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13・ ダリウスの決意

 父親を助けたいと思う気持ちの先に待つものはボルチモア前州公と同じ扱いを受ける自分だ。

 謀反を企てた事による斬首。

 いや、斬首を恐れているわけではない。その不名誉な罪名ですらない。ダリウスが恐れているのは、州公がいなくなった為に州府が働かなくなるということ。

 すなわち、州に住む者の生活に多大な混乱を引き起こすということに彼の心は痛むのだ。

「わたしには民の生活を守る義務がある」

「短慮はダメですよ、ダリウス様。今だけをいうならこのまま知らん顔を決め込むっていうのもありだと思いますが。コーラルが実権を握ったらこの州だって今の状態を保ってなんかいられない」

「少し考えたい。一人にしてくれ」

 ダリウスの言葉にステファンは頷くと、立ち上がって他の二人を伴って外で待っていた官吏の案内する部屋に入った。

「ダリウス様はわたしたちの計画にのるかしら」

「のらざるを得ないと思うけど。父親の命がかかっているんだからな」

 アリスローザの問いにあっさりとステファンは答えるが自分でも少し心配しているのか、浮かない顔を見せる。

 レイモンドール国は今、中央の権威より各州候のほうが力があるのだ。

 結界をこの国に張っていた魔道師の祖イーヴァルアイが死んで、国中に通っていた竜道というパイプを失ったサイトスは有力な州のやり方に異を唱えることも今は出来ない。

 レイモンドールは、遥か昔の魔道師が支配していなかった頃の五百年前の小国の集まりに戻ったかのようだった。

 各州の州境の警備は強化され、人の往来にも厳しくなる。で、あるからこそ、ダリウスにはここで父親の命と引き換えに、この争いから身を引いて傍観するという道もないでは無いのだ。

 執政者として真面目であるほど彼は悩む事だろう。

「すごくお父さんっ子だったらいいんだけどな」

「大見得切ったんですから、最後までちゃんとやってくださいよ。でないと、あなたたちがただで飲み食いした分、きっちり払ってもらいますからね」

「ちぇっ、そんなケチ臭い事言ってるから禿げるんだよ、おっさん」

「なっ!」

「ちょっとあなた達、静かにしてよね」

 二人の男たちはアリスローザの言葉にあっさりと黙り込んだ。ふざけていたのは内心の緊張を紛らわすためだったのかもしれない。

 たっぷり二刻ほども待ってから官吏の一人が部屋の戸を叩いた。

「ダリウス様がお三方にお会いになるそうです」

 ダリウスの私室のほうへ案内された三人はぎこちなく部屋の入り口にかたまっていた。

「こちらへ来てくれないか。話がある」

 ダリウスにうながされて部屋のテーブル近くにある椅子に座った途端。

「わたしは父上をお助けして、おまえたちと共にコーラルを討つことを決意した」

 いきなり核心の言葉を口にしてダリウスは向かい合う三人を見つめた。

「では、使い魔を残していきますので連絡はこの物にお願いします。あたしたちからの伝言もこれを通しておこないます」

 右端のしょぼくれた感じをみせる魔道師が立ち上がって懐から羊皮紙を取り出す。次いで放たれる言葉。

『アンズス、アンスル、オス』

 印が素早く結ばれた直後に羊皮紙は姿を変えた。

 うら若い女官の姿の女に変わったのを驚いて見つめるダリウスを残し、三人は部屋を出て行く。

「さっきの魔方陣でさっさとボルチモア州に帰ったほうがいいんじゃないの?」

「あれはそんなに遠距離には対応していませんよ。何せ、前は竜道がありましたからね。長距離を繋ぐ魔方陣なんてこの国にはありません。言っておきますが……」

 アリスローザにそう返してダニアンは二人に向く。

「魔道師は血統だとかでなるんじゃないんですよ。魔術は学問と同じです。基本にのっとって勉強し、練習を重ねて会得していく物です。あなた方だってやろうと思えばできる物です。まあ、魔道師になるにはそれ相等の覚悟が要りますが。魔道師だからって何でもできるなんて事はありません。身につけていない術なんてできませんよ」

「そうなんだ。ぼくはてっきり魔道師なんて生まれつき何かの印でも付けて生まれてくるのかと思ってた」

 苦々しく言う、ステファンの言葉にアリスローザも内心こっそりとうなづいていた。

 魔道師は一般の人間と初めから違っているのかと……気がつかないうちに彼らを差別していたのだろうか。

「生まれつきだなんて。あなた方が頭に思い浮かべているのは魔法使いじゃないんですか? そんなものはおとぎ話ですよ。言っておきますけど、わたしは金物屋のせがれでしたよ」

 うんざりした顔を二人に見せて中年の魔道師は体を返すとすたすたと歩き出す。

「おい、偉そうにしているんなら馬にも一人で乗れよ。はげ魔道師」

 背中にかけられたステファンの言葉にぎくりと肩を振るわせて急にすがるようにダニアンはアリスローザを見た。

 さっきまでの威勢はどこへやら。ダニアンはいつものしょぼくれた中年の男に戻る。

「仕方ないわね。一緒に乗ってあげるわ。ただし、とばすわよ」

 がっくりとうなだれる魔道師を馬の上に押し上げてモンド州城内の馬丁の男に一頭返すと二頭の馬は走り出した。


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