第十九話
両軍の兵は熱波から逃げ出して、まだ散り散りになっている。
「バタイユ殿の気配は……」
シイラは感知魔法で周辺を探っていた。
「かすかにですが、クレーターの中央に感じます」
シイラの顔にかすかな喜びが漏れたが、すぐにそれは困惑に変わった。まだ戦いは終わっていないのだ。
「さすがは勇者といったところかの……。神器には、本当にあきれるわい」
クレーターの中央には、煤けてうずくまるバタイユの姿があった。
バタイユの外法魔力を吸収してきた神衣ユルヴィールが、今まで溜め込んできたきた魔力の一部を反射的に解放して、主人を守ったのだ。
イージスたち三人がクレーターの淵に立ち、かつてのリーダーを見下ろす。
「……さすがのバタイユ殿も、しばらくは意識を取り戻さないでしょう」
「無駄な流血を避けるためにも、今のうちに王城に攻め入るべきじゃろうて。バタイユのためにもな」
ヤムシンが二人に飛行魔術を付与していたとき、上空に現れたのは――かつて勇者一行に修行をつけた竜族の長、仙竜だった。
「失望したぞ、人間ども。あれ程渇望した平和を自ら投げ捨てるとは」
「……仙竜様、決してそのようなつもりは。これには理由があるのです」
だが、仙竜は聞く耳を持たない。
「……だから、人間など見捨てるべきだと、あの時、我は申し上げたのだ」
仙竜が右手を挙げると、三人は地に平伏した。
「こ、これは一体……」
「元々、その装備は我々が授けたもの。その際の契約を破った罪、万死に値する」
三人が装備する竜装には、竜族の特殊な魔力が込められている。仙竜はそれを操作することにより、三人の自由を奪ったのだ。
押しつぶされたように、三人が地面にめり込む。
もし、彼らが竜装でなかったのならば、一矢報いる可能性はあっただろう。
だが、バタイユと戦うため、彼らが竜装を選ぶのは必然だった。
「……そう、人間さえいなければ。あのお方がお隠れになることも、魔物が暴走することもなかったのだ。争いの種は、常に人間が撒いてきた」
仙竜の目には、明らかな憎しみが宿っていた。
「やめてくれ……。仙竜様」
後方からの声に仙竜が振り向くと、そこにいたのはバタイユだった。
明らかな満身創痍。声もかすれて弱々しい。
だが、それでも彼は立ち上がった。
「バタイユ。我は人間を滅ぼすことにした。だが、お主には恩がある。そこで黙って見ていろ」
「そういうわけにはいきません。おれは、仲間を守ると決めましたから」
バタイユは剣を抜き、構えると、この日五度目の外法を発動させた。
「その構え……。ヴァーミリオン・オーバードライブか。お主、死ぬぞ」