表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
胸を張って歩ける日まで  作者: 未田
第02章『鏡に映った姿』
8/113

第04話

 姫奈は昨日、美容室に行ってきた。その足で眼鏡を新調し、さらにドラッグストアで化粧品を調達した。

 それだけでひどく疲れたが、今朝はいつもよりも一時間早く起きた。

 母親から借りたヘアアイロンで髪を整え、生まれて初めての化粧もした。

 あらかじめ何を準備しどう使うのかを調べ、ルーズリーフにまとめておいたので、指標は出来ていた。

 想定通りにいかない事も練り込み済みだったが、初めてにしては及第点な出来だった。

 実際に自分で触った今だからこそ、あの短時間で他人にあそこまでの化粧をしたアキラの技術が、改めて凄いと思った。



 疲労を感じさせないほど緊張しながら登校し、教室に入った。

 心なしかいくつかの目線を感じたが、それに気づかない振りをして自分の席へと向かった。


「お、おはよう」


 隣の席のクラスメイトに挨拶をした。

 彼女は明らかにじーと姫奈を見上げていた。


「澄川さん……変わりすぎでしょ」

「あはは……。ちょっと遅い高校デビューみたいなものかな」


 姫奈は自虐気味に笑って見せた。

 入学前に済ませておけば変化を周囲に変化を悟られなかったが、もう遅い。笑いの種にするしかなかった。


「なんかもう、女子大生みたいになってんじゃん。引くわー。わたしら高校に入ったばっかだよ? ほんとに同い歳?」

「そ、そう?」


 痛んだ髪の補修はまだ済んでいないが、胸のあたりまで切り、ストレートパーマをあてた。大人びた感じにしたいと美容師に相談したところ、前髪は横分けにし、なるべく額を見せるようにした。

 そして、眼鏡は小振りなオーバル型にした。いろいろと試着した結果、これが物柔らか、かつ知的で落ち着いたイメージだと思った。


「背そんだけ高くて美人顔なんて、ズルくない? あっ、こないだのテストも結構良かったよね? 反則じゃん!」

「えー。そんなこと言われても……」


 クラスメイトからの想像以上の反応に、姫奈は必死に照れるのを隠した。内心ではガッツポーズをとっていた。


「ねえ、今度カラオケでも行こうよ。罰として、澄川さんのオゴリで」

「何の罰よ! わたし、お小遣いもうスッカラカンなんだけど」


 高校に入学して、約二週間。こうしてクラスメイトと勉強以外の他愛も無い話をしたのは、初めてだった。


「なになに? 朝からどしたん? わっ! 澄川さん!?」


 ふたりの談笑に、他にも何人かクラスメイトが集まってきた。

 姫奈はようやく、高校生活に充実感を味わえたような気がした。



   *



 その日の放課後、姫奈はEPITAPHに顔を出した。


「お疲れ様です」


 相変わらず、客はひとりも居なかった。

 カウンターの向こうのアキラは姫奈を見ると、気だるそうな表情から一辺、安心したように微笑んだ。


「なかなか良い感じじゃないか。これなら看板娘を任せられるな」


 憧れの女性からその言葉を貰えたのが、姫奈にとって今日は一番嬉しかった。

 この人と出会わなければ、この人が変えてくれなければ――きっと今も、暗い気分を引きずっていた。


「ありがとうございます! 改めて、よろしくお願いします!」


 感謝の意味でも、今日からここで頑張ろうと思った。

 そんな姫奈に、アキラは頷いた。

次回 第03章『煙草の味』

突然体調を崩したアキラを、姫奈は介抱する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ