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第二十一話

 すぐさま、降伏を意味する大きな白旗がカズム城に掲げられた。

 千里眼でそれを確認した仙竜は、

「……イージス、ヤムシン、シイラ。命拾いしたな」

と言って彼方へと消えた。


   *


 こうして争いは終わった。

 勇者バタイユを犠牲にして、人間はかろうじて滅亡を免れたのだ。


 降伏したカズム王国の王族たちは、シイラが総代表を務めるチーリン全州邦の古い屋敷に幽閉され、暫時、王国はアシュラ帝国ら四か国連合による共同統治下に入った。


 仙竜の一件により、再び戦争が起これば、人類自体が滅ぼされるだろうことは、どの国もよく知っていた。

 そのため、カズム国王らの処刑など、民の動揺を誘うような強硬な措置はできないというのが四か国の総意となっていた。


   *


 そうこうしている間に四か月が過ぎ、寒季の気配も近づいたころ、カズム王国の復旧もようやく目途が付いた。


 幽閉された国王も、今ではき物が落ちたかのように穏やかな表情を取り戻し、屋敷にあった古文書を読みふけっている。最近は屋敷に学者を呼び、教えを乞う程だ。


 エリスもかつての優しさを取り戻し、子どもたちと多くの時間を過ごしていた。

 敷地内の監視の目が届く範囲であれば外出も許されたため、リムとスカイもほぼ不自由なく遊ぶことができた。


 しかしながら、不意にバタイユのことが話題に上る度、悲しみが家族を包むのだった。


「お母さん、何をしているの?」

「スカイ。これはね、お本を書いているの」

 リムが草稿をのぞき込んで言う。

「あ……。これ、お父さんのお話?」

「そうよ。この世界を救ってくれた、お父さんのお話。……みんなが、お父さんのことを忘れないように、ね」

 そこで紙にぽつりと雫が落ちた。

「お母さん……?」

「……ごめんなさい。ちょっと、一人にしてくれるかしら」

 子どもたちが心配そうに部屋を出ていく。

 一人になった母親は、ハンカチで目元を押さえてていた。


「……泣いてるのか? エリス」


 エリスが顔を上げて窓の方に目をやると、あまりの驚きに目は見開かれ、言葉も失われた。

 ――そして、先ほどよりも多くの涙が頬を伝った。


「おかえりなさい。あなた……」

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