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二話

 わたくしのお父様とお母様も政略結婚でした。

 お二人には愛人がおります。しかし愛人を作られた経緯は全くといって正反対でございました。


 お母様は最初は政略結婚ではあったものの、お父様を愛そうと必死に努力をされていらっしゃいました。

 しかしお父様は、お母様がわたくしのお兄様を身籠られると早々に愛人の住む別宅に入り浸るようになりました。


 その当時のお母様のお心を思うとわたくしは悲しくなるのです。お父様は元々伯爵家の次男でした。婿入りしグリスフィール公爵となった方でした。


 そうです、グリスフィール公爵家はお母様の生家なのです。いくら貴族の間では愛人を作るのは当たり前といえども、お父様のようなお立場で早々に愛人を作るような方はなかなかおりませんわね。


 無事に跡継ぎであるお兄様をお産みになられたお母様は、グリスフィール公爵家の為にもう一人お子を産むことにしたのです。そうして産まれたのがこのわたくしです。


 お父様も愛人との間に娘を設けておりました。しかもわたくしと同い年の娘でございます。

 そうです、リディアーナです。あの愛らしい妖精のように可憐なリディアーナでございます。



 自分の役目を果たしたとばかりにグリスフィール公爵家の屋敷には戻らず、お父様は別宅で愛人とリディアーナと三人でそれは仲睦まじく暮らしておりました。


 やがて公爵としての執務までまともにしなくなったお父様の代わりを、お母様は必死に勤めていらっしゃいました。

 貴族ともなりますと離婚したくとも簡単には出来ないものです。それに醜聞にもなりますもの……。


 お母様はそんなお忙しい合間になんとか時間を作っては、お兄様とわたくしをそれは可愛いがって下さいました。

 お兄様もわたくしも、お母様を心から尊敬しておりますのよ。


 そしてとうとうお母様は、わたくしと同い年のリディアーナの存在を知りました。

 お父様を信じ愛そうと努力を重ねていたそのお心がどうなって仕舞われたかのか……考えずともお分かりになるのではありませんか?


 そんなお母様をずっと支えて下さっていたあの方と、とうとうお母様はお心を通わせたのです。

 お母様とあの方は、仕事の上のパートナーと皆様思っていらっしゃるのでしょうが違います。実はお母様の愛人なのだということを知っているのは極僅かの人間だけなのです。


 こうして愛人を持ったお父様とお母様ですが、いざ社交となると『仲の良い夫婦』をそれは上手く演じていらっしゃいます。

 ちなみにこういうのを『仮面夫婦』と呼ぶのだとわたくしはつい最近読んだ小説から知りました。


 そんな両親の元に産まれたわたくしは、人一倍愛というものに憧れておりました。夫婦として愛し愛されることに、子供の頃から憧れていたのです。



 カイン様は本当にお優しい方でした。

 わたくしはカイン様にとって政略的に結ばれた婚約者です。きっとわたくしとの婚約はカイン様の本位では無かったことでしょう。本来であれば最低限の関わり合いしかされなくてもおかしくはありませんでした。


 ですがカイン様は違いました。

 いつも優しく、礼儀正しく、わたくしを婚約者として大切にして下さいました。カイン様に恋をしていたわたくしは、それが嬉しくて堪らなかったのです。


 カイン様とは定期的に婚約者としてお会いしておりました。短い時間ではありましたが、お茶を飲みながらお互いの近況を語り合いました。会えない時には手紙を送り合ったりも致しました。


 カイン様からは、度々贈り物がありました。少々わたくしの好みからは外れてはおりましたが、そのどれもがわたくしの大切な宝物となりました。


 わたくしは未来の王妃として王妃教育を受けておりました。

学ばねばならないことは多岐に渡り、覚えねばならないことは膨大でした。

 本当に厳しい教育でした。わたくしは寝る間も惜しんで毎日勉強に明け暮れておりました。あまりに辛くて、わたくしは投げ出してしまいたいと何度も思いました。


 ですがその度にカイン様を思い浮かべては、必死に自分の心を奮い立たせていたものです。今となっては、あの頃の純真無垢だったわたくしが眩しくも羨ましくもあるのです。



 こうしてカイン様への思いをより深めていったわたくしは十五歳になりました。

 その頃にはわたくしは、お母様譲りの銀の髪にアイスブルーの瞳、自分で言うのもなんではありますがその美貌から『氷の令嬢』と呼ばれるようになっておりました。

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