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第一話

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 彼がこの世界に召喚されたのは、もう七年前のことだ。

 宮殿の浴場で顔を洗いながら、久しぶりに彼は、まだ自分が日本にいた頃を思い出していた。


   *


 ――あの頃、就職活動に失敗した彼のメールボックスは「お祈り」の山になっていて、メッセージアプリからは、友人たちの忙しくも充実した日々が漏れ出していた。

 全てを諦めて実家に帰った彼は専ら自分の部屋に引きこもっていたが、父も、母も、そんな彼を責めなかった。だが、彼にとってはそれがなおのこと堪えた。定年退職間際の父は、毎日ネクタイを締めて静かに家を出ていくが、持病の薬は年々増えていくばかりだ。

 就職活動という社会のふるいにかけられ、彼の心は散った。

 学力には自信があった。それなりの大学で単位を修めた。

 ……だが、面接官に対して、うまく自分を語ることができなかった。

 そして、己の人間性に対して下される否定的結論。

 社会から拒絶されたという事実。

 そして彼は悟った。生き方を間違えた、と。


 そんな彼の心を唯一なぐさめたのは、愛犬との散歩だった。

 父が保健所から引き取ってた子犬だ。その理由はわからないが、父なりに考えるところがあったのだろう。

 川岸の小高い丘の上にある神社から、この愛犬とともに夕陽が沈むのを眺めるのが、いつしか彼の日課になっていた。


 あの日も、彼はその神社に来ていた。

 雨と風が激しく、川は黒い。水位もいつになく上昇していた。

 当然夕陽も見えない。

 彼が見上げると、鳥居のしめ縄と看板が激しく揺れていた。

 ――『大須神社』。それがこの社の名前だ。

 祭神は世虞外大須命よぐそとおおすのみことというこの集落の鎮守で、『この世界から恐れられる外宇宙の大いなることわり』という意味を持つ。

 その名のとおり、豊穣などの恩恵をもたらす神ではなく、災害や神隠しの原因として畏れられてきた。

 一言でいえば邪神であり、ここはそのご機嫌を伺うための祭壇だ。


 嵐に呑まれた者は、神隠しに遭う――。

 そして、これが集落に伝わる伝承だ。そのせいか、その日も彼以外に人影はなかった。


 だが、彼にとってはむしろこれは救いだった。

 親のすねをかじり続けるごく潰しという事実から逃れるため、その日、彼は鳥居の下に立ち続け、神隠しに遭うことを願った。


 ――そして、雨粒が霧となり、周りを暗く包み込んだところで、彼の意識は途絶えた。


   *


「ようこそおいでくださいました。勇者さま」

 異世界で目を覚ました彼を迎えたのは、金に輝く髪と青い瞳、そして白い肌の姫――今の彼の妻、その人だった。

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