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東方オリスト「東方光隕誕」   作者: 三郷吾請
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霊夢・早苗編幕間「平々不徳のドコゾン瓜子姫」


「ねひりん」の信者が使っているという空き家に侵入し、偶然にも鬼人正邪を発見した霊夢と早苗。

 抵抗する正邪と弾幕勝負へもつれ込んでいたはずだが、今はその弾幕が影も形もない。

 ついでに正邪も影も形もない。


「……逃げられたわね」


「スペカ何枚か頂戴して勝ち確っぽかったんですが……霊夢さんが開けた穴から出ていったんでしょうね」


 最初に入った穴から身を乗り出し、外を見渡す博麗霊夢。

 どこをどう飛んで逃げたか、正邪の痕跡ひとつ見当たらない。

 野次馬も数える程度で、見るから注目度も低そう。

 最初はそこそこ野次馬も居たが、空き家の二階に弾幕漏れると、みんな「やれやれ」とばかり興味をなくした。なんなら今も、霊夢を見つけるなり貴重な観客がバラけていく。

 火事や喧嘩でバズる時代でもなし。危険なゴム飛び見かけたからって、流れ弾を恐れこそすれ、いい大人たちが仕事の足止め熱中する謂れもなし。

 ぼけーっと見上げてた野次馬がテレツク去ってくのを見ながら、霊夢もひとまず空き家に引き返す。

 あの様子じゃあ聞き込むだけ無駄ね。逃げた天邪鬼がどっち飛んでったかも見てたか怪しいわ。


「人様の苦労にただ乗りするなんざ、相変わらずロクでもないったら」


「苦労ってほど手間かけた穴では無かったような……」


「過ぎた事考えてても仕方ないわね。こうなったら、『残り』から聞き出しましょ」


 2人が見やったのは、正邪が置いて逃げた名も知れぬ相方。


「……」


 最初に正邪が床に押し付けたその位置から動かず、横になったまま膝を抱えて蝉の幼虫みたいになっている。


「おら、いつまで寝っ転がってんのよ、蹴り起こすわよ」


「……」


「あのー、もう弾幕ごっこも終わって安全ですんで、とりあえずお話だけでも……」


「……もうやだ」


「「は……?」」


 涙とか鼻水とかでグダグダな返事だった。

 顔を見合わす霊夢と早苗。何が「やだ」なんだか見当がつかない。


「言いたいことあんならハッキリ言ってくんない? こちとら獲物逃してやってらんないのよ。あんただって無駄に痛い思いしたかないでしょ?」


「……せに」


「なぁ~にぃ~聞こえないわね?」


 耳に手をあてて苛立たしげな霊夢。

 数秒間をおいて、女は蝉の幼虫ポーズのままエグエグ鳴き声を漏らし始めた。


「何なのよ……」


「あー……す、すみません霊夢さんが怖がらせちゃって。も、もう一度お願いします。こっちが近づきますんで……よしょっと」


 何か察した早苗が、スフィンクスが昼寝するみたいな姿勢になって、女の顔に耳をグッと近づけた。


「ひぐ、えっぐ……くぜに゛……じゃな゛いの……!」


「ふむふむ……あ、あーあー、そうですね、そう思っちゃいますよねー。はい、はい……すいませんホント。大丈夫ですから、この場はもう、私と天地の神々に誓って決して──」


「何? 何つってるって?」


「霊夢さんはちょっと黙ってて!」


「マジで何なのよ……?」


「むしろ、お困りならお手伝いできる事もあるかもですから、身の回りの事とか、せめてお名前だけでも……あ、「うりひめ」さん? 教えてくれてありがとうございます、素敵なお名前じゃあないですか、ね!」


「どうぜ……私の゛、ぐすっ……なん゛て……きま゛ってんの……」


「そ、そんな事無いですから! あ、そ、そうだ、次の土曜日、うちの神社主催で人里で炊き出しやるんですよ。もし私達でお力になれなくても、一緒に御飯食べるくらいはできますから……!」


「……あ~、なるほど?」


 何だか早苗の必死なフォローが始まり、霊夢も薄ぼんやりと状況を察し始めた。




 そこから少し時間が経って、空き家の1階玄関をぶち抜いて正しい方法で家を出る霊夢と、それに続く早苗。

 まだ夕方には少し早い。向かいの茶屋に赤蛮奇の姿は無く、店の奥で仕事中と思われる。


「っあ~あ……息苦しかった」


「良い事をした後はお天道様が気持ちいいですねー」


「良い事だぁ? それに結局、アレ放置して出てってるじゃないの」


 空き家の適当な壁にもたれかかる霊夢。

 霊夢の手には紙の束。正邪と相方の女が鏡から飛び出した時に、一緒に散らばった品々の1つ。


「会って間もない私達ですし、霊夢さんを怖がってますから。今はそっとしておいてあげるべきです」


「ほいほい、しっつれいしちゃうわね……で、アレは何者で、『ねひりん』とはどうだったの?」


「はい。お名前は『うりひめ』さんと言いまして、まとめると……『ねひりん』との直接の繋がりはほぼ無さそうですねぇ」


 元々人里からちょっと離れた所に住んでる弱い妖怪で、鏡を使った能力を持っているそうです。

 ただ少し前から、例の天邪鬼に転がり込まれて無理やり下僕扱いで散々な生活してたみたいで……。

 今回も、「ねひりん」と繋がってる天邪鬼に連れてこられて、鏡の向こうに集会場作らされてたそうです。

 集会場を維持させられてる間中、暇な時は天邪鬼に接待を強要させられ、その接待で減った備蓄は全部「うりひめ」さんのせいにさせられて天邪鬼から「私からよく言っておく」とか信者に嘯かれて、でも力で適わないから我慢するしか無かったと……天邪鬼よりずっと弱い種族なんですねぇ。


「じゃあ、その天邪鬼が逃げてからずっとヘソ曲げてたのは?」


「全部の濡れ衣を理由に巫女に退治されるって思い込んでたようで……というか、現在進行形です。『どうせ協力してもしなくても退治するくせに』って」


「ボソボソ言ってたのそれかー」


「空き家に閉じ込められ、仕事も無断で休まざるを得なくて生活の目処も立たず、加えて札付きとして生きていくと考えたら、もう面倒な体は捨てて幽霊としてやり直したいとの事で……」


「完全に気が(ふさ)いでるわね。そんな気持ち悪い理由でシメてやる莫迦がいるもんですかっての……う~やだやだ、日向ぼっこなりお酒かっくらうなり何でもいいから、とっとと禊したいわ」


 上腕をさすって、寒がるような体を洗うような仕草の霊夢。


「そんな、苦しんでる人を汚いみたいに……」


「実際汚れ果ててるじゃないの。魂が汚泥まみれの状態だもの。ああいう鬱のケに取り憑かれてるやつだけはねー。合わないのよ。好き嫌い以前に話が通じなくなるの」


「またそういう事言って……何のための宗教だと思ってるんですか!」


「助かりたい衆生を助けて飯食うためでしょうが。助からない自分に浸って酔っ払う奴らのための宗教なんて私ゃご存知ないわ」


「なっ……」


「同情したがる人情くらいちゃんと分かってるけどね。でもああ言う手合、やってる事はどうしようも無くゴネ得とソックリよ。何もかんも諦めたみたいに振る舞ってるクセに、結局根っこは『そんな憐れな自分だから何もしないで楽をさせろ』よ。いきさつがどうだろうと盗みは盗み、怠けは怠けでしょうが」


「う、うぅぅ……」


 文句は言ってやりたいが、早苗の想定よりも遥かにズバズバ来られて、取り付く島もない。


「情けは施すもの、承知でドブに捨てる粋なものよ。どんだけ八方塞がりだろうと、辺り構わずせびり散らして、そうやって生かされて当然みたいに考えだしたら──何か来てるわ」


「へ?」


 ずっと霊夢のターンと思いきや急遽中断。

 霊夢の見る方へ振り向くと、男が一人、すぐ近くまで来ていた。

 決して綺麗な身なりとは言えない外見。粗末な風呂敷を古典的な泥棒みたいに膨らませて背負っている。

 早苗が無意識に警戒する。霊夢の勘がピンと騒ぐ。


「あんた……『ねひりん』?」


「……一応、今は」


「わ、私達にご用……だったんですか?」


 早苗は少し残念そう。正直言えば無関係でありたかった。

 初対面早々に毛嫌いしたいわけで無いが、男の仕草は早苗には余り見慣れない。

 男は目を合わせて話すのが苦手なようで、ついでに落ち着きのない性分なようで、目線をあっちこっちにキョロキョロ向けている。そこまで不潔でも無さそうなのに、しょっちゅう体のそこかしこを引っ掻いてもいる。

 霊夢が身構えてないという事は、どこかに仲間を潜ませてるとか危害の類は無いと理屈で理解はできる。

 けども視線と言い振る舞いと言い、人と話していながらそこに誰も居ないかのように薄ぼんやりして見える風体、そんな人間と腰を据えて意思疎通したためしは、早苗の記憶にゃ全く無い。


「ここの……集会場、何か起きたら確かめるように言われてる」


「なーるほど。天邪鬼なんかにまるっと任せるわきゃ無いものね」


「それもあるだろうな。あいつは、『ねひりん』でも合わないヤツが多い部類だ」


 男の返事を適当に聞き流しながら、霊夢はズカズカ歩み寄って手元の紙を見せつける。


「この紙に書かれてる、『再誕の儀』って字面が怪しい。何か知ってるなら教えなさい。でなきゃ、あんたらの教祖か幹部を今すぐここに連れてきなさい」


 空き家に散らばった書類には、信者内々の報と思しきものもあった。霊夢はそこから、最も勘に引っかかる情報を突きつける。


「ああ、それか……近々『ねひりん』がやる……まあ、祭りみたいなもんだ」


「祭り、ねえ……具体的には?」


「場所を決めたら、集まって教祖を称える……そのくらいしか聞いてない。ただ……ねひりん教を完成させる一大イベント、だとか」


「か、完成……ですか?」


 早苗も話に食いつく。

 霊夢がニヤリと笑う。「ねひりん」がキナ臭い事をおっ始めようとしてるのなら、ますます退治する建前ができる。


「詳しい事は、興味ない。確か……『ねひりん』はまだ準備段階で、『再誕の儀』を終えて、ようやくスタートを切れるとか」


「『場所を決めたら』って事は、まだ肝心の場所も日時も決まってないって事?」


「いや……最近、候補地の話は聞いた」


「どこよ?」


「…………」


 男は黙って頭を搔いている。何か考えている様子。こちらも薄汚れているようには見えないのに、粉砂糖みたいにフケが舞い散る。

 その隙に、早苗が霊夢にボソボソと。


「あの……霊夢さん。このお話、信じちゃって大丈夫なんですか?」


「何よ、嘘ついちゃいないわ。証拠は私の直感」


「それ証拠って言いませんよ! 『ねひりん』にとって重大そうな話を、明らかに集会場空き巣してきたような私達に正直に話すなんて都合の良い事──」


「別に俺には重大じゃない」


「はひ……!?」


 無意識に一歩後ずさる。どうも早苗にとって、本能的に苦手なタイプのようだ。


「耳、良いのね」


「宝の持ち腐れだけどな」


 一方の霊夢は平等というか、何も気にする要素を感じていない。

 男はでかいため息つきながら背中の風呂敷を足元に下ろす。


「金が無いから、『ねひりん』の軒先借りてるだけだ。何が重要な話なのかなんざ、俺が決める……話しても良いが、取引だ」


「分かりやすくて助かるわ。けど金ならくれてやるほど無いわよ」


「乞食の真似はしない。『こいつ』を1つ、持ってってもらう」


 男が風呂敷の封を解いて、中身を見せた。


「……本?」


「ああ。俺は物書きの才能がある。だが人に見向きされる才能は無かった。こいつは、噂好き(インフルエンサー)の目に留まりさえすれば、流行らずにはおけない俺の力作で、傑作なんだ」


「あ、あ~作家志望の方で……ありますよねそういうの……」


 適当に話を合わせつつ、早苗は当惑しながら風呂敷の中身を凝視する。

 男の話ではなく、あくまで風呂敷の中身。ピントずれを疑って半目になる。積み上がる本の山、本と本同士の隙間が、妙に少なく見える。


「これは今日までの総集編だ。最近はこうやって営業にも少しずつ努力している。刷った内から持ち運べるだけの数、6部を常に持ち歩いてるんだ」


「「ろく……?」」


 男が、さっきまで背中いっぱいに背負っていた本の山に手を添えて、やや腰を据えながら一冊取り上げた。

 縦だか横だか分からん、鈍器みたいな……あるいは、かつて地ならしに用いたという「四人づき」の重し部分にでも使えそうな一冊だった。


「「(……………………)」」


 男は、霊夢の片手が書類で塞がっているのを一瞥すると、早苗に狙いを定めた。


「ひっ、ちょ、ちょまっ……!」


 早苗は、お構いなしに迫ってくる男に気圧されて、足腰に全力を込めながら、本のような物体を受け取らざるを得なかった。

 見た目はこれだが紙が安いせいか、思ったよりは軽かったのが不幸中の幸いだと、必死に思った。


「この場で読破しろなんて言うほど俺もバカじゃない。だがいずれ読んでくれ。そして気にいるなら広めてくれ。読みさえすれば刺さるのは間違いないんだ。ようやく筆が乗り始めたと思った36のみぎりに親が愛想を尽かして俺を追い出し、今もこうして厳しい生活を送らされている。世界の摂理が俺の邪魔をするよう仕組まれてるのは明白だ。だが俺はそれでも挫けはしない。この書が然るべき者の目に届いたその時、俺はこの傲岸不遜の世界に打ち勝つ事ができるんだ」


「急に口数増えたわね。しかも早口」


「感想だとかは無理に考えてくれなくていいんだ。読めば、分かる。それは2ヶ月前に書き上げた新章も織り込んだ最新版だ。今も続きは順調に書き進めている。読み終えてから続き読みたさに懊悩する心配も無いからな」


「そ、そですか、にかげつ……(私だったら追っかけてる作品でもなきゃ、とっくに存在忘れてそう)」




 若干壮絶なやり取りを終えて、男は約束通りに情報を明かし、誇らしげに去っていった。

 今は粒になった男の背中を、ぼんやり見送る2人。


「ま……36まで面倒見続けた親の才能は、心の底から尊敬するわね」


「外の世界から来た身としては、背すじが寒すぎます……」


「ろくろ首が信者の中身がどうとかモゴモゴしてたのが少し分かったわ」


「文さんが前に取材した時の話、酷い言われようだと思いましたが……まあ」


 足元を見下ろす早苗。抱えた本が邪魔で足元なんて見えないが。地べたのアリが本の陰に入り込み、何となく、アリがそのまま足を這い登って来そうな気がしてズリズリと地面を擦ってみたり。


「さって……『再誕の儀』の候補地も聞けたし、とっとと行きますか」


「あの、霊夢さん。これ……これ、どうしましょう?」


 そろそろ腕が辛い。受け取った手前、地べたに置くのも気が引ける。近くに預けておける場所も無い。


「読んだら?」


「いえ、そういう事ではなく。正直それもちょっとアレですし……」


「何言ってんのよ。あれもアンタが言う所の『苦しんでる人』じゃないの」


「それは……わ、私はまだまだ、未熟者なので……」




 とりあえずその後、本は何とかしたという事にして、2人は人里を出発した。




霊夢は強い少女で、楽園の素敵な巫女なので、肩入れした物言いもしないかもなと。

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