第54頁 初実戦③
すいません、ちょい遅れました
(くそっ…あと少しで抜け道なのに…。)
壁に隠れながら、神器と呼ばれる杖を持った男はそこからの光景に動揺していた。
(どうして神獣が2匹も…それに、味方の精鋭2人が押されているなんて…。)
目の前では、フェンリル2匹と精鋭と呼ばれた2人がそれぞれ戦っている。明らかにフェンリル側が有利で、相手側は傷も目立ちながら、息も絶え絶えになっている。
(どうする…?私じゃ2人に加勢しても足手纏いになるだけだ。)
無視して行こうにも、抜け道の目の前で戦われているので巻き込まれるのは必至だ。
(神器を使うか…?いや、まだこんなところで使うわけにはいかない。)
男は思考を巡らせる。
(フェンリル2匹が召喚獣なら…主人を殺せば消えるはずだ…あのフェンリル2匹の主人は、あそこにいる女の子か…?まだフェンリルよりは殺しやすそうだが…。)
エルフなだけあって、それなりに知識がある。
男は隠し持っていたナイフに手を掛けた。
(迷ってる場合ではないな…このままでは、目的が果たせなくなる!!)
男は気配を消しながらミアに近づく。フェンリル達が気づいたようだが、精鋭2人がここが勝負所と言わんばかりにフェンリル達を足止めする。
ミアの背後まで迫り、背中にナイフを突き立てようとする。
(…貰った!!)
「…『ウィンド』。」
「な…あぐっ!」
強烈な風が男を襲い、そのまま壁に叩きつけた。
ミアは壁に隠れている段階から男の存在に気づいていた。
「…ミアの方が弱いと思われてたのが、心外。」
叩きつけられた衝撃で動けなくなった男を蔑むような目で見る。
(…裏切り者は殺さず捕らえた方がいいってにいやがいってた…。)
ミアは男に近づき、そして、
「『スリープ』。」
睡眠魔法で眠らせた。それほど難しい魔法ではないが、先程の魔法もミアは初めて使った。練習もなしにいきなり実戦で使う度胸と才能は大したものである。
フェリ達の方も、精鋭2人を追い詰めていた。
「…そっちは殺していいよ。」
「わんっ。」
ミアの言葉通り、フェリとルリは爪で敵の首を切り裂いた。その後、2匹ともミアの元へ歩み寄る。
フェリの方は返り血で毛が赤くなっているが、ルリの方はほぼ綺麗なままだ。ルリの方が器用らしい。
「…フェリ。こいつ乗せて。」
そう命令して、ミアはルリの方に乗る。
(集合は城の入り口だけど…。)
「早くにいやの所に行こう。」
仕事がちゃんとできて、ミアは少し満足気な雰囲気だった。
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「…寝やがったよこいつ…。」
皆がそれぞれの仕事をしている中、レオは、泣き疲れて眠ってしまったエリンを膝枕していた。
「ったく…人の膝の上で安心し切った顔しやがって…。」
そういいながらも、どかしたり起こしたりしない辺り、レオも甘々である。
(…にしても…いつ見てもでけえな…。)
エリンは仰向けで、レオに無防備な姿を曝け出している。
「うぅん…。」
エリンは寝ながら、レオの腕をとり、毛布の様に胸に掛ける仕草をする。
(俺の腕は毛布じゃねえんだが…。てか柔らかっ、何この弾力。やべえ、揉みてえ…。)
レオは少し心の中で葛藤するが、
「…誰か来るな。」
すぐ近くに人の気配を感じ切り替える。
「!…なんだ、あんたか。」
来たのは、いつものおばさんだった。辺りの様子が変わったことに気づいて戻ってきたらしい。
「えっと…これはどういう状況だい?」
目の前の状況におばさんは困惑する。
「あー…まあ色々あってな。とにかく…もうこいつも、魔眼の暴走に悩む必要もなくなった。」
おばさんはその言葉で色々察した。
「…そうかい…本当に、ありがとうね。」
「…まあ、やり方は褒められたもんじゃないけどな…。」
レオは少し言葉を濁して呟いた。
「…でも、なんで獣王様がこんな所にいるんだい?ストラビアに帰ったってエリンちゃんから聞いてたけど…。」
レフィーエからストラビアまで、馬車でも往復で大体1週間かかる。
「ああ…ちゃんと一回帰ったぜ。途中から走ってだけどな。」
レオ達が全力で走れば、往復半日もかからない。
「そ、そうなのかい…。」
おばさんは若干引いていた。
(そういうことも含めて、後でこいつにもちゃんと全部話してやるか…。)
「にしても…許嫁っていっても、こんなに安らかな顔して寝てるってことは…本当に、獣王様の事を信頼しているみたいだね。」
「…まさか、こんなに懐かれるとは思ってなかったけどな。こいつがチョロすぎるだけだろ。」
「そうかい…?あたしはそうは思わないけどね…。」
おばさんはエリンがレオの事を話す時の様子を知っている。
(…ミア達もそろそろ終わる頃か。どうやら上手くいったみたいだな。)
ミアに何かあったらわかるので、それがなかった、つまり仕事を達成したことを確信する。
「…んじゃ、城に戻るわ。」
レオはエリンをお姫様抱っこし、立ち上がった。
「…獣王様。」
「なんだ?」
「エリンちゃんのこと…よろしくね。」
おばさんの言いたいことは大体わかる。
「……。」
レオはノーコメントでその場を去った。
「…余計なお世話だったかな。まあでも、若い子達の背中は押して上げないと、ね。」
おばさんはもうほぼ見えない2人の背中を見つめて呟いた。
そろそろこういう描写も増やして行かないとね…