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38・ 魔道師の案

「あたしに案があります」

 ダニアンがのっそりと話し出す。

「あたしたちは謁見(えっけん)の間の近くで待機します。あらかじめ、羊皮紙に空間移動の魔方陣を描いておきます。ダリウス様はコーラル様の前でその羊皮紙を開き、術の封印を解いてください。待っているこちらにも同じ魔方陣を描いて、中に待機してダリウス様が封印を解いた瞬間にその場に行く。というのでいかがです?」

「ちょっと待て。今の話では、わたしが魔道師のように術をかけるとか言ってなかったか」

 はい、その通りですとダニアンはあっさりと笑う。

「ルーン文字は左回りに読みますが、ふりがなを打っておきますし、今から印の組み方もお教えいたします」

「まさか、わたしがそんな事を」

「他に何かありますか? ダリウス様。要は練習だけです。この術だけの呪文と印だけですから大丈夫でしょう」

「そんな簡単に言うな」

 ダリウスが立ち上がるのをハーコートが押さえる。

「わたしもそれがいいと思う。がんばりなさい、ダリウス」

 ダリウスを見守る誰もが首をたてに振っているのにダリウスは気付いて仕方無く座った。

「分かった、やってみよう」

「場所の移動だけならこちら側だけの魔方陣でいいでしょうが、時間を合わせるならダリウス様からの術が要りますからね。さて、範字一つ一つには対応する印がございます。今晩からはじめましょうか、ダリウス様」

「そう、だな。しかし、魔道師でもないわたしに術の封印を解くなんて出来るものなのか」

「そうじゃないんですよ、ダリウス様」

「何が違う?」

 それはですね、とウイリアムがコホンと咳払いする。

「魔道師は血統でなるもんじゃ無く、他の学問みたいに修練を重ねて得とくしていくってさ。なあ、ウイリアム?」

 自分の言わんとしていた事を横からステファンに、かっ(さら)われてウイリアムはああと口をひん曲げてみせた。

「サイトスへはわたしも同行させてくれないか」

「ハーコート公様」

「父上」

 その場にいた、彼以外の人間がいっせいに反対の声を上げる。

「いけません、父上。わたしにもしもの事があったらこのモンド州はどうなるんです? 父上はここで私達を待っていただなくては」

 ダリウスの言葉にうなづくアリスローザたちをハーコートは軽く見渡して笑う。

「コーラルに捕らえられているクライブ様をお助けしなくては。第一、おまえ達が失敗したならすでに死んだことになっているわたしなど、このモンド州で何が出来るというのだ。それに足手まといにはならぬよ。剣の腕はダリウスより上だ」

「父上」

 ダリウスの抗議など聞く耳もたぬとハーコートはダニアンに向く。

「表からはダリウス。裏からは魔道師とわたしだ。二手に分かれよう」

「仕方ありませんね。では、ハーコート様とアリスローザ様とあたしがクライブ様の救出。あとの方たちにコーラル様の方をお願いしますか」

 ダニアンの提案に皆がうなづく。

 一旦、ダリウスは主城に帰る。州府の事もおざなりには出来ない。それに近々サイトスに行くならその間の事も考えていなくてはならない。

 アリスローザたちも二階に上がっていく。

「何でわたしがあなたとクライブ様のところへ行くの?」

 前を行くダニアンはたっぷり時間を取ってから振り向いた。

「そりゃあ、アリスローザ様、クライブ様をひっぱたきたいんでしょう? そう仰ってたじゃないですか」

「それは言ったけど、それだけ?」

「それだけじゃだめですか」

 面倒臭そうに魔道師は体を戻す。

「たぶん、クライブ様は地下宮に幽閉されておりましょう。だったら、あそこから出る道を知っているものに来てもらわないと」

「でも、わたしそんなの覚えてないわ。扉のからくりだってラドビアスがどうやったのかなんて知らないし」

 はあと大きくため息をついて魔道師は階段を上がる。

「覚えてないと思っているだけで人は結構頭の中に見た物を保管しています。あたしが術で記憶を探ります。ウイリアムはだめですよ。彼は」

 先回りして言うダニアンに、それでもなぜとアリスローザは食い下がる。

「ウイリアムはクロード様が術で入り口から堂々と出しっちゃたんですよ。どんな術だったんだか。後でラドビアス様がその辺の後始末はなさったでしょうが。手本にはなりゃしません」

 言うだけ言ってアリスローザの返事なんて待つことも無くダニアンは自分の部屋にばたりと入っていった。

 それにしてもダニアンという魔道師。これほど能力のある魔道師だったとはアリスローザは思っていなかった。それはあの情けない外見のせい、と言っては本人に悪いか。

「あたしは魔道師なんですからね。コーラル様と剣を交えるなんて冗談じゃない。ついでに失敗したら、その足であたしは逃げさせていただきます」

 はっきりとそう断言する魔道師にアリスローザは呆れてしまった。


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