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12話

 

「あの、どうして私をダンスに誘ってくださったのですか?」

「それはもちろん、素敵なお嬢さんだなと思ったからだよ」

「お世辞はよしてください。子爵とは一度しかお話したこともないのに……」

「……爵位で呼ばれるのはあまり好きではないんだ。だからギデオンって呼んでくれないかな?」


 たくさんの視線を浴びながらのダンスはとても踊りにくい。

 でもあまり人前に出ていらっしゃらないレルミット子爵がパーティーに現れれば当然注目の的になるわよね。

 しかも相手はシャルに婚約破棄――婚約解消された私だもの。

 びっくりしてこちらを見ているお父様とさっき目が合ってしまったわ。

 ちなみに研究科生が卒業パーティーに出るのもそれほど珍しくはない。

 ただギデオン様のお姿が本当に珍しいだけ。


「ギ、ギデオン様はひょっとして噂をお耳にされたんですか?」

「……懐かしいな、その呼び方」

「はい?」

「いや……。あなたの噂のことなら聞いたよ。昔から噂っていうのはなくならないね? 悪役令嬢だとか、婚約破棄だとか」


 そう言って笑うギデオン様は楽しそうに見える。

 何て言うか……悪戯が成功したみたいな感じ?


「それで同情してくださったのですか?」

「同情? ああ、いや。それが理由でダンスに誘ったわけではないよ。率直に言うと失礼だとは思うけど、興味があったんだ」

「興味?」

「あなたのことは聞いていたから。面白いレポートを読んだって。だから僕にとってこれは卒業祝いというより、研究科への歓迎祝いかな?」


 その言葉を告げた途端、くるりと回されて驚いた私はそれ以上追及することはできなかった。

 ギデオン様はとてもダンスがお上手で、驚きはしたけど危ないことはなくてそこは安心。

 それにこれ以上追及するのも野暮というか、たぶんオリヴィアさんから私のことをお聞きになったのね。

 ってことは、あとはこのダンスを楽しもうっと。

 きっともうこんな機会はないし、ステファニーさんは悔しそうな顔をしてるしでスッキリ。

 うん。私って性格悪い。


「素敵な時間をありがとうございました」

「こちらこそありがとう。楽しかったよ。それではまた研究科でね?」

「はい!」


 ダンスが終わってギデオン様と別れると、入れ違いにお父様がやって来た。

 目立ってたから当然ね。


「レルミット子爵と知り合いだったのかい?」

「いいえ。そういうわけではないですけど……研究科への歓迎らしいです」

「だからといって、あの方がこんなパーティーにお顔を出されるなんて……」

「まあ、いいじゃない。私としてはすごく幸運だったわ。とても素敵な方と踊れたんだもの。だからその余韻が残っているうちに帰りましょう?」


 お父様は納得いかないみたいだけど、オリヴィアさんのことを説明するのも面倒なので話を切り上げる。

 するとお父様も同意してくれて、アンネットに手を振ってから私たちは帰宅の途についた。


 次の日はいよいよ卒業式。

 だけど話題は昨日のギデオン様のことに占められていて、私は登校するとすぐにみんなに囲まれてしまった。

 どういった知り合いなのかと訊かれて返答に困ったけれど、無難にオリヴィアさん絡みで少し面識があったのだということにしておいた。

 嘘じゃないものね。


 式では在校生側に座っているステファニーさんと目が合ってしまった。

 とっても悔しそうに睨みつけてくるのはギデオン様のことでかな?

 ふふん。ギデオン様を利用したみたいだけれど気分上々。

 シャルにはさっと目を逸らされてしまった。

 たぶんこの先、シャルとはめったに会うことはなくなってしまう。

 社交界にはもうデビューするつもりはないし、研究科も棟が別で避けようと思えばできるから。


 でも間違いなくシャルは私の初恋だった。

 いつの間にか弟のようにしか見れなくなったのは残念だけれど、これでよかったのよね?


 王立学院高等科の卒業式は、卒業を機に故郷に帰る子たちも多くて、涙を堪えることはできなかった。

 アンネットもさっそく明日には帰ってしまう。

 だけど私も明日から研究科生として研究室に入ることになっているから、いつまでも悲しんではいられない。


「それじゃあ、アンネット。また絶対に会いましょうね!」

「うん、絶対にね! それより先に手紙を書くわ」

「ありがとう。楽しみにしてる。それじゃあ、また」

「ええ、またね!」


 アンネットとはあまりぐずぐずせずに別れることができた。

 だって絶対また会えるもの。

 それより先に私も研究科のこととか手紙を書こうっと。


 そう思っていた私の許に届けられた最初の手紙はなんとジェイ先生からだった。

 すごくびっくり!

 内容は卒業と研究科への進学をお祝いしてくれていた。

 どうやらオリヴィアさんにレポートを勝手に見せたことを気にしていたみたい。

 だけどなかなか言い出せなかったとか。

 そこまで気にする必要もなかったのに。


 それからはメイアウト王国にいらっしゃるジェイ先生との文通が始まった。

 しかも手紙だけでなく、珍しい植物などもたくさん送ってくださって、あれこれと実験を重ねて疑問点は相談する。

 正直に言って、距離がもどかしい。

 でもメイアウト王国の植物があってこそで……って、それはお父様に頼めばどうにかなる問題。

 本当はジェイ先生に会いたいって気持ちを誤魔化しているだけ。


「リュシールさん、最近元気がないようだけど、大丈夫?」

「え? い、いえ。そんなことはないですけど……そう見えます?」

「見えるというか、ため息がずいぶん多いから」

「あ……」


 研究科に進んでからすっかり仲良くなったオリヴィアさんとの休憩中、そう言われてようやく自分でも気付いた。

 確かに最近よくため息を吐いているわ。


「一年前には、まさか自分が研究科に進学しているなんて思わなかったので、まだ慣れないというか……」

「後悔している?」

「いいえ、それはありません。ただ……最近、父の許に私の縁談がよく持ち込まれているらしいんです」

「まあ、まだ社交界にデビューもしていないのに?」

「だからだと思います。私への接触方法がそれしかないので」


 本当のため息の原因はジェイ先生のことを好きだとはっきり自覚してしまったから。

 一年前には当然シャルと結婚するものだと思っていたのに、まさか今こうして別の人を好きになっているなんて思いもしなかった。

 ううん。本当は気付いていてあえて蓋をしていたんだと思う。

 その蓋が今、開いてしまっただけ。


「……興味のある方はいないの?」

「お相手の方たちが興味あるのは私ではなく、父の財産と人脈ですから」

「ではもし、リュシールさんのお父様よりも地位も財産もある方が申し込んできたら?」

「それこそ遠慮します。それに結婚とかそういうのは当分考えたくないです」

「そう……」


 オリヴィアさんにしては珍しく踏み込んだ質問だなと思いながらも正直に答えた。

 身分差のある関係は難しいことがよくわかったから。

 オリヴィアさんと伯爵様のように仲睦まじいご夫婦もいらっしゃるけれど、やっぱり色々な困難を乗り越えてこられたんだと思う。

 そのせいなのか、お二人がすでにご結婚されていることは世間にほとんど知られていない。

 私も研究科に進んでオリヴィアさんと気軽に話せるようになって知ったのよね。


 とはいえ、もしジェイ先生と気持ちが通じ合えたら? なんて妄想はしてしまう。

 しかもジェイ先生なら財産目当てでもかまわない、なんて思ったりもするんだから重症よ。

 そんな自分に嫌気がさしてため息を吐きかけ、慌てて引っ込めた。

 オリヴィアさんは気付いたようで、励ますように微笑んでくれる。

 そうよ。オリヴィアさんに心配をかけている場合じゃないのよ。

 今はとにかく研究を頑張るんだから!




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