第56頁 尋問
監獄の奥の方…犯罪者の中でも、特に大きな罪を犯した囚人達のエリアに、呪術師の男は捕らえられていた。鉄格子などではなく、ほぼ密室の完全な個室になっており、その上魔力を封じる枷が付けられているので、脱獄はほぼ不可能な仕組みになっている。
そんな物々しい部屋に、レオ達は堂々と入り込む。
呪術師はレオ達のことを睨み続ける。
「…さて、色々と聴きてえことがあるんだが…。」
「…。」
「お前は人間ってことでいいんだよな…?」
「…。」
レオの質問に、呪術師は答えようともしない。すると、
「…おい!」
レオは呪術師の首元を掴み、そのまま叩きつけた。
「聞いてんのか?あ?」
「…。」
呪術師はこの体制でも黙ったまま、レオのことを睨み続ける。
(チッ…まあこれで駄目なのは予想してたがな)
「ルミナ、こいつの手枷外せ。」
「かしこまりました。」
ルミナに手枷を外させた直後、
「『ヒプノシス』」
レオは魔法で呪術師に催眠を掛けた。
手枷を外したのは、手枷には魔法を封じる効果もあり、封じる魔法は手枷を付けた者の発動する魔法だけでなく、手枷を付けた者に作用する魔法も封じてしまうからである。
「さて…洗いざらい吐いて貰おうか。」
「…はい。」
先程までの抵抗が嘘のように、呪術師は従順な傀儡のようになる。
「まずさっきの質問に答えて貰うぞ。お前は本当に人間か?」
「…はい。」
「何故人間が結界の中にいる?」
「我々は…結界の中に閉じ込められた人間達の末裔だ。」
「…なるほどな。」
亜人大結界の中はかなり広い…結界を作る際に、その範囲内に人間が紛れ込んでいてもおかしくはない。だが、
「そんな話は聞いたことねえ…。あの人数の人間が見つからねえなんてことがあるのか?」
「…人間は人間で集まって結界を張って、その中で暮らしていたからな。」
「ほう…なんとなくわかったが、一応人間だけで結界を張った理由と、今になってエルフの街を襲おうとした理由を聞いといてやろう。」
「…結界の中に閉じ込められた人間のほとんどが、亜人達によって始末された…そのため、生き残るために結界を作らざるを得なかった。亜人達に復讐するのは、先祖達の悲願だった。それに、結界の中で生活するのにも、限界が来ていた…。」
(自分のためならまだしも、先祖の意志を継いで復讐なんざ、くだらねえとしか思えねえな。)
レオはミアの方をちらっと見る。
「…どうしたの?にいや。」
「…もしミアに何かあったら、俺は世界に復讐する自信はあるけどな。」
「…ミアも。」
「ま、もしなんて状況にさせるつもりなんて毛頭ないがな。」
少し話が脱線したが、話を元に戻す。
「んじゃ次の質問だが…何故エリンを…エルフの姫を狙った?それに…魔眼のことを知っていたのも妙だ。」
「ある時、情報屋を名乗る男が、結界の外へ出ていた時に接触してきた。その男に、魔眼をもったエルフの事を聞いたんだ。…半信半疑ながらも、試しに私の呪術で、相手の持っている力を強制的に発動させてみた…想像以上だった。あの力があれば、エルフの次に計画していた獣人への進行も有利になると思った。」
(情報屋…な。あいつなら、何か知ってるかも知れねえ。)
「そいや、アジトの場所を聞いてなかったな。」
「我々の拠点の場所は…ぅが…がぁ…ぐぅう…。」
「!?」
突然、呪術師が苦しみだした。
(こいつ…まさか…!?)
その苦しみで、レオの掛けた催眠が解ける。
「この野郎…自分の体内に呪印を刻み込んでやがった…!!」
一応体への呪印に関してはレオ達もケアをしていたが、体内までは想定していなかった。
「ぐっ…うおおおおおおお!」
呪術師は大声を上げ、自身の魔力を練る。
「…自爆するつもりか。」
無駄だと言った様子で、レオは結界を張ろうとするが、
「ぉ…ガハッ…。」
魔力を練っていた筈の呪術師が、突然力が抜け落ちたように倒れた。その頭には、ナイフが一本突き刺さっている。
「…独断で殺してしまいましたが、駄目でしたか?」
呪術師を殺したのはルミナだった。
「いや…どうせ自爆して死んでいた。部屋が吹っ飛ばなかった分、こっちの方がいい。よくやってくれた。」
「…はい。」
「まあ、粗方知りてえことは聞き出せたし、吾郎達と合流するか。」
レオ達は死体の処理を看守に任せ、その場を後にした。
途中いくつかの魔法の説明がなかったのでここに載せておきます。といっても説明するほどの魔法はなかったと思いますが。
「レストレーション」
毒、麻痺、石化、混乱などのほとんどの状態異常を直せる回復魔法。習得難易度はそれなりに高い。
「ウィンド」
風属性の初級基本攻撃魔法。強風を起こして相手を吹き飛ばす。敵に攻撃する手段としてはそんなに強くないが、弱い飛び道具を押し返したりとそれなりに汎用性が高い。この魔法を応用して擬似的に飛ぶ事も可能。
「スリープ」
相手を眠らせる状態魔法。相手を捕獲する際のお供。(昔のポ○モンみたいですね。)寝不足の人間が安眠のために自分に掛けることもしばしば。説明欄が適当だと思うかもしれないが、書くことがないのだ。察してくれ。
「ヒプノシス」
相手を催眠状態にさせる状態魔法。さっきのは睡眠(寝るだけ)、こっちのは催眠(相手に暗示を掛けれる)なので間違えないように。この辺が英語の直訳なのは時間が押してたからである。
とりあえずはこんな感じですかね。
ここで説明するの今後もやるかもしれません。