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東方オリスト「東方光隕誕」   作者: 三郷吾請
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霊夢・早苗編02「慎朴硬侠のトキツゲ鍛冶屋」


 霊夢達がねひりん教の情報を勘だけで探すついでに、2人がかりで後ろ暗い妖怪をシバいた少し後。

 思い出す事あって寄ったのは、人里の外れ。庶民の家々とも商店街とも離れて閑静な区画。

 良く言えば、ちょっとリッチな住宅街。有り体に言えば、見かけ以外に何もない。どこもかしこも塀がかかって、人の息吹も見えず届かず。

 居並ぶ内の一軒の前。開け放しの門構えの上から覗く、屋根を見上げる霊夢と早苗。


「ここが……霊夢さんが来たかったお宅ですか?」


「そうよ。場所はうろ覚えだったけど、相変わらず分かりやすい見た目してて助かったわ」


「分かりやすいっていうか、これはもう……」


 屋根を見上げる霊夢と早苗。

 門構えの上から覗く、屋根が何だかボロっちい。ボロいというか、壊れてる。

 一部崩れて、瓦の下が剥き出して、あられもないとはこの事か。霰が降ったら梁がボコボコ、雨が降ったら畳が腐る。そんな心配せずにはおれぬ。屋根だけ見れば立派な廃墟。


「あの……ここ、人住んでるんですか?」


「住んでるのよね、これが。あの壊れてる辺り、使ってないから放置してるそうよ」


「それは、また……どういった場所なんです?」


「代々の鍛冶屋よ。人里じゃ腕利きの。いつかまでは私も針や鍋の直しはここに持ち込んでたのよ。今は付喪神だか一本だたらだかが押し掛けて半分勝手にやってるけど」


「へえ~。つまり腕が良いからこんな大きなお屋敷も建てられて……壊れてますけど」


「いつかに大地震あったでしょ。あの時からずっとあの状態よ。1人で住んでるから持て余して、掃除も面倒だから建て替えてもしょうがないってね」


「せめて瓦礫の撤去だけでもした方が良いと思いますけどねぇ……」


 早苗が苦笑してると、霊夢が早苗の両肩ガシッと掴む。


「へ? 霊夢さん?」


「……家一軒片付けるのに、人とお金と時間、どれだけかかるか知ってる?」


 顔が近い。力が強い。圧が凄い。


「え……え?」


「仮に……仮に、あんたンとこの神社丸ごと潰れたとして、あんた1人で瓦礫の始末できる? 運べたとしてどこに捨てんの? 住むトコ無くして建て替えで懐吐き出して見返りも期待できない相手のバカみたいなゴミ捨てに骨折ってくれるようなコネがどんだけある? ましてや長屋のお隣さんと違って余所にとっちゃ今日明日放っといたって自分が迷惑するでも無いのよ?」


「え、え、えと……ごゴメンナサイ軽率な事言いました二度と言いません肝に銘じますから!」



 何やかんやで門を潜る2人。

 いつかの記憶を頼りに、屋敷の玄関では無く、回り込んで鍛冶屋の店先へ。

 目印は、いかにも洒落た感じの木板の看板。ただし掲げ方のセンスは無い。


「『武蔵堂』……これがお店の名前ですね。『やごう』って言うんでしたっけ?」


「『やつかね』ー、『八ッ鉄』いるー? 客が来てやったわよー」


 霊夢はスルーした。早苗は特に気にしない。返事がないという事は、だいたい「そう」で問題ないという事だ。

 店に入って店主の名を呼ぶ霊夢。間もなく店の奥から足音がして、出てきた人影は2つ。

 男性1人、霊夢達より小柄な童女が1人。


「あら。お一人でやってるって聞きましたけど、今は親子連れなんですね」


「ないない。どうせそっちは先に来てた客よ」


 霊夢が指差したのは、男性の方。


「え、お客さんがそっちですか?」


「ンだ。人様ン指向けんでねえ、相っ変わずこン巫女は」


 訛の強い返事したのは童女の方。


「すいませんお嬢さん方、ちょっと店主さんと私事で話し込んでしまって……」


 男性も礼儀正しく認めた。

 早苗の目がまんまるになった。


「えっ……じゃ、じゃあこんなちっちゃな子が1人で? 金槌で真っ赤な金属叩いたり!?」


「おじょっさ、うちゃじょさよかあねっこやきに」


「???」


 早苗の目がもっとまんまるになった。


「そいつが当代の八ッ鉄。『私はお嬢さんよりお姉さんなのよ』だってさ。私も最初聞いた時はたまげたけど、どうやらマジよ」


「え……えぇっ!? えぇ~~……えっと、し、失礼しました」


「ええ。もう慣れダ」


「あ、申し遅れました私、東風谷早苗と言います。山の守矢神社で巫女を少々」


「ええてええて、そがんかたばらんと。こげむっこくてカナャゴさンとごでようやっとんダら、ハァすなかぎっちゃろてオラにゃわかっ」


 顔立ちも体格もどう見ても、早苗の半分くらいの歳でもおかしくないが、顔なじみがそう言うならそうなのだろう。

 謝りついでに堅苦しくなりながらも自己と神社紹介は欠かさない。言ってる事はよく分からないが鷹揚に許してくれて、ついでに好印象っぽいのを早苗は奇跡的に理解した。

 何となく、お婆さんみたいな雰囲気がありますね、この子……もとい、この方。


「ほんで……おめサ、次ん客ば来よんでな。釣りば持っチ来るけ、今日はもう()れ」


「はい、そうさせてもらいます。つい熱が入って長々とご迷惑を……」


 客の男性が、娘か孫かくらいの背丈の店主にペコペコしている。中々腰が低いらしい。


「ええ、ええ。どうせ暇だで、またこ。世話にゃならんじゃろが、茶ぁくらいやっ(出し)ちゃる」


「恐れ入ります。用向きの折は、何卒よしなに……」


 90度超えてペコペコしている。中々腰に来そうな有り様。


「あの……不躾ですけど、そんなに畏まって、一体どんなお仕事持ち込まれたんです?」


 興味本位で聞き込む早苗。こっちも中々腰というか肝が据わってる。


「いえ、知人の紹介で金物の修理をお願いに来ただけだったのですが……はは、お恥ずかしい」


「巫女ンお仲間じゃ。『教え』にへえ()れとよ」


「「教え……!?」」


 巫女の目が光った。


「武蔵堂は、まンだウチだけでやっチキるでな。信者ぁだかに手ぇだの飯だの借りる気はねえだ」


「私、勧誘を受けて入って、随分助けられたクチなもので。『ねひりん』を広めようと、つい独りよがりに……」


「ほうほう……こりゃあ客になる相手が変わったわねぇ」


「霊夢さんの言う『勘』、面目躍如かもですね……!」


「「?」」


 男性客と八ッ鉄の目はあんまり丸くならなかった。眉毛はハの字だった。


「早苗! 出口塞ぎなさい、私が取り押さえる!」


「はぇ!? 聞き込みじゃないんですか!? 人間ですよ!」


「そうよ! 人間のためにやるんだから人間のためになるのよ!」


「それヤバい人の思想ですから!」


 一片のためらいもなく飛びかかるものだから、早苗が止めようとしてもワンテンポ遅く、まだ状況が飲み込めて無い男性客の鼻先に巫女の御札が迫る。

 ……人間相手に御札って効くんでしょうか?


 ドゴオン!


 打撲音では無く、破裂音。霊夢も早苗も男性客も、思わず固まって音源を見る。

 鍛冶屋の小さい店主が、どこから取り出したのか、熊の額でも打ち抜けそうな厳つい鉄砲を構えていた。

 博霊の御札は、男性客との間を駆け抜けた弾丸の衝撃波で細切れになっていた。


「オラん店で、オラん客に……何ばしょっとや?」


 さっきまでと八ッ鉄の雰囲気がガラリと変わっていた。迷わず霊夢の頭をブチ抜けそうな凄みがあった。早速再装填してる。


「ひぇ……」


 これは早苗の喉から漏れた音。

 霊夢がとりあえず両手を頭の高さにあげながら後ずさった。熊に会ったら死んだふり、銃口向いたら手を挙げる。どっちも気休めにもならない。

 とてもゆっくりと銃を下ろしながら八ッ鉄が唸るようなため息ひとつ。


「全く、こン巫女は何ガあるたんび蓮っ葉しょって……お客さ、釣りぃ寄越すで、ついてこ」


「あ、い、いえ、大した額でも無いので、元より雑益にでも充てていただくつもりで……この後、ちょっと野暮用も」


「すぐだで。『教え』ば誘ったもんに義理ぁ残さん」


「や、八ッ鉄さん、霊夢さんなら私が押さえておきますから、今の内に!」


「……ったぐ、すがだね」


 鉄砲と一緒に八ッ鉄がのそのそ渋々、客のお釣り分を取りに店の奥へ戻っていく。

 足音が消えてから、残った3人が深くため息をついた。


「れ、霊夢さん……八ッ鉄さんって、結構アグレッシブなんですね」


「昔は刀や鉄砲でおまんま食べてた鍛冶屋らしいからね……」


「そういうもんなんですか……? あ、お客の方もすいません、うちの霊夢さんが」


「いえ、まあ……はは」


「あんたんトコに世話になった覚えは一度として無いでしょ」


「こら霊夢さん、そうじゃないでしょ!」


 巫女2人に適当な返事しつつ、客が店の出口へジリジリ移動する。


「で、では私は少し急ぎがありますので……お釣りは良ければお二人に」


「へ? あああちょっと待ってください、私達も『ねひりん』について尋ねたい事が……それに八ッ鉄さんに無言で立ち去るなんて」


「いえ本当に急ぎますので、店主さんにはそちらから何卒よろしく──」


「……?」


 霊夢が首を傾げた。客が急に店を出ようとしてる事でも、それで早苗と押し問答になっている事でもない。


「……あんた、袖の下に何仕込んでんの? 随分重たそうだけど、暗器?」


「え?」


「ぅ……!」


 客がギクリと硬直。

 客の不自然な重心と衣服の偏りに霊夢の勘がざわついた。

 霊夢の言葉に早苗が客を注視しなおす。

 改めて見れば、着物の袖に何か角張ったシルエット。財布と見るには突き出すぎ。

 そして客の顔。痛い所突かれた強張りが隠せてない。


「……ちょっと失礼します」


「あ、ちょ、何を……ああ!?」


 やると決めれば早苗は速い。

 客の袖口に手を突っ込み、生地の上からブツを掴んで位置と形を確認。すかさず探し当てて引っ張り出す。


「これは……ペンチ?」


「『やっとこ』ね。真っ赤な金属挟んで固定するやつ。どう見ても使い込まれてるし」


「って事は……鍛冶屋さんの、商売どう……」


 いかがわしい物を見る少女の視線が2セット。


「ち……違うんです、これは──」


「何が違うんですか! お釣り断って帰ろうとしたの、これが理由じゃないんですか!?」


「まあ、こんな二束三文にもなんない使い古し、わざわざ盗む理由無いっちゃ無さそうだけども。身なりも悪くないし」


「違うんです! 盗むつもりなんて無かったんです! でも、何度やめようと思っても、気がつけばつい……私だってこんなものどうしたら良いやら!」


「ますますダメじゃないですか! 仕事道具が無いなんて、八ッ鉄さんすぐに気付いてたちまちお縄ですよ!」


「とりあえず今から縛っときましょう。『気付いたら~』とか責任投げてる時点で、次の瞬間にも何盗むか分かりゃしないわ」


「い、いやだ! やりたくもない事やったせいで捕まるなんて!」


「どの手ぇぶら下げてそんな口きいてるつもりなのよ。早苗、とりあえず──」


 ドガターン! ガダン、ドドドドド──!


 蹴破るような音、異様に重い物が着地する音、そして駆け足で霊夢達の方へ近づいてくる。


「ほーらきた」


「ンのしとォァァァッッ!!!」


 どこの訛りか分からん雄叫び諸共、銃声が雨霰に轟いた。

 店先の家財のあちこちを弾丸がぶち壊し、霊夢、早苗、男性客の服やら髪やら掠めていく。


「キャアアアッ!?」


「ひいいいっ!?」


 具体的過ぎる弾幕に思わず早苗がうずくまる。

 客は腰が抜けてその場にヘナヘナ座り込んだ。


「八ッ鉄ー、とりあえずそこに鎖があったから、これで縛っと──」


 ガチィンと甲高い音がして、霊夢の持ってた鎖の束が2つにぶった切られた。


「ちょ……」


「よげなこつすどっでねっぞぁ!!」


 躍り込んだ八ッ鉄は、鉄砲やら薙刀やら日本刀やら棒火矢やら鎖鎌やら手甲鉤やら体中から生やして、さながらハリネズミだった。


「客ぅに何ばすっち言うたばっかじゃろがい!」


「いや、その客があんたの『やっとこ』ギッたから捕まえとこうと──」


「オラぁと客の不始末ぁ、オラぁがケジメ取んだ!」


「えぇ……ここは手伝うとこでしょ。私にも常識ってもんくらいあるわよ」


「客ぅによげ(余計)な手間ぁ負わせったら商売人の名折れじゃ! ちょどしてそいつぅ寄越しゃ!」


「ダメだこりゃ……」


 小太刀3振り、指の股に一本ずつ挟んで爪のようにして切っ先を突きつけてくる。なまはげか般若が見える。


「た、助けて……し、死にたくない!」


「れ、霊夢さん逃げましょう! 幾ら何でも、盗みであんな物騒なの持ち出すのはやり過ぎです!」


「はぁ……まあ、頭冷やしてやれば、どっちかから『ねひりん』の情報も聞けるかもだし……流れ弾もらってるんじゃ、喧嘩売られたのと一緒だしね!」


 スペルカード1枚。弾幕ごっこのルールに持ち込んでから結界を広げる霊夢。


「泥棒さん、こっち!」


「ひいいっ!」


 半ば蹴飛ばすように盗人客を走らせる早苗。


のしと(盗人)ォになんけんげ(考え)っちょらぁっ!」


「こっちのセリフ! 頭ん中まで鍛冶炉たいてんじゃないわよ!」


 八ッ鉄が危険物だらけの装いで独楽のように回転して突撃するのを霊夢が防ぐ。

 ほとぼりが冷めるまで、武蔵堂の敷地内でメリケン映画ばりの逃亡劇が繰り広げられる事となった。



幻想郷に、メンタルクリニックや社会復帰支援ってあるんでしょうかね……。

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