正邪。抜き終えた針はしっかりと、間欠泉の噴出孔めがけて投げ捨てた。
「あっ、天邪鬼!」
「人里で手下見捨てて逃げたと思ったら、こんな所まで逃げ回ってたのね」
「ハッ、わざわざ敵が来ると分かってる所に逃げ込むバカが居るかよ。お陰でこっちは“大弱り”だ!」
正邪がスペカを取り出した。ついでに「いつき」の近くまで移動開始。
早苗が撃ち落とそうと通常ショットで応じるが、正邪は間欠泉を縫って逃げるので湯気と熱湯に紛れて中々当たらない。
霊夢が一応改めて確認すると、「いつき」が持っていたのは、新聞紙をそれっぽく切り取っただけの普通の紙切れだった。
いえ、紙切れじゃなかったわね。紙クズだわ。
「ご紹介が遅れましたが、わたくし皆様の『後押し』をするのが得意なんですよ」
正邪の弾幕が展開される最中、注意を逸らすように「いつき」が語る。
「見ての通り正邪さんの弾幕、種族にしては些か猛々しい代物でしょう? 正邪さんはですね、『ねひりん』の中でも身の程を弁えきれない因果な方々に『教祖を引きずり降ろそう』と煽って、『ねひりん』の信仰を一部ご自身へと引き込んでいらっしゃるんですよ。これぞまさしく我田引水」
「ほーう、人のふんどしで弾幕やろうってんだ?」
「うーん汚い、相変わらず汚い」
「やいコラ縊り鬼! オマエどっちの味方だ!?」
「あっふぅん♪」
話してる間に正邪が「いつき」の隣まで逃げ切り、抗議の回し蹴り。「いつき」は余裕のノーガード。天邪鬼と縊り鬼では、縊り鬼の方がまだ強い。
霊夢達と正邪達が同じ高さで対峙する構図になったその境目を、広がる弾幕が隔てていく。
「もっちろん『ねひりん』の味方ですよ~。野望を捨てられず努力も遠慮もできない愚か者こそ、『ねひりん』が囲うべき『ねひりんの子』です。こうして今、守るものも無く、立場も無くして背水の陣となった“無敵”の天邪鬼さんには……私の『後押し』が実によく効くんですよ」
「っ! 早苗、後ろ!」
「え!?」
言われて180度振り向いた早苗のすぐ横を弾幕がグレイズ。
正邪と見合って真正面を弾幕で塞がれたと思いきや、その視線の丁度背後から別の弾幕が降り注いでいる。
「早苗、一旦離れて! 共倒れはゴメ……とわった!?」
「れ、霊夢さん今話しかけるのは待っ……わひっ!?」
お互い顔を向き合わせれば、互いの後頭部目掛けて弾幕が飛び、避けた弾がそのまま相方の顔面近くへ挟み撃ち。呪いの類かってくらいに視線の真後ろをヌルヌル追っかけるやらしい位置取り。
すったもんだで何とか掠り倒す霊夢と早苗。
「言っときますけどね~、私は能力でお手伝いしてるだけで、弾幕はぜ~んぶ、正邪さんお一人の底力ですからね~」
「ハーッハッハどうだ見たか! 私も、お前らも、もう『後の正面が無い』のさ!!」
「ちっきしょう。あの天邪鬼ったら、まーたややっこしい弾幕ばっか張りくさって……」
壁みたいに両陣営を分けている正面の弾幕は、霊夢達の鼻先付かず離れずの距離感で張り付いてくるし、かといって正邪達に詰め寄れば、ある程度の所でビタッと止まるので、そのまま少女の顔面残機がマイナスされる。スペカ中はポイント自動回収もままならない。
「前言撤回……寄り合って正邪だけ睨んでる方がまだマシね」
「離れたら微妙な視線の違いで、飛んでくる弾に『幅』ができちゃうんですね。分かります……」
「それだけじゃあ無いんですよ~?」
「んな……?」
「れ、霊夢さん今度はあっち! 変な方から!」
正邪にフォーカスした視界の隅っコの方を指差す早苗。自分が視線変えた分だけ入り組んでくる背後弾幕の軌道を予想して、霊夢を引っ張って一緒に回避させながら。めちゃくちゃ脳に負担がかかる。
弾幕ごっこ空域より遠く、明らか明後日の方向から、勢いヘロヘロ数もまばら、フレッシュさの足りない弾が霊夢達の方へ飛んでくる、もとい漂ってくる。
「初っ端から二人がかりで襲ってくるようなコワ~イ人達相手に、いつわたくしが『2対2だ』なんて言いました?」
「新手!?」
「ま、待ってください、あの星とかキラキラしてガーリーなシルエットは、まさか……!?」
元気の足りない毛玉みたいな弾には、毎度おなじみってくらいに見覚えがある。
「魔理沙……!?」
弾の軌道を逆算して辿ると、遥か彼方の空に白黒の点がポツリと。
そんな点が見えてすぐ、星弾と白黒の間を遮るように弾幕の壁が回り込む。
「は~い。ヒントはここま~で♪」
「気分はどうだ、正義気取りの巫女ども! 部外者の顔見知りに裏をかかれるお気持ちを表明してみろよ!」
「え……ええっ!? 魔理沙さんの弾幕ってこと? あ、まだ『壁』越しにチマチマ飛んでくる!」
「……ぶぁっかばかしい」
頭を掻き掻き、霊夢がボム発動。広がる結界で弾幕と頭の中をリセット。
もののついでで結界が正邪のスペカを焼き払って通常弾幕へ。
「私は天邪鬼のデタラメ真に受けるようなアホじゃないの。魔理沙が寝返ったとでも言いたいなら、直接ここに割り込んできてこそアイツでしょうが」
「霊夢さん……で、ですよねー!!」
「どうせ魔理沙も魔理沙で、たまたま近くでドンパチやってて、たまたま流れ弾がこっちに来てるってだけでしょう」
「あらあら、麗しいお嬢様ですこと♪」
冷やかす「いつき」に、早苗がビシッと指をさす。霊夢の言葉に寄っかかっとけば、怖いものなんてそれほど無い。
「そんな軽薄な言葉に騙されませんよ! 私達の……私達の……? な、何かそういうアレとかソレとかは絶対に互いを害したりは──あぎっ!?」
エモい感じに早苗の近くで間欠泉が噴き上がり、そしたら急に噛んだ。もとい、ビックーンと跳ねて強張って、プルプルしながら黙ってしまった。
「どしたん? 口の同じトコ二度噛んだみたいなやつ?」
「ぢ、ぢが……キンニクチュウシャ……」
「は?」
黙って片腕を霊夢に見せる。
肩の辺りに、針が一本刺さってる。
「あ、これさっき天邪鬼に捨てられたやつ。返しなさい」
「ピィッッ!!」
至って冷静な目でズビッと針抜く博麗の巫女。間欠泉が吹き上がると同時に飛ばされてきたようだ。
現人神も恨めしそうに睨むレベル。自機組の間にアレとかソレとかあっても別問題。
「もっと他に……言う事ないんですか……!」
「あ? えっと……ああ、温泉で熱々だから、多分膿んだりしないわよ、だいじょぶ」
などと針がどうこうのやってる中も、巫女達は被弾だけは余裕で回避していた。
「仮にも弾幕ごっこの真っ只中だというのにあの余裕……正邪さんじゃ不足すぎ?」
「オマエの能力がしょぼすぎるんだ!」
「う~ん……ご近所の弾幕に、捨てられた針の報復に……ちゃんと『機能してる』はずなんですがね~。気にする様子の欠片も無いとは……」
「しっかもヤツらのショットだけコッチにビチビチ当たりまくるし……全く世の中ままならない!」
「ま~あ、こっからですよ。言うじゃないですか、禍福は糾える縄の如しと。旧来征服者の謳う『善因善果』などというわけの分からない論理は、『ねひりん教』では通用しないという事です」
「……あ、何かヤな予感」
霊夢が呟くなり、思いつきで指の股にお札を挟んで空中にかざし、何だかキャンキャン抗議する早苗を突き飛ばした。
すかさず一方で間欠泉が激しく昇り、もう一方で極太のビームが忙しく駆け抜けた。
間欠泉から運悪く射出された針の残りが霊夢の指のスキマに幸運にも綺麗にフィットして停止。お札で熱さ対策もバッチリ。
極太ビームも早苗をどかしたので2人ともグレイズ回避。
楽園の素敵な巫女。
「……おい、本当にこっからなんだろうな?」
「……ま、いざとなったら逃げましょう。お似合いでしょ、お互いに」




