第十五話
嵐の中、親子は七年ぶりに再会した。
「母さん……。ただいま」
「おかえり、優。とりあえず、お家に帰りましょう」
久しぶりに見る母は、少しやせたように感じた。一人息子が突然失踪したのだ。その悲しみは、今の彼には痛いほどわかる。
なぜ、彼女が嵐の中、わざわざ犬の散歩をしていたのかなど、今さら考えるまでもないことだ。
泣き出したい気持ちを抑えつつ、息子は自宅へと戻った。
*
「お父さん! あの子が、優が……。帰ってきたよ」
あのころと変わらず、父は居間で新聞を読んでいた。だが、その頭は見事なほど真っ白になっていた。
「ただいま、父さん」
「おかえり、勇。……そこに座りなさい」
久しぶりに家族は膝を突き合わせた。
母親は、まるで彼が帰ってくるのを知っていたかのように、台所から次々と料理を出してくる。
彼は、『異世界で魔王を倒してきた』とは言えなかったが、一角の仕事を成し遂げたこと、結婚し、子どももいることなどを説明した。
それを聞いた両親も、
「元気そうで何よりだ」
「孫に会いたいわ」
と言ってくれたのが、彼には嬉しかった。
懐かしい手料理も、ひととおり食べ終わったころ、父が
「優。そろそろ帰りなさい」
と言った。
「でも……」
「帰るんだ!」
突然の父の激昂に、母が口を添える。
「あなたには、やるべきことがあるはず。私たちのことは、気にしないで」
やはり、この世界に『も』居場所はなかったのだと彼は思った。これが当然の報いだとも。
「……行くよ。父さんも、母さんも、お元気で」
玄関で靴を履いていると、母が見送りに来てお守りを渡してくれた。
「ありがとう」
息子は、やっとのことでその言葉を絞り出すが、遂に涙が溢れてしまった。それを見た母親も、涙が止まらなくなっていた。
そして、哀れな息子は、心の中で
『ごめん』
と何度も謝った。
両親には、息子が失踪した理由も、帰ってきた理由も何となくわかっていた。
「行ったか……」
玄関の扉が閉まる音を聞いて、父親がつぶやく。
「がんばれよ、勇」
読んでいた新聞には、黒い滲みができていた。
*
嵐の中、彼は再び神社に戻った。
あの異世界に戻れるかはわからなかったが、精神を集中させ、外法の要領で時空の歪みを探った。
来た道を見つけるのは、驚くほど簡単だった。
時空の穴は、普通、瞬時に修復されてしまうから、その痕跡を探るのは至難の技だ。だが、今回はまるで門のような存在として、それが維持されているのだ。
こんなことができるのは、――ウルピア以外にないだろう。
彼は手を伸ばし、再びバタイユとして生きることを決めた。