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どうして俺達は変な部活に入るのだろう。

「入部案内」か。


高校はなにか部活入りたいなぁ。


俺の名は神子戸真琴(みことまこと)


厨二っぽくて、なんかラノベの主人公っぽくて、なんか特殊能力ありそうな名前だけど、特に大した能力もある訳じゃない。


中学時代のテスト、五教科合計325点。100メートル走14.80秒。彼女は幼稚園の時になんとなーく出来た子だけ。


ごく普通の男子高校生だ。


男子高校生。


おおー!この響き格好いい!憧れてた高校生に今日からなったんだ!


そう、俺は今日から天照(あまてらす)高校の高校1年生。


男子高校生だ!


で、なんだが、青春してーなーって思ってるけど、良い部活がないのだ。


部活とは青春を謳歌するには必須アイテムだ。


なのに、どの部活ももレベル高そうだしな......


運動系の部はほとんどが全国大会行くレベルで、文科系の部も、コンクール優勝10回とかさんなんばっかりだし。


部活って青春してる感あるから、入りたいと思っていたんだけど。


その時、1つの地味なポスターを見つけた。


「えっと、文化、部?」


「~文化部~活動内容は、本を読んだり絵を描いたり、まったりすることです!特に大会とかはないので、是非入部お願いしま~す!」


なにこれゆるすぎる!?


でも、他に良さそうな部活ないしなー


1回体験行こうかな?


まったりするのが活動内容か......


あまり青春って感じしないしやっぱりいっか。


第一、部活に入ってなくても青春はできるんだ!


友達も沢山作って、彼女も作って、リアルを充実させるぞー!


キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴った。


「ホームルーム始まるよー教室に戻って席にいてねー!」


俺は1年5組。


これまた普通のクラス。


1組から9組まで、成績の良い順にクラスが分けられている。


担任は結縄遊已(ゆいなわゆい)先生だ。


24歳の若い女の先生で、生徒からかなり好かれている。


入学して、1週間。


俺も含めて皆も高校生活に慣れてきた。


皆、各々友達を作り、仲良く平穏な日々を過ごしている。


俺にも、友達と呼べるような人が2人いる。


「よう、神子戸。」


「おはよう。」


後ろから威勢の良い声で話しかけてきたのが、五月日豪芽(ごがつひごうが)だ。


「五月日くんおはよう。あ、神子戸くんいたんだね。」


「それは遠回しに影薄いっていってる!?」


成績優秀そうな前の席の奴は水主村翔琉(かこむらかける)だ。


「はーい、じゃあ、日直の子挨拶してねー!」


ホームルームというのは小中学生でいう朝の会。


といっても日直は挨拶をするだけで、あとは担任の先生がやる。


これは、学校によって違うらしい。


「おい神子戸。」


後ろから背中をツンツンされた。


「あー、(くすぐ)ったい!なに?」


「テヘ、悪い悪い。そうそう、今日の日直の子、めっちゃ可愛いよな。」


今日の日直の子?


あっ、確かに可愛い。


5組にこんな可愛い子いたのかー、気付かなかった。


「気を付けっ!おはようこざいますっ!」


「ふふっ、可愛い。」


うわっ!五月日、きもい!めっちゃボケーっとしてるし。


「可愛いのはわかるから、その変態みたいな顔やめてよ!」


五月日が手で顔を覆う。


「で、なんて言う名前なの?」


「ああ、あの子は早乙女音乃(さおとめおとの)だ。今の所の学級委員長候補だ。」


「ふーん。なるほどねぇ......」


学級委員長か!これなら輝ける!


「俺、学級委員長になろうかな。」


五月日が目を大きく開く。


「お前が?ムリムリ!」


「なにそれ、悲しい。」


俺がしくしくと泣いていると、五月日はワタワタする。


「嘘だよ!ごめんごめん!でも、学級委員長は水主村がやるんじゃないのか?」


それもそうだよね......


いや、ない!ないと願いたい!


「見てて、五月日、今から水主村に聞いてみるから!」


(すが)る思いで水主村の背中をツンツンする。


「あー!擽ったい!急に何の用だい?」


「水主村って学級委員長やろうと思ってる?」


水主村は頭良さげに顎を触って、うーんと考える。


数秒後、水主村は腕を組んで答えた。


「対立候補がいないならやっても良いかも知れないね。」


なん、だって!?


俺が落胆していると、五月日の憎たらしい笑顔を後ろから感じた。


「だってさ!」


五月日、空気を読んでよぉ......


「うー......五月日酷いよぉ......」


「だから、冗談だって!ごめんごめん!冗談通じないな......」


俺も冗談なんだけどネ。


後ろに気を取られていると前から声が聞こえてきた。


「でも、神子戸くんも立候補するなら僕はやめるよ。」


「わっ!?別に良いよ!」


「神子戸くーん?どうしたの?」


結縄先生の声が聞こえて、鳥肌が立つのがわかった。


「ひぃ!いや、なんでとないです!」


「そっかー、じゃあ静かにしてねー?」


「すっ、すっすいませーんっ!」


そしてクラスメイトに笑われる。


うわっ、恥ずかしいっ!


ってか先生、可愛い見た目して怖いっ!


可愛いって言うのは恋愛感情があるわけじゃないよ?


「はーい!じゃあホームルーム終わりまーす!日直の子お願いねー!」


「気を付けっ!ホームルーム終わりますっ!」


「「うーっす!」」


はぁ、終わったぁ......


授業の準備っと。


って思ったその時、五月日と水主村が俺の席の周りに集まってきた。


五月日が不適な笑みを浮かべる。


「お前注意されてやんろー!」


まるで小学生のようなからかい方をする五月日。


「ちょっと言い過ぎだよ。五月日くん。」


まるで大人のように優しく指摘する水主村。


対照的な二人とごく普通な俺、神子戸。


なにそれ、悲しい。うわぁぁん!


涙は心の中に閉まって状況を確認する。


えっと、五月日は水主村に注意されて少し構ってアピールしてるんだね。わかった。


「もう、みんな冗談わからない奴かんだからぁー!」


とうとう五月日は泣いてしまった。


ドンドンドンと俺の机を叩く。


「やめて!五月蝿い!」


と、言っても聞かないので水主村に視線を送る。


じとー......(どうにかしろ!)


「......ん?あ!了解。」


ようやく水主村が視線に気が付いた。


「冗談わかってないのは五月日くんだよ!心配しないで!」


「その冗談はきついって!」


五月日の顔は泣いてるのと笑ってるのとでぐちゃぐちゃになっている。


一件落着、かな?


でも凄いなぁ水主村。一瞬で(なだ)める事できるもんな。


やっぱ、普通の人じゃ青春できないのかなぁ?




◇◆◇◆◇




長い長い午前の授業が終わって昼休みになった。


俺達3人はいつも屋上で弁当を食べているけど、今日は雨が降っているから教室で食べている。


話題は、部活だった。


「そういやー、神子戸と水主村は入る部活決めたか?」


「んー......僕は部活は入らないかな?塾とかあるし時間ないんだ。」


「え!?お前もう塾入ってんのか!?やっぱ優秀な奴は違うなぁ。」


五月日がオーバーな反応をすると、水主村はやや困ったような表情をする。


でも確かに俺もまだ塾入ってないしなぁ......


力の差を感じちゃうから考えるのやめよ。


「僕は優秀じゃないよ。優秀だったら僕は今1組とか2組にいるよ。」


あ、確かに。


じゃあ水主村もなんか欠点があるんだ!やったぁ!


運動神経が悪いのかな?そういうことか!


「で、神子戸は部活どうするんだ?」


「ああ、俺か?部活は何か入りたいんだけど、良い部活が無くてさ、うち、強豪揃いだから、俺が活躍できる所がないんだよね。」


「確かに、高校から始めるってなると厳しいかもね。センスあれば話は別だけど。」


うう......センス......


水主村は純粋な分、こう言う事を言われるとかなり傷付く。


「そ、そうだ!文化部ってのあったぞ?」


「文化部かぁ、さっきポスター見たけど、俺がしたい青春と違うんだよなぁ。」


「それわかる!俺も思った!」


提案したの誰だっけ?


「なんか、俺がしたい青春はこう、熱心に取り組むっていうかさ?文化部活動内容まったりしてるじゃん。」


「でも、そういうのなら僕入ってみても良いかもね。」


意外に水主村が賛同した。


「んー、どうしよっかなぁ?」


「じゃあ見に来る?」


「「「え!?」」」


振り返ると、見知らぬ女の人がいた。


同じ制服で、胸元のネクタイは緑色。


ということはうちの学校の2年生だ。


「私は三廻部久留実(みくるべくるみ)。文化部の2年生だよ。」


「なぜ2年生が1年生の教室にいらっしゃるんですか?」


皆が疑問に思ってたことを水主村が体表して言ってくれた。


逞しい!


「あのね、今は部活の勧誘シーズンだから、特別に他学年の教室に入る事が許されてるんだよぉ!」


「なるほど。で、勧誘に来たって事ですね!?」


五月日が食い付く。


こいつ、絶対、三廻部先輩目的だ。


「まぁ、そゆこと!」


三廻部先輩ものほほんと答える。


いわゆる緩い系ってやつかー。良いかもな!


なに考えてんだ!?発想が五月日と同レベルだ!


どうしようか。見学行く価値はありそうだ。


でもなー、放課後はアニメ見たかったけどなー。


うーんうーん。


「行く価値はあるから、僕は見てみようかな。」


「まじか!じゃあ、仕方ないから俺も言ってやるよ......」


「神子戸くんはどうするんだ?」


「神子戸はどうするー?」


水主村と五月日の声が被った。


......圧ヤバい。


「あー、もうわかった行くよ!」


っていうか、五月日は仕方ないなじゃないでしょ。元々行く予定だったよね?


水主村の一言と、五月日の余計な一言で、放課後に予定が入ってしまった。


「よし、決まり!じゃあ放課後に第3活動室に集合!」


三廻部先輩の元気な掛け声は、教室にとても響いた。


うう......アニメがぁ!




◇◆◇◆◇




_____放課後


「第3活動室ってどこにあんだ?」


「まだ僕たちも入学して1週間しか経ってないからね。意外とまだ知らないこともあるんだよ。」


五月日と水主村がキョロキョロしながら前を歩いている。


俺はどうしてるかと言うと別に乗り気じゃないからスマホの画面を眺めていた。


「あ、ここだよ。五月日くん、神子戸くん。」


「おおっ!中から楽しそうな声が聞こえるよ!?」


五月日が過剰に反応する。


やっぱ五月日、女の子狙いなのかな?


でも確かに声を聞くには楽しそうな部活だなとは思う。


「入るか。」


水主村がドアをコンコンと叩く。


「どうぞ!」


中から三廻部先輩らしき声が返ってきたので俺達はドアを開けた。


中には、女子3人、男子2人、計5人の部活生らしき人達がいた。


5人の注目が一気に集まる。


「じゃあ紹介するね!今来た3人は1年生の神子戸くん、五月日くん、水主村くんだよ!」


「「「どうも。」」」


三廻部先輩の紹介に会わせて俺達も挨拶する。


ってか、三廻部先輩なんで俺達の名前しってるんだろう。あ、名札か。良く読めたなー。


「で、部活生は一人ずつ自己紹介するか!改めまして私は三廻部久留美だよ。よろしくね!」


「俺は京極祥午(きょうごくしょうご)。2年1組だ。」


がたいが良く、声も太い。同年代とは思えない大柄な男の人。きっと運動神経も頭脳もあるから1組なのだろう。


「私は一番合戦苺花(いちまかせいちか)。2年6組だよ!」


ロングヘアーで、胸のボタンを3つほど開けている。THE今風のギャル。6組なのが納得行く。


「......」


隣の男の人が無言で何かが書かれたノートを見せてきた。


俺達3人はノートに近付いて文字を読む。


「久遠駆恩。2年3組。かなりのコミュ障だから。ごめんね。」


なるほどね。だからノートに書いてるのか。


()()()くおん先輩ですね。よろしくお願いします。」


水主村が爽やかな笑顔で挨拶をした。


「......違う。」


先輩が口を開く。


すごいなぁ水主村は、コミュ障の人ですら話やくなるのかぁ。俺にもそんな能力があれば......!


「......」


また先輩はノートを見せてくる。


「苗字は()()()。」


「えっと、久遠駆恩(くおんくおん)先輩ってことか?」


人の気持ちをわかることの出来ない五月日が大きい声で久遠先輩に言った。


バカだ。こいつ、本当バカだ。


下を向いたままになってしまった久遠先輩を三廻部先輩がカバーする。


「じゃ、じゃあ最後は部長、挨拶しよっか!」


「私は琉川(るかわ)ルカ。3年1組で、この部活の3年生は私だけ。でも、タメ口でいいからね?そういう部だから!」


「今ルカちゃんが言ったみたいにタメでも構わないから、ゆるーい感じで大丈夫!」


確かに見ていると2年生の人達は琉川先輩にタメ口だ。


やっぱり悪くないかもなぁ。楽しそうだし。


「じゃあ、今日は1日見学って事で、1年生の皆もまったーりして良いよ!」


「「はい。」」


まったりかぁ。なんて言われても何すれば良いのかわからないな。


周りを見る。


三廻部先輩、一番合戦先輩、琉川先輩は話をしている。


京極先輩は筋トレをしている。


これってまったりなの?


思わず苦笑いしてまった。


趣味を楽しむ部活って感じかな。多分そんな感じ。


あれ?久遠先輩は?


見渡すと、久遠先輩は部屋の端の方で水主村と笑顔で話していた。


いや、凄いよ水主村。まじリスペクトっす!


ちなみに五月日はというと、女子達の会話に混ざっていた。


五月日もある意味リスペクトだよ。よく、(おく)せずに女子の所いけるなぁ。ドン引きされたらどうしよう!とかならないのかな?


ってか京極先輩可哀想。


誰にも話しかけられてないじゃん。


で、僕は京極先輩の所に行く。


と見せかけて端の方で音楽プレイヤーとヘッドホンを取り出し、音楽を聞いた。


すいません、京極先輩!


俺、人見知りなんです!


音楽が頭に響く。


......落ち着くなぁ。


悪い、部活じゃないかも。


そして、俺の(まぶた)は閉じていった。




◇◆◇◆◇




「部活終了時間だよー起きてー!」


三廻部先輩に揺さぶられ、俺は瞼を開いた。


窓の外を見ると沈みかけてるオレンジ色の太陽が教室を照らしていた。


時計を確認するともう18:00を指していた。


6時で終わりか。他の部活より終了時間は早いのかな。


辺りを見渡すと三廻部先輩しかいない事に気が付いた。


「水主村とか五月日達は?」


「もう皆帰っちゃった。」


「そうか......」


俺はヘッドホンと音楽プレイヤーを鞄に突っ込み重たい体を立たせた。


俺は軽く伸び、欠伸(あくび)をすると、帰り支度を始める。


「じゃあ、俺も帰りますね。」


そう言って教室を出ようとしたその時だった。


「待って。」


振り返ると、三廻部先輩がこちらを見ていた。


「はい?」


「部活は、入る?」


んー......どうしよう。


確かに、居心地は良いし、楽しそうな部活だなとは思う。


けど、俺がしたい青春は汗かいてなにかに取り組む。とかそんなの。


あと、恋とか。


「一旦、保留にしておきます。」


「そっか。わかった。」


三廻部先輩が納得してくれたから俺はまた教室を出ようとする。


「!?」


いきなり、三廻部先輩は抱き付いてきた。


「何してるんですか!?」


声こそ慌ててはいるもの動きは冷静だった。


俺は三廻部先輩の腕を払うと三廻部先輩の方を見る。


「これでも、入らないって言う?」


目の前には、西日のせいか顔を赤く染めた三廻部先輩の顔があった。


そしてどんどんこっちに近付いてくる。


!?近い!


目を瞑ったその時。


......チュッ


頬に柔らかいものが当たった。


「神子戸くん。部活は?」


三廻部先輩は上目遣いて問うてきた。


俺は固まることしか出来なかった。


「じゃあ入部決定ね。あと、さっきの事は内緒だよ?」


俺はしばらく固まっていた。


思考が停止していた。


そして、気が付けば家についていた。


家に帰るまでに何を考えていたかは覚えていない。


けど覚えている事もある。


頬に残る柔らかい感触。


俺は、溜め息をつくと、自室の布団に潜り込んだ。



......こうして、俺達のちょっとずれた青春が始まるっ!

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