第51頁 魔眼③
南の見張り台付近…
「本当に、なんて人数だ…。」
エルフの兵士の1人が、嘆くように呟く。レフィーエ王国内のエルフの人数は、1万人ほどいるが、その中で戦える者は、1000人も満たない。ましてや、他の場所の警備や、負傷などで行動できない兵士を除いた今の戦力は、およそ500人…その500人もほとんどは、付近の魔物以外に実戦経験のない者達である。
「…勝てる気がしないな。」
「戦う前から不安になるようなことを言うな!」
兵士の一部で喧嘩のようなことも起こっており、エルフ側の士気も最悪だといっていい。
「おー…なんかうじゃうじゃいて蟻みたいだね。」
「いや、蟻みたいには見えな…誰!?」
突然彼らの聞き覚えのない声が横から聞こえて、慌てて振り返る。そこには2人組の獣人がいた。
「…どうも。」
さっき喋ってない方の大柄の男…吾郎が、軽く会釈する。
「いやどうもじゃなくて!?何者!?」
慌てて周りの兵士が武器を構える。
「あー待って!私達敵じゃないよ!その、私達は…。」
「ストラビアからの助っ人…で、いいかな?」
「あっ…隊長!この人達見覚えがあります!」
兵士の一部が2人に心辺りがあったお陰で、なんとか信じて貰えることができた。
「けど…2人増えたところで状況は…。」
「ねえくまやん…あの人数いけると思う?」
「…まあ、なんとかなるだろ。隊長さん、お願いがあるんだけどいいかな?」
「あ、うん、何かな?」
「俺達が大体倒すから、やり残しを狩って欲しいんだけど…。」
「ん…?」
「いや、だからほとんど俺達でやるから、最初は手を出さないで欲しいんだ。」
「…え、いや…何言ってんの?」
「まあ、頼んだからな?行ってくる。」
「え、ちょっ…えぇ…。」
唖然とするエルフの兵士達を置いて、吾郎と美月は敵の方に向かっていった。
「…さて、私達も初めての実戦だね、くまやん。」
「そうだな…緊張してるか?」
「負けたら死ぬって考えるとちょっと怖いけど、でも…くまやんがいるから、大丈夫って信じてる。」
「そっか…俺も、美月を信じる。」
「くまやん…。よし、行こう!」
「ああ!」
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「…レオ…君…?」
「ああ。幻でもない正真正銘の俺だぜ。」
「…はっ…!駄目!このままじゃレオ君も石に…あれ…?」
エリンは思い出したかのようにレオが石になることを恐れたが、エリンの視界にレオの体が映っていても、レオの体に異変は全くない。
「…言っただろ?俺は石にはならねえって。」
レオの加護の1つ…獣王の加護の力の中に、石化を含めた一部の状態異常を無効化する能力があるのだ。獣神の加護ほどではないが、獣王の加護もかなりぶっ壊れな加護である。
(にしても、加護によっては自分の着ている服にも影響があるんだな…全裸で行くか迷ったが、そうしなくて正解だったな。)
「よし、んじゃ目ぇ見せろ。」
「あ、うん…。」
抱き寄せていた状態から、レオはエリンを離す。見せろとは言うが、エリンは自分で体を動かせないので結果的にレオが勝手に見ている状態である。
(…やっぱり、呪いの発動中はちゃんと呪印が見えてやがる…。)
「…この呪印は…。」
「…ど、どうしたの…?」
「いや…。なんでもねぇよ。」
呪印は、レオの想像以上に複雑なものだったらしい。
(…一応、練習しといて正解だったな。)
「よし…終わったぞ。」
無事、エリンの呪いを解除することに成功した。
「あっ…。」
全身の力が抜けたように倒れそうになったエリンをレオが支える。
「…大丈夫か?」
「うん…ありがとう。」
「…どうした?呪いが解けたのに、嬉しくなさそうにしやがって。」
「…だって…この子が…。」
エリンの目の前には、完全に石になってしまった男の子の姿があった。
「また…私のせいで…。ごめん…ごめんね…!」
「…はあ。しゃあねえな。」
レオは男の子の元へ歩みより、そして、
「『レストレーション』」
すると、男の子の体と、ついでに周りの景色がみるみる元に戻っていく。
「え…。」
「ま、こんなもんだろ。」
状態異常に関しての魔法は普通に元々使えたのだが、レオはわざとそのことを教えなかった。
(…今頃吾郎達は戦ってる頃か。俺も戦いてぇ…ミアのことも気になる…。)
「エリン。とりあえず城に…。」
後ろからエリンが抱きついてきた。
「ありがとう…ありがとう…ありがとう…!」
泣きながら、同じ言葉を叫び続ける。
(…こりゃ、暫く動けねえな。)
「ったく…今日までだからな、こんなに優しくしてやるのは。」
レオは優しく、エリンの頭を撫でた。
ダブルイチャイチャ回
レオより吾郎の方がなろう系主人公してる?これ。
もっと魔眼のシーン伸ばそうと思ったけど、思ったより書くことがなかった…