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東方オリスト「東方光隕誕」   作者: 三郷吾請
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魔理沙・文編04「弁貴行賤のハイセラ貧天心」



 ──私、比那名居天子は今……めっちゃくちゃ暇だ。

 もう何週間かくらい暇を貫いている。

 暇すぎて暇すぎて、暇那名居天子になった。暇って漢字が辞書無く書ける。そりゃ元からだ。

 ……しょーもない冗談が勝手に湧いて来るくらい、洒落にならないほど……暇。


「天人様ー、天人様ーー!」


 寝そべったまま玄関先見下ろすと、紫苑と目が合った。ニコニコ手を振ってる。こっちも笑って軽く応答してやる。

 飛べば良いのに、わざわざ走って玄関から入ってくる。今日もそうして階段駆け上って、私の居るこの「ベランダ」とかいう部分まで来るんだろう。紫苑はいたくこの屋敷を気に入ってる。「屋根がある所に住めるなんて夢みたい」だそうだ。


 ……まあ、居心地は認めてやらなくもない。

 紫苑がナントカ教とか言うのと知り合って、そのナントカ教の「アイツ」が紫苑を自分の屋敷に居候させてたと知ったのがひと月……ふた月前? そのくらい。まあ、今は私も住み着いてるわけだけど。

 これまで私が泊まりに来てやった先では、大抵は下賤な下々の民なものだから、天地の弁えも忘れて辛気臭い顔するヤツばかりだった。貧乏神がセットだからって、私の威徳が損なわれたとでも思ってるなら失礼してくれる。

 なのに「アイツ」は2つ返事でOK出してきて、ちょっと面食らった。今でも嫌な顔ひとつせず、むしろ大歓迎と言わんばかり。

 それに「アイツ」、この屋敷を和洋折衷だのハイカラな言葉で紹介してくるし、曰く「外の世界なら、国の顔になるような面々がかつて使って、今も丹念に保存されてるような逸品」だとか。まあそこまで言うなら、天人たる私が住んでやる家として本当に相応しいか、いっちょ試してやろうかって気にもなる。なるもんでしょ?


 特にこの、私が寝っ転がってる椅子。悔しいけど、こいつだけは褒めてやらざるを得ない。

 この寝椅子、行李みたいに下界の草木を編んで固めたものらしい。昼はこのまま寝っ転がると空気が良い感じに通るし、夜は布の1枚敷くなり纏うなりするだけで良い。素材は硬いのに椅子全体がしなって体を受け止めて来るのも心憎い。寝床から枕持ってくれば、1年中でもここでグータラできる自信がある。

「しのあみ」とか言う名前だったか。天界に無いから今一つピンと来ないけど、今度探してみるのも悪くない。


 紫苑が玄関開けて、投げっぱなしに締める音。近づく裸足の足音。もう何度も聞いた。これからこっちに来るっていうのに、この音を聞くと、むしろ眠くなる。

 こうしてると、思う……。

 罠だったんじゃないだろうか。「アイツ」が私達をここに住まわせたのは。

 ここに住んでると段々……あ、紫苑来た。どったんがっちゃん。紫苑はノブも戸板も蹴破るみたいに勢い任せで開け閉めする。やれやれ、大きな妹でも持った気分だわ。

 風で揺れるカーテンで紫苑の姿が霞む。窓を開けっ放してるから、部屋の中から紫苑のご機嫌な声だけよく届く。


「天神様、ただいま戻りましたー!」


「ああ、お帰り。怪我はなかったか?」


「はい! 死んでも離しません!」


 紫苑が胸に抱えたカゴ。「アイツ」が定期的に送ってくるもてなしの品。最近の紫苑は待ちきれなくて自分から受け取りに行く。


「今日は何だ?」


「今日はこれです……ジャジャン! バカマツタケというそうです」


「あ? バカァ?」


 人様へ贈るものに「バカ」とは、随分と不意打ちで掌返してくれるじゃないの。


「私も名前聞いた時には『ハズレかよ』って思ったんですけど、その場で一本焼いてもらったら、これがもう……もう~~~っ♪」


 紫苑が身悶えしてる。この踊り方は私の口にも……高貴ゆえに厳格な、この天人様のお口にも適う品の時だ。

 なるほど、名前に悪口が付いてるクセにうまい物というのは聞いた事がある。バカガイとかアホウドリとか。

 それにしても、キノコばっかり寄越すなあ、「アイツ」は。というかキノコ以外だったためしが無い。まあ「アイツ」の語った出自に嘘が無ければ、ある意味筋は通ってるけど。


「おゆはんは贅沢三昧しましょうね、天神様♪ この美味しさは絶対、地上の最高級品ですから!」


 今日は「アイツ」は帰りが遅くなると言ってたから、私と紫苑だけで米を炊けるかがネックか……醤油は、「アイツ」いつもどこから取ってたっけ。まあ多少ひっくり返しても大丈夫でしょ。「アイツ」が困った顔する所なんて見た事ないし。

 紫苑はベランダの隅にあるもう一脚の「しのあみ」にカゴを乗せて、ズリズリ引っ張ってる。

 私が自分の寝椅子に垂れた服の裾を軽く引き寄せてやると、そこへ紫苑が引っ張ってきた寝椅子をピッタリ隣り合わせる。


「えへへ~、お邪魔しまっす♪」


 紫苑が椅子に置いたカゴを足元に降ろして、ピョンと飛んで、遠慮なく腰から「しのあみ」に着地した。ギシッと大きく軋む音。西洋の寝台じゃあるまいし、今にビキッといってバキバキになるだろうが、その時は紫苑程度も支えられない椅子の方が悪い。

 そうして、すぐさまいつも通り。紫苑が私に抱きつく。犬か猫にでもなった気分だ。畜生がどうだとかは脇に捨てとこう。悪い気なんて全くしないし。

 つまり、今日はもう、一緒に昼寝くらいしかする事が無い。……いや、日が暮れたら米炊きか……あれ、炊く前に何だか、洗うんだっけ? ……まあいいや。


「……暇だなあ」


「そうですねー。暇って素敵です。ひもじく無いし、お金のことも気にならないで好き勝手できるし」


「……そうさなあ」


 ああ、お誂え向きに緩い風が。

 場所的に、ここらの風は冷たいが、天人にとっては清涼で丁度いいくらい……紫苑には冷えるかな。まあ寒くなったら何か言ってくれるだろう。


 紫苑の腕は、相変わらずゴツゴツしているな。ここに来てしばらく、3食モリモリ食べ続けてるのに。

 この生活に慣れたようでも、根っこの貧乏性も衰えが見えない。貧乏神として持って生まれた気質の為せる業か。

 暇つぶしに洗ったり梳いたりしてやってる髪も、いつまで経っても細いクセしてゴワゴワだし。しょうがないなあ紫苑は。やれやれ全く。いやはや全く。

 眠たくなるじゃないか。全くもう……全くだ。


「……なあ、紫苑」


「むにゃ……? はいぃ」


「この生活……幸せか?」


「はいぃ、そりゃぁもぉ……スヤァ」


 ……こうしてると、本当に思う。罠だったんじゃないだろうか。

 ここに住んで段々と、日一日と、何もない日々に慣れてく自分が居る。

 そもそも、私は何のために下界に来てる? 少なくとも、こんな生活を求めてじゃあないはずだ。むしろ真逆と言って良いくらいだ。

 こうじゃない。私が欲しいのはこれじゃないのよ。

 だのに、この退屈すぎる毎日が、悪くないと思えてきてる。

 紫苑が居るからキライになれない。でも私の充分はここには無い。

 天地に轟くような幸運も、おもしろ愉快な不幸も、ここには無いの。

 紫苑が平凡な事やらかして、不幸とも幸運とも付かない、他愛のない笑いがある程度。

 そう。この貧乏神が長らく居着いてるって言うのに、この屋敷では事件なんてそんなもの。

 私の中の、炎みたいな、棘みたいな、そんなものまで抜け落ちていく。

 これも、『アイツ』の能力のせいなのだろうか……いや、きっとそうよ。絶対そう。

 異変を起こしたり、異変に乗っかったり。それが比那名居天子のライフワーク。心の底から天辺まで突き抜ける存在理由。そうでなくちゃならないんだから。


「明日こそ……」


「くこー……んごっ、んごごご……」


 出ていこう。ここに居ると、多分ダメになる。

 ここを出よう……明日。うん、明日。今日はほら、紫苑寝ちゃったし。この子キノコ楽しみにしてるし。ネ。

 決まり。これは天人ならではの合理的かつ風雅な判断。今日の景色は極上だもの。あくせくするのは無粋というもの。


 昼下がりと夕焼けの境。

 雲に見え隠れする下界。

 開けた景色を見せながら、目前から彼方まで一面に続く緑……この標高で木々が茂ってるなんて、幻想郷でしか味わえないかもね。

 どうせなら山頂が良かったけど、妖怪の山……悪くないわね。思ったよりはね。ほんのちょっとだけ、ね。

 あっ、空に1つ綺羅錦。


「一番ぼ……シ?」


 今日は随分早いな……と、思ったら……デカくない? デカくなってない?

 ……こっち来てない?




 一方その頃、山肌から遠く離れた空中にて。

 片手の指で丸を作って射命丸、目に当てピントを山に合わせる。

 八合目だか九合目だか、黒い煙がモクモクと。


「ヒット……って、あのザマならわざわざスポッターやる必要なかったですね」


「やっぱ弾幕はパワーなんだよなあ」


 隣には、八卦炉構えた霧雨魔理沙。

 黒煙の原因はマスタースパーク長距離単発型。

 河原で「ねひりん教」から聞いた情報通りに、お山の上の屋敷を特定。先制攻撃スピードクリア。待ち構えてたボスが居たなら「チクショー」とでも叫んで撤退するとこ。


「つーか、カメラ使えば標的絞るのも楽だったんじゃないか?」


「うっかりシャッター切ったら折角の着弾が全部消えますから」


「職業病かー」


 だべりながら山へと接近。倒したんなら取材のフェイズ。


「何やら百足が荒ぶってましたから念のため、現場付近を通り抜けましょう。どうせ通り道ですし、土煙やらに紛れれば、向こうが万一生きてても反撃を防げます」


「河原でお前に散々言われてた割には中々いい暴れっぷりだったな、『もも』のやつ」


「何だかんだで力だけはあるんですよねえ。あそこまで派手なのは珍しいですが、アレ自体はよくある事です。日没頃にはグースカしてますよ」


「ジジババが早寝なのは妖怪も変わらないんだな」

 



 一方その頃、お山の高くの元・お屋敷。

 人形使いの館と言い、山頂の神社と言い、一体いつ誰が建てたんだか分からぬ幻想郷建築。その1つが今、塵に還った。


「は? ちょ……はぁっ!!!???」

 

 比那名居天子には、何が何だかわけが分からぬ。

 星を見つけて地べたに寝かされ、隣の紫苑はおねむのままに気絶した。

 バカマツタケは消し炭になってもはや見えない。スタッフが居れば涙ながらの深呼吸しかない。


「ありゃ? 不良天人と貧乏神じゃないか」


「コレが“お山の有力者”ですかあ? 何かの間違いでしょう。食うに困って空き巣だとかそういう……」


「な、へ、は……ん、んっだコラぁ!? 天人がンな事するわきゃ無いでしょうが!!」


 見上げると、脈絡のない魔法使いと烏天狗。特に理由のない暴力と、挨拶代わりの暴言。

 混乱しきりの天子のお口も悪くなる。


「まあ何でもいいや。とりあえず、『ねひりん』で何か知ってる事あったら教えてくれ。この通り頼むからさ」


 お手々のシワとシワを合わせて、八卦炉と葉扇をガッシリ握って見せる空の2人。

 何もかも分からないが喧嘩を売られてる事だけは理解した地べたの2人……もとい1人。


「……へっ、ある意味いいタイミングだわ。やっぱり私は『これでこそ』! 紫苑起きろ! 早く!」


「ほンげ……?」


 紫苑が叩き起こされ、夢で無い事をどうにか理解し、バカマツタケにはもう会えないのだと知り、まあそんな感じで泥臭く弾幕ごっこへともつれ込んだ。



てんしおんは、紫苑の中に、希望を見出だせた相手を尊崇できるだけの気力とか分別のようなものが残っている所がミソな気がします。

2人が居候してる屋敷は、「旧邸宅」で画像検索しながらイメージしました。近代建築大好きです。

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