57・ 捕縛
一日経つほどにクライブの体は健康を取り戻していく。 何より本来、体が弱いわけでもなかったのだ。 薬と呪香の影響から抜ければ、後は滋養のあるもので力をつければいいだけ。 この所、寝てばかりいたせいで体が重いと感じたクライブはハーコート相手に剣を打ち合っていたが。
「ハーコート公、あなたは一体いくつなんです? 息もきらさずにさっきから、わたしの方が押されている」
額の汗を拭いながらクライブが不平まじりに言う。
「ははは。それはクライブ様が病み上がりだからですよ。少し、休みましょう」
綿布をアリスローザから渡されて二人が休んでいると、アリスローザがハーコートの置いた剣を握って二、三度剣を試すように振った。
「アリスローザ?」
「クライブ様、一本勝負いたしましょう」
言うが早いか、側に置いていた剣を放ってよこす。 慌てて受け取ったクライブだが。
「止めよう、危ないぞ」
そのクライブの声に被さるように振り出された剣の太刀筋の鋭さに、ぎょっとしながら剣を合わせる。
「お気遣い無く。わたし、少しは使えますのよ」
アリスローザは、合わせた剣を力一杯押し込んだ後にぱっと離れて横に走りこんで斜め下から切り上げるように剣を振る。
重い金属のぶつかる音と、それを肩越しに止めるクライブの口から漏れる声。
「くそっ」
先ほどのハーコートのようにずしりと力で押してくる剣では無い。 どこからくるのか。
どう、打ってくるのかが読みにくい。 身軽な体を生かしたすばやい攻撃。
そのため、さっきから防戦一方になっている。
「力の無い者でもやり方があります。何にでもやり方は一つではありません」
まっすぐ突いてきた、アリスローザの剣を思いきり上から叩くとあっさりアリスローザは手を離した。
大きな音と共に落とされる剣。 それを拾うと元の場所に戻す。
「そうだな、何にでも……しかし、何でそんなに強いのだ?」
呆れたように言うクライブにアリスローザは笑いながら応える。
「わたしの三年前の罪状はもう、お話したと思いますけど」
――そうだった。 この者はボルチモアでレジスタンス活動を主導していたのだった。
「その、罪状は忘れたほうがいいのではないかと思っていたけど」
そう言ってアリスローザを見ると、彼女は笑って見返して来る。 しかし、その笑い顔はどことなくぎこちない。 分かっていたが、クライブは気付かないふりをする。
何があったのかを。 勿論、聞きたかったが。
そこへ――。
大勢の足音が響いて、玄関の扉が乱暴に開けられた。
「王陛下に弓を向けようとする嫌疑により、おまえ達は拘束される」
「何を無礼な!」
クライブや、ハーコートの顔を知っているような身分の者がいないため、何を言っても通じない。 ハーコートがアリスローザの落とした剣を拾って構え、クライブは予備の剣をアリスローザに投げる。
剣を受け取った彼女も走り寄ると、三人は背中合わせに剣を構えて立つ。
「これで、誰が一番か分かるな」
クライブの声を合図に三人は足を踏み出した。