終わりへの誘い
〜〜ある路地裏〜〜
どうして?
どうしてこんな事になったんだろう?
そんな疑問をずっと抱きながら私は狭い路地裏で息を潜めていた。
フードを深く被り顔がわからないようにして、出来るだけ周りを警戒する。
まるで犯罪者みたいだ。
外では警察の人が捜査をしている。
あまりの緊張感に息を忘れてしまいそうだ。
「ッぐっ……!」
私は銃弾が掠って血が溢れている左腕を押さえながら引きずるようにその場を離れる。
「お母さん……お父さん……」
私は亡くなってもういない両親を思い浮かべた。
ダメだ、辛い……。
辛くて涙が止まらない。
「……お願い…誰か…」
誰か、助けてください………。
〜〜8区の公園〜〜
「…………死ぬかと思った…………」
まるで魂が身体から抜けきったようにぐったりとしている神條。心なしかただでさえ光がない目が更に暗くなり死んだ魚の目になっている。そんな神條を榊原はケラケラと笑っていた。
結局、子供たちとサッカーをすることとなり三時間以上走り回ることとなった。普段運動をしない神條は早々にバテてしまい、子供たちにボコボコにされてしまった。ちなみに榊原は悪魔のような笑いをしながら子供たちを蹂躙していた。神條曰くもはや大人のやる事ではないとのこと。
そうして子供たちと別れ本命のお買い物となった訳だが、夕暮れどきになってしまったせいか、目的のものが売り切れてしまっていた。そうしてまた二十キロ先にある別の店舗まで移動することとなってしまったのだ。
そして買い物を終わらせて現在に至る。
「まじでヤベェ……ホントにヤベェ………」
「はははッ!!…あー面白い!まぁ大変ではあったからなー。よくこんなスケジュールを付き合ってくれたって思うわ。はい、俺の奢り」
「………サンキュ」
榊原は買ってきた瓶ラムネを神條に渡した。神條は礼をすると慣れたように素早く開けて、すぐさまラムネを口にする。炭酸が心地良く喉を刺激し、爽やかな甘味が彼の疲れた身体を癒した。
「っぷはぁ!…あぁ沁みるわぁ…!」
「確かに疲れた身体にラムネはサイコーだな!」
「ったく…折角の休日が台無しだっつーの」
「でもいつもと違う休日も楽しかっただろ?」
「はっ、二度とお断りだわ」
と首を振る神條だがその口元は少し笑っていた。そんな神條を見て榊原はより一層笑みを浮かべる。
榊原はグイッと残りのラムネを飲み干すとあっ、と思いだしたように神條へ問いかけた。
「そういや悠々真。焔祭ってどうするんだ?」
焔祭とは火ノ鳥島の一大イベントであり、この島全てを巻き込んだお祭りのことである。
人類が再び平穏に暮らせるようになったことを神に感謝し、祝うために毎年2日間行われている。
「あー俺はパスで」
「え!?なんでだよ!?」
「だからめんどくせぇんだよ。お前が毎年、全店舗回ろうぜとか言うアホなことぬかすから金もすげぇかかるし。しかも店回るにしてもこんなバカ広い火ノ鳥島を行き来すんのはマジで嫌だわ」
えー、っと不貞腐れる榊原だが神條が言わんとしていることも分かる。火ノ鳥島は昔存在していた日本の東京都の1.5倍ほどの面積があり一つの島にしてはそこそこ大きい。そんななか全店舗を2日間で回りきるというのは常人からみても中々にハードである。
そこをなんとかさ、と榊原が神條を説得しようとしていると…
「あ、見つけたッスよ!!」
と女性の声が聞こえ榊原はゲッと驚き其方を振り向いた。神條もそちらに目を向けるとそこには息を切らせ榊原を獲物を見つけたライオンのように鋭い視線を向けているスーツを着た黒髪ポニテの少女がいた。
「ヤッベ!!」
「逃がさないッス!!」
少女は逃げようとする榊原の背後を素早く回り込むとそのままの勢いで腕を掴み後ろに引っ張り身柄を取り押さえた。榊原がギブギブと言いながら暴れるが少女は全然力を緩めない。
あまりの急な出来事に神條がポカンとしていると少女がこちらを向きニコッと笑顔を浮かべる。
「すいませんおにーさん。ちょっとこの人渡してもらっていいッスか?」
「ダメだ悠々真!助けてくれ!」
少女の問いかけに榊原は必死に神條に助けを求める。
神條は目を瞑り、少し考えるとカッと目を開き榊原に満面の笑みを見せる。榊原はそんな神條を見てホッとした。
「どうぞどうぞ煮るなり焼くなり好きにしてください」
「協力感謝ッス♪」
「悠々真ァァァァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
裏切られた友の名を叫びながら榊原は少女にズルズルと連行されていく。神條はそんな彼に対して黙祷し、帰路につくのであった。
「俺の休日がテメェに潰されてたんだ。ちょっとはお前も痛い目にあえ」
休日を潰された私怨というのはとても恐ろしいものである。
ざまあみろと言わんばかりにホクホク顔で家に向かうと誰かと肩が当たってしまった。
「あっすいませ……」
と頭を軽く下げて謝ろうとした神條だったが、ぶつかったフードを深く被った子はその場で倒れてしまった。
その子は神條と同じくらいの少女だろうか?
とても可愛らしい顔をしており、肩くらいまである艶やかな黒髪がとても綺麗だ。
神條はその場で固まってしまった。
「ッ!?大丈夫ですか!?」
慌てて神條がその子によるとある事に気づいた。
そう身体の至る所がボロボロになっており、一部の箇所からは血が滲んでいた。
「ひっ!?ち、血が…!?と、取り敢えず救急車…!!あと警察にも電話……!!」
震える手で神條が電話をかけようとすると、倒れているその子は神條の手を掴んだ。
「…お願いします……警察は呼ばないでください……」
「いや、でも……!!」
「お願いします……!!お願いします……!!」
少女は声を震わせ、涙を流す。
あまりの光景に神條は困惑していた。
少女は何かの糸が切れたのか意識をなくしてしまった。
「お、おい!?……どうすりゃいいんだよ…!?」
取り敢えず手当てをしなければならないと思った神條は少女をおぶり近くにある自分の家を目指すことにした。
〜〜火ノ鳥島警視庁第8番隊本部〜〜
さてそんな中、神條に裏切られ連行された榊原というと、警視庁の第8番隊の本部部屋で土下座させられ、不貞腐れていた。目の前には仁王立ちしている鬼…ではなく怒りの眼差しをしている霧島がいた。先ほど榊原を捕まえた五十嵐は褒美として霧島からボーナス金をもらい満面の笑みを浮かべている。
「さて榊原隊長?言い訳はあるかしら?」
「何の言い訳ですかねぇ?」
「あぁん!?」
あまりの態度に怒りで今にも爆発しそうな霧島。だが雨宮が涙目で彼女を宥め今一度落ち着きを取り戻す。コホンと咳を払い再び霧島は口を開く。
「なぜ、貴方は着信拒否にしていたのですか?そしてなぜ連絡を返さなかったのですか?貴方に連絡をする時はよっぽどの非常事態の時ではしないってついこの間約束してましたよね?なのになぜでないのですか?」
「あ?そんなの決まってるだろ?」
何を言っているんだと言わんばかりに榊原は怪訝な表情を浮かべ、こう言い放った。
「仕事よりも遊びたかったからだ!!」
「コロス!!!!」
「き、霧島先輩!?落ち着いてください!!銃は、銃はダメですってぇ!!」
堂々とサボり宣言をした榊原に遂に殺意が有頂天に達した霧島はホルダーに収納していたリボルバーを取り出そうとするが、必死に雨宮がそれを抑えている。
そんな光景を五十嵐はケラケラと笑いながら榊原に今回の資料を渡した。サンキュと感謝しつつ資料に目を向けると榊原は目を見開いた。
「『人類最終兵器、〈神焉の巫女〉により火ノ鳥島が滅亡する可能性98%人類最悪の危険因子と判断したため速やかに捕縛、殺害せよ』ってなんだよこれ……!?」
そんな驚愕する榊原を見て冷静になった霧島が目を逸らしながら、
「そのままの意味です…残念ながらですが」
「……ターゲットは火ノ鳥島在住である16歳の女性、夜咫眞尋。戸籍上はどこにでもいる高校一年生ッスね」
「だったらなんで!?」
「榊原くん緊急事態っていう事はもうこれしかないでしょう?」
わかっていながらも信じられないと否定している榊原に霧島は事実を突きつけた。
「彼女は私たちと同じ異能保持者であるということよ」
数十年前の災害で人類にもたらされたものは滅亡だけではなかった。
地球に降り注いだ隕石のその核に未知のエネルギーを生成するある細胞が発見されたのだ。
その細胞は取り込んだものにそのエネルギーを分け与え、変異もとい進化する性質を持っていた。
この進化細胞を〈EVOL〉と名付けられ人類はこの細胞を使い発展できないかと模索した。
そして更なる研究の結果、この細胞を元に生成したナノマシンTRIGGERを体内に入れることによって人類は限界を超え、特殊な力である異能を手にすることができるようになった。
その異能を持つ者たちが異能保持者である。
だが、未知の力によって起こる戦争を危惧した国家によって封印されることとなったのだが、ある事故をきっかけにTRIGGERは世界にばら撒かれ、次々と異能を発現させた。
そして、抑止力のために国家は警視庁の優秀な警察官のみにTRIGGERを与え、ホルダー達による特殊部隊を作り上げた。
その一つがここ第8部隊である。
「……ありえない…!」
榊原は首を横に振りなお否定する。
「確かに異能を使った犯罪でたくさんのホルダーを捕まえてきた…だけど、あくまでも捕獲だ!どんな凶悪犯でも殺していいわけじゃないだろう!?忘れたのかよ?ホルダーだって今を生きてる人間なんだぞ!!」
「……ぼくも先輩と同じ意見です。ぼくたちは市民を守るためにこの力を使っています。決して人を殺めるために使うものじゃないはずです…!」
「自分もちょっと腑に落ちねーッス。……隊長もいるし話してくれませんか?なんか知ってるんでしょう副隊長?」
三人の真剣な眼差しに霧島は固く閉ざした口を再び開いた。
「……たぶん彼女の中にある神焉の巫女が原因でしょう」
「しんえんのみこ?なんスかそれ?」
五十嵐が不思議そうに聞くと霧島は続けて話す。
「これは総監から直接聞いた話なのだけど、ナノマシンであるTRIGGERはある兵器を元に作られた…それが神焉の巫女」
「それがなんだってんだ?」
「神焉の巫女は簡単にいえばTRIGGERのプロトタイプです。基盤となった細胞であるEVOLの使用率も高いらしくさらに化学の力によってその性質を強化したせいでより強力なホルダーを生み出せるんです」
「で、でもそれだけなら別に殺す必要なんてないですよね……?」
「そう、それだけなら……」
おどおどしながらも雨宮はまだ否定する。
霧島は拳を血が滲むのではないかというくらい力強く握る。
「あの神焉の巫女というナノマシン兵器にはもう一つ特徴があります。それは強化したEVOLの力によって細胞だけでなく異能までもが無限に進化し続けてしまいます。それこそ、神様ですら殺せるくらいまでに。さらに人の許容力が増大するため異能を複数扱うことも可能とのことです」
「……ははッ…なんだそれ、もはや笑えねーんだけど」
あまりのスケールのぶっ飛び具合に榊原は腰が抜ける。雨宮と五十嵐の二人もあまりの衝撃に口をポカンと開けて言葉を失っている。
それもそうだろう。異能が無限に成長するというチートを具現化した力とただでさえ普通よりも強力な異能を複数扱える力がオプションで付いているのだ。
なぜ警察が血眼で彼女を狙うのかということを納得する理由には悔しいが充分すぎる理由であった。
「……異能はどうなんだ?彼女はどんな異能を所持している?」
俯き声を震わせて榊原は霧島に問いかける。
霧島も重い口を無理矢理動かして答えた。
「…今開花しているので、二つ。一つはあらゆる物質を完全に制御する異能、世界の支配者。そしてもう一つは新たな物質、生命を生み出せる異能、母ナルモノです……!」
あまりの強力な異能に三人は頭が痛くなってしまった。
どうもゆゆ色です。
こんなふうに僕は週一くらいで投稿していこうと思うので気長に待ってくれると幸いです。
また調子が良かったりした時は週に二話、三話くらい投稿しようと思います。
それではまた次話でお会いしましょう。