第73頁 勇者と呼ばれる者達
新たな章ということで大分…というかめっちゃ場面が変わりますがお許しください。
結界が解除されてから数日後、レオ達から離れた、主に人間の住む土地でのこと…その前に、今の人間達の状況について説明しておこう。
昔は1つにまとまっていた時代もあったが、今の人間達は、多くの国に分かれ、それぞれの考え方のもと暮らしていた。その中でも、他とは明らかに規模の違う大国が6つあった。そしてその6つの国には、それぞれ勇者と呼ばれる、特別な役職を持つ人間がいた。
そんな普段は別々に行動する勇者達が、大国より小さな、完全中立国に集まっていた。所謂、勇者会議である。
この勇者会議は、数ヶ月に1度、定期的に行われているが、今回はそれとは別の臨時招集だった。
「…今日はよく集まってくれた。闇の勇者はまた欠席か…。」
勇者会議を取り仕切る者…火の勇者と呼ばれる、不知火焔という男がそう言った。顔や立ち振る舞いからも、真面目な性格だと感じ取れる。
「ふん…あんな屑、あたしは勇者だと認めねえ。」
大きなテーブルに足を掛けて座りながら、水の勇者、清水渚が荒い口調で言った。
「まあ、僕も彼のことは嫌いだけど…それより渚ちゃん、今度一緒にご飯食べに行かない?」
流れるようにデートに誘うチャラい男は、疾風マリオ。風の勇者だ。顔立ちがよく、身長が高いが、それ故に自分に大きな自信を持っている。
「誘ってくんな。てゆうか名前で呼ぶな、キモい。」
「酷いなあ…そんなはっきり悪口言われると傷ついちゃうよ?じゃあ、なずなちゃん…はいいから、彩葉ちゃん、どう?」
「ふえっ!?あ、あの、その…。」
そう言われて、土の勇者である、安土彩葉はあからさまにテンパる。別にマリオに気があるとかそう言うのではなく、純粋に彼女が人見知りのコミュ症を発揮しているだけである。ちなみに身長が低く、小動物のようであるが、勇者達の中ではもっともこの世界にいる期間が長く、最年長でもある。
「おい。彩葉が困ってんだろうが。…そういうのやめろって何回も言ってるよな?」
自分が誘われた時以上に気分が悪そうな渚が、マリオに銃口を向ける。
「それはちょっと穏やかじゃなさすぎない…?あ、もしかして嫉妬しちゃった?」
「してねーよ!!その口今すぐ塞いでやろうか!?」
「わかったわかった。じゃあ今度3人で一緒に行こう。」
「だから人の話聞けよ!!そういうのやめろっつってんだろ!!」
「な、なぎちゃん。落ち着いて…。」
ヒートアップしていく渚を、彩葉はなだめようとする。渚と彩葉は普通に仲がいい。
「…ちょっと待てや。」
今まで黙っていた光の勇者…朝比奈なずなが、漸く口を開いた。
「今までは特にそういうことも言わへんかったから気にせえへんかったけど…うちはええって、どういうことや。」
「あー…だって、なずなちゃんは僕のストライクゾーン外だもん。デートはちょっと…。」
「ふーん。一応あんたの好みを聞いてやろうやないか。」
「うーん、僕のストライクゾーンかあ…。」
そういって、マリオはチラッとなずなの胸を見た。なずなの胸は、彩葉と渚と比べて…いやそれ以前に、男女の区別がつかないほど…小さいというより、最早ないに等しい。
「大体わかったわ…殺す。」
なずなは自分のコンプレックスを指摘され、何もない空間から武器…聖剣を取り出した。
「ちょ、ごめん、ごめんって!!今のは流石に酷すぎたの自覚してるから!!もう言わないから許して!!」
「…信用できひんなあ。あんたみたいなデリカシーもコンプレックスもない男は、そうやってその場凌ぎの謝罪をするもんなんや。なんなら、うちがとびっきりのコンプレックス作ったろか?」
なずなの目線は下半身に向いている。
「そ、それだけは…ほ、本当にすいませんでした!!!」
「はあ…まあええわ。それより今日はどういう要件の招集や、不知火はん。」
「あ、ああ。今日呼んだのは他でもない、数日前、迷いの森に突然現れた『空間』の件についてだ。」
その空間とは、レオ達のいた亜人大結界の中のことである。亜人第結界は空間を切り離す結界だったため、外の者たちからすれば突然空間が現れたという認識になる。
「その空間については、安土君が調べてくれていると思うんだが…どうだった?」
「あ、は、はい。…探査用ドローンで空中から見たところ、3つの大きな都市と、他多数の村や集落を確認しました。そこに、獣人やエルフなどの亜人が住んでいることもわかったんですが…。高度を下げようとするとすぐに、何者かに破壊されてしまいました。何個も試したんですけど全滅でした。」
「彩葉のドローンって気配遮断の魔法とかついてる高性能隠密ドローンだよな…それでもすぐに察知されるってのは、相手にも厄介なのがいるってことだよな。」
「詳しく調べたい所ではあるが…下手に調査隊を送って、国同士の問題になったりすると困る。だから朝比奈君に調査に行ってもらいたいんだが…駄目か?」
「…うちに厄介事を押し付けようとしているようにしか見えないんやけど?」
「うーんでも、僕もなずなちゃんが適任だと思うよ?なずなちゃんの所属している王国が1番近いのは事実だし、王国は特別悪い関係の国もないから問題が起きにくい。それに勇者会議で決まったことの発言力って結構高いから、なずなちゃんが行くってここで決めれば、暫くは他の国も手を出しづらいと思うよ。」
それぞれの勇者には、国絡みの思惑などもあったりするが、勇者自身にも、国同士の衝突や、無駄な争いを避けたいという思いもある。勇者会議では主にそれを重視した取り決めが多い。
「せやな、引き受けたる。けど、うちが本当のこと全部言うとは限らへんで?」
「それでいいぜ。事実あたし達も一部言ってないこととか普通にあるからな。」
「それでは朝比奈君の調査結果が報告できる時に、この話はまたしよう。他に何かこの場で話したいことはあるか?」
「…。」
「ないようだな。それじゃあ今日は解散にしよう。皆お疲れ様。」
「あー…なず、彩葉。ちょっと3人で話したいことがあるんだが、この後時間いいか?」
会議が終わった後、渚が2人に話しかける。
「かまへんよ。」
彩葉も相槌を打って承諾する。
「ここじゃあれだから場所を移そうぜ。」
「ねえねえ、僕もそれについていっていい?」
マリオが反省してないかの如く口を挟む。
「…ぜってー駄目!!」
用語+アルファ説明会はそのうち出すと思います…そのうち忘れそう。