第十七話
五輪同盟を破棄した四か国の連合から、カズム王国に対して宣戦布告が届いたのは、一昨日のことだった。
四国連合の筆頭は、あのアシュラ帝国だ。
各国境を突破した三万人の連合軍が、今、城塞都市を取り囲んでいた。
「なぜ、こうもあっさりと国境が突破されたのだ!」
カズム城の謁見の間で、バタイユの義父である国王が怒りを顕にする。
「恐れながら……。バタイユ殿下の不在により、士気の乱れ甚だしく」
軍師が顔を伏せたまま報告する。
「それで、賊軍は何を要求しているの?」
エリスは、王の隣に立って言った。
「陛下の……退位でございます」
*
そのころ、連合軍は野営を始めていた。
『明朝まで返事を待つ』
それが彼ら四か国の合意だったからだ。
「ここまで来て野営とは……。実に生温い」
中央に構える三人のうち一人――イージス・アシュラが愚痴をこぼす。
「それが、我らを導いてくださったバタイユ殿への敬意です」
長身かつ細身の男が、イージスを諫めるように言う。
「……それにしても。なぜあいつは出てこんのだ? 国を出たと言う、あの噂は本当だったのかのう」
老人が、己のあごひげを何度もなでている。
「どちらでもよい。各国に対し強引に負担を強い、世界の調和を乱した一族の一人であることに変わりない」
「だからこそ、バタイユ殿は苦悩されたはず。もっと早い段階で話し合うことができれば……」
「それを言うな。兵を挙げた今となっては、もはや手遅れじゃ」
沈黙が三人の将を包む。
しばらくして星々が空に輝き出したころ、一人の兵が走ってきて、
「こちらに一人、向かって来ています! ……おそらく、勇者バタイユです!」
と三将に報告した。
*
こうして四人は再び対峙した。
五年ぶりの再会に笑みはない。
「我々の前に立ちふさがるか、勇者」
「……イージス。そして、シイラ、ヤムシン。久しぶりだ」
シイラが一歩踏み出す。
「バタイユ殿、こんなことになってしまい、本当に残念です」
「わしらも鬼ではない。カズム国王の退位で手を打つことにした。どうだ、バタイユ。おぬしも、これが意味するところはわかるじゃろう?」
「ヤムシン……。ありがとう。だが、おれがそれを受け入れられないこともよく知っているだろう。だから、頼む、どうか手を引いてほしい」
イージスが堪らず割って入る。
「この期に及んで、ざれ言を」
バタイユは剣を持たず、肩幅に足を広げた。
「武器もなく、勝てるとでも?」
「違う。おれは決めたんだ……。仲間を守ると。だから、仲間とはもう戦わない」