霊夢・早苗編03「爛畜換飯のダクマン天邪鬼」
人里の茶屋にて。一息入れる巫女2人。
ごく普通に店先の長椅子に腰を下ろす早苗と、隣で席一杯使って寝そべる霊夢。
なお、鯛焼きは売ってないらしい。
「あ゛~~……最悪」
「結局、何も追求できずに逃げ帰っちゃいましたね……」
「何なのよあの仙人は。困ってんのは道教も一緒だって言ってたくせに……お腹は空いてくるわ、異変調査は足止め食らうわ、何もかも最悪だわ今日は」
「だからこうして、おやつ食べに来たんじゃないですか。それにこういうのは『足で稼ぐ』ってのが定番らしいですし」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。異変解決がそんな苦行みたいな仕事だったら、誰が好き好んでやるもんかっての」
寝っ転がったままの霊夢。ぼけーっと、座席の脇に立てかけられた日傘の、その裏地に透ける木漏れ日の模様を眺めている。
「あんた、自分が退治された時の事くらい、その頭ん中に残ってんでしょ?」
「引っ越して間もなく、霊夢さんの神社にお邪魔した件ですか? そりゃあもう今でも昨日のように」
「普段の異変なら、あの時みたいなもんよ。私から解決に乗り出したなら、大体は月かお天道が出入りする前にサッサと片付くのよ。適当に妖怪退治してたら適当に黒幕見つかって適当にシバいて大団円、足踏みなんて珍しすぎて記憶にないくらい」
「て、適当に……」
「それがこのザマよ。朝っぱらから飛び回ってるってのに、大した情報も無いままお昼過ぎ。この調子じゃ夜中までかかるわ。私の勘がそう言ってる」
「その時はその時ですよ。また明日から再開しましょ。次はお昼の予定とかも考えながら──」
「だから冗談じゃないっての。一日かけて退治した妖怪が夜道怪一匹だけなんて……そうよ、夜道怪よ」
丁度、注文していた団子と茶が届いたので、早苗が霊夢の分もまとめて店員から受け取る。
霊夢は磯辺にほうじ茶。早苗は蓬あずきに緑茶。早苗の方は意図的に色を揃えた。
「博麗の巫女が異変解決の真っ只中だってのに、巫女相手らしいリアクションかましたのが妖怪一匹だけよ。それも他の妖怪と比べても特に肝っ玉がみみっちい夜道怪だけ。人間の鍛冶屋には文句つけられるわ人里の連中は反応薄いわ黒幕候補には気遣われるわ仙人にはコケにされるわ……あ~~~っもうムシャクシャする!」
「ま、まあまあ。別に巫女が幻想郷の王様ってわけでもなし……というか霊夢さんをひと目見て、権威だとか凄みみたいなのを感じるのも、それはそれでどうなんでしょう……」
霊夢の枕元に軽食の盆を置こうとした早苗だが、霊夢がジタバタするので一旦引っ込める。
こんな少女を「おお、巫女様じゃ」とか敬うのはちょっと難しいのではないか。早苗には訝しい。
「ハァ~ア……博霊の巫女って、本当に幻想郷の安全預かってんの?」
「何言ってんですか、ちょっとお腹が空いて切なくなってるだけですよ(こりゃ相当だなぁ)」
再び脱力フェイズの霊夢が、ため息つきつつ、手つきで「はよ寄越せ」と命じてくる。
団子の皿を霊夢の枕元に置く早苗。
ひょいと団子拾い上げてムシャつく霊夢。流石に横になったまま茶を啜れるほど埒外じゃなさそうだ。
なんかもう、駄々っ子のご機嫌取り。
「もっちゃもっちゃ……あーして往来のど真ん中で異変解決の『オシャレな』専門家が出てきてやったってのによ? 目もくれやしない。相手が巫女だって認識自体がボケてきてない? マジで」
「あはは……(相手が呉服屋さんの娘だからって張り合わなくても)」
「これもう本当の本当に信仰が遠のいてんじゃないの? 博麗の巫女っていう“ガワ”が無くなってて、今の私なんて妖怪殴りが趣味の変質者扱いなんじゃな~いの~?」
誰に訴えるでもなく八つ当たりがましく語尾を伸ばす。
「もう……霊夢さん、酔っ払いみたいになってますよ。ほら、せめて起きて起きて」
ポンポン叩いたりして起こしてやる早苗。
口では「困ったもんだ」という調子だが、何だかこのささくれた酔っぱらいが、かわいく思えてきたりする。
早苗にとっても、霊夢にはどこかしら「最終兵器」みたいなイメージがある。その霊夢が愚痴る事もあるのだと、しかも聞き手に自分が選ばれたりもするのだと、そう思うとちょっといい気になってくる。
起こされながら霊夢は団子の残りを口に詰めて串だけにして、起き上がるなり2本目の磯辺を掴んで根本から一口で丸裸にしてやり、ほうじ茶で流し込んだ。
「んぐ、んぐ、ぶはっ……あーあー、もうちょっと世の中ままならないもんかしらね。妖怪退治で妖怪からも信仰集められて、異変の方から神社に飛び込んできて、ちょっと弾幕ごっこで懲らしめりゃ一件落着とかさー。巫女の仕事は妖怪探してコテンパンにする他に無いわけ? あたしゃ金だの信仰だのにあくせくしないで、日がな一日縁側でお茶しばけりゃそれで十分な、これ以上なく慎ましい善人だってのよ?」
「くすっ……ドンマイですよ、霊夢さん」
管を巻かれるほど、早苗にはどこか微笑ましい。ダメな人の面倒見る素質でもあるのかもしれない。
「そうだ、今日は代わりに、私から一品奢りますから、それで機嫌を──」
「『白玉あんみつそふと』と豆茶」
「即答で迷わず一番高いセット来ましたね……でも分かりました。店員さーん、こっち、白玉あんみつソフトとコーヒー2つでーす」
「はいはーい」
店員のいい塩梅に素っ気ない返事を聞き流しつつ、早苗も自分の団子を片付け始めた。
少しして、追加注文が届き。
霊夢は椀を受け取って早々、わんこのようにかぶりついた。
「はっぐ、はしゅ、もぐ、もぐ……んがむ」
「ふふ、もう霊夢さんったら、はしたないですよー」
「ごゆっくりどぞー」
「あ、すいません店員さん。先にお会計済ましちゃいますんで」
店に戻ろうとする店員呼び止め、財布を取り出す早苗。
早苗は何だかもう、ノリノリである。最初の団子セットも二人分まとめて支払い始めている。
「むー、なな、やつどき、ここの……中略、と。はい、これでピッタ、り……」
勘定手渡し終えた早苗が、はたと店員の顔を確認する。
「あれ、あなたって……?」
思わせぶりなセリフが飛び出したので、霊夢も貪るついでに脇目に見て、同じく気付いて指差した。
「あ、いつかのろくろ首」
「……え、今気付いたの? てっきりスルーされてたのかと」
最初の注文から今まで、巫女らに接客してたのは赤蛮奇だった。
「すいません、ちょっと野暮用で気を取られてたもので……」
「妖怪が人里の茶屋で何やってんのよ?」
「何とは何よ、妖怪が働いて日銭稼いじゃいけない理由でもあるわけ?」
「いえいえいえ大変結構ですとも! 実は霊夢さん、異変の調査でちょっと気が立ってまして……!」
積極的に霊夢の肩を持ちに行く早苗。保護者気分。
そのまま、流れで事の次第を簡単に説明した。
「ふーん。いつもの飛び回ってるのと違って、今回は随分のんきな異変なのね」
「余計なお世話よ……はぐっ」
ムカつきをソフトクリームと寒天と一緒に飲み下す霊夢。
「正直、ちょっと暗礁に乗り上げてまして……もし何か『ねひりん』についてご存知でしたら教えてもらえたらと。代わりにこの場での退治は見逃しますんで」
「べらぼうに一方的な取引飛び出したわね……そもそも私なんて例の異変以外で巫女に睨まれるような真似なんて……まあ良いわ。仕事中だから、手短で良ければ」
「良いんですか? ありがとうございます!」
「高いもん頼んだお客じゃ無碍に出来ないし、四の五の言ってボコられちゃかなわないし。私が知ってるのは……あれよ。向かいの」
赤蛮奇が親指でクイッと背後を示す。
向かいには、雨戸1つ残さず閉め切った空き家が建っている。
「前に私も勧誘受けたんだけどね。その時に聞いたの。ちょうど向かいのアレが集会場の1つだって」
「人里でも見境なくやってんのね、『ねひりん』のやつら」
「近所で暮らす方にとっちゃ、最近の宗教にしては騒がしくないし、一言断ればあっさり引き下がるしで、迷惑って事は無いわね。信者の内訳以外は……」
「?」
「それよりその……本当に、あの空き家が集会場なんですか? 玄関に板打ち付けてますけど」
早苗が指差す。
見た所、玄関どころか二階の雨戸に至るまで、何か封じ込めるかのように木材で目張りされている。
「そうよ。玄関どころか裏手も横も穴という穴全部あんな感じだけど、人が出入りしてるのは見た事あるし」
「飯でも炊こうものなら煙で無理心中できそうね。どうやって入るっての?」
「そりゃもう“正攻法”。地道に目張りした板剥がして、隙間から一人ずつ出入りして、全員入ったら内側からも板打ち直してるみたい」
「厳重っていうか……後ろめたい事やってそうなレベルですね」
「あの空き家の元の持ち主も、今は信者らしいわよ。結構稼いでたらしいけど、急に豪遊しだして身代持ち崩して……確かあの、人が急に別人に入れ替わるとか騒がれてた、そのちょっと前頃の話」
「「あ~」」
2人の脳裏に、金品だらけで縦ロールの心当たりがよぎる。
「空き家の中で何が起きてるとか、噂程度でもご存知ありませんか? 夜な夜な祈りを捧げる声が聞こえるとか……」
「あったら胡散臭くってココの商売上がったりよ。私が知ってるのはここまで。後は好きに──」
「もご……ちょい待ち」
離れようとする赤蛮奇を霊夢が呼び止める。さっきまで念入りに噛み締めていた求肥を飲み込みながら。
「灯りが漏れるとか、物音がするとか、そんな話も無いって?」
「え? ええ、無いけど」
「あの空き家、多い時に何人くらい入ってくる?」
「私が見たのは7人8人とかだったかなぁ。噂じゃ、教祖含めて30人くらい来た事もあったとか」
「さ、30人!? あ~でも、それくらいならお二階だけで収まりそうですね。元が裕福な方の持ち家だったって話でしたし……出入り大変そうですけど」
「静か過ぎよねえ。30人詰めかけて、酒も茶も汲まずに、教祖とだんまり睨み合ってた……ってか?」
「そんなん私に言われたって……まあおかしいっちゃおかしいけど、こっちは迷惑かからなけりゃ後は知ったこっちゃないわよ」
「おっけーおっけー……あぁらよっと」
気の抜けた掛け声一発、博麗霊夢、大きく振りかぶって陰陽玉を投げた。
ほぼ直線の軌道で飛んでいった陰陽玉が、向かいの空き家の二階の一箇所、目張りの板と、その下の雨戸と、そのまた下の障子をまとめてぶち抜いた。
余りに何気ない動作だったものだから、空き家に穴が空くのを見届けた後、少し遅れてから、束ねた板がまとめてへし折れる轟音が耳に届いていた事に気がついた。
「「ちょっ……!」」
呆気に取られて見上げる東風谷早苗と赤蛮奇。
脇目も振らず、白玉あんみつソフトの残りをかっこむ霊夢。
間もなく長椅子に椀が置かれる音と、椀の上で匙が軽く跳ねる音。コーヒーの残りを一升瓶の如く一気飲み。
「げふっ……うっし、んじゃ空き家から調査再開ね」
「え……あ、は、はい霊夢さん! アでもその前に私の白玉あんみ……無い!?」
席を立つ霊夢の隣に、あんみつの椀が重ねて二杯。匙は二本。一本は使われた形跡が無い。
「え? あれオマケじゃなかったの?」
「私の分です!! 一品って言ったじゃないですかぁ!」
「いや、だから一品でしょ? もう子供みたいな事言ってないでさっさと行くわよ」
「ちょ、そ……も~~~~っ!! もうすっかり元気そうなのは結構ですけど~~!!」
「あー? 元気ぃ? 今朝からこっち怪我も病気もしてないわよ?」
照れ隠しとかそういうニュアンスは皆無。どうやら本当にお腹が空いてただけらしい。
力ずくで拵えた二階の出入り口へ飛んでいく霊夢と、それを追う早苗。辛うじて無事だったコーヒーを慌てて飲み干してから。
「……まいどー」
赤蛮奇は、「とりあえず勘定も済んで店離れたなら、後は晴れて他人だろう」と、見送りもせず、人が集まる前にそそくさ食器を片付けた。
そんなこんなで、空き家の二階。
「……なーんにも、無いですね」
「んにゃ、なーんだか怪しい」
畳と柱と、元の家主が捨てていったような小さな家具が幾つか。今は人が使ってるだけあって整理整頓はされてるがカビ臭い。見渡す限り、目ぼしいものは見当たらず。
「まあ見てなさい。他人の金で食う甘味ほど、私の直感を研ぎ澄ませるものはないのよ」
「お金どころか人の甘味まで平らげていきましたけどね……」
だだっ広いばかりの部屋を探索する霊夢。
二階を間仕切る襖を取っ払い、壁を削ったらしき痕跡もあるワンルーム、またはワンホール。民家の部屋というより、道場のようですらある。
隅に点々と寄せられた古い家具を、睨みつけては通り過ぎ。
「……これが怪しい」
壁と壁との角にピタリと安置された家具を指差す。
覗き込む早苗。暗がりの中でも、その形が普段から見覚えあるものだとひと目で分かる。
「これは……鏡台、ですよね?」
どこにでもあるような、落ち着いた装飾の鏡台。引き出しが1つに、上下に回転する作りの丸鏡が1つ。
「見るからにね。さて、何が怪しいんだか……」
「『何が』も何も霊夢さんの勘が言い出したんじゃないですか……強いて言えば、鏡がちゃんと手入れされてるなーとかですかね。ホコリとか全く──」
「なるほど、それだけ怪しければ十分だわ。質屋にでも持ってって、売れなきゃ叩っ壊しましょう」
「判定ゆるすぎません!? 『怪しい』から繋がる選択肢もおかしくありません!?」
常識を疑われても、霊夢は完全にそうする気でいる。
ベテラン土木作業員じみた呼吸法や掛け声で力仕事の準備を整え、鏡台に手をかけ、持ち上げようとして、しかし腕よりも眉間に力が入った。
「……あ? 何だこれ?」
「どうしました? バチでも当たりました?」
「そんなんこの私に掠りだってしないわよ。これ、見てみ」
促されて鏡台に注目する早苗。心の中で人差し指がコントローラー裏面のボタンを押す。
霊夢が鏡台を引っ張って見せる。
びくともしない。ちょっとガタつくとかコトコト言うとかくらいしても良さそうだが、まるで床や壁と同化したかのよう。
「固定……されてますね。釘か何かで。あ、よく見たら何か……鏡も引き出しも黒っぽいので固められてますよ?」
「黒? じゃあ松脂かな。『ねひりん』らしいっちゃらしいわね」
らしいんですか?
接着剤って意味じゃ獣から作る膠よりも材料揃えやすいし、作るのも楽だし他に使い道も多いのよ。松さえ確保できりゃ、コソコソやってる連中には便利な事この上ないでしょ。
「暗くて見づらいけど……確かに松脂詰めて固めてるわね。意地でもここから鏡台動かしたくないみたいね。ますます怪しい」
「けど……この怪しいの、どうすりゃ良いんでしょ?」
「んー……松脂ほじくり出せばまだ売り物になりそうだけど、どう持ち出すかよね」
「そっちですか!? 『ねひりん』の手掛かりとかは!?」
「そっちはどうせ売るついでに見つかるでしょうが。折角の戦利品だからまず値打ちが知りたいのになあ。癪に障るからってこの場でぶち壊すのもそれはそれで癪だし」
「わぁ……」
早苗がドン引きしてる内に、何か思いついた霊夢がビシッと指差す。
「早苗。奇跡で何とかしなさい」
「雑ぅ!?」
「何よ出来ないっての? それ一本きりで信者集めてるクセに」
「それしか能がないみたいな言い方止めて下さい! それに奇跡起こすにも色々準備が必要なんです!」
「じゃあとりあえず今できる範疇で良いから。ダメ元でも試す価値くらいあるでしょ」
「ダメ元って……ハァ。分かりましたよ……」
ブツクサ言いながら、それっぽく手を組んで、徐々にぼやきを呪文に切り替えていく。
「ほんだららった~へんだららった~どんがらむにゃむにゃ……ふん!」
それっぽく両手を上に掲げてみたりする早苗
3秒経過……。
6秒経過……。
ぼとり
「うえっ!!?? なな、な、なにっ!?」
霊夢の顔面にそこそこのサイズの何かがが落下した。慌てて払うと、そいつは鏡台の上に着地。
「あら、かわいいヤモリ。空き家にも住んでるものなんですねえ。うふふ、お怪我無いですか~?」
「何だ、びっくりした……どういう奇跡よ全く……」
「奇跡というのは何も良い事ばかりじゃ無いんですよ。こうやって急に空からヤモリとかカエルとかタイの尾頭付きとか──」
早苗達が話してる間に、野生のヤモリは何気なく這いずり、円鏡の鏡面にペッタリ張り付いた。
「とりあえず、奇跡なんてアテになんない事はよーく分かっ……ん?」
「どうしまし……きゃっ!?」
霊夢が気付く。早苗も霊夢の視線を追う。
鏡が、凸型になっている。レンズがどうとかでなく、物理的に。
さっきまで映っていた景色が失われ鏡面は真っ黒で、シーツを被って頭で突き破ろうとするみたいに面が変形しせり出している。
ヤモリは変形する足場に驚いてそそくさと逃げていった。
「な、えっ……何? 何が起きてるんです!?」
「知るもんですか。とにかく見た目キモいから離れるわよ!」
巫女がバッと飛び退くのとほぼ同時、鏡からせり出していた物体がドドドと飛び出し、床に投げ出される。
酒と空き瓶が複数、つまみも数点、保存食や謎の書類が少々。
そして何より、人型生物が2体。
「いっててて……こんの役立たず! ザコ! ほんっと使えないなお前の能力は!!」
「景色塗り替えられたらダメだって、前から何度も言ってるじゃないの! あんたこそどうしてくれんのよ!!」
飛び出てくるなり言い争う人型生物。
それを見下ろしながら、霊夢は拳を鳴らして喧嘩の準備。早苗も何だか楽しそう。
人型生物の内、片方にとても見覚えがあったからだ。
「ほうほう。何だか分からんけど……指名手配から逃げ切って何やってんのかと思ったら、『ねひりん』なんかに逃げ込んでたみたいねえ」
「こういう悪党こそ、巫女が調伏するのに相応しい相手ですね!」
鏡から飛び出した片方は鬼人正邪。
巫女の言葉に我に返ったか、とりあえず一緒に飛び出した相方をゴツンと殴ってから睨み返してくる。
「チッ、『コイツ』が下手打たなきゃ、面倒に首突っ込まずにやり過ごせたのに」
「ああ……終わった……」
相方の方は、巫女2人を一瞥するなり、首を飛ばされた後みたいな顔になって項垂れた。
「ちょっとは無駄足の埋め合わせできそうね。コテンパンにして『ねひりん』の事吐かせてもっかいシバいてから紫にでも預けて今からでも褒賞せびってやるわ」
「とんでもない、ここは守矢神社に持ち帰ってウチの信仰の足しになってもらわないと!」
霊夢も早苗も、さっきまでとは目の色が違う。
ねひりん教をさておいても、相手は賢者直々に討伐の触れを出したお尋ね者。棚からぼたもち、鏡から天邪鬼。
「おーおー、すっかり勝った気で居やあがる……この私が、おめおめ宗教なんかに諂ってるとでも思ったか!」
正邪がニヤリと笑い、スペルカード発動。
逃げ場を封じるように、空き家の二階を弾幕が埋め尽くす。
「むむっ、中々厄介そうな雰囲気が……!」
「いつかにやりあった時と、弾幕の毛色がだいぶ違う感じね……これ本当に『アンタの力』?」
「晴れない疑いなんか気にするだけ無駄さ! どっちにひっくり返っても、お前らの人生は骨折り損か犬死にだけだ!」
正邪が、未だ名の知れない相方の頭を掴んで床に叩きつけながら伏せさせる。それと同時に、弾幕が室内を所狭しと乱舞した。
東方儚月抄は幻想郷内の異変らしい騒ぎとは少し異なりますし、反則探偵が始まる前に考えたのもあり、この話の霊夢は長丁場の異変らしい異変は余り覚えが無いという事にしています。
「夢の世界の貴方はいつものんびりしているわよ。少し休んだら?」から霊夢のイメージ膨らませてみました。




