第46頁 解呪のために⑤
『これと、あとそちらもいただきたいのですが…。』
魔道具から誰かの声が聞こえてきた。
「…さっきのメイドさんの声?」
「ああ…これは録音…音を保存する魔道具だ。」
「そんな魔道具があるんだ…すごいなあ…。」
魔道具にはルミナが買い物をしている時の音が保存されているらしい。
『はい。代金丁度いただいたよ。』
「あ、今の声…」
「…知ってるのか?」
「うん…私達がよく行ってた店の店主さんだと思う。気さくなおばさんで、優しくしてくれたの。」
「…そうか。」
『つかぬことをお聞きしますが…。』
ルミナが店主に話を切り出し、しばらく情報収集という名の世間話をする。この国のことや、他におすすめな店など、最初は他愛のない内容だったが、
『そういえば、こちらの王族はとても大変なご様子らしいですね。』
話の雰囲気が突然変わる。
『…知ってるのかい?エリンちゃ…お姫様が、家族を石にしちまったらしいのさ。私も良く知らないんだけどね…。』
エリンの表情がまた曇る。
『…そうだったんですか。』
ルミナが白々しい嘘をついている。
『そのせいで、そのお姫様が引き籠もっちゃったらしくてねえ…顔も見せなくなって心配だよ。』
『なるほど…もし会ったら、石にされてしまうかもしれないとは考えないんですか?』
『そりゃあ、石になるのは嫌だけどさ…それで顔も見れないのはもっと嫌さね。あの子のことは娘みたいに思ってたんだ。会いたいに決まってるさ。』
「…!」
エリンが驚いた表情をする。自分はもっと町の人に拒絶されても仕方ないと思っていたからだ。レオも、内容は知らなかったため、少しほっとする。
『やっぱりあんた…あの子のこと知ってるんでしょ?なら、伝えれるなら伝えてちょうだい。いい加減籠るのやめて、またお店に顔出しなさいって。今ならまだサービスしてあげるからってさ。』
どうやら店主にはお見通しのようだった。
その後も、様々な店で、それぞれの店主と同じような話の内容が録音されていたが、どの店の店主も、エリンを歓迎するような言葉ばかり言っていた。基本的に録音は続いているため、やらせであることも考えにくい。ちゃんと町の人たちの本音だろう。
_____魔道具で録音した内容の再生が終わる頃、エリンは涙を流していた。
「…いい連中じゃねえか。」
「…うん、本当に皆、お人好しすぎるよ…。」
正直、自分の説得が霞むくらい良い内容で、レオは少し悔しい気持ちになった。
「…本当に、いいのかな…。」
「あ…?」
「だって、私は家族を石にしたし、外に出たら、また誰かを石にしちゃうかもしれないし…そんな私が、本当に外に出ても…いいのかな?」
「…石になったのはお前のせいじゃねえし、またお前の魔眼が暴走しても、俺がなんとかしてやる。」
「レオ君…。」
「そもそも俺がいいっつってんだ…お前は何も気負わず堂々と出ればいい。わかったか?」
「…うん。ありがとう。」
初めて見せるエリンの笑顔に、レオは一瞬釘づけになる。
「明日…外に、出てみようと思うの。」
「ああ…いいんじゃねえのか?」
「でも…1人じゃ怖いから、一緒に来てくれる?」
「…しゃあねえな。んじゃ9時集合な。遅れるなよ。」
レオは立ち上がって部屋の外へ向かう。
「うん…あ、待って!」
「…あ?」
「…最後に1つ、聞いてもいい?」
「…なんだ?」
「その…どうしてレオ君は、そんなに優しくしてくれるの?」
「…そんなに優しかったか?俺。」
「うん…。」
正直、騙してるというか後ろめたい部分もあるため、レオはそこまで意識してなかった、が。
「…まあ、強いて言うなら…ちょっとだけ、昔の俺に重なったんだよ。」
「…え?」
「だから、今のお前を無視したら、昔の自分を肯定してるような気がして…ほっとけなかった。」
「…そうなんだ。」
「…ま、ひきニート辞めるならもう優しくする必要はねえよな。」
「えっ。」
「じゃあな。」
レオは足早にその場を去った。
「…本当に、ありがとう…。」
エリンはその後、泣き疲れたように眠った。
これで漸くエリンを外に出せます。
この段階でガバが多いのでかなり矛盾や伏線の未回収があるかもしれませんがご了承ください。