どうして彼女は誰そ彼るのだろう。
「はい、じゃあこれが学級委員長の初仕事ね。よろしくね!」
3枚ほどの紙を受けとる。
「「はい、こちらこそよろしくお願いします。」」
学級委員長の俺、神子戸真琴と早乙女音乃は、担任の結縄先生に学級委員長としての初の仕事を引き受けていた。
仕事内容は、LHRの時にやる、学級スローガン決めの司会、進行だ。
今は昼休みで、俺達は仕事内容の説明のため、結縄先生に職員室に呼ばれていたのだ。
「「失礼しましたー。」」
職員室を出て、プリントを置くために教室に戻る。
俺達が教室についた時、まだ13:10だった。
五時間目が始まるのは13:30分からだから、まだ時間がある。
「そういえば、早乙女さんご飯食べた?」
「私?もう食べたよ。」
「そっか。」
会話終了。時間もあるし折角なので何か雑談でもしようかなと思ったけど、俺が会話が下手すぎて長続きがしなかった。
結局、過ごしにくい沈黙が広がってしまう。
「あのさ、神子戸くん。」
「何?」
「ちょっと付き合ってくれないかな?」
「え?」
一瞬告白か?とも思ったけど、無事俺の勘違い防止レーダーが反応してそれはないなと秒で悟った。
今までの経験でこのレーダーは日々進化を遂げ、見事なことにこのレーダーはレベルMAXになったのだ!
そんなどうでも良いことを考えてたけど早乙女さんの声で意識が現実に戻った。
早乙女さんが「付いてきて」というから、無言で俺は早乙女さんに付いていく事にした。
ドアを開けて、薄暗い階段を上がっていく。
上がった先にもドアがあって、そのドアを開けると外に出た。
そう、早乙女さんが向かったのは屋上だった。
早乙女さん屋上の柵に腕を置いて、どこか遠くを眺めていた。
俺はというと、それを後ろから見ていた。
心地のよい春風が、俺達の肌を撫でる。
「早乙女さんはどこを見てるの?」
俺がただ単に気になっただけの事を問うと、早乙女さんは風で靡く髪を掻き分け、俺の方に振り返る。
「あのね、地球って丸いんだよ。」
あまりにも当たり前な事を急に言ってくるので、俺は「は?」と聞き返してしまった。
早乙女さんもそんな俺の反応に驚いたのか、目を大きくし、口をぽかんと開けていた。
「ああ、いやごめん。意外な答えが返ってきたから。続けて。」
早乙女さんはんんっと咳き込むと、話を再開した。
「地球は丸いから、どこまでも続いてるの。歩いても、歩いても、また元の場所に戻ってくる。でも遠いから、一周することは出来ないんだよ。」
「だから?」
「だからね。いつでも会えると思ったら、大間違いなんだよ。」
「は、はあ......」
俺見たいな凡人には理解できないほどの深さになったので、「はあ」としか言いようがなかった。
「人間って難しいんだよ。」
それは俺でもわかった。共感した。ついさっき、身を持って。
「それはわかるよ。他人って何考えてるわからないよね。」
俺は思った事を言っただけなのに、早乙女さんは首を振る。
「それもそうだけど、私が言いたいのはそういうことじゃないよ。」
「え、じゃあ、どういうこと?」
「人っていつ会えなくなるかわからないんだよ。だから、出会った人を大切にしなきゃいけないんだ。」
正直、早乙女さんが何を言ってるかはわからない。けれど、大事なことを言ってるというのは何となく伝わる。
キーンコーンカーンコーン
静かになった直後にチャイムがなる。これは昼休み終了10分前を知らせるものだ。
「もうそろそろ戻ろうよ。もう五時間目が始まるよ。」
「そうだね。なんか変なのに付き合わせてごめんね。」
「ううん。気にしてないよ。」
俺達は屋上から出て、教室に戻った。
戻る途中は特に何も話さなかった。
五時間目は英語。担当は担任の結縄先生だ。
教室に戻ったときは既に授業開始5分前を過ぎていた。
「あら、遅かったね。どこ行ってたの?」
教室に入った直後に結縄先生に問われた。
クラスメイト達の視線が一気に俺達に集まる。
「い、いや別になにも。」
慌ててしまい、そんな返しをした。
まあ、本当になにもしてないんだけど。
でもそんな曖昧な返答をしたことによって誤解を与えちゃったようだ。
「そうか。ごめんね!察してあげれなくて。」
「「いや、そんなんじゃなくて!」」
ああ。やらかした。ハモっちゃったよ......
「息ぴったりだね!」
結縄先生が笑顔を浮かべるも、結縄先生の目は笑っていなかった。
そういえば、結縄先生彼氏すらいないって言ってたっけ?だからか。
怖い!結縄先生!
いや、違う違う!まず付き合ってないから。
まあ別に早乙女さんなら良いかも!(笑)
それはそうと困ったな......
誤解を受けるのはまだ百歩譲って良いとするけど、そうなると面倒なのは五月日と水主村。
俺は二人に目を向ける。
五月日と水主村は俺に行き所のない憤懣を露にして睨み付けていた。
後ろから炎が出ててもおかしくないほどだ。
だから違うって!
「もう、良いですか?」
早乙女さんがナイスタイミングで結縄先生に言った。
「そうだね。授業始まるしもう座ってね。」
口調が強くなっているのは気のせいだろうか。本当に違いますよ結縄先生。きっと結縄先生なら良い彼氏さんが出来ます!
ってだから付き合ってないから!
俺は席につくと、前後から尋常じゃないオーラを感じた。
「「神子戸どういうことだ?」」
いや、怖い五月日と水主村!
っていうかいつから水主村俺の事呼び捨てで読んでた?
「だから違うって、誤解だよ。」
俺は説明するも五月日に信じてくれる様子はない。
一方で水主村は信じてくれたかのような表情を見せてくれた。
「そうだよね。神子戸くんと早乙女さんは付き合ってないよね。」
「うわぁ!よくわかってくれた嬉しいよ!」
俺が水主村の手を握って上下に揺らしていると水主村はなぜか不適な笑みを浮かべた。
「だって、あの早乙女さんが普通の神子戸くんを好きになる訳がないもん。」
「水主村ぁ!」
俺はさっきまで握ってた手を離して水主村の体を数回殴っていた。
「そうだよな。悪いな神子戸。」
「五月日、お前にだけは言われたくないよぉ!」
俺は気付いたら両手で両方を殴っていた。
冷静に考えて両手で両方を殴るって凄いことしてるなぁって思いました。
「もう授業始まってるよ?」
結縄先生の声で、俺達3人は硬直した。
「「「すいません......」」」
他のクラスメイトがそれを見て笑う。
俺達も顔を見合せて笑う。
喧嘩に集中しすぎて気付かなかった。と、3人とも思っていると思う。
言い訳がヤンキーみたいだなって思った俺達3人でした。
◇◆◇◆◇
_____LHR
午後の授業も何事もなく終え、学校も残すはLHRと部活だけだ。
昼休みに学級委員長の俺と早乙女さんは司会、進行をするように言われた。
話し合いで俺は議事をして、早乙女さんには書記をしてもらうことになった。
なんせ俺は字が下手だ。黒板で皆に見せれるような字なんて書けるわけがない。
LHRは90分間で、後半60分は学級のポスター作りをしたいとの事だったので30分で会議を終わらせる。それが、俺達、学級委員長の役目なのだ。
そういえば、高校でポスター作るって、小学校みたい。
結縄先生そういうの好きなのかな?
まさか、ロ、ロリコン!?
な訳ないか。
「はい、じゃあ今日は学級スローガンを決めます。何か案がある人は挙手してください。」
俺の声を合図に数人が挙手をする。
おおっ!良いねこういうの!リーダーしてる感ある!
小学校、中学校で一度もこういうリーダーの仕事をしたことがなかったからかなり感動する。
楽しそうだし、もう来年は生徒会に立候補してみても良いかもなぁ......
いや、それは厳しいな。俺そんな頭良くないんだった。
「神子戸くん?」
早乙女さんの声で我に返る。
「ああ、じゃあ杉川さん。」
「はい、『We are the one 』なんてどうですか?」
「なるほど。良い案ですね。早乙女さん、書記をお願いします。」
「了解。」
「他に案がある方は手を挙げてください。」
おおっ!俺ちゃんと仕事やってるよ!
「次は平内くん。」
「『To be good friends』なんてどうすか?」
「良い案だと思います。早乙女さんお願い。」
「了解。」
できるだけの笑顔で議事を進めていき、案が6個出た。
・We are the one
・To be good friends
・Day dream
・Our color
・Together
・Fighters
の6つが出た。
1個微妙なのがあるのでそれはないと見よう。
っていうか英語多いよな......担任が英語担当だから?
結縄先生を見ると必死にカンペ用ノートをペラペラ捲っている。
中身を遠くから覗き見してみると、Togetherなどと書かれていた。
ああ!結縄先生指示出してたのか!
あれ、Day dreamは書いてないのか?
そりゃそうだよな。「1日の夢」だもん。英語の教師がそんな事考える訳がない。。
っていう事はこれは五月日の独断なんだな。あ、考案者言っちゃった。えっと、誰に言ってるんだろ。
あ、そうそう、司会司会。
「じゃあこれで締め切っても良いですか?」
俺の問いに頷く人があちらこちらと現れる。よし、大丈夫だ。
「多数決を取ります。一人一回だけ挙手をしてください。」
こうして、決を取っていき、最終結果は『To be good friends』となった。
学級スローガンは『To be good friends』に決まりました。
時計を確認する。丁度30分経った。
「これで学級会議を終わります。」
「「「終わりまーすっ!」」」
無事、初仕事を終わらせた。
「じゃあ、学級委員長の二人ありがとうねー。後は先生に任せて。二人は席について良いよ。」
腕を伸ばし、ふわぁと欠伸をする。
今まであまりやったことないからわかんなかったけど、こういう仕事も達成感あって良いなぁ。
やっぱ偏見は良くないね。
席に戻ると、ぐちぐち言ってる五月日と、それを宥める水主村がいた。
前までだったら水主村凄いなたとか思ったけどもう信用できなくなった。
これも好感度上げるためなのかなとか考えたら怖くなっちゃう。
「はい、じゃあスローガンも決まったし、ポスターをつくろー!」
はい、に合わせてパチンと手を合わせたからはい、で先生の自然と視線が向いた。
先生も色々考えてるんだね。
「よし、じゃあ机くっつけてねー。」
先生を合図に皆はせかせかと机を動かす。
だけど、俺、五月日、水主村は動かなかった。
それはきっと同じ疑問が3人の頭を過ったからだろう。
「「「あれ、もしかして全員でやる感じですかね。」」」
やっぱりだ!
「なあ、水主村。お前って絵上手かったけか?」
「いや、俺はそんなにだよ。神子戸くんは?」
「察しの通りだよ。」
「「「......はあ」」」
3人同時に溜め息をつく。
これは、嫌がらせだと思う。うん。そうだきっと。
だってこういうの普通は女子5人くらい収集してその絵上手い5人がやるのが当たり前じゃないの?
俺達もやらなきゃいけないの?
俺達は無言で視線を交わす。
よし、決めた。
「「「皆、サボるぞ。」」」
こういうときの男子の結束力は凄いのだ。
◇◆◇◆◇
_____放課後
部活に行く前に俺と早乙女さんは職員室に呼ばれていた。
「今日はお疲れさま。時間丁度に終わったし、進行上手かったよ。おかげさまでポスターも今日中に終われたしね!」
そういって俺達は結縄先生に頭を撫でられる。
年上のお姉さんに頭を撫でられる事自体はもうかなり嬉しいけれど、ポスター作りはこっそり教室を抜け出してサボったのでなにもしてないのだ。
にしてもよくバレなかったよね。そこに驚きである。この学校大丈夫かな?という心配すら出てきている。
「そうそう、二人って文化部なんだよね?」
「あ、はい。」
「そうですけど。なにか?」
「実はね、文化部って顧問の先生がいない状態なの。だから、私が顧問の先生になろうかなって。」
言われてみれば顧問の先生いなかったね。いや、まって、顧問の先生いなくても部活成り立ってたとか本当にこの学校大丈夫かな?
断る理由もないし良いんじゃないかな?
早乙女さんに視線で訪ねる。
早乙女さんは微笑みを返してきた。
「勿論。大歓迎ですよ!」
「わあ!ありがとうね!じゃあ、一緒に部活行くか!」
こうして、文化部はまた1つ進化した。
なにその言い方、RPGみたい。
◇◆◇◆◇
俺と早乙女さんと結縄先生は並んで部室に向かっていた。
部室といっても、3年生の学年階である2階にある。普通の教室2個分の教室だ。
そういえば、結縄先生に俺達が付き合ってると誤解されたままだったよな。
部活の顧問になる上で一応違うことをわからせておくべきだよね。
「先生。あの、俺と早乙女さん、付き合ってないですよ?」
「またまたー。先生をからかって楽しい?」
先生はほぼ予想通りに近い返答をしてきた。結縄先生の怖い所は笑顔を作るものの、目の奥は笑っていないということだ。
別にからかってる訳でもないし、楽しい訳でもないけどやっぱり怖い。
「いやいや、からかってなんかないですよ。」
「先生本当ですよ?」
「あら、二人して!」
早乙女さんも応戦してくれた。
先生は、面白いのか気に食わないのかわからないけど笑みを浮かべて返してきた。
戦うという表現が正しいかどうか疑問に思ったけれど、先生はある意味ボスみたいだから妙にしっくりくるんだよな......
思わずふふっと微笑を浮かべてしまった。
その微笑に反応し、正面を向いて歩いていた先生は後ろにいる俺の方を振り返った。
そして、凍てつきそうなほど冷たい目で見られ、先生に「どうか、したの?」と冷たい声音で問われた。
「ひっ!?な、なん、なん、でもない、でしゅ!」
あまりにも怖かったので驚いてしまい、変な声がでてしまった。しかも噛み噛みで語尾は赤ちゃん言葉みたいになってしまった。
「そう。なら良いんだけど。」
そう俺に告げて、また正面を向き歩き出した。
なら良いとは言ってるもののやっぱり怖すぎる。大体、なんでちょっと笑っただけで全てを把握していたかのようにあんな冷たく告げることができるの?
思い出し笑いかな?とか思うよね。
普通に笑顔で悪意を持たないでどうしたの?って聞くよね?普通だったら。
何あの冷たさ。心でも読んでるのかな?やっぱりボスだ!
にしても、よく早乙女さん耐えられるよな。やっぱりお父さんも怖そうだしこういうの慣れて......ってわぁ!?
早乙女さんの顔を見ると、そこにはいつもの華麗さはなく、顔を青くして怯えた表情を浮かべた弱々しげな少女がいた。
大丈夫か!?と声をかけようとしたけどまた何か先生に言われたら厄介なのでやめておく。
かなり気まずい雰囲気になっちゃったのでとりあえず気分転換がてら話題を逸らす。
「そういえば、他の部員には先生が来ること伝えてないですね。」
さっきまでの凄然たる所以はどこえやら、ああ!と思い出したかのように手をパチンと叩く可愛らしい仕草をする。
いやぁ、本当可愛いと思うんだけどな。なんで彼氏いないんだろ。ああ、そうか、裏の顔を知っちゃったからか。そこはどうしようもないよね。
これ以上考えると折角先生の機嫌を取り直したのに台無しになるのでやめておく。
「じゃあ、私さっき行って伝えておきますね。」
顔面蒼白していた早乙女さんも気を取り直したようだ。
「待って、サプライズしたら楽しいかもよ?」
先生が「わあこれ良い考えかも!」とか口々に良いながら嬉しそうにしている。
うん。本当裏を見せなけりゃ可愛いと思う。
裏を見せなけりゃ。
これ、結構重要ね。
そして、俺達は部室についた。
「今日はスペシャルゲストが来てるよ!」
俺が勢いよくドアを開け、結縄先生を見せようと思ったその時だった。
一人の少女が視界に入る。
その少女は、黒髪のショートヘアーで、前髪の一部分だけ白くなっている。
俺は彼女を知っている。
彼女はうちの高校の中等部の生徒だ。
美貌を持ち、成績優秀。運動も万能。ボランティアも複数回参加。
全てがハイスペックで、高校に入学したら120%A組だと言われている中等部の生徒会長。
だから知ってると言うわけではない。
それに彼女も俺を知っている。
彼女の名前は巫渚。
なぜお互いの存在を知っているか。
なぜなら、俺達はいとこの関係だから。
「ええっ!?」
俺がここにいとこがいる事が異常な事だと気付くのにかかった時間。僅か3秒。
こうしてまた1つ。俺にとっての文化部の不思議が増えた。
これは、楽しくなりそうだ。