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32・ 奪還失敗

「陛下、何でこんなことに……」

 絶句しながらも部屋に入ったレミントンは配下のガイダスら数人の兵士にぐったりとして反応の無い少年を抱き渡す。



 その彼らの後ろで扉の閉まる音がした。ぎくりと振り返った彼の前にいるのはマルトという官服の男だった。

「見られましたか、将軍」

「おまえ確か還俗した魔道師だったな。コーラルの手の者か」

 腰から抜いた剣を構える男にマルトは驚く素振りも無い。

「知っていらっしゃるんなら、話が早いですね。そうですよ、わたしは今でも魔道師なんですよ、将軍」

 官服の男は印を組む。

『縛せよ』

 レミントン将軍はそのまま髪の一本も動かせない。額の汗がじわりと浮かぶ。

もう少し手勢を残しておくべきだったのか。いや、それより陛下をここから出さねば。

 陛下が無事、ここから出られるなら自分は喜んでこの身を差し出そう。そんなレミントンの気持ちを逆なでするように目の前の男がにたりと笑った。

「良いことを教えて差し上げましょう。あなたの息子も他の従者も皆、あの世です。ああ、でも大丈夫。あなたもすぐ追いつきますよ。何を気になさっておられるんです? そうか、陛下を連れた部下の事ですね。それならそこの寝台の脇に倒れていますよ」

 開かない口から嗚咽が漏れる。

「まあ、陛下を拉致して何をしようと企んでいたのか。聞いたとしても答えないでしょうねえ。わたしが体を自由に出来る呪文を会得していたら良かったんでしょうが。今更ですかね。仕方ありません」

 とうとうとマルトが唱える呪文が終わる。と同時にレミントンの心臓が悲鳴をあげて彼は開かない口から泡を吹いて白目を向いた。

 そして静寂が訪れる。

『解』

 印を切って、どさりと倒れる音を気にする事も無く。マルトは部屋を出て廊下を見回す。

 誰もいないようだ。そう、確信してにまりと笑う。

「コーラル様にすぐご報告せねば」

 そして、ここの死体も誰にも見つからないように処理しなくては。




「何? クライブ様が連れ去られようとした? レミントンがか」

 マルトの言葉に苦虫を噛んだような顔をコーラルは見せた。もう、自分の邪魔をする者などいないと思っていたが虫はどこからか湧いて出て来る。

「それで殺してしまったのか」

「はい、申し訳ありません。口を割らせる術などわたしは使えませんので」

 マルトが言うその言葉に、卑屈なものを感じてコーラルは片眉を上げた。この者を使っているのは、この男の言うとおり、術の巧みさゆえではない。

 このマルトという男は魔道師庁長官であった、ガリオールの側つきだったからだ。コーラルはガリオールに心頭していた。

 いつも冷静で何事もきちんとして粛々と物事を進めていくその姿に憧れをいだいていた。

 彼に認められたいと願い、自分の半身が亡くなって正式に魔道師庁に下るのを楽しみにしていたのだ。

 だが、彼はもういない。

 一方、マルトの方もコーラルに仕えているのはガリオール恋しさだった。

 十年というもの、誠心誠意仕えていつかガリオールによって竜印を刻印されるのを心待ちにしていたのだ。

 ――もっと早く竜印を頂きたかったのに。

 そう、思った途端嫌な記憶を思い出す。


 

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