第68頁 恩返しの定義②
個人的にいい感じの回が書けました。
「吾郎が3人で話がしたいっつってたからちょっと行ってくるわ。」
昼休憩の後、レオは吾郎と美月と共に食堂から出て行った。
「…とりあえず、私達も移動しましょうか。」
ルミナ、ミア、エリンの3人は仮拠点のレオの部屋に移動する。
ルミナとミアは平然としているが、エリンは落ち着かない様子でミアの方を見たり見なかったりしている。
「…何?」
その様子を見て、ミアが口を開いた。
「えっと、その…ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「…ミアに?…何?」
エリンはレオにプレゼントを渡したいことをミアに伝える。
「…にいやにプレゼント、ね。」
「うん。でも、何を渡したらレオ君が喜んでくれるかわからなくて。」
「…それでミアに協力してほしいと。」
「レオ君のことを1番レオ君のことを知ってるのはミアちゃんだと思うから…。」
「…確かに、今のにいやのことを1番知ってるのはミアだと思う。」
ミアは少し得意げになる。ミアはレオと関連して褒められると嬉しそうにするのだ。
「…駄目、かな?」
「…。」
ミアは少し考える様に黙り込む。
(…ミアが協力するメリットはない。こいつが失敗しようとミアには関係ない。けど…。)
エリンの方をチラッと見ると、エリンは今にも泣き出しそうな子犬の様な表情をしている。
「……はぁ。」
ミアはため息をついた後、部屋から出ようとする。
「え、えっと、どこに…?」
「…買いたいんでしょ、プレゼント。」
「あ…協力してくれるの?」
ミアは嫌そうな顔をしながらも、首を縦に振った。
「ありがとう…。」
「…別に、お前のためじゃない。にいやにくだらない物を送らせるわけにはいかないだけ。…ルミ姉も来て。」
「はい、かしこまりました。」
そういって、3人は仮拠点の外に出た。
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「わあ…もうこんなにお店が出来てるんだ。」
エリン達はケントルクス付近を歩いている。そこにはケントルクス完成を見越して来た商人達が、既に様々な店を開いていた。
「それで、結局どんな物を買うのがいいの?」
「…最近にいやは、アクセサリーに手を出そうか悩んでた。」
「アクセサリー?なんか、思ったより普通だね。レオ君に送るならもっと特殊な物とかの方がいいのかなって思ってた。」
「…にいやを何だと思ってるの?」
「え、ごめん。とりあえず、アクセサリーから選べばいいんだね。」
「…多分。」
「そこ多分って言われると不安になるんだけど…。」
「私もアクセサリーでいいと思いますよ。」
ルミナもそれに賛同する。
「うん…アクセサリーから決めよう!」
買う物の目星を付けたので、3人はアクセサリーショップに入った。
「アクセサリーっていっても色々あるなあ…指輪、ピアス、ネックレス。どれがいいんだろ…。」
「…にいやは闘うのが好きだから、その邪魔になりそうなものはやめた方がいいと思う。」
「邪魔になりそうなもの…ネックレスとかは固定できないから邪魔になりそうだね。」
店に並んでる品を見ながら、アクセサリーの中でも選択肢を絞っていく。その時、
「あ…。」
エリンは突然立ち止まる。
「エリン様、何かありましたか?」
「…これ、いいかも。」
そういって、エリンが手に取ったのはブレスレットだった。装飾のないシンプルなデザインだが、鮮やかな緑色をしている。
「どうして、それがいいと思ったのですか?」
「わからない。けど、なんとなく、これがいいと思ったの。」
根拠のない直感だったが、妙に説得力があった。
「私も、それでいいと思います。…ミア様はどう思いますか?」
「別に…いいんじゃない。」
「じゃあこれにする。2人ともありがとね!」
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「…レオ君!!」
ルミナとミアもいる中、エリンは意を決してレオに声を掛ける。
「なんだ?急に大きい声を出して。」
「ご、ごめん。その…これ…。」
エリンは緊張しながら、ブレスレットの入った袋を渡す。
「…プレゼント、か?」
「うん…。最近誕生日だったって聞いたから…。それと、助けてくれた感謝の気持ち。恩返しって言えるかはわからないけど、レオ君に対する感謝の気持ちを、こうやってどんどん形にしていこうって決めたから。それが私の恩返し、だよ。」
「…なるほど。考えはまとまったみてえだな。…開けていいか?」
「うん、どうぞ。」
「…ほう。ブレスレットか。悪くねえな。」
「ほ、本当?良かったぁ…。」
エリンはそっと胸を撫で下ろす。
「けど、アクセサリーを選んでくるなんてな。」
「えっと、それは…。」
「…ミア達がアドバイスした。」
エリンの言おうとした言葉を、ミアが遮って言った。
「そっか、偉いぞミア。ルミナも良くやってくれた。」
レオに頭を撫でられるミアを、エリンはやるせない表情で見つめる。
「まあ、1ついっておくなら…俺の誕生日、全然まだだけどな。」
「ん…?え…?」
エリンの思考が一瞬止まる。
「…だから、俺の誕生日まだ来てねえけどな。」
「え…えええぇっ!?」
エリンは思わず叫び声をあげる。
「え、嘘…だって…。」
エリンはルミナの方を見る。そこには笑いを堪えるように口元を隠すルミナの姿があった。
「もしかして…騙された?」
「いえ…きっかけは必要だと思ってたので。」
「た、確かにそうかもしれないけど…。」
ちゃんと協力はして貰っていたため、エリンは怒るに怒れない。
「これに関しては騙される方が悪い。な?ミア。」
「…うん。ルミ姉は何も悪くない。悪いのはお前。」
レオとミアは2人揃ってルミナに味方する。
「え、ちょっと2人とも酷くない!?」
エリンは納得のいかない様子だったが、なんだか居心地のよい空気を感じた。
(…このブレスレット、魔力が込もってんな…少し運気が上昇する程度の効果だが。…一応付けといてやるか。)
その日以降、レオの左腕にはほぼ常にブレスレットがついていた。