第16頁 仲直り①
「う、うぅ…」しばらくして、ライネルは目を覚ました。
「やっと起きたか。」目の前に座っていたレオがそういう。
先程の部屋だが、部屋の中にいるのはライネル、レオ、ルミナの3人だけだ。
次第に目が覚醒していき、自分が拘束されていることに気づき、気絶する前のことを思い出した。
「そうか…負けたんだな、俺は。」ライネルは思っていたより冷静だった。
「最初から落ち着いててくれると手間が減っていい。起きたばっかりで悪いが、本題にいかせてもらう。」
「…わかった。」ライネルは、これからの自分の処遇に関して、覚悟を決めていた。
「このことを父様、世間に公表すれば、お前の母達は失脚。お前もただでは済まないだろう。最悪、処刑も有り得ない話じゃない。」
「…そうだな。」
「だが、今からいう条件を呑んでくれるのなら、父様や世間は公表せず、この件を無かったことにする。」
「条件…とは?」このことを予想していたのか、ライネルは冷静に質問するが、内心では恐ろしい条件が来ることを不安に思っている。
「ああ…まず1つ目の条件だが、お前には王戦を辞退してもらう。」
「王戦の辞退…か。」条件という時点で、これは予想ができていた。
「そして、2つ目の条件だが…」
ライネルは固唾を飲む。
「ミアに謝罪しろ。誠意を込めてな。」
「…!?」
これは完全に予想外だった。そんなことかと言いかけたが、レオの言い方から見て本気であることに間違いなかった。
「…以上だ。」
「…なっ!?」もっと卑劣な条件が何個も来るかと考えていたため、流石に裏があるのかと疑い始めた。
「もしかして…俺達をおちょくっているのか?」
「あ?こんな時に冗談なんか言わねえよ。本気に決まってんだろ。」
悪びれもせず言ってることから、レオは本当に本気なのだと悟った。
「…ふっ、ははは!」
思わず、ライネルは笑ってしまった。決してレオを馬鹿にしてるわけでわない。目の前の何を考えていたのかわからない、そのくせこちらの全てを満たしてくる、得体の知れない存在。そう思っていた目の前の人物は、実際は妹のために兄すらも完全に陥れるほどの、度が過ぎたシスコンであった。そう知った時の、安心のような、ほっとしたような笑いだった。
そして、自ずと、レオにとってどちらの条件が重要かもわかった。
「わかった。条件を呑もう。」
「話が早くて助かるぜ。」
そういうと、レオは後ろを振り向き、ルミナに合図する。そうして、ルミナが扉を開けた瞬間、
「にいや!」ミアが凄い勢いでレオに飛びつく。
「ミア、待たせて悪いな。」
ミアはレオに後ろからしばらく頬ずりしてから、ライネルから隠れるようにしながら顔だけ覗かせる。
レオは立ち上がり、ミアの頭を撫でながら、ライネルの拘束を解く。
「ライネルが、お前に謝りたいってよ。」
「…すまなかった。」ライネルは頭を下げて謝った。
「…。」ミアはライネルと話す勇気がないのか、レオの脚をギュッとしたまま動こうとしない。
それにレオは、一回咳払いをすると、
「…おいおいおい!誠意が足りねえんじゃねえか?謝罪といったら土下座だろ土下座!とっととやれよ!それになんだよその言葉は?本当に謝る気あんの?すいませんでしたってちゃんといえよ!敬語も使えねえのか?ああ!?」
完全にヤンキーみたいな言い方でライネルを諭す。
「くっ…」少し屈辱的な顔をしたあと、ライネルはきちんと正座をして、
「…すいませんでした。」その言葉と共に、きれいな土下座を見せた。
「…クスッ」ミアは少し笑った。そして、ライネルに少し近づき、
「わかった…許してあげる。」
「…ありがとう。」ライネルは顔を上げる。
「…でも」 「?」
「もし…ミアじゃなくて、にいやを無視してたら…」
直後、ミアの顔が一変して怖いものになる。
「こんなもんじゃ、済まさないから。」
その時の威圧感は、とても11歳の少女のものとは思えなくて、ライネルは恐怖で体が震えてしまった。
「ま、仲直りしたことだし、これからよろしくな、ライ兄。」
そういって、レオは手を差し伸べる。
「ああ…!」明るい笑顔で、ライネルはその手を握った。
「…にいや、抱っこ。」
「今言うか普通…。」そういいながらも、すぐに抱っこするあたりミアにはめっちゃ甘いレオである。
後にライネルは、せめて、もう少しすんなり受け入れなければよかったと、激しく後悔することになるのだった。
もっとレオにはこんな感じのイキリをさせたいなと思ってます。