狩る者
「ん・・・・・・」
手に持っていたコーヒーカップの水面が揺らめく。
「なんだ・・・・・・?」
わずかな地響きを感じた。距離はおそらくそう遠くない。
モンスター同士が縄張り争いでもし始めたか、それともプレイヤーが狩りでも始めたのか。いずれにしても何かがそこで争っているのは間違いない。
しかし妙だ。
ここら一帯は渓流地帯で、出現するモンスターは小型から中型のモンスターがほぼ。レアモンスターがポップすることも珍しい。
いずれにしても、地響きを起こすほどの大型モンスターがポップすることはほぼない、はずだが。
だからこそ静かな渓流地帯ということで、密かに心のオアシスとして軽い旅行気分を満たすために訪れる者も少なくはない。
それだけ落ち着ける場所でもある・・・はずなんだが・・・。
「山神か巨人でもでたか・・・・・・」
傍に置いた刀をとり、少年はすっと立ち上がった。
ぐいっとコーヒーを飲み干すと、口の中に甘苦い感覚が拡がる。VR世界でもこれはなかなかの再現度ではなかろうか。
そして右上に表示されたステータスバーの横に「眠り状態耐性」の強化がついた。これがこの世界において、目に見える形での飲食の意味だ。
飲み干すと、コーヒーカップは自然と消える。
そして空いた右手に刀を持ち替え、背中に携えた。
その後ろ姿は────ただひたすらに白い。
まるで凍りついたように。
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