46・ 抱きしめたい
今回は少し、短いです。
近づいてくる足音に気づいて後ろを振り返ったアリスローザが振り返るとウイリアムがぴたりと足を止めた。
「あ、アリスローザ」
「ウイリアム、何、どうしたの?」
彼らしく無く口の中でごもごも言っているウイリアムは居心地悪そうに体を揺らした。
「ねえ、ウイリアム。ダニアンが何をあなたに言ったのか分からないけど。惑わされないでよ。コーラルから王の権を取り返す、わたしたちの目的はこれでしょう?」
「――おまえ、本当にそう思っているのか? コーラルが還俗したらどうなんだ? おまえにとって問題なのは、魔道師が権力を持つ、それだけだろう。王の血を受け継ぐ継承者としてのコーラルがいたとして。その男に何の遺恨がある?」
「ウイリアム」
コーラルの還俗。アリスローザはそんな事は思っても見なかった。だが、言われてみれば、コーラルは先王の双子の弟なのだ。今の王だったクライブはまだ婚姻もせず、子どもがいない。と、するなら継承者としては何の問題はない存在だ。
だが、本当にそれでいいのか。
「誰が統治するとしても良い執政者ならいい。それはそうだけど、わたしたちには違う役割があるわ。その王座が正しい継承で得られたものなのか。それは国民には関係ないことかもしれないけど、わたしたちには多いに関係がある。その真偽を見定める役目を背負っていると思う」
「そうかな」
「そうよ、知っている。それだけでわたし達は見逃す道を外れたのよ。その結果、コーラルが王になったのならそれでいい。でも、何もしないのは反対よ。あなたはどうなの?」
「おれは……そんな大義より何より」
ウイリアムの手がゆっくり伸びて座っているアリスローザの顔を触れるように通り過ぎ、髪を一房指に巻きつけるように掴む。
「おれは……おれはおまえが一緒に行くというならどこにでも行く。主義主張より何より、おまえを守るためにおれはいるんだ」
言ってしまってから、ああ、まただと舌打ちする。
今はだめだと。
この戦いが終わるまでは手を出さないと誓っていたのに。それでも姿を見ると追ってしまう。声を聞くと話しかけてしまう。
近くにいると――抱きしめたくなる。
悪い術にでもかかってしまったみたいに一度、見せてしまった心を閉じておくことは難しい。無数の小さい穴が開いているかのように。
流れ出てしまう、自分の思い。
「いつでもおれが側にいる。おれはおまえを裏切ったりしない」
掴まれた髪からウイリアムの感情が流れたようにアリスローザは、そのまま動けない。
いや、そうじゃない。動きたくない。これは自分の意志だ。
このまま、ウイリアム一人言わせておくのか。
「ウイリアム……わたしだってあなたが側にいてくれて……うれしいわ」
ためらいがちなアリスローザの言葉に彼の手は、髪の間から頭を支えるように差し入れられ、そして引き寄せた。
はっきりと好きだと言われたわけでもない。でも、「うれしい」その一言だけでこんなに満たされて、強気に出られる。
ウイリアムがアリスローザの意向など関係ないように激しく口付ける。
だが、以前の時とは違っている。なぜなら、ウイリアムの首には細いアリスローザの腕が巻きついていたからだ。