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胸を張って歩ける日まで  作者: 未田
第09章『思い描く将来図』 【第2部】
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第23話

 文理選択の用紙の提出期限が明日に迫ったが、姫奈は未だに悩んでいた。

 自室の机で、空白の用紙を広げていた。こんな小さな紙で人生が左右されると思うと、あまり気は進まなかった。


 八雲はどうなんだろう。

 ふと、携帯電話のメッセージアプリを起動させ、八雲との会話画面を開いた。しかし、他者ではなく自分の問題だと思い、携帯電話の電源ボタンを押した。


 将来、自分のやりたいこと――現在、興味のあること――

 それらをぼんやりと考える。

 思考の向かった先は、現在のアルバイトだった。


 晶が帳簿をつけて店のことを考えているのを見て以降、漠然と『経営』に興味があった。

 経営学は、文理どっちなんだろう。

 姫奈は想像できなかったため、携帯電話のインターネットで調べた。

 結果、文理どちらかに傾いているわけではなく、その中心に位置した。確かに、社会的な知識の他に計算も行わないといけないため、そういう意味では総合的な学問だと納得した。

 ただ、結果的に求められるのは文理総合的な学術ではあるが、大学入試に必要な科目は文理どちらからでも行えるようだった。各大学の入試要項を眺めていると、およそ半々――強いて言えば、文系寄りの科目を扱っている大学がやや多い印象だった。

 それを確かめると、姫奈は用紙の『文系』という文字を丸で囲った。そして、用紙をクリアファイルに入れ学校鞄に仕舞うと、ベッドに横になった。


 これでいいんだろうか……。


 春の日に、客船ターミナルの広場でひとり悩んでいたのを思い出した。あの頃と違い、こうして文理選択を出来たことは大きな進歩だと姫奈は思った。

 しかし、何かが引っかかる。


 ――わたしは、本当に経営を行いたいんだろうか。


 将来の漠然とした姿よりも『EPITAPHの黒字化』が、姫奈にとって最も身近な課題だった。

 晶の言う方向性が本当に正しいんだろうか?

 わたしが大学で経営学を勉強することにより、黒字化は可能なんだろうか?

 それらを考えるが、答えは不透明なままだった。

 というより、経営者として既に晶が居る以上、口を出している姿がそもそも想像出来なかった。


 それよりも、わたしが出来ることは――

 姫奈は思い立ち、携帯電話で『バリスタ 専門学校』と検索した。


「あるんだ……」


 無いという先入観があったため、検索に引っかかり驚いた。

 詳しく見てみると、ドリンクの他に製菓や製パン等、カフェの技術を総合的に学べる学科が多かった。一年制から三年制まであり時間は一概では無いが、学べる内容が変わってくるのだろう。

 大学の情報を眺めている時よりも、姫奈の心は踊った。

 晶はあの店で黒字化は非現実的だと言うが、もし品質の高い商品を提供できるなら、可能性は無いだろうか。姫奈はそういう夢に賭けてみたい一面もあった。


 しかし、専門学校への進学は、なんだか考えられなかった。

 進学校に通い、現在まで大学進学を念頭に置いてきたため、その方向転換にはまだ戸惑う部分があった。


 何にしても、高校卒業にはあと二年以上かかる。

 二年以上先の事は、まだ分からない。

 所詮はアルバイトだが――高校卒業後も、晶とあの店を続けていたい気持ちはあった。

 その一方で、赤字を垂れ流しながらも晶はいつまで続けるのか分からない不安もあった。

次回 第10章『赤面の理由』

天羽晶の情報を嗅ぎつけたマスコミが、EPITAPHを訪れる。

(連投分は以上となります。次からは土日除く週3ぐらいの更新になります)

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