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第十三話

「……これほどとは、な。正直、今の私には吸いきれん量だ」

 ウルピアの苦い顔。嘘を言っているとはとても思えない。

「そんな……」

「早まるな。幸い、備えは既にできている」

 ウルピアは、胸元から小瓶を取り出すと、それを飲みだした。

「本来なら、この娘に飲ませたいところだが……。まだ実験段階だからな」

「それは何だ? 急に顔が青ざめたように見えるが……」

 ウルピアが空瓶を投げ捨てる。

「……私の庭にあった、魔力で育つ花を覚えているか?」

「ああ」

「これは、その種を発酵、蒸留させたものだ。私の計算では、粉の約百倍は魔力を吸収できる」

「そんなものを飲んで、大丈夫なのか?」

「だから、実験段階と言ったのだ!」

 リムの腹に両手を添えて、ウルピアは目を見開く。

 そしてこの時、バタイユもようやくウルピアの算段を理解する。

 ウルピアは、自分自身を魔力欠乏状態にさせることで、魔力吸引を続けようとしているのだ。

 だがそれは、自らの命の危険も伴う荒業あらわざに他ならない。

 それにもかかわらず、ウルピアは躊躇なく決断した。自分を殺した男の娘のために。

 あの素朴な庭に、このような試みが隠されていたとは――。バタイユは、そんな彼女をからかってしまったことを悔やんでいた。

「……終わったぞ。バタイユ」

 顔色こそ大分戻っていたが、ウルピアの息は上がっていて、その頬や額には汗がしたたっていた。

「リムを、早く休ませてやれ」

 父の腕の中で、リムは心地よさそうに眠っていた。


   *


 アシュラ軍の襲撃から一週間が経ったが、依然続く長雨のせいで、城下の復旧工事は思うように進んでいないようだ。

 ――そんな中、裏門から城を出る一つの人影があった。

 バタイユだ。


 彼は『療養』というていで、遂に、王室から放逐されることになった。

 幼い子どもたちを置いていくことは耐えがたかったが、子どもたちに選択を強いることなどできようがない。


 リムは三日前に目を覚ました。

 ウルピアによれば、先の魔人化は、単にリムの結晶化体質が原因ではないという。

 あの時のリムの自責の念――即ちストレスが、彼女の精神のバランスを狂わせ、それによって体内魔石の力が暴走したという見立てだ。

 夫婦げんかの度にリムが見せていたあの苦悶の表情は、単に両親を心配する気持ちからではなく、自身の魔力が暴走するのを必死で食い止めようとしていたことの表れだったのだ。

 しかし、先に立つ後悔などありようがない。


 バタイユは、使い込まれた皮のローブで顔を隠しながら、逃げるように城を出た。

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