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64・ 後始末

「帰ってくるかしら」

「クロードは帰ってくるさ。でも……今はわたしを見て欲しいんだけど」

 あまりに無防備なクライブの言葉にアリスローザは噴出す。

「お、おかしいかな? でも、やっと笑ってくれたな、アリスローザ」

「……陛下」

 遠慮がちに笑うクライブにアリスローザは胸が詰まった。

 ――こんなにも気を使わせていたのか。 悲しみに自分は我を忘れていた。 浸っていたかったのかもしれない。 ウイリアムとの甘い思い出に。 しかしそんな事は自分の胸の内だけに仕舞っておかなくては。 主君に心配をかけるわけにはいかない。

「陛下、ではそういたしますわ。いつもわたしやハーコート様が口うるさく見張って差し上げます」

 にっこり笑うアリスローザにクライブの手が彼女の背中に回わる。 それに応えるアリスローザの笑顔。

 やはり二年前とは違うのだ――クライブを支えていくと決心したのだから。 アリスローザはクロードに心の中で別れを告げた。


 コーラル王とマルトが外国から来た恐ろしい魔道師二人組みに殺されたという事は、事の真相はさておきそのまま国中に伝わることになる。

 それは人々が魔道師を恐れる理由ともなったが、逆にクライブが王に返り咲くことに対しては好意的な目で迎えられるという恩恵もあった。




「ステファン。これからも君にはサイトスでやってもらいたいことがある。残ってくれないか」

 王の執務室に呼ばれ、かけられたクライブの言葉にステファンが笑う。

「アリスローザには聞かないんだ? まあ国が落ち着くまでならいいですけど。まだ、体が本調子ではないし」

 ステファンは勿体をつけるようにゆっくり歩きながら視線を送る。

「この城内にある蔵書室にいつでも出入りできるんなら」

「ステファン……君がコーラルの子どもだったなんて。つらい思いをさせてしまったな」

 クライブの言葉にステファンは目を僅かに逸らせる。

 つかの間の沈黙。

「だから? 僕はあの人の子どもかもしれないけど、だからってそれに縛られてはいないですよ。僕は血の絆だけで物の道理を見誤るまねなどしない」

 ステファンの精一杯の強がりを今は、そのまま受け入れてあげたいとクライブは思う。

「解かった。いつでも閲覧できるように手配するよ。それと――アリスローザにはわたしの側にずっと居てもらいたいと思っているんだ」

「勿論ですわ、陛下。今度は道を誤らないようにべったりとお付きしていますからね」

 そこへかかる声。

「いい加減にあたしを無視しないでください。 あたしがここに居るのを忘れているんじゃないでしょうねっ」

 その場にいた全員の視線を集めたのは頭の薄い中年の魔道師。

「ダニアン、忘れたわけじゃないんだけど。だってあなたの処遇はもう決まっているんだもの」

「へっ?」

「じゃあ、ボルチモアの廟へ帰っていいんですね。じゃ、失礼申し上げ……」

「違うわよ」

 アリスローザの声にそそくさと部屋を出て行こうとする魔道師の足が止まる。

「コーラルが死んで、他の高位の魔道師も捕らえられて一体誰がサイトスの祭祀庁の長になるっていうのよ」

「だ、誰って――まさかあたしになれと仰ってるんじゃないでしょうね」

「その、まさかよ。クロードがサイトスの主城の魔道師庁があった場所をそっくり壊していったんだから。その後始末も頼むわ。魔道師の不始末はあなたの責任よ」

「だ、誰が! 約束が違うじゃないですか。冗談じゃないですよ、結局ペンダントだって貰えなかったじゃなかったですか」

 しかし、ダニアンの精一杯の抵抗もここまでだった。

「よく言うぜ。ぼく達を仲たがいさせ、ダリウス様を謀って裏切ったくせに。ぼくらを反目させて相討ちにさせる気だったんだろう、このはげ」

 ステファンが思い出させるように言う。

「それは――鍵と契約されたクロード様を王としたかったからで。でもおかげで助かったんだからいいでしょう。もう、あたしを放っておいてください」

 ダニアンの懇願こんがんに被さるクライブの言葉。

「わたしからも頼む、ダニアン」

「へ、陛下……わ、わかりました」



 ああ、やっぱりこの娘と関わり合うとロクなめに会わないのだ。 ダニアンはしょぼくれた体をさらにがっくりと落とした。


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