魔理沙・文編03「拝俸浮献のストウカ縊り鬼」
「ねひりん」の足取り追って、信者が集会開くという河原にやってきた魔理沙と文。
同じく「ねひりん」を探る聖白蓮とナズーリンに出会ったが、彼女らからも有益な情報は得られず。
そうこうする内に、自らを「ねひりん」の関係者と名乗る女が魔理沙たちに接触してきた。
「あ~っと、いけない。先にわたくしから名乗るのがスジでしたね~。『いつき』と申します。『求代 いつき』──覚えよければお見知り置きを」
河原の脇のその向こう、斜面を上がった先の森を背にして浮きながら、「いつき」が名乗る。
貼り付けたような、のっぺりと記憶にへばり付くような、そんな笑顔をぶら下げながら。
「あやや、これはこれはご丁寧に……」
当たり障りのない返事をしながら、文がさり気なく身構える。
「いつき」の声は阿漕なあきんどが胡麻をするような、慇懃が過ぎる抑揚だった。
こういう態度を取るやつは十中八九、相手の一挙手一投足を嘲笑っている。油断ならない。文にはよく分かる。
「お前が本当に『ねひりん』なら、ようやくまともな手掛かりのお出ましって事だな。私はどっかの巫女とは違う。やられる前にゲロるなら今がチャンスだぜ?」
魔理沙の方は、相手の態度がどうだろうと知ったこっちゃない。
吐かないなら弾幕ごっこでお灸を据えて吐かせるし、吐いたら吐いたで弾幕ごっこでオチをつける。ゲロが先か弾幕が先か。
「吐きます吐きますとも。お気に召すものが腹にあれば幸いですが」
「お? 何だ聞き分け良いじゃないか、つまらないなあ」
「いや~、わたくしから襲いかかろうなんてとんでもない。謂れがございませんとも。わたくしからだなんていやとてもとても……」
かぶりを振りながら情感たっぷりに語る「いつき」。
口をとんがらせて八卦炉をしまう魔理沙。
カメラにかけた手を少しも緩めない文がさり気なく一歩前に出る。
「それにしても、『いつき』さんと言いましたか。今までどちらに? 先だっての百足騒ぎを聞きつけたにしては些か“のんき”な駆けつけなのでは?」
「“ご心配なく”。ちゃあんと見ておりましたよ。お二方が百足を前に語らう辺りから、ここで、ずう~っと」
「んん?」
これには魔理沙も、しまいかけた八卦炉を取り出しなおすくらいには訝しむ。
「いいえいいえい~え~。格好良いようなお話じゃ~ございません。近くを庵主様がお通りでしたので、コソコソ身を隠していただけですとも」
「あ? 聖に会うと何か面倒事でもあるのか? そういや信者が命蓮寺に喧嘩売ったみたいな話も聞いたが」
「それは全く関係ございません。わたくしの方針でして、庵主様のような『ねひりんでない』方とは接触を避けるのです」
「要領を得ませんね。もうちょっと疾くご説明願えませんか」
「あいやすみませんすみません、じっくり『押し込む』のがわたくし共のウリなもので。では……おっほん」
我々こと、「ねひりん教」の信者層がどのようなお歴々かは、大まかにご存知の事かと思います。まあ大概はお世辞にも大人物とはいえません。金や力があった所でどっちに転べど後ろ指差されるような有象無象でございます。
で、ありますとですね。何と申しましょうか、言わば“身勝手な人嫌い”とでも……そのような、自分から人様を爆弾か何かに見立てまして石も刃も無しに傷付く方も少なくないのです。
信者の輪に波を立てるには加減というものが欠かせませんで、繋がりとやらを固める程度の緩いものが一番です。
まあつまりですね。勧誘するにも思いの外に前もって、人を見定め選ぶ必要がござる次第で。「ねひりん」の要らぬ方、「ねひりん」よりも己を上に置く気概ある方、そういった“まとも”な皆様を内輪では「ねひりんでない」等と呼び合っている次第です。
他所様に知れる話には方便を混ぜるのも致し方なく。例えばやれ「河原で集会があるそうだ、今度行こうか」と思う人ありませば、その実、本当の集会場は脇の森。「ねひりん」に興味を持つ方々の、品定めというのも聞こえが悪く恐縮ですが、まあそういう事です。
「こんな所でいかがでしょう?」
「結局長いし何が何だかよく分からん……」
即答でダメ出しの魔理沙。
「えーと……言ってみれば『ねひりん』の入信には資格のようなものが必要で、信者で無い者には集まる場所を微妙にズラして伝え、ノコノコやってきたなら遠巻きに仲間に相応しいか値踏み、相応しく無ければ放置を決め込む、と」
「カツカツ切り詰めればそんな所で構いません」
「よく最後まで聞けたな今の話……」
文が纏め、「いつき」が認め、魔理沙が顰めた。
「ま、仕事柄このくらいは……それでですね。こうして『ねひりん』に相応しくないご住職が去るまで待って、こうして姿を表したという事は……」
「はいはいもちろん。かの野ネズミさんは丸洗いして温めれば『ねひりんでなくなる』かもですが、お二方にはまだまだ、まぁだまだ『ねひりん』の余地を見る次第。うちは居丈高に人間だけの安心を売り込む“民族宗教”とはわけが違いますし宗派の出入りも自由でございますからして──」
「こらこら待て待て、入信したがってるみたいに勝手に話を進めんな」
「引き抜きで信者を集める割に、営業がなっちゃいませんねぇ。秘密主義だかそうでないんだか、お陰で私達は『ねひりん』の実態も掴めず、情報探しにあくせくする始末です。はっきり言って、信用が足りないんですよ……あなたは尚更」
「ぬぁっは~これはこれは手厳しい★」
眉毛だけハの字にしたような器用な苦笑で自分の頭をペチと叩く「いつき」。
「我らまだまだ歴史もへったくれもない泡沫宗教ですゆえ、足場固めには殊更慎重な時期なのであるとご容赦いただきますればと」
「口では何とでも言えますものねぇ。では取材がてら、1つ尋ねてあげましょう。お宅の宗教、一体何を崇めるのです? 信仰の対象は? それによって得られる見返り……例えば救済などは?」
「崇める? ほほほ、崇める崇める……あぁりぃまぁせぇ~んよぉ、も~取材済みのクセにお人が悪い♪ 我らには神も仏もありゃせんのですから。強いて言えば『教祖様を』ぐらいでございましょうか。それも結局個々の自由、中には教祖様をも我が自由にせんと息巻く者も多々ありますが、それも含めまして広く寛~く──」
「……おい、文」
「ええ。隙でも見せれば、ほだそうとデタラメ吹かす三下営業かと思いきや……最初から、私がチロッと取材済みだと調べた上で声かけて来たようですね」
「えぇえぇそりゃもう。わざと言いましたから」
「うし、計画通りだな」
それぞれ武器を構え、念のためにスペルカードをいつでも発動できるよう備える。
吐くだけ吐かして、たわ言しか出てこないなら用済みである。
「そうそう、それで良いんですよ~。派手にお暴れなさりたくてウズウズしてたのはよう分かってございます。わたくし共としても、一押しして差し上げなくては」
「本当に鈍間な一押しだこと。売られてから買いたかったのなら、最初から一言で済む話じゃないの?」
勿体つけたそのくせに、「かかってこいよ」が答えでは、スピード主義じゃなかろうが苛立つ話。
「い~~~~ぃえ~必要な下準備です。『貴方がたの』お願いなのですから……」
仮面のような「いつき」の表情筋に力が増し、ニタッとしたテイストが混じる。
上位者を気取って命の悲喜こもごもを愛玩動物の如く消費するような、性根の薄汚さを確信させる絶妙かつわざとらしい下劣な笑顔だった。
「わたくしには、お二方の心が見える……功名と承認に飢えて惑い、叶えたくて堪らぬ思いと肉体が、血縁の鎖が如くに闘争を求めておいでだ。弾幕ごっこ以て、歓びと共に尽くしましょうとも。『ねひりん』はそんな皆様をこそ支えるいと“か弱き”者共なのですからして!」




